現実世界にポケモンをぶち込んだらサバイバル系B級パニック物になってしまった   作:薔薇尻浩作

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ご無沙汰してごめんなさい。近況について詳しくは活動報告に書くつもりです。


閑話1 『R』

「うーん……」

 

 

思わずカメラのレンズを覗き込むもどうにも落ち着かない。

周囲の人間からはいわゆる今風の若者だとよく揶揄される青年だったが、実のところ彼は大の機械音痴だ。

フェイスブックを始めとした様々なSNSも学生時代に流行りに流され登録だけはしてみたものの、その楽しさや利便性を体感する前にすっかり飽きて放置してしまった。

愛用しているスマートフォンもどちらかと言えば新しめな機種にも関わらず、内臓されているアプリや各種機能だって写真撮影や一部の無料通話アプリぐらいしか使った事も無い。使う気も無かった。

 

少なくとも、3日前では。

今後とも使う気は無かったのだが。

 

 

「これ本当にちゃんと撮れんのかなぁ? テキトーにパクったから使い方わっかんないよ。編集とかできるのかしら?」

 

 

くすんだ金色の長髪を掻き毟ると、その振動につられて両耳につけた大量のピアスがジャカジャカとマラカスのように音を鳴らした。

龍を模した派手な刺繍入りの黒のドレスシャツに赤のチェックのスキニーを組み合わせたその姿は徹夜明けで疲れ果てた夜職の男のようだ。

肩掛けした派手なカフスで飾り付けたテーラードジャケットのボルドーが、なおの事ホスト面を主張している。

もっとも、シャツどころか靴下一枚さえも彼自身で購入したものでは無いのだが。

 

 

「あーテステス。オッケオッケ、声は通るな。そっちは準備オッケ?」

 

 

心ゆくまでレンズを眺めては指先で弄んだ青年はようやく満足したのか、顔を上げてカメラを構える相棒に声をかけた。

歯を剥き出しにしてチェシャ猫のような笑みで肯定する偉大なる小さな相棒の笑顔に、青年はつい最近知り合った関係とは思えない程の居心地の良さを覚え、何となく胸が暖かくなる。

我らが小さな親友は、両手はフリーのままにして彼の第3の手とも言える長い尾の先にしっかりと高性能のビデオカメラを握っていた。

 

 

「SMOKIN'」

 

 

口癖となったスラングで相棒を褒め称えながら、青年はニョロりと伸びたその紫色の尾に視線を向ける。

なんかアレに似てるな、ほら。自撮り棒だっけ?

そんな事を考えながら青年はカメラの前でスタンバイ。前髪や着慣れぬシャツの襟を毛繕いみたいに弄りながら相棒の合図を待った。

 

カメラの向こうの小さな相棒は、短い指先で器用に三本の指を立てた。

カウントダウン開始だ。

 

スリー、ツー、ワン。

アクション‼︎

 

 

「ハイどーも‼︎ 皆さん始めまして終末系配信者の」

 

「の、の、の」

 

「…あー、うん。ちょっとカメラ止めて」

 

 

派手に指を鳴らしながらカメラにポーズを決める。が、開幕の挨拶で唐突にフリーズ。

カメラを構えたまま首を傾げた相棒にちょっとゴメンと短く謝罪するとカメラストップ。

どうやら重要な事を決め忘れていたらしい。

 

 

「あー、ほら、名前よ。名前、決め忘れてたわ。こーいうのって本名でやるもんじゃないんしょ? 知らんけど」

 

 

もともと動画配信者という職業の存在は名前だけは知っていた。

だが故あって特定の住所を持たずにフラフラと放浪じみた生活を送っているこの青年にとって、それが具体的にどのような仕事なのかというのはごく最近まで知らなかった。

動画配信者とはとても自由な仕事だ。

利用する動画配信サービス会社の規約と、一般的なネットリテラシーや法律さえ守れば基本的にはどのような内容を配信しても許される。

オマケに一定以上の視聴者を稼いで成功してしまえば、悠々とした生活がおくれる程の収入が。

また、基本的には自分の顔を売っていく仕事なだけあって下手な芸能人とは比べ物にならない知名度を得られる。

もちろん最低限の設備さえ揃えてしまえば直ぐにでも始められる、とても敷居が低い業界だからこそ幾人かの輝かしい成功者の陰には数え切れない程の敗者がいる訳なのだが。

実のところ、これらの事実は青年にとっては割とどうでも良かった。

 

何をしても良い。面白ければ売れる。楽しければウケる。やりたい事がやりたい放題やれる。

まさに天職ってやつじゃないか‼︎

そんな天啓を受けたような気になった彼は、何件目かのお宅に『お邪魔』した際にパソコンを借りて名だたる配信者を調査し、ひたすらに動画を漁った。

そして慣れない機械操作に四苦八苦しながらも、なんとか簡単な動画編集の技術や方法を学んだ。

これにて準備完了。さあさあ、いざ行か我が栄光の一歩を。

という感じで気合いを入れて初めての撮影に踏み込んだは良かったものの、些か勇み足だった。

 

 

「名前ー名前ー何かないかー。ジョンドゥ。ジョン。ジョニー。トニー。ポニー。ソニー。コニー。コナー。ロナー。トリャー。ソリャー。アチャー」

 

 

あーだこうだブツブツ言いながらカメラの前を行ったり来たり。

もう面倒だし、いっそのこと本名でやっちまおうか。

そう諦めようとしたその時、この刺激的かつ甘美なる世紀末で出会った我がソウルメイト。最高にCOOLな(なおFOOLな部分も目立つが、それを含めて大好き)目の前の相棒の存在を改めて思い出した。

もっと詳しく言うなれば相棒の名前についてを、だ。

出会った当初は特に難しく考えもせず、ほぼほぼ直感で名付けたものだが、ここはあの名作映画に準えて名前を合わせるべきだろう。

ウンウンと芝居掛かった動作で頷いた青年はビシッとポーズを決めて相棒に向けてリテイクを指示。

再び始まるカウントダウン。

 

スリー。ツー。ワン。

アクション!

 

 

「ハイどーも‼︎ 皆さん始めまして終末系配信者の『ペニー』です‼︎」

 

 

指を鳴らしてカメラにポーズ。

SMOKIN'‼︎ 絶好調‼︎ 最高に決まったぜ‼︎

オープニングのBGMは『ヘイ・ パチューコ』を流そう。

いや、前奏長いし爽やかに『雨に唄えば』とかがいいかな。メジャーだし。

あ、でもインパクト的には『インディアン・ラブ・コール』の方がいいかな? 通向けっていうか、そんな感じで。

……いや、やっぱりそっちはエンディングにしとこう。脳みそ爆発オチだし、終わりに相応しいでしょ。

そんな自画自賛と今後の編集についてをあれこれ考えながら、終末系配信者『ペニー』の撮影は幕を開けた。

 

 

「そしてー‼︎ ペニーの相方。魂で繋がった親友! 前世は多分兄弟とかだったんじゃないかなマジで‼︎ カメラマン兼、アシスタント係のー……」

 

 

早口で捲し立てるように台詞を飛ばしながらカメラ越しにアイコンタクト。

するとすかさず相棒がピョコンと登場。

まるで名作『グレムリン』に出てくるグレムリンのような(笑いどころ)大きな耳と、真っ白な歯が並ぶ大きな口が特徴の『紫色の猿のようなモンスター』がペニーの右肩に着地した。

その衝撃で尾っぽに掴んだカメラがガクガクと手ブレ(むしろ此れは尾ブレ? いや、手のような尾だからやっぱり手ブレ? 判断が実に難しいところでございますなぁ)したがそこはご愛嬌。

後で編集して綺麗に繋いでおこうと青年は思考しつつも撮影は続く。

 

 

「とっても可愛いお猿の『ジョージィ』君でーす‼︎ ハロー。ジョージィ」

 

「キキキッ! パームパム‼︎」

 

 

ペニーの紹介にジョージィは鳴き声を上げながら宙に構えた尾先のカメラに向かって手を振った。

紫色の毒々しい体毛や、パートナーに影響されてか両耳に飾り付けられた大小様々な大量のピアスがギラギラと光る。

独特の鳴き声や明らかに普通とは違う進化を遂げた腕のような異形の尻尾。

コレらを観察し、可愛いお猿。と形容する事は恐らく常人には難しい事だろう。

 

 

「あ、あくまで呼ぶ時はジョージ。じゃなくてジョージィって呼んだげてね?」

 

 

そんな客観性を放棄したペニーは愉しげにどうでも良い事をマイクパフォーマンスに乗せて語り続けていた。

彼にとってジョージィは可愛いお猿であり、魂の繋がった相棒。

戯けたように語ってみせたこの台詞は、彼にとって何のジョークも含まない大真面目な言葉なのだから。

 

ジョージィとの出会いや近頃の情勢などをベラベラ語り続けること約5分。

掴みはこんなものでいいだろう。そう感じたペニーは配信の肝である企画に移ろうと決めた。

 

 

「さて‼︎ 最初の配信である今回の企画はーーーコレ‼︎」

 

 

あ、ここでババンって感じのSE入れよう。

そう考えながらカメラの前に突き出したペニーの手の中には真っ赤なソースが入った細長い瓶が握られている。

ラベルには毒々しい髑髏のマークが貼られており、悪戯厳禁の旨が綴られている。

 

 

「はい皆さんご存知デスソース‼︎ そう、この超激辛なデスソースを一気飲みしたら果たしてどうなっちゃうのか検証してみようのコーナー‼︎」

 

「パムパーム‼︎」

 

「イェーイ‼︎」

 

 

はい拍手ー‼︎と叫びながら手を叩くペニー。

何処からか取り出したクラッカーを鳴らしてでペニーに乗っかるジョージィ。

その後に響く静寂。

 

 

「……」

 

「パム?」

 

「なんか虚しい」

 

後々SEをガッツリ入れるつもりだが、動画撮影ってこんなに寂しいモノなのか。シーンと擬音でも鳴りそうな静寂にペニーはほんの少しだけ泣きたくなった。

とは言え、ようやく企画が始まった処なのだ。

ここで挫けては居られない。物静かな雰囲気を弾き飛ばすようにして気合を入れ直し、ペニーは強引にテンションを上げた。

 

 

「ん、んんっ‼︎ ではでは本日の特別ゲストを紹介しまーす‼︎ 今回の企画に挑戦してくださるのはこの方々」

 

 

ペニーの掛け声に合わせてジョージィのカメラが動く。

背後を振り向くとハンディカムの液晶モニターは次第にゲストの姿を映し出す。

ユラユラと揺れる尻尾の影響か、ガタガタにブレた映像だが、そこには椅子に座った三人の人影が写っている。

 

 

「モンスター蔓延る終末世界‼︎ だというのに怪物ちゃんに捕まる前にペニーちゃんに捕まっちゃったラッキーファミリー‼︎」

 

やがてジョージィがコツを掴んだのか映像のブレは次第に収まり、人影は男女の姿へ変化していく。

大中小と分かりやすいその大きさは夫婦とその娘、つまり一般的な家族の姿だろう。

 

 

「斉藤家の皆さんでーす‼︎ ハイ拍手ぅ‼︎」

 

 

カメラはしっかりと写し出した。

『椅子に縛り付けられた上に口枷を嵌められ、恐怖の表情ですすり泣く家族の姿』を。

憎々しい程にハッキリと。

 

 

「ハイ! では早速チャレンジに行ってみましょう。先ず最初のチャレンジャーは一家の大黒柱のお父さんから‼︎」

 

 

心の底から楽しそうに。無邪気な子供のような笑顔のままペニーは語り続ける。

妙に手慣れた手つきで一番右側に縛り付けられていた父親の口枷を外しにかかる。

あり合わせのタオルで作った即興のソレが禿頭の男の口から外れると同時に中年男は顔を真っ赤にして怒鳴りだした。

 

 

「貴様! 自分が何をやってるのか分かってるのか‼︎ 住居不法侵入に暴行罪だ‼︎ この犯罪者が! 非国民が‼︎ とっととこの縄を解け‼︎」

 

 

縛り付けられた椅子が何度も跳ねる程に派手に暴れる男の様にペニーは笑顔を崩して辟易とした。

動画映えするから元気なのは結構な事だが非協力的なのは頂けない。

せっかく盛り上げたテンションも微妙に萎えてきてしまう。

仕方ない。ここはいっそ小粋なジョークでも飛ばして友好関係を築いていくべきだろうか。

ペニーはそう決意すると役者のような大袈裟な身振りで改めて男の前に向き合った。

 

 

「えー。毎度、馬鹿馬鹿しいお話を一つ。隣の家に囲いが……」

 

「ふざけるな‼︎ とっとと離せ糞野郎‼︎ ただで済むと思うなよ⁉︎ 絶対にぶっ飛ばしてやる‼︎」

 

「囲いが……」

 

「糞が‼︎ とっとと縄を解け糞野郎‼︎ 早くしろ‼︎ 妻と娘のもだ‼︎ ぶん殴ってやる‼︎ ぶっ殺してやるぞ‼︎」

 

「あー……」

 

 

聞く耳持たないとはこの事か。

やれやれだぜ。ペニーは肩をすくめると説得を諦めた。

対話での交渉は無理だったのだ。仕方ない、こういう時の選択肢は限られている。

 

 

「アチョー‼︎」

 

「ぶぎっ⁉︎」

 

 

考えるな、感じろ。

燃える龍となったペニーは衝動のままに中年男の顔面に弾丸の如く拳をぶち込んだ。

縛り付けられた男の鼻がへしゃげ、鼻血が飛び散る。

 

 

「アチョ‼︎ アチョ‼︎ ホーアタッ‼︎」

 

 

ワンツーとコンビネーションを決め、最後は大きく勢いをつけた回し蹴りで横っ面を打ち抜く。

男は豚のような悲鳴を上げて、軋む椅子ごと横倒しになった。

歯が飛び散り、鼻だけでなく口からもドクドクと血を垂れ流している。

そんな一家の大黒柱の愉快な姿に何を感じたのか、隣で拘束されている妻子の口枷越しに漏れ出ているくぐもった泣き声が大きくなった。

 

 

「うーん、喧嘩はあんま得意じゃないんだけどねー。まあ静かになったならこれで良し」

 

 

ペニーはやれやれと疲れたように呟きながら、お多福のように膨れ上がった男の頬を強引に掴み上げる。

痛みと屈辱に呻く哀れなオッサンの口へ、そのまま蹴り上げるようにして右脚を振り抜くとブーツの先を強引に捩じ込んだ。

当たりどころが悪かったのか、再び歯が砕ける音と、えづいた様な汚い悲鳴が上がる華麗にもスルー。

最後に本日のメインである真っ赤なソースを取り出してキャップを素早く開けるとカメラに向かって笑顔で叫んだ。

 

 

「はーい‼︎ それでは改めてお父さんのデスソースチャレンジ! スタート‼︎」

 

 

宣言すると同時に視線で命乞いをする男の喉奥に、真っ赤な激薬を瓶ごと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか思ったよりつまんなかったなぁ」

 

 

とりあえず撮影を終えたペニーはパソコンにて編集作業を行いながら退屈そうに呟いた。

大きく伸びをすると、デスクに備え付けの回転式チェアーに身を投げ出すようにクルクル回って背後の惨状をチラと眺めた。

 

縛り付けられたまま痙攣する中年男は顔から3本の瓶を生やす、前衛的芸術作品の出来損ないへと進化。

口から、そして本来なら眼球が入っている筈の部分から根を張るようにして空になったガラス瓶が飛び出している。

 

その奥には色白で程よく脂を乗せ、熟し初めと言った年頃の美女がムッチリとした大きな桃尻を突き出すようにして四つん這い。

せっかくの色気に満ち満ちた美貌も白目を向いてヨダレを垂れ流し、おまけに肛門からガラス瓶を生やしていれば台無しだ。

何度挿入しても反射機能のせいなのか肛門括約筋が無理矢理でも瓶を外へ外へとひり出そうとするものだから、は最終的にガムテープでバッテンするように蓋をしなければならなかった。

 

唯一まともなリアクションをしてくれたのは隣で気絶している高校生と思われる娘さんぐらいだろうか。

母親似の美少女は解剖されたカエルのようにガニ股でひっくり返り、時折ピクピクも痙攣している。

真っ赤に染まった彼女の女性器からは5本の瓶が強引に捻じ込まれている。

彼女の股間からドボドボと漏れ出ている真っ赤なソレは果たして血液なのかソースなのか。

 

 

「もっと派手に暴れたり声が上がったりするもんだと思ってたのにさー。拍子抜けっていうかさー。どう思うよジョージィ?」

 

「パム?」

 

 

ペニーの気怠げな声にジョージィはお手玉代わりにしていた血濡れの眼球を適当に放り投げ、相棒の肩に滑るように飛び乗る。

紫色の体毛はすっかり真っ赤に染まっていたが、ペニーは特に気にする事なくアンニュイな溜め息を漏らすだけだった。

だって、あんまりだったのだ。あんまりにも地味な絵面だったと思うのだ。

 

先ず父親は普通にソースを飲ませても顔を赤くして噎せるだけで何にも面白いリアクションを取ってくれない。

というか喉が焼けたせいか碌に喋ることすら出来なかったのだ。

この時点でかなり萎えた。

ならお色気シーンを足せばマシになるかと思い、妻と娘の服を剥ぎ取ってみたところ、再び中年男がギャアギャアと騒ぎ出した。

いい加減に面倒になったペニーはDr.ジョージィの名手術で生きたまま眼球を摘出。

ギニーピッグを彷彿とさせるナイスなリアクションに僅かに心が踊り、せっかく空いた穴だからと眼球が有った部分から再びデスソースを飲ませてみたら、あっさりと死んでしまい意気消沈した。

 

なら次は色気ムンムンな奥さんに期待、とあえて肛門から飲ませてみるも、何と僅か数秒で気絶してしまい、ガックリと肩を落とした。

おまけに強引に広げた後ろの口からは汚物と混じりあった赤いソースがブピビと汚い音とを立てながら漏れ出してくるものだから、溜まったものじゃない。

 

オチの娘に関しては痛い痛いと元気よく叫びのたうち回るという元気の良さをアピールしてくれたは良いものの、彼女の下のお口は意外とおちょぼ口らしく、5本の瓶を挿入したところで白目を向いて気を失ってしまった。

せっかくだからキリよく10本は挑戦したかったのが本音だが、どうやら処女だったらしく拡張するには時間がかかると予想。

いくら可愛い女の子だったとしても、特別好意も興味も無い見ず知らずの少女の股座など極力弄りたくもないペニーは早々に飽きてしまった。

 

つまるところ、斉藤家の面々はペニーが期待するような面白リアクションを取る事なく全員が脱落してしまったのだ。

 

 

「萎えるわー。配信者向いてないのかなー?」

 

「パムパム」

 

 

大丈夫? と心配そうな鳴き声と共にジョージィはその長い尾でペニーの頭を優しく撫でた。

中年男の目玉を繰り抜く際にその尻尾にスプーンを握っていた為か思いっきり血塗れだったが、幸い誰も気にしなかった。

 

 

「あーあー。なんか参考になるような面白い動画ないかなー?」

 

 

編集作業に見事に飽きたペニーはネットの海に逃避する。

掲示板や動画投稿サイトをひたすら巡っては面白いものを探した。

モンスターに食われている人の写真や、自衛隊がモンスターに蹂躙されている瞬間を捉えた動画。

道路の真ん中で小学生くらいの女子児童を輪姦するポルノに、高校生がクラスメイトの首を切断するスナッフフィルム。

配信元の会社がマトモに機能していないせいか、どんな動画も検問無しで垂れ流しの状態だ。

だが平時ならともかくとして、何でもありの世紀末世界になった今としては特にペニーの気を引くものは無かった。

 

 

「ん?」

 

 

そんな時、その動画を見つけた。

 

少女にも見える美しい少年が、男の生首を抱え演説しているという動画だった。

まるで外国のテロリストの処刑シーンを再現するかのような少年の隣には、ヌイグルミのように見える不気味な黒いモンスターがふわふわと浮かんでいる。

このヌイグルミ擬きこそが少年のパートナーだろう。

サムネイルにも映っていたそのバストアップはなかなかインパクトがあり、ペニーも迷わず再生した。

だが肝心の演説の内容は酷いものだ。

とても幼稚で拙く、子供の妄言を垂れ流したような馬鹿馬鹿しいものだった。

 

 

「んふふ……」

 

 

あまりにも自分勝手な内容だった。

あまりにも考えが足りない内容だった。

そして何より、あまりにも唐突無形で非現実的な内容だった。

 

 

「せっ、世界征服って……ぶふっ! ぷぷぷっ‼︎」

 

 

モンスターの力で世界を変えよう。

世界を救おう。世界を我が手に。

我らこそが新しい世界を率いるのだ。

 

今時の中学2年生ですら小っ恥ずかしくて言えないような、馬鹿丸出しの世界征服宣言を聞き終えたペニーは腹を抱えて笑った。

 

 

「あっはははははははははは‼︎」

 

 

大きく仰け反り過ぎてチェアーからひっくり返り頭を打つ事も気にならなかった。

そのまま脚を激しくバタつかせたものだから踵が激しく痛みを訴える事気にならなかった。

血と糞尿が塗れた赤黒い液体でびしょ濡れになるも気にならなかった。

ジョージィが目と口を見開いて驚きを表していたが、ソレすらも気にならなかった。

 

 

「SSSSSSSSSSSSSSSSMOKIN‼︎」

 

 

実にEXCELLENTな話だ。

画面越しの小さなヒトラー殿は素晴らしく積極的かつ、攻撃的かつ外交的。

非常に若く、異常に大胆で、過剰に残忍。

面白い事をやるにはこーいう人間とおっぱじめるのが、うってつけだ。

 

 

「コイツはサイッコウにCOOLでFOOLだ‼︎ ペニーちゃんこーいう男の子は大好きだっ‼︎」

 

 

ペニーは床に寝そべったまま目を見開いて歓喜の雄叫びをあげる。

やがてハンドスプリングの要領でビヨン、とバネのように激しく飛び跳ね垂直に立ったペニーの表情はこれ以上ないくらいに輝いていた。

足元でポカンとした様子を見せるジョージィにお茶目なウインクを飛ばし、颯爽と彼を抱き上げて胸元に抱える。

頰を染めて鼻の穴をプクプク膨らませ、すっかり興奮したペニーはそのまま小気味良くステップを踏み始めクルクルと回り出し、ついにはノビのあるテノールボイスで朗々と歌い出した。

 

 

「アイム スゥイーンギンザ レーイン♪」

 

 

ここで大きくステップ。足元で尻を突き上げて気絶している女の横っ腹に突き立てるようなサッカーボールキック!

声にならない鳴き声をあげたアラフォー女はバウンドして転がった。

 

 

「ジャスツ スゥイーンギンザ レーイン♪」

 

 

今度は逆方向に大きくスキップして飛び跳ねる。

カエルのようにひっくり返る少女の腹を思いっきり踏みつけた。

上の口と下の口からピューっと血が吹き出る様が何とも滑稽でますますペニーの気分が高揚した。

 

 

「ワッツ グローリアス フィリーング♪」

 

 

肉布団の上でグルリとスピンして再びヒップ・ホップ・ステップ。

顔面から3本の瓶を生やすというすっかり愉快なオブジェと化した中年男の顔面を踏み潰す。

勢い余ってか左目の瓶が音を立てて割れ、滑った血肉が飛び散っていく。

 

相棒の幸せそうな歌声とからか、目の前の地獄の様子からなのかペニーの腕に抱かれたジョージィもキキキと笑いながら口笛でリズムを奏でる。

 

 

「ああっ‼︎ こうしちゃいられない‼︎ とっとと素敵な男の子に合流しなきゃ‼︎」

 

 

やがて心ゆくまで歌って踊り、すっかり満足したペニーはそう言うや否や、慌てて別室に飛び込んだ。

父親の寝室と思われる部屋のクローゼットをひっくり返し、血塗れになった服をそっくりそのまま着替えた。

ホスト崩れの服装から一変、ファッションには無頓着な中年男のコーディネートに変身する。

そのままキッチンに向かい保存が効きそうな食糧品を漁るとジョージィを肩に乗せて玄関に向かいドタバタと走り出す。

 

 

「いざ行かん‼︎ 新たなる盟友の元へ‼︎ 我等が新たなボスの元へ‼︎」

 

「キキキッ! パムパーム‼︎」

 

「無限の彼方へ、さあ行くぞー‼︎」

 

 

握り拳の形にした尻尾を宙に突き上げたジョージィの合いの手に合わせ、ペニーは玄関のドアを蹴り飛ばしてぶち開けた。

叩きつけるような土砂降りの雨の中、彼らは傘もささず踊るようにして駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて開きっぱなしだった玄関扉は強風に煽られ、ガチャリと音を立てて閉じていく。

 

 

汚物に塗れた1つの遺体と瀕死の2人だけが残された室内は、死んだように静かだった。

 

 




エイパム おながポケモン(ノーマル)
しっかりと発達した長い尾っぽは柔らかくも歯ごたえがあり、なかなかの珍味。焼き鳥のようぶつ切りにして串焼きに。

今後の展開

  • 本編を早く進めて欲しい
  • 番外編を進めて欲しい
  • ソラが主役の話が読みたい
  • 新キャラを沢山出して欲しい
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