逃げ場のない大空を舞台に生き残りをかけた頭脳戦が今始まる
≪これからあなたが目撃するものは、それを見た瞬間、身の毛のよだつような恐怖の疼きを味わわせることでしょう≫
私は仏像強奪を目的に藤岡隆道に雇われた元・漆職人の傭兵。
部隊名はその名も『赤いシャムネコじゃないほう』
目的は仏像強奪・・・
えっ? プライドを傷つけられたことはないかって?
別に。
にわかオタクに恨み?家から富士山見える?父の仇?義経になりたい?血は怖くない?もう一人の自分いない?
別にありません。
そうです。大義名分の無いただの営利目的の犯行。
もし信念のある動機があれば
“あんな事”は起こらなかったのかもしれませんね。
あれは8月7日
やたらと事件に縁のある西多摩市にある『国立東京微生物研究所』を我々は襲撃し、殺人バクテリアを強奪。
・・・・したはずでした。
ところが不可解な事に、家に帰ったところ、なんとバクテリアが全て死滅していたのです。
(えっ?爆破の熱で死滅したって?爆弾加減苦手なんじゃないかって?よく分かりません)
こんなもの、我々に襲い掛かる恐怖の序章にすきません。
その後、雇用主の藤岡は「強奪した事実があれば演出は十分」と、犯行声明をインターネットに流し、バイオテロ不安を世間に煽っていました。
それがまさか“あんなこと”になるなんて・・・
8月14日。ハイジャック当日。
標的は東京発大阪行の飛行船「ベルツリーⅠ世号」。
ハイジャック班・潜伏班・仏像窃盗班に分かれ、我々は行動を開始しました。
潜伏班が漆かぶれを利用してバクテリアの感染蔓延を装い、ハイジャック班は天井ハッチから侵入。
この飛行船には怪盗キッドが狙う宝石があるそうで、恐ろしいセキュリティが待ち構えていそうですが、そこは我々プロの仕事。難なく潜入を成功させました。
(そもそも藤岡、何故わざわざイバラの道をチョイスしたんでしょう?普通に小型の飛行機でもハイジャックすればいいのに。船内に警察いましたよ)
我々は爆弾仕掛け、
「この船内に爆弾を仕掛けた。大人しく言う事を聞けば、爆破したりしない」
と教え、ダイニングに全乗務員を集めてハイジャック完了。
携帯電話を回収し、殺人バクテリア搭載を警察に警告、ネットに拡散することで、全ての準備が完了しました。
簡潔に言いましたが、実際はやることが多い。
けど、人数がいるから大丈夫。やはり人手ですよ、犯罪は。
と、自分たちの豊富な軍事力を過信していた時・・・
「これはただの蕁麻疹だ!」
予定にない感染者(じゃないほう)パニック発生。藤岡がジャック前に仕掛けておくと言っていたものが今さら再発。仕事が雑なんだよあの人。
「ねぇそう言えば子供たちが居ないんじゃない?」
雇い主の藤岡の直属の部下、西谷かすみがそれとなく告げた情報、ここにいない子供がいるのだと。
今さら。
本当に今さら。
藤岡んトコ、仕事が遅い。
しかもその子供、通信機でこちらの状況を聞きながら、爆弾を解体していた。
とんだブルース・ウィリスだよ。
結局、子供4人組はすぐに確保。
主犯のいい度胸な眼鏡坊主は、リーダーが躊躇なく掴み上げて制裁を・・・
加えると思いきや、窓から放り投げた。
残酷にも程がある行為を平然とやってのけるリーダーに、私は戦慄を覚えた。
その時!
「キッド!?」
確保していたはずの乗務員が窓から飛び降りたかと思うと、眼鏡坊主に抱きついて、その服を脱ぎ捨て、怪盗キッドに変貌したのだ。
つまり我々、キッドに完全に背後とられていたのです。
その事に気付いた瞬間ゾワゾワと、何とも言えない悪寒が、這う虫のように我々の背を襲いました。
それからしばらく、まるで嵐過ぎ去った後のように、平和な時が流れました。
外も夕焼けに染まり、目的地の奈良に近付いた頃。近づいてきた警察のヘリもスカイデッキから追い払い、パニック用の発煙筒も上げることができ・・・
しかしその時!
新たな感染者(じゃないほう)が!
女の子でしたが、この子は非常に大人しく神妙で全くパニックは起こることなく。
喫煙室に連行するのは私の役目。楽な仕事で・・・
「うわぁあああ助けてくれ!」
感染者(じゃないほう)がホラー映画のように突然、喫煙室から飛び出して私に掴みかかってきたのです。
「離せ!」と突き飛ばして片付けましたが・・・心臓に悪い。
『酸素が欲しい、手に汗もかいた』
私はすぐにマスクを脱いで、手袋を脱いで。ダイニングに戻りました。
お分かりだろうか?
私が通り過ぎた通路の
誰もいないはずの部屋の扉が
ゆっくりと閉まったことを。
それからしばらくして、奈良の上空に差し掛かった頃
ガタンッ
天井から何か音がしました。
=この音が恐怖の序章に過ぎなかったことをこの時ハイジャック犯の誰もが知る由も無かった=
リーダーの命令で船内を捜索していると、真っ暗な空間のコンテナの前に・・・
子供の死体が転がっていました。
怖いなぁ怖いなぁ
と、私は身を強張らせながら、ゆっくりとその死体の元へ。
「おい」
声を出さなきゃ怖くてやってられません。
死体を転がして、それが何なのか確認しようとした・・・その時!
死体の目がニヤリと開きました。
「お前!?」
見覚えのある顔。そう、それは窓から突き落としたはずの、ここにいるはずのない眼鏡坊主だったので・・・す・・・
驚き恐怖に引きつる私の顔に、チクッと何かが刺さりました。
そこから、私の意識は闇の中へと消えていきました。
これ以上は・・・何があったのか・・・私にはわかりません。