流れる雲の合間から時折丸い月が姿を現す頃。
ここは鞍馬山・玉龍寺
俺は能面をちゃんと着けて、彼女の縄を掴んでハットリくんを待っていました。
「遅いな・・・」
ハットリくんは時間にルーズだったようです。
もう外も真っ暗なのに、俺は寺で待ちぼうけでした。
「罠やと分かってて、そう簡単に来るわけないやん!」
ハットリくんの彼女は健気に俺を睨み付けて言いますが、もしかしたらハットリくんは臆病風に吹かれているのかもしれません。それは俺にとって都合が悪い・・・
と思っていたら、ハットリくんは約束通り、1人で俺達の前に現われてくれました。
貴方は正直者ですね。そんな貴方には金の斧と銀の斧をあげたい。
「てめぇ!和葉に手ぇ出してねぇやろうな!」
なんかちょっと関西弁が変なハットリくん。
だけどちゃんと白毫を持ってきて見せてくれました。
そして聞いてもいないのにペラペラと推理を披露・・・
当たってる。
嘘みたいに当たってる。
俺が白毫目当てってことも、3を殺したトリックも、昨日襲ったのも。
「そうやろ?西条大河さん。いや、武蔵坊弁慶と言った方がええかもな」
バレてた。
恥ずかしい。
カッコつけて能面のまま対面するのも、なんか恥ずかしいから、俺は能面をゆっくり脱ぎました。
でもしっかり着ていたから、外すのに少し時間がかかる。この脱ぐ間、ハットリくんを待たせるのも恥ずかしい。
「さすがは浪速の高校生探偵、服部平次やな。何で俺やとわかった?」
精一杯、ギラリと殺意を出してハットリくんを睨みましたが。
今、顔、真っ赤。
俺いつもは『顔真っ赤だよ』って言われたら、夕日のせいだよ。って答えてるけど、今は夜。誤魔化せない。どうしよう。
でもハットリくん、顔真っ赤はスルーして俺を睨み返して、俺の『矢枕⇒山倉』発言を指摘してきました。
よかった。
いやよくない。やっぱり恥ずかしい。気付かれてた。
それから俺は恥ずかしいのを誤魔化すために、義経流について話しました。
「弁慶が義経流か」
皮肉られた。
馬鹿にされた。
恥ずかしい。
「俺は弁慶より義経が好きやった。義経になりたかったんや!」
言っちゃいました。こんなの理由にもならないのに、つい言っちゃった。
でもハットリくん、こっちはスルー。
なんかごめんね。話の腰折ってばかりで。
その後、俺は苦し紛れに本当の理由のほうを、仏像の売り上げをもとに道場再建をしたいという話をしました。
「・・・ひとつだけ聞いておきたい」
道場の話、無視されました。
恥ずかしい。
ハットリくんは竜円のことを聞いてきましたが、俺としては今そんなの関係ないじゃん。って言いたいです。
「さぁ、おしゃべりはお終いや。その水晶玉渡してもらおうか!」
俺が強引に話を戻すと、ハットリくんは話に乗ってくれました。
本当にいい子。
「渡す代わりに和葉を放せ!」
「ええでぇ。仏像の隠し場所教えてくれたらなぁ」
よしよし、良い調子。俺の体裁が回復していきます。
「さあ、仏像はどこや?」
「この寺ン中や!」
・・・・・何やて!?
「嘘つけ!」
「嘘じゃない!」
何なのこのハットリくん。たまに標準語が混ざるの。
ヤメテ。標準語のキミ、たまにベジータに見えるから。
ベジータはやめて。俺の中の天津飯が叫ぶから。勝てる気がしなくなるから。
そして、恥ずかしい!
この寺の中にあったの?散々探したのに・・・
でも、ハットリくんが嘘を言ってるように見えないし・・・
仕方ない。そろそろ潮時です。
ハットリくんを殺して、ゆっくり仏像を探すとしましょう。
俺は彼女を解放してすぐに斬りかかりました。
弟子を呼んで逃げる2人を囲みます。
これで逃げ場無し。
迎え撃つハットリくん・・・でも弱い!
あれ?こんなに弱かった?木刀あっさり切れたんですけど。
風邪でもひいてる?そうじゃなかったら、その帽子が重たいとか?
「やめて!この人、平次とちゃう!」
マジ!?
俺が切り上げた帽子がパサッと落ちると、ハットリくんはゆっくり顔を上げました。
「工藤新一、探偵さ」
誰?
それと人違い!?恥ずかしい!
やっぱ実在していたんだ。ハットリくんとそっくりのカツマタくん・・・
そして始まる【ヨシツネVSカツマタくん】
「騙しよったな!」と俺が斬りかかると、逃げていくカツマタくん。
そして突如裏切り者が出現。
カツマタくんに斬りかかる。
なのに、寸でのところで刀を止めて、能面を外してしまいました。
そして登場、ハットリくん。
『ファッ!?』
怒涛の翻弄!俺また騙された!よっしゃと思った自分が恥ずかしい!俺今日もてあそばれすぎてない?
そしてハットリくんと彼女を置いて逃げていくカツマタくん。
逃げんのかい!
まぁいい。
カツマタくんには追っ手を差し向けて、俺達は2人を殺せばいいだけです。
ハットリくんの焼きのあまい刀を斬り、皆でリンチタイム!
2人に逃げられました。
寺の納屋に逃げられて、鍵をかけられて。
でも発想の転換。これはまさに袋のネズミです。俺の仕事は扉を斧で破るだけ。
「嫁さん六角♪」とか、中から何かの歌が聞こえてくるけど、ガンッガンッと斧をうちつけて。
最後は体当たり!
「覚悟せい!」
俺がトドメを決めるために斬りかかると、ハットリくんが苦し紛れのタンスの引き出し攻撃!
効くかぁ!
俺は引き出しと、その中身の刀ごと、ハットリくんを切り捨ててフィニッシュ・・・
「えっ!?」
俺の刀はハットリくんの刀に受け止められてしまいました。
しかもこの表裏揃った独特の波紋。
妖刀【村正】じゃないですか!
えっ!?この何十個もある引き出しの中から?
一発で引いたのこの子?
ガチャで言ったら排出率3%のSSRだよ?
マジか・・・
あとでスマホのガチャ回してもらいたい。
そして村正を手にしたハットリくんにアッサリ抜けられる俺。
だって、怖すぎるんですもの。
でもどうにか追いついて、2手に分かれたハットリくんと彼女を追いかける俺たち。
ハットリくんは囮になって、ヒョイヒョイと木に飛び乗って屋根の上に。
山を跳び谷を越え、僕らの町へやってきたんですか?あなたは?
一方で彼女のほうは、鬼太郎が火のついた松明を蹴って弟子たちを撃退。
いつの間に来たのこの子。
あと、どういう教育うけたらこんな残虐プレイできるんだろう?
しかも弟子に囲まれたら、寺の脇に積んでおいた薪木に松明を投げて放火するし。
っていうか、あの薪木、燃えすぎじゃない?油でも撒いてあるんじゃない?誰だよ、あんな危ないものをあそこに置いたヤツ!
めっちゃ早く燃え広がっているじゃないですか!
このままじゃ、仏像まで燃えてしまう!
ハットリくんの、いやカツマタくんの言った通り、本当にこの寺にあればの話だけど・・・
その後、弟子たちはちゃんと消火活動。
よし、これで寺と仏像は守られた。
じゃあ、俺はコッチでハットリくんに引導を渡してやろう。
俺はこれ見よがしに小太刀を抜いて、二刀流でハットリくんに挑みました。
「ただの小太刀とちゃう。即効性の猛毒が塗ってあるんや」
「なんやて!?」
「ちぃとでもかすったらお陀仏やで」
嘘ですよ。
そんな毒刀なんて用意してるわけないじゃないですか。
危ない。
それに毒なんか塗ったら刀が錆びるんじゃない?知らないですけど。
でも、漫画の見すぎの高校生には有効ですよ。
刀を警戒して実力発揮できないでしょうからね!
彼女も「なんて卑怯な奴や!」って良いフォローしてくれています。ありがとうございます。
なのにハットリくん、恐れない。
放送倫理殺人術を使う暇がない!
そして火花散る鍔迫り合い。
【弁慶は歓喜していた。初めて会った自分とやり合える人間】
『これが・・・好敵手!』
なんて陶酔に浸るのは俺のキャラではありません。嘘書くのやめてもらえますか?
ライバル欲しがる泥棒・・・そんな人いますか?いるわけないじゃないですか。
この義経様は、勝てばよかろうなのだ!
『喰らえ、義経キック!』
俺の蹴りを喰らい、屋根を転げ落ちていくハットリくん。
辛うじて途中で止まったけど・・・
「もう逃げられへんやろ。下からは弓で狙ろてるし」
俺の追い討ち炸裂。もちろんブラフです。
弟子たちには弓を射らせません。さすがに暗い中で射て、ハットリくんを外れたら俺に当たってしまいますから。
その時、動いたのは鬼太郎でした。
何をしているのか分からないけど、急に壁ジャンプしたかと思うと・・・壁ジャンプ?
何してるのこの子?
って思っているうちに、ボールが「うつむ~く~」って聞こえてきそうな音を出しながら、俺の小太刀を手ごとシュート!
痛ぇ!!!!最近で一番痛い!
手が痛い隙を見て、ハットリくんが「でぇやぁー!」と俺に迫り・・・
ドゴッ・・・・『うごぁ!』
ハットリくんの峰打ちが炸裂。
内臓破裂したんじゃないかってくらいの痛みが俺を襲い・・・
こうして、謎は全て解かれました。
その後、警察が到着し、俺は連行されていきました。
このまま仏像も、義経も諦めなければいけないのか・・・
悔しい・・・
あぁ・・・
せめて・・・
最後に・・・
ガチャを・・・
俺の・・・嫁を・・・
ジンちゃんを・・・出して・・・いってく・・・れ・・・