いつだったか。
死の間際に立たされていた。
いや、本当はもう死んでいたのだった。実感がない。
どこで間違ってしまったのか。目の前の地獄を認識しながらも何故か頭の片隅で考えてしまう。
いつ、どこで、なにが、誰と、誰が、どうして、どうやって。
考えても答えは出ない。いや違う、出したくないのだ。
心では分かっているつもりだった。出してしまったら終わりだと。
しかし抑えれば抑えるほど流れ出る。助けを乞う言葉が口から溢れ出る。嘲笑われる。
止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない。
屈辱を超える恐怖。しかし死という終わりが近づくのにも終わりはある。
一瞬で終わるのか苦しみが続くのか、それに大した違いはない。
徐々に、手から?足から?それとも髪の先から?
分からない。もはや痛覚は完全に現実を拒否した。
考える事ももはや無く、思考はいずれもクリーンな状態であった。
だからこそ、シンプルな考えに至った。
ただ……心の底から助けが欲しかっただけだったのだ。
気づいた時にはもう遅く。伸ばす手も駆ける足ももはや無く。
しかし口だけはまだ……。
動けるはずだ。
最後の抗いを口に出す。
出す?いや、ただ動かすだけ。
その瞬間。
声が聞こえた気がした。
『問おう、お前が俺の……今はこんな事を言う暇は無いようだな。』
2019 彷徨海 ノウム・カルデア 中央管制室
「カル……デア……っ!」
立香の呟きがモニターを見る彼らの静寂をかき消す。
「っ!スタッフ全員異聞帯を観測!情報を収集して!一体何があったかを調査するんだ!ホームズ!シオンを呼んできて!こんな時にいったいどこほっつき歩いているんだ!」
ダ・ヴィンチの声が管制室に響き渡る。それを合図にスタッフは必死に自分の為せる事をする。
そんな雰囲気の中、オーナーがダ・ヴィンチのイラつきに答える。
「シォオンさんは少ぉしこちらでデンライナーの改修をしてもらってますよぉ。
いやはやすみませんねぇ。」
ダ・ヴィンチの顔が困り果てていく。
「そ、そういうことは早く言ってくれたまえ。というか私、こんな驚きキャラじゃないんだけどなぁ~。」
オーナーは懐から懐中時計を取り出す。
「おっとそろそろ時間ですねぇ。では皆さん、行きますよ。」
「行くって、この状態で未知の異聞帯に行く気ですか?!」
マシュの問い。至極全うであるが、彼女は知らない。
「確かに異聞帯には行きますがその前に先ほど言ったデンライナーでぇす。」
「でも、それってどこに?」
立香の言葉を聞きながら、オーナーが中央管制室の自動ドアの二歩手前で止まる。
「それでは、別世界のさぁらぁに別の空間にぃ。」
オーナー、一歩進む。ドアが開く。
「レッツラゴォ~。」
「な……!」
「ななっ……!」
マシュの声に続きダ・ヴィンチの声。
「……これは予想外だ。」
ホームズの呟きをひと匙に。
「なぁ?!」
立香の眼前に広がる世界。
そう、それは。
時の砂漠。
XXXX 時の砂漠 デンライナー前
「おーい、ナオミ!コーヒーくれコーヒー!」
モモタロス達が乗車する中、ダ・ヴィンチが入ろうとするところをステッキで防ぐオーナー。
「すみませんねぇ、今回行く異聞帯にはサーヴァントの皆さんは来ない方が良いと思いますので。
乗車は拒否させていただきまぁすよぉ。
それに、勝手に調査されたら別世界に影響を及ぼしてしまうのでぇ。」
「えぇっ!?そんなぁ。こんな面白おかしい乗り物滅多に触れないのにぃ!」
ダ・ヴィンチのつんざく声。その声に答える声が一つ。
「そ・れ・は、この乗り物……デンライナーが一種のタイムマシンであるからですね。」
紫のシルエットが露わになり、そこにはシオンがいた。
「シオンさん!
どうしてここに。」
「ぼくもいるよ。」
キャプテンもシオンの後ろにくっついている。
「いの一番にオーナーさんにデンライナーの装甲強化をお願いされましたので!
ここでずっと作業してたんですよぉ。」
「すいませんねぇ。
異聞帯の嵐の壁はあと一つこの世界の理の一つである魔術的な部分でどうしても超えられませんので。
シオンさんとキャプテンさんにはその強化をと。」
「でも、本当にあの嵐の壁を越えられるんですか?」
「えぇ大丈夫ですよぉ。なにせ異聞帯といえども実態はそちらの世界とこちらの世界の物質を強引に掛け合わせた聖杯が元ですからねぇ。通常の異聞帯により嵐の強さが違うのですよぉ。
しかし、魔術的なものも含まれていた様子でしてねぇ。その差を埋めるべくシオンさんに手伝ってもらったんですよ。」
「でもかなり詳しくないですか?」
立香の問いにホームズが答える。
「この世界に来た時に偶然異聞帯の中に出てしまったのですね?
そして、破損した後に時間を超えたと。」
「はぁい。その通りですねぇ。嵐の中から出る事は出来たのですがこの有様でして。
異聞帯の発生する前に向かったのでぇす。ただまぁ、仲間を落としてしまったのですがぁ。
そろそろですよぉ。デンライナーが出てくる時間はぁ。」
「おっ、じゃあ出発だな!」
モモタロスがひょこっと顔をのぞかせる。
「すみませんが、こちらも急いでおりましてねぇ。
このままでは仲間はおろか世界の消滅にも発展しかねませぇん。よろしいですかぁ?」
少しの間、しかし、おそらくカルデアのメンバーは気づいているだろう。
こんなことは日常茶飯事だ。突然?急に?唐突もなく?いつも後手にまわってしまう彼らからしてみれば返答は当然。
「行きます!」
「おいおい肝の据わった男じゃねぇか!そういうの俺は好きだぜ!」
モモタロスは立香の背中を叩く。
「しかし、オーナー。サーヴァントは来てはいけないとはどういう。」
ホームズの問い。
「えぇ、我々は見てしまったのですよ。
サーヴァントの力を強引に奪ってしまう瞬間を。」
2019 カルデア ある場所
荒野、人理を修復する人間ならば見たことのある光景。
その歩くのもおぼつかないような場所に光の召喚陣が回りだす。
刹那、弾ける光が消える中で彼は立っていた。
右を見る。誰もいない。
左を見る。誰もいない。
風も吹かないこの場所で彼は歩き出す。
行き場は無いが何か使命があった……気がする。
恐らくという観測だったがそれはすぐに確信に変わった。
本来持っていたものと『彼』が持っていたもの。
今の私には使えないのだろう。
ただ、意味のないものではない。
ここで何をすれば良いか。ここで何を守ればいいか。
空を見る。何もない、岩が、石が宙を舞う中で満天の星空が見える。
あの時の空と同じか。そう呟く。
いつもの自信満々な表情を浮かべ。
2019 カルデア ある場所
あぁ……ここはどこだ……。
記憶がない。零れていく。
手足の感覚。はっきりしない。
口の感覚。砂が入っているのだろうか。
聴覚。雑音が鳴る。
視界。白黒。
何もなく、満たされない。
ここはどこなんだ。
しかし、彼は知っていた。
自分が何をしていないと気が済まないのか。
名前は出かかっている。
とりあえず動ける。
それだけで十分だ、そう言い聞かせ足を進める。
XXXX デンライナー内
「ピンポンパンポーン!それではぁ~出発しまぁす!」
マイクを持ったナオミの声が合図を送る。
「こちら、カルデアをイメージしたコーヒーでぇす!」
出されたのは緑と黄色のクリームが乗せられてるコーヒー。
美味しそうに飲んでいるイマジンを見る。
「せ、先輩……。」
「出されたものは飲まなきゃ。」
意を決して飲む!
……後悔した。
『デンライナーの乗り心地はどうかな?』
不意にシオンからの通信が入る。
『全くぅ、私たちは居残りだからくれぐれも気をつけてね!』
「大丈夫だよぉ!俺たちがいるからな!」
モモタロスが通信に割り込む。
立香の困り顔。
「そういえば、取り残してしまった仲間とはどういった方なんですか?」
マシュの質問にモモタロスは頭を掻く。
「あぁ~まぁ二人いるんだが片方は小生意気なハナタレ小僧ってぇ言えばいいのか、ま、良太郎もいりゃ大丈夫だろ。」
「その……小僧さんは置いとくとして、良太郎さんという方を信頼しているのですね。」
「まぁな。なんてったって、あいつは強ぇからな。」
「それは、すごく鍛えてる人なんだろうね!」
立香の想像にキンタロスとウラタロスが答える。
「ハッハッハ!良太郎はそういう強さやないでぇ!
心の強さっちゅうやつや!」
「まぁね、だって運勢最悪。毎日厄日なのにめげないもんねぇ。」
「それは大変そうな人だね……。」
「だけどよ、あいつぁ絶対に逃げねぇ。そういうところについて行ったんだぜ。俺たちは。」
「俺は違うぞぉ。」
「うるせぇ!今おデブの話してなかっただろ!」
ペシペシとデネブを叩く音。
それを止めようとワイワイガヤガヤ。
「ふふっ、なぜかカルデアでの出来事を思い出しますね。先輩。」
「そうだね。」
突如デンライナーが揺れる。
「おわわわわ!」
「おいおいなんだぁ?!」
数十秒の揺れが収まり、オーナーが話し出す。
「着きましたよぉ?異聞帯の中にぃ。」
オーナー以外が車窓を見る。
「ようやく着いたぜぇ!」
モモタロス達は意気揚々と準備運動をしたりする中、立香をマシュ、そしてモニター越しのカルデア勢は違った。
「せ、先輩……!」
「あ、あぁ……!」
『まさか異聞帯って!』
そこはあのゲーティアとの最終決戦の場。
数多の絆を手繰り寄せ二つの犠牲を払って世界を救い、一つの獣が一つの奇跡を生み出した場所。
冠位時間神殿 ソロモン
しかし、あの輝かしい玉座は見えず、またカルデアの姿も見えない。
2019 カルデア ????
「おやぁ?これはこれはお客様が引き返してきましたよ?
どういたしましょうか?マスター?」
金の装束の男がマスターと呼ばれる人に問う。
「どうでもいいわ。キャスター。」
「だ、そうだ。」
横から現れる謎の男。
「いえいえ、マスターがそう言われるのであれば問題はありませんが、私も少々心配症で。
少し歪な召喚の反応も、これが俗に言う抑止力としての召喚というものでしょうかねぇ。」
ニヤリと金の装束の男はほくそ笑む。
「アヴェンジャー。」
「どうした?」
アヴェンジャーと呼ばれた男、マスターの方を向く。
「私の邪魔になる者から守って。」
「あぁ、任せろ。」
その言葉に、マスターは安堵する。
それが自らの安寧を守ってくれる言葉だと信じて。