私は味覚障害を患う誇り高きソムリエ・沢木公平。
病気の原因となるモデルの小山内奈々、実業家の旭勝義、エッセイストの仁科、プロゴルファーの辻弘樹への復讐を目論んでいる。
とはいえ、殺意の波動に目覚めつつも何か行動に出るわけでもなく、怠惰で自堕落にソムリエ生活を送っていた今日この頃。
突如、天啓が舞い降りた。
毛利探偵事務所の前で出会った男、村上丈と一緒にワインを交わした時、4人を殺害する計画を私は思いついた。
元・カード賭博ディーラーの村上の犯行に仕立て上げ、名前に数字の共通点がある標的の4人の殺害をカモフラージュするというもの。
その際、犯人役の村上に生きていてもらっては困る。
なら殺せばいい。どうせ村上は殺人犯。世間的に抹殺して文句を言う奴も、困る奴もいるまい・・・
そこで私は気付いてしまった。
こいつ、殺人犯や。
人殺しと酒を酌み交わしてたことに今さら冷や汗ダラダラだが、考えてみればこれから殺す予定の誰よりも戦闘力高いの村上。
勝てる気がしねぇ……。
そこで私は気付いてしまった。
私、ソムリエや。
10年服役の酒断ちも、ソムリエが提供する最強のワインおもてなしに抗うことはできまい。
最強のおつまみとワインを前に、酔いつぶれた村上を殺すのは簡単だった。
こうして濡れ衣相手と見立て殺人のヒントを手に入れた私がまず始めたのは。ターゲットのリクルート。
奈々は7。旭は9。仁科は2。辻は10。
ここに村上の犯行動機となる毛利小五郎の5と、その知り合いから残りの数字を埋めていけばいい。
毛利小五郎の元・上司の目暮警部。名前は十三。
……信じられるか?
十三だ。
まるで私に13としてリクルートされるためだけに付けられた名前じゃないか。
微笑んでいる?
ワインの神様が私に微笑んでいるんじゃないか?
次は12。さすがに十二さんという人は見当たらない。
ならトランプの恩恵に甘えてクイーンで行こうじゃないか。
となれば奥さんの妃英理で決まりだ。
続いて11。これも悩みどころだ。ジャックさんも十一さんも心当たりが無い。
『士』ならギリいけるんじゃないか?たしか阿笠博士という人がいると聞いた事がある。
となれば次は8。
8……八……私かぁ。
まさか被害者が真犯人とは思わないという絶好のカモフラージュになる。
まぁ被害者になる必要があるのは・・・怖いから少し忘れていようか。
さぁ、この勢いで6、4、3、1。
3は三。横に倒せば川。
そう、つまり江戸川コナンくんがいるじゃないか。事件にちょこまかと付いてきてしまって困ると、毛利さんもよく言っている彼。
どうせ相手は子供。現場に来てくれればいつでも殺せる。なんてすばらしいインスタント被害者。
採用だ。
次の1もone、つまりワン。これもコナンくんとセットの蘭さんで行けるじゃないか。
お姉さんの『ONESAN』とか…ランがワンっぽいとか…
………………
正直に言おう。かなり無理がある。まぁどうせラストの1だ、2の目的達成後なんだから別に殺さなくったって、村上が諦めたって設定にすれば通る話。気にしない気にしない。
むしろ別にほかの候補を挙げてもいいかもしれないが、逆にここまで来ると『何故、家族を狙い続けない?』と疑われても困る。これは不可抗力だ。
残る6と4だが。
この辺りは何ならテキトーに呼びつけて、無理やり毛利さんとご対面させてやればいい。
旭の名前でも出してやればホイホイついてくるような、それでいて仁科や小山内奈々と同列程度の知名度で。「何でコイツここにいるんだ?」と不審がられてしまわない程度にごく自然に溶け込める程度の。
誰かいないか?
6は、この間雑誌で見かけた宍戸永明がいい。
カメラマンなら呼びつけやすいし、マネージャーや事務所を通さないで直で連絡もできる。それに何より人相が悪くて良い。きっと自分の命ばかり大事にして、私の犯行の時に出しゃばらず大人しくしてくれるだろう。
さて、最後は4だが…思いつかない。
…まぁ後で考えよう。もうすぐ仕事の時間だ。
こうして4を迷子にしたまま、職場である仏料理店「ラ・フルール」に向かった私。
ストレス元の辻が来店していたハプニングに胃を痛めながら、毛利一家の平和なテーブルで接客タイムに至った。
「あの葡萄のバッチは何?」
「あれはソムリエの印なの。ソムリエっていうのは、沢木さんのようにワインを専門に扱う人の事なのよ」
コナンくんの無邪気な問いに丁寧に答える蘭さん。しかもまだ高校生だというのにソムリエのことを知っているとは、本当に微笑ましい光景だ。
「仁科さんの本で読んだのよ」
ハートブロウクン。蘭さんの間違ったワイン知識がさらに炸裂し、私の心は切り刻まれていった。
だが私はプロ。蘭さんの淡い知識を尊重しつつ、より的確なフォローをしてその場の雰囲気を守って知識を訂正してやった。
どうだ仁科。これがワインのプロの仕事だ。
それからしばらくしてメインディッシュ後、大したことではない事件が起きた。
店の向かい側にあるクラブに入る人影に、毛利さんが窓に張り付くくらい喰いついたのだ。
どうやらお気にのクラブのママが、外国人ニュースキャスターを接客している所を発見したようだ。何やってんだアンタは。
当然、夫の痴態に怒り出した奥さんは帰ってしまい最悪のムードに。
なのだがこの時、私は心の中で叫んでいた。『フォー!』と。
何故なら外人さんはピーター・フォード。
何てことだ。こんな所で4を見つけるなんて。しかもニュースキャスターなら、旭ホイホイではないか。
偶然とは本当に恐ろしく、トントン拍子で私の為に動いてくれている。
手札は全て揃った。
待っていろ、2,7,9,10