自分の犯行をカモフラージュするプランを思いついた彼は、ついにその恐ろしい犯行計画を実行に移すのだった。
手札を揃えた私の犯行は全速前進で疾走していった。
まずは早朝マラソン朝日を浴びて走っている最中の目暮十三こと“13”をボウガンでシュート!
そして村上の見立て事件に見せかけるために、ストレートではない表現としてトランプのスペードのKが持っている剣っぽく作った紙細工を現場に放置。
次は12に旦那・毛利小五郎からの仲直りチョコに見せかけた『毒入りチョコ・スペードのQの花を添えて』をプレゼント。
続いて11の家の窓ガラスを割ってから、ボウガンの矢とスペードのJの、よく分からない捻じれ棒をプレゼント。
あとはバイクで逃走するだけ。
と、ここまでは順調だった。
交差点で信号に捕まっていたその時。私の目の前に、11邸にいたはずのコナンくんが現われた。
what’s!?
小学1年生がバイクに追いつくなんて物理的にありえない。
まさか、ドッペルゲンガー!?
怖くなった私は急いでバイクを反転させ、歩道橋を疾走して逃げ出した。
ストレスによって発症する幻覚か。おのれ10、9、7、2!
そして次は10
とはならない。
何故ならこのテンポで10を殺すとさすがに見立て連続殺人事件だと警察に気付かれて、9以下の警護をされてしまう。つまり10以下の殺害は同日中にカタをつける必要がある。
ということで、今日は11襲撃のその足でアクアクリスタルに向かい9を殺し、7と6以下殺害の準備のために施設に入り浸ることとなった。
ワインセラーに私用のブービートラップを仕掛け、客席の窓から見えるように旭が流れるように仕掛けをして、暗闇の中でも配電室からロビーまで走れるように練習して、非常口をセメントで塞いで、リモコンの遠隔操作で爆破するように爆弾をセットして…
とにかくやることが多い!
中でも一番キツいのは爆弾セット。
リモコンの遠隔操作で作動する爆弾を作ることではない(そんなことで悩むのが許されるのは高校生まで)。
何せレストランの中に仕掛ければ途中でバレてしまうため、海中にセットしに行かなければならない。
そりゃ私はライフセーバーの資格持ってるし、ダイビングもできる。だからと言ってダイビング器材の総重量(爆弾含めて約40kg)は1gも軽くはならない。
40kgを抱えてアクアクリスタルまで行き、それから実際に潜って、適切なポイントに爆弾を置いて、証拠になるダイビングセットを持って帰る、と。
分かるだろ?キツいんだ、コレ。
結局、この日一日では全部準備できなかった。夜のソムリエの仕事を休むわけにはいかないからだ。
だが今日は本当に疲れた。朝はボウガン、昼は爆弾、夜はワイン…ん?
ふと外を見た私は驚愕した。店の外に毛利さんや13、そして何人もの警官がいるのだ。
『まさか…バレた!?そんな…』
私の思っていた以上に、日本の警察と毛利小五郎は優秀だったということだ。
『標的のうちの9しか殺せていないのに…
まだ沢木が殺してる途中でしょうが!
だが…悔しいが…
謎は全て解かれた……
………………』
かに思われた。
ところがどっこい。警察は待てど暮らせど「確保!」に来ない。
店を出たところを囲まれて…ということもなく。
自宅に戻ったところに…もなく。
分からない…何故、逮捕に来ないんだ?
【沢木は知らなかった。毛利小五郎の知り合いの10である“岡野十和子”が、店の向かいのクラブで働いていて、小五郎や目暮警部たちは彼女を守るために張り込みをしていたという事を】
次の日の朝。家の周りに警察官の姿は見当たらなかった。
もしやと思い、店の近くを見に行ったら…いた。
つまり、警察は私の逮捕に動いているわけではないようだ。
…………何しているんだ?コイツら。
結局、真実に辿り着かれていないことを知った私は犯行準備に集中し、どうにか準備完了に至った。
これであとは殺すだけ。
ついにその日はやってきた。
まずは10。
石を投げて窓ガラスを割って、その間に目薬を虹彩炎用の散瞳剤にすり替えるだけの簡単なお仕事。あとは勝手にヘリが墜落してくれればミッション完了。
私は毛利さんたちが来るのを家で座して待つだけ。
ちなみにこの流れは、毛利さんの知り合いに9の心当たりがなく、8の知り合いとして私が第一候補になることが条件となるわけだが。
8の方は心配ない。毛利さんとは公平の『公』の字について熱く語りあった仲だ。どんな仲だよとか言わない。
9のほうも心配ない。何故って?9のつく苗字なんてそうそういないからだよ。思いつくのだって、よっぽど九鬼さんとかだろ。
【この時、実は沢木はギリギリの橋を渡っていた。何故ならつい先日、毛利小五郎は世界的に有名なマジシャンの“九十九元康”の自殺疑惑事件に関わっていた為、下手すればそちらに9を持っていかれる可能性があったのだ。
だがそこは沢木の幸運が軍配を上げた】
私の期待通り、毛利さんが13とその部下の警部補、1と3を連れて私の家に現われた。
全て計画通り……ではなかった。
10は死ななかった。
……えっ?重傷だが生存って…嘘だろ、ヘリが墜落したのに?
詳しい話は流石に聞かせてもらえなかったが、どうやら警戒した毛利さんと13がヘリに同乗していたそうだ。
くっ。連続事件のカモフラージュが裏目に出たようだ。
だが待てよ?毛利さんは高所恐怖症のはず。ヘリに同乗されても役に立たないはず。13も病み上がりの体でどうこうできたとも思えない。
となると、コイツか?白鳥警部補!
まさかの伏兵。しかもこの男、「ワインには目が無いんですよ」と、仕事中のくせに私のワインセラーを見に席を立ちやがった。
大活躍を微塵も感じさせない呑気さと空気を読めない自由行動。まるで王道のミステリー漫画の主人公じゃないか。
面白い。
だが、13の名推理による『村上犯人説』が濃厚となった今、この私に辿り着けるかな?
その後、(私がソムリエ人生に絶望してシャトーペトリスを割って作った床の傷をコナンくんが踏んだことで、軽くトラウマを刺激されながらも)どうにか『旭=9』に誘導することができた。
「と言うことは、次に狙われるのは旭さん」と再び13の名推理が炸裂してくれたところで、毛利さんが何とも納得いかないような顔をした。
「しかし、私はペットの猫探しの依頼を受けただけで、知り合いと言うほどでは」
それを指摘されると非常に厳しい。9と毛利さんのコネクションはハッキリ言って薄いのは、当初から懸念していたことだ。
だがそこに救いの手が…
「村上はそうは思っていないかもしれん。ともかく、沢木さんのガードを兼ねて、旭さんに会ってみよう。よろしいですか、沢木さん?」
13のフォローにより、『旭は知り合いとして狙われない説』は見事に払拭された。しかも当初の予定通り毛利一家もアクアクリスタルに同行という流れまで。
13、いや13さん。何から何まで本当にお世話になります!
こうして、舞台はついに最終決戦の場へ。
待っていろ、2、7