僕の殺人計画実行。目撃者生きてた。運に救われていた。
さて、現状を確認しよう。
まずは当初の標的である佐藤刑事は意識不明の重体。こっちも生きてた。だけどすぐ死ぬかもしれないし、この僕・風戸京介の医師の立場を利用してちょっと救命装置でもイジればいつでも殺せる。優先順位は低くなった。
それよりも火急の要対応案件が、目撃者の毛利蘭だ。
彼女はおそらく私に撃たれそうになったショックにより、逆行性健忘という記憶喪失になってくれている。
僕の事件について、記憶にございません。
このまま記憶が戻らないかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
『迷う事はない。不安の種は早いうちに摘んでしまうに限る。善は急げだ』
善ではない。だが僕の明日の快眠のため、蘭には死んでもらう必要がある。
今彼女は僕の居城・米花薬師野病院にいる。殺すなら今だ。
全然無理。
彼女の人望を舐めていた。
絶えず誰かいる。
まずは朝早くから彼女の家の近所の子供たちがお見舞いに来ている。
中庭の木の後ろから監視していても、勘のいい女の子が振り返ってくる。あの眼力、本当に小学生か?
病室にも彼女の親友の、しかも財閥のお嬢様が常時待機。交友関係が半端ない。
極めつけは、別居しているはずの両親が必ず一緒にいる。
苗字を考えれば、母親が彼女を捨てて家を出て行っているのに、今さら凄く母親面して蘭の面倒を見ている。
僕が警戒するべきはナイトじゃなかった。ファミリーだった。
全く手を出せないまま数日。
病院にとどめておくのにも限界が達した頃。僕は大胆な策に出ることにした。
いっそ退院させてしまおう。そして安心しきった所を殺す。それしかないと。
僕は病室にご家族を呼び、蘭の病状について説明した。
「おそらく、お嬢さんの喪失は自分を精神的ダメージから守るためのものです」
「ということは、娘をあのホテルへ連れてって、事件を再現してみたら記憶が戻るんじゃ」
流石は毛利探偵。察しが良い。そのストレス療法は効果ある可能性が高い。そして僕が困る。
しかし、そんな僕の悲痛な叫びを聞きつけてくれたのか、母親は「あの子を苦しめるやり方に反対」と、僕の代わりに記憶回復策に反対してくれた。
そこに僕も「無理に思い出させると脳に異常が起こるかも」と援護射撃。
これは半分本当。起こってくれたほうがいいけど・・・リスキーな賭けすぎる。
と、戦々恐々とした診断結果発表の最中・・・
ぷるぷるぷるぷる
マズイ!こんな時にもう一人の僕・ジークからの電話が!?
僕は焦りながらも冷静を装って電話に出た・・・普通の業務連絡だった。
(なんか居候の子にめっちゃ睨まれてる気がするけど)
「先生、ごく自然に記憶を取り戻す方法は?」
電話を切った僕に、母親がごく自然な質問をしてきた。
とりあえず家族にも油断してほしいから、「リラックスした状態」をオススメしておくと、母親は同居開始宣言を。そして毛利探偵と居候の子はこの世の終わりのような絶望的な表情をあからさまに見せた。何があったんだろう。
2日後(もちろんこの2日間、全く手が出せなかった)
「無理して思い出さないように。いいですね?少しでも記憶が戻ったら連絡してください」
と本音を伝えて、蘭の退院を看護師たちと一緒に見送った。
その夜。
「はぁ、手元から離れて不安だ」
少しでも眠れるようにワインを片手につぶやく僕。
『眠れないのか?睡眠不足はお肌の天敵だ。いっそ銀座にでも繰り出して、パーっと買い物でもしてウサを晴らしてきたらどうだ?』
凄く珍しくジークがマトモに心配してくる。
明日は雪が降るんじゃないか?
なんて苦笑いしながら、僕はその提案に乗ることにした。
そして次の非番の日。
米花駅にて。
「いた~、目撃者。蘭いんじゃん」
蘭が居た。しかも駅ホームの黄色い線の内側すぐ。
キミ、命狙われてるかもしれないってお父さんたちが心配してなかった?僕、そんな噂聞いたんだけど。
『千載一遇のチャンスじゃないか』
= 強制豹変 =
私は蘭の油断しきった背中をドンと押し、線路に突き落とした。
『ちょっ』
シンプルイズベスト。
『まっ』
そしてすたこらさっさと逃げる私。
これがクールな殺人だ。雑音がうるさいが。
そして逃走後。
『馬鹿なの?白昼堂々と、絶対誰かに目撃されたじゃん!母親だって隣にいたし、絶対近くに護衛の警官がいる!この馬鹿ジーク!』
「馬鹿だと?素手で戦ったら世界最強と言われてるこの私に向かって馬鹿だと?ふざけるなタコ!」
俺がもう一人の馬鹿とひとしきり喧嘩をしていると、警察から緊急電話が入った。
ヤベェ
= 強制復帰 =
逃げやがった。あの馬鹿。
終わった・・・もう・・・
僕の人生は、担当患者を電車に突き落とした医者として逮捕され・・・終わり・・・
じゃなかった。
病院に向かった僕の前にいたのは、無事な目撃者の姿。
蘭、無事でした。かすり傷程度。電車に引かれる所に無事とか・・・・化け物か?
ちなみに犯人の目撃情報は無し。僕の幸運の女神はまだ健在のようだ。だがどうやら女神は運依存の殺人は御所望ではない様子。
こうなったら見せてやるしかない。僕の殺人を。
毛利探偵と母親にはこれを好都合に「このことがきっかけで、記憶を取り戻すことを怖がってしまうかもしれない」と釘を刺しておいた。
そんな夕方、蘭が突然、トロピカルランドを知っていると言い出した。記憶がかなり戻りかけているようだ。
彼女は実際にトロピカルランドに行ってみれば記憶が戻るかもしれないと言い出した。釘の意味が無い。
毛利探偵は賛成。母親は反対。
それでも蘭は怖いけど勇気を出してみたいと。
・・・・なんてこった。
「いやぁ蘭さんは勇気がありますね」
と皮肉を言って、僕は許可を出しておいた。
これは賭けだ。トロピカルランドは何度も遊びに行った僕の庭。
記憶が戻るより先に、彼女を殺せるはずだ。
『なるほど、最終決戦というわけだ』
「そのとおり。ヤろう、ジーク!」
『当たり前田のクラッカー』
望遠スコープ、暗視ゴーグル、サバイバルナイフ、9ミリ口径の銃。
『二丁拳銃で買っておいて正解だっただろう?』
装備を身に纏い、僕はトロピカルランドに足を踏み入れた。
『そこ退けそこ退け、遊園地にファッションセンスゼロのミリタリーオタクが参る』
「そんなに?言うほど?」
『もっとこう、あるだろ。シルバー巻くとかさ』
そして、センスゼロの2人が到着トロピカルランド。
怖いくらいに、事態は僕らのために動いていた。
まず、友成が誤認逮捕。毛利探偵が護衛の警官と一緒に退場。
その功労者の子供たちの提案で、蘭は夜までランドに居てくれることになった。
もう、僕に殺せと言ってくれているようなもんじゃないか。
『違うな。ここからは私のショータイムだ』
= 豹変 =
夜、人混みの中を狙い撃つのは難しい。
だがパレードで人の足が止まった今なら狙いやすい。
私は暗視ゴーグル越しの蘭に銃口を向け・・・
「蘭お姉さん逃げて」「拳銃が狙ってるぞ」
子供たちの叫び声が飛び交う。って、目撃されてるってことじゃねぇか!
「危ない!」
太った男性が蘭を庇って、子供の声に私が焦ったせいで逸れた銃弾が、彼の肩を掠めた。
失敗だ。こうなってしまったら撤退するしかない。
『待てジーク!アレを見ろ!』
なんと蘭は「離れるな」って男性が言ってるのに、人混みからわざわざ離れていくではないか。おいおい子猫ちゃんなんて好都合なんだい。
彼女を追って行くと今度は居候の子と合流したようだが、私は狙いを外さない。女性のハートを撃ちぬくスナイパー。
パァン
あっ、外れた。風船に当たった。
壊れてんじゃねぇのかこの銃!
その後も夢とおとぎの島を追いかけていくが、一向に当たらない。
『何やってるんだジーク』
「静かにしろ集中できん。まったく日本人は騒々しくて困る」
五月蠅い馬鹿を無視して追っていくと、蘭と居候はボートに乗って逃げて行った。
「逃げるなこの卑怯者」
私もボートを奪い2人を追った。時刻は20時40分。
「ボートとけん銃のテクはハワイで習ったんだよ。12万yen竹コース」
『嘘は良いから、早く撃て』
馬鹿に急かされながら放った銃弾は見事命中した。(コーラに)
『おいおい、前!前!』
2人のボートが滝つぼから落ちていく。が、見事に着水し、次のエリアに逃げて行った。
ふん、この程度。私に真似できないとでも思ったか!
『やめてくれ!』
馬鹿の悲痛な叫びが頭の中でキンキンうるさかったが、私は見事に滝つぼダイブから着水してみせた。これがスーパーエリート。
その後、山岳エリアを逃げていく2人に銃弾の雨あられ。
『全弾外れは、もはや才能だな。予備の銃弾たくさん持ってきて良かった』
そして山頂にて・・・なんと居候の子が私を待ち構えていた。
「ここ、夜はクローズで誰もいないんだ。姿を見せても大丈夫だよ」
「随分用心深いんだな。でももう隠れたって無駄さ」
煽りから咲き乱れる少年の名推理。第1の事件のダイイングメッセージの本当の意味をバラされた。『よくあの分かりにくいのが分かったな、この子』
「そうだろ?風戸恭介先生」
バレてた。
「いつ私だと分かった?」
居候の子が言うのは、きっかけは電話のボタンを左手で押していたこと。おい馬鹿。『すまん』
さらにこの子は1年前の事件の真相や、今回の事件で友成を呼び出した方法と理由を次々と明かしていった。
そして硝煙反応のトリックが解けたかどうかは・・・「あんたが警察に捕まった後でな」。お預けか。だから子供は嫌いなんだ。
2人は滑り台から逃げ、隣の冒険と開拓の島の本島に向かったようだ。
20時54分、私は再びボートで追いかけ、馬鹿発案のトリックを完全にバラされた。
私が考えたわけじゃないから、別に腹も立たないが。
「正解だよコナン君…やはり死んでもらうしかないようだ」
今度は川に逃げられた。
『おいおい、どんだけ逃げられるんだよ』
だが心配ご無用。
化学と宇宙の島。8時59分14秒。
やっと追い詰めた。
「10,9,8,7・・・・」
何かのおまじないか、居候の子は10カウントを数えはじめた。
そして1、0。噴水スプラッシュ!
びっくりしたな、もう。
からの、コーラが上に・・・からの真正面!
うげぇ!
私の顔面に中身入りのコーラ缶がヒット!
こうして私は気絶した・・・
と油断したところに、居候の子をゲット!ストリートファイトでは負けたことのないこの私を怒らせてしまった子供に、ナイフ攻撃を!
キンッ!
蘭の蹴りが飛んできたかと思うと、ナイフの刃の先が消えていた。
「嘘・・・」
「何もかも思い出したわ。あなたが佐藤刑事を撃ったことも。私が空手の都大会で優勝したこともね!」
嘘・・・マズイ!
= 強制復帰 =
へっ?
そこから僕はフルボッコにされ・・・
完全沈黙した。
こうして謎は全て解かれた。
逮捕後。パトカーに連行されながら、僕は回想していた。
『これで私達も終わりか。楽しかったじゃないか』
「どこがだよ」
『そうか?この7年間の鬱屈した毎日と比べて、この7日ほどの日々はどうだ?生きている実感があったんじゃないか?』
・・・それは否定できない。
「なぁジーク、1つ聞いていいか?」
『15文字以内なら許可する』
「これからも、一緒だよな?」
『・・・・・フンッ』
これ以来、僕の中からジークは消えていった。
彼は一体何だったのか。
僕には分からないが・・・分かる気がする。
またね、もう一人の僕。