劇場版名探偵コナンの犯人たちの事件簿   作:三柱 努

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次々と消えていく仲間
消えたはずの少年の不気味な笑い声に
天空の幽霊船は恐怖の渦に包まれていた


天空の難破船 【後編】

男は、通信の途絶えた仲間の捜索に、一人飛行船の中を歩いていた。

飛行船と言えば聞こえはいいが、ここは逃げ場のない上空数千mの鉄の籠

豪華ホテルのような装飾の船内は、ハイジャックにより無人となった今、むしろ不気味な静けさに恐怖を駆り立てさせていた。

 

そして辿り着いた暗闇の中、男が見たものは横たわる仲間の姿。

 

死・・・その一文字が彼の脳を駆けた。

「おい、どうした。おい」

人騒がせにも、仲間は眠っているだけのようだ。

だが、なぜこんな状況で、こんな所で?

 

 

その時、彼の真横にスーっと、何か紐のようなものが頭上から降りてきた。

 

言い知れぬ魅力に惹かれるまま、男はその紐を掴んだ。

 

ギュン!

軽く掴んだはずであった。

手が離れない。

紐に引っ張られ、男の巨体は一気に床を離れ、天井に向けて急上昇した。

 

『マズイ!離れてくれ!』

その拙な願いが脳からようやく手足に届き、彼がその手を放した瞬間。

彼の体は4mほどの高さから落ち、背中から叩きつけられ・・

 

 

 

 

 

「キャットBなら屋根の上でノビちゃってるよ。おかしいねぇ、ネコは背中から落ちたりしないのに」

ハイジャックにより占拠されたダイニングに響く、空の彼方へと消えたハズの少年の不気味な笑い声。

その声が語る真実。

キャットBは、少年に突き落とされたのだ。

その外道行為を、少年はまるで勝ち誇ったように語っていた。

(そしてその報告に人質となっている子供は歓喜を上げていた。この国の教育現場の崩壊を象徴するような現場に、テロリストたちは戦慄を覚えた)

 

 

 

射殺許可が下りた。

男達は走った。そして目の当たりにしたものは、恐ろしい心霊現象。

 

 

1人の男は暗闇の中で少年を発見した。

スケボーに乗り、闇の中へスーッと消えていく姿を。

足でキックして進むわけでもなく、推進力を得ていないはずのそのスケボーで疾走していくその姿に、男は疑うべきは自分の目か常識か、それすらも混乱の中に落としてしまった。

乱れ撃つ銃弾も全て通り抜け、少年の体はハシゴの“横”を“浮遊して”2階通路に上がっていった。

 

 

 

またある男は、誰もいないスカイデッキにいた。

宝石の展示される台座に登り、周囲を警戒していると、背後から子供の声がした。

 

「1と7」

 

不規則に数字を数えるその声は、淡々としていながらも、どこか楽しんでいるような、理解しがたい感情を含んでいた。

 

声に振り返った瞬間、男の意識は足元に急に現れた空間に落ち、暗闇の中に消えてしまった。

 

 

 

またある男は、エレベーターから降りる中、少年にマシンガンを放っていた。

戦場経験は語っていた。

マシンガンを避けることのできる生き物は決して存在しない。と。

だがその常識は、幽霊のような存在を前に空しく空を切っていた。

 

そして再びエレベーターを上りスカイデッキに降り立った男の脳裏に響く声。

『あれ~、おかしいぞ』

違和感が耳元で囁いた。それが自分の声なのか子供の声なのか、心の中で、脳の中でささやく声なのか・・・彼には判断がつかなかった。

 

確実に不可思議だと認識できることはただ1つ。

先程まで、視界にいたはずの仲間が消えていたのだ。

跡形もなく・・・まるで落とし穴にでも落ちたように・・・そんなものがこの天空の檻に存在するはずもないのに・・・

 

1つ確信できるものはある。混沌としたこの状況の根源たりうる少年が目の前にいることだ。

 

「動くな!そのまま手を上げろ」

少年に銃を突きつけ、男は警告した。

「手を突け!逆らうんじゃねぇ」

男に油断は無かった・・・はずだった。

その視界は突如、血のような赤に染まっていた。

ボクサーにグローブでストレートパンチを喰らったような衝撃が彼を襲い、そのまま彼の意識は煙のように、天空に浮かぶ雲の中へと消えていった。

 

 

そして、最初に幽霊と邂逅した男は、この時ようやくスカイデッキに辿り着き、少年の霊に銃弾を浴びせていた。

 

「あ!」

 

幽霊の声に思わず振り返った男に降り注いだのは、目の前が真っ白になる閃光と、体中を針刺しながら走る痺れ。

意識は動かない身体と共に、冬のような寒さに包まれ消えていった。

(それが身を凍らせるほどの霊気だったのか、はたまたオープンなスカイデッキが招き入れる上空数千mの凍える外気温だったのか・・・それは誰にもわからない)

 

 

こうしてキャットA~Eの全隊員を失ったリーダー。

銃を持った傭兵5人を、子供1人で撃退できるわけがない。何か言い知れぬ不安が心臓にまとわりつく中、彼もまたスカイデッキに姿を現した。

 

だが、その目の前に現れたのは、少年の姿と、その横で揺れる“白いクネクネとした”マントのような布。

『あレはダれダ・・・』

リーダーは一瞬正気を失いかけたが、よく見ればそれは怪盗キッド。怖れる事はない・・・そう感じた次の瞬間。

乱れ撃たれる銃弾の中、リーダーの顔面にサッカーボール状の鈍器が殴打されたのだ。

 

薄れゆく意識の中、少年は悪魔の笑みを浮かべながらリーダーの電話履歴を問い詰め、黙る彼に向かって殺人バクテリアを浴びせかけようと脅してきた。

その目にリーダーは戦慄した。

『なんだ、こいつの凍りつくような目は・・・平気で何人も殺してきたような・・・それか人間が死ぬところを見慣れてしまったような・・・

こ、こいつはいったい・・・』

 

そしてリーダーの意識もまた、仲間たちの意識・姿と共に、天空の闇の中へと消えていった。

 

 

 

≪一方その頃、地上では≫

 

仏像盗み放題という甘い幻想は脆くも打ち砕かれていた。

機械も使わず、4人の人力のみで、人の背丈ほどの仏像を盗むには限界があった。

『バカでしょ・・・・・・?』

雇い主のボスへの不満だけが噴出する中、彼らの前に突如、3人の子供が立ち塞がった。

 

「な~るほど、うまいこと考えたなぁ。飛行船使たバイオテロは陽動作戦」

薄暗闇の中でニヤニヤしながら、彼らを問い詰める子供たち。

しかも急に奈良県警の警部の名前クイズを出してきたのだ。

 

『聞いた事がある。旅人に謎かけをして、答えられなかった者の魂を喰らう妖怪がいると・・・・まさかコイツらが?』

 

「あの人ら、アホなんちゃう?」

「ホンマや。泥棒捕まえんのに、俺ら3人でくるわけないやん」

男達を煽る3妖怪がニヤリと笑うと突如、夕方だったはずの周囲は昼間のように閃光と明かりに包まれた。

 

そこから、彼らの意識は・・・奈良県警の鹿角剛士のお縄の中に囚われた。

 

 

 

 

 

 

≪「仕方ない。真打登場といくか」≫

 

俺の名前は藤岡隆道。

バイオテロハイジャック仏像強奪の首謀者・・・だが、坊主と怪盗キッドに台無しにされ、ただ今坊主をおびき出し中。

 

そして現れた坊主に計画を全てバラされ、儲けも台無しにされて踏んだり蹴ったり・・・そのお礼に海の藻屑と消えてもらうことにした。

 

 

そこから乱れ撃たれる俺の銃弾。

坊主の皮膚を次々と削っていく。

 

 

何かがオカシイ。

 

この夜空を飛ぶ飛行船の上、激しい強風の中で皮膚だけ狙ってじわじわ追い詰めることが出来るほど、おれの射撃テクは化け物級ではない。

 

なのにこの坊主の体には、一向に銃痕が残らず、ただ弾がかすめた程度の傷しかつかないのだ。

 

 

「あ!ポートタワーが見える。六甲の錨マークも。すごいすごい」

しかも坊主、ケロッとして立ち上がった。

何だこのモンスターは・・・

 

 

その時、アレは起こった。

 

ちょっと目を離したすきに巨大サッカーボールのお化けが出現したのだ。

ボールは橋に引っ掛かり、飛行船は縦に傾いていく。

 

落ちる!

 

踏ん張り負けた俺は、モンスターの真横を通り過ぎ、真っ逆さまに海に向けて落下していった。

海面まで100m以上。この高さから水面に叩きつけられた時に身体が受ける衝撃はコンクリートの地面に叩きつけられるものとほぼ同等かそれ以上・・・

 

こうして、死を覚悟した俺の意識は、暗闇の海の中に消えていった。

 

 

 

そして生きてました。

 

 

 

≪「ここからは私が話そう」傭兵部隊所属、元・漆職人≫

 

 

坊主に捕えられ、ダイニングに拘束されていた私達。

一発逆転の藤岡の2人の部下が大逆転。

かと思われたその時・・・彼らから発せられた言葉に、我々は死すら甘く感じられる恐怖を覚えた。

 

 

「飛行船と一緒に死んでもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイ、ひっくり返されました。

いえ、物理的にです。

こう、ゆっくりゴロンて感じで・・・

 

 

飛行船ごと垂直になったんです。

摩訶不思議な現象ですよ。

 

私達を見捨てた2人ですか?

もちろん、真横になった部屋で机やいすの下敷きになっていました。

スゴい音がしましたよ。グシャっていうかドチャっていうんですか。

重傷でしょう。間違いなく。

 

個人的には「ざまぁ」って叫びたかったですね。

 

 

 

その後で我々も、ハイジャック犯として逮捕されるっていう運命さえ待っていなければ。

 




こうして、謎は全て解かれた。

いや、謎は1つもありませんね。



ですが他人事ではありませんよ。

次は、アナタの身に起こるかもしれません。
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