土壇場で行動したたった一人の裏切り者により沢田綱吉が死んだ世界。六道骸は柄にもなく涙を流し、それを見守り主の変化に思いを馳せる柿本千種。六道骸にとっての沢田綱吉の大きさと、自分に対しての沢田綱吉はどのような存在だったか。
守護者たちは大空のいない世界は耐えられなかった。主が心中を選ぶというのならそれに従おう。恐怖はない。きっと、自分もあの大空に拾われた身のひとつだったんだろう。

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チーム黒曜

――骸様は変わられた。

 

 2033年、主である六道骸の背中を見つめながら柿本千種は思った。

 現ボス沢田綱吉が率いるボンゴレファミリーが、何とか抗争を鎮圧しつつ、静かに腰を下ろせるようになった頃に事件は起きた。今まで息を潜めていたボンゴレ内部の反沢田勢が幹部を追い詰める事態となった。中立を宣言していたファミリーが現ボンゴレに宣戦布告を叩きつけ、幹部はその対応に追われた。救援を要請した独立暗殺部隊ヴァリアーと同盟ファミリーシモンは早急に駆け付け、事態の鎮圧に精を出したが、その駆け付けるまでのわずかな時間に悲劇が起こる。今まで忠誠を誓い、多くの仕事を任せてきた男が突発的に裏切った為だった。《神の采配》の名を持つ、ボンゴレ歴代ボスが継承してきた《超直感》により、こうして裏切られるのは予想の範疇ではあった。しかし、男の功績と、殆ど心象を隠すことも無く対応する姿に沢田綱吉は心を許していた。信じたかった、とも言える。男は執務室で疲弊していた沢田綱吉を襲い、彼の心臓を撃ち抜いた。あまりにも殺気立てず、子供が何となくアリの巣に水を流すような無邪気な行動により、沢田綱吉は咄嗟に避けるという術を取れないでいたのが敗因だったか。今の千種には考えても無駄なことだ。ともかく、我らの大空沢田綱吉の生涯は実にマフィアらしく幕を閉じた。男に関しては、幹部総出で地獄を見せていたのは後日談でしかない。

 六道骸はマフィアが嫌いだった。当然のようにマフィアらしく生涯を終えた沢田綱吉に対して彼が考えた事はなんだろうか。嘲り笑うも、嫌悪を抱くも、興味を失うも、全て彼なら取る行動だろうと千種は推測していた。しかし、彼がとった行動はこのどれでもない。表した感情は哀だった。

 血が拭われ、最も美しい衣装に身を包み、花に囲まれ、体温のない沢田綱吉の体に六道骸の涙が染みていく。六道骸はマフィアを嫌っていたが、それ以上にボンゴレファミリーというものは居心地がよく、ボス沢田綱吉という大空で揺蕩う自分に満足感を覚えていた。それ故に、彼を失うということがどれ程の衝撃だったのかは六道骸本人しか知り得ない。しかしその姿は他人の目から見ても、あの広い背中を丸く縮こませ動かずにいる姿には絶望にも近い悲しみだろうというのは理解出来る。千種には、理解が出来た。

 六道骸は昔、人間を駒として扱い、それの為に悲しむという事はしなかった。彼が沢田綱吉に出会ってからはその心は次第に溶かされていき、愛弟子のクローム髑髏、フランはもちろんの事、千種や城島犬の事を大切に扱っていたし、彼らも六道骸の愛を受け入れていた。

 沢田綱吉に絆された彼は、沢田綱吉の為に感情を揺らした。

 千種が六道骸に対して「変わった」と思ったのは、それらがあったからだ。

 

 そして自分たちもまた、随分と変わったと千種は思う。

 六道骸を軸として利害関係の一致で生活してきた犬やM・M達との関係は、六道骸が絆されたことにより明るく頑丈な絆となった。表面上利益があると口では言いつつ、明らかに負債となる事案でも手を貸してくれることが多くなった。それを気持ち悪いと拒否せず、自然に受け入れているのが変わった証だ。

 これも全て、沢田綱吉という存在が大空として我々を覆っているからだと、千種は推測する。

 

――そんな大空は、もう既にこの世にはいない。

 

 志半ばで沢田綱吉がいなくなったことにより、ボンゴレを中心とした世界で多くの混乱が巻き起こった。彼と親密に関わっていたトゥリニセッテや、強大な力を持つシモン、敵対していたトマゾファミリー、ボンゴレを支える二脚の門外顧問風紀財団とヴァリアーは彼というパイプがいなければ動く気が無い者ばかりだった。また、守護者たちもその一つで、彼というボスがいたからこそ統率がとれ、ボンゴレが機能していたと言っても過言ではない。裏社会を牛耳っていたボンゴレが唐突に無力化したとなれば、ここぞとばかりに狙ってくる中小マフィアも少なくはなかった。

 荒れに荒れる戦中の最中、彼の守護者たちは動くのをやめた。いや、動く気力を失ってしまった。大空の無い世界に天候は存在しないように、彼らもまた同じだった。

 彼らはいつまでも大空に付き従う。大空が無くなった時が、天候が無くなるときだった。話に上がったのは、お互いがお互いを撃ち合う集団心中。守護者の中で異論を出すものはいなかった。

 千種と犬は尊敬する主が決めた事なら、と行為を受け入れた。六道骸からはついて来なくても構わない、と案じられたが二人にとって六道骸とは、霧にとっての大空と同じ。六道骸が死を選ぶというのなら、それについて行く以外の選択肢は考えなかった。

 

 

 某日、某時刻。集団心中は証拠の抹消がし易い森の中で行われた。お互いの胸を撃ち抜いたあと、最期の決意の炎でその身を焦がせば全てが終わる。しかし、千種と犬は死ぬ気の炎は不得意であるため、六道骸が先に焼いてしまうという。千種と犬は仲間――家族として最期まで面倒を見ようとしてくれる六道骸の意向に甘えた。

 守護者たちよりも先に、千種と犬は胸を撃ち抜く。インディゴの炎に身を焼かれながら、千種は走馬灯に思考を委ねた。

 人生を思い返せば、部下として六道骸の為に働くのにも沢田綱吉は色々なことを教えてくれた。人を支えるというのは生半可な気持ちではいけない。いつでも死ねる、ではなく死ぬ気で守るというのが本物の覚悟なのだと教えられた。自分が死なないように、それでいて相手を守れるだけの強さと覚悟を持つことが部下として大切なのだと教えてくれた。その事を理解してからは、今まで以上に強くなるのを実感した。

 自分の人生を構成しているのは、骸様と、家族と、大空の沢田綱吉だった。意識を手放す間際、千種は柄にもなく彼を評価した。顔が綻び自然と笑顔を浮かべる。

 

――もし、もう一度彼に会えたなら。こうして骸様と共に死ねたことの感謝を。

 

――もし、また骸様のお傍にいけるなら。与えられただけの愛をあなたに。

 

 柿本千種の生涯は穏やかに幕を下ろした。




全員で転生(逆行でもしてくれたら嬉しい)して、ハチャメチャな第二の人生を歩んで欲しい。
お読み下さりありがとうございました。
実は、ある小説の逆行転生ネタ冒頭で、守護者たちが心中するシーンで千種たちが居ないのが気掛かりで書きなぐったネタでした。
骸が死ぬなら二人もついて行くよね? ということで二人も殺しつつ、よくある守護者の目線ではなく千種の目線で立って描写してみました。言い息抜きになりました。
それでは皆さん、また何かの小説でお会いしましょう。ありがとうございました。


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