今作は劇場版ではなく、ゲーム版の名探偵コナンの事件になります。
また“トリックの都合上”、“別作品”から“世界観を壊さない程度”の特別ゲストに登場してもらう『クロスオーバー展開』となっております。
(クロスオーバーの程度としては、【ベイカー街の亡霊】や【瞳の中の暗殺者】程度だと想定していただければ十分です)
あらかじめご了承ください。
めぐりあう2人の名探偵 =第1章= 【前編】
私の名前は一之瀬恵子。初めましての方は初めまして。
私の故郷は双子島って呼ばれる、そっくりな2つの島のうちの1つ・夕闇島よ。
事件の発端は25年前、夕闇島で金塊が発掘された出来事。
でも、もう1つの島の町長たち5人が金塊を奪うために、私の父を含む夕闇島の有力者5人を次々と殺害して、島民全員を炭鉱に生き埋めにした、
そして『自分たちの島のほうこそ、金塊が発掘された島・夕闇島だ』として、私たちの島を抹消したのよ。
辛うじて生き残った夕闇島民は、私を含めて5人の子供だけ。
そう、私たちは復讐者。
家族や友達、町の人達、そして島の存在すらも奪って行った奴らに復讐をするため。
25年かけて準備した復讐を果たすための5人の仲間、それが私達よ。
時は来た。
私の役割は、復讐すべき有力者5人を復讐の舞台まで拉致すること。
そのために仲間の1人・鳥羽美佐と一緒に島の土産物店に従業員として潜伏しているわ。
ちなみに美佐は本名のまま。私は殺された父と同じ『一之瀬』って苗字じゃバレちゃうかもしれないから、『浜田涼子』って偽名を名乗ってね。
もちろん他のメンバーも偽名を名乗ったり、あとは復讐の舞台である本当の夕闇島の方でスタンバイしているわ。
準備の準備は整ったわ。
25年もかけて練り上げたトリックもある。復讐が失敗することなんてない・・・
名探偵や刑事でも現れない限り・・・ね
早速アクシデントよ。
美佐、どうやら復讐に反対しているみたいなの。
そりゃそうよね。この子は生き残りのうちの1人の娘さん、双子の妹の方なんだけど、事情があって一般家庭で育ってきたから、復讐のモチベーションが私達の中で一番弱い。
そしてついにその日が来たわ。
3日後に第1の復讐を決行するぞ!って日に、美佐が姿を消したの。
『復讐したところで得られるのはその一瞬の満足だけ。その後に残るのは虚しさだけ』ってド正論言っていた彼女が。
これ確実に私たちの復讐の邪魔をするつもりよ。
この暴挙を仲間の1人『裏切り者は許さないマン』が怒ってね、「美佐を殺さないと、代わりにお前を殺す」って私に命令してきたの。
どういう矛先の向き方?イライラするのは分かるけど、とんだ責任転嫁よ。
ということもあって、私は必死に美佐の行方を捜したわ。
【3日後】
全然見つからない。最悪。
誘拐と並行して捜索と、いざ美佐を見つけた時の殺害トリックの準備とか無理ゲー。
とりあえず今日は復讐標的の1人・火野隼人を誘拐して夕闇島に運んで、あとは美佐の捜索に戻る“だけ”のハードスケジュールをこなしたの。
そんな中、土産物店にいた時に店長がお客さんと話しているのが聴こえてきたわ。
“ハジメちゃん”とか聞こえてきたの。天才バカボン一家でも来ているのかしら?
お店に顔を出してみると、そこには若い男女とスーツ姿のおじさんがいたわ。
女の子のほうは可愛いけど、男の子のほうは眉毛太いし髪の毛束ねてて少しマヌケ面ね。
観光客のカップルかしら?それとも兄妹とお父さん?
話を聞いてみると、どうやらカップルは中学校の頃の同級生である美佐から『島を恐ろしい事件から救ってほしい』って手紙を貰って来たそうなの。
あいつ・・・余計な事を。
で、店長が「美佐は行方不明」って教えてあげたらしいんだけど、そうしたら3人は「美佐を探す」って言い出したらしいのね。
私としてもありがたい話だけど、私や島民が3日かけて島中探して見つからないんだから、はっきり言って戦力外・・・
すると女の子が胸を張って自慢げにこう言ったの。
「こう見えて剣持さんは警視庁の刑事さんなんですよ」
いるのかよ!刑事いるのかよ!
この島、警官は爺ちゃん警官のシゲさんだけだから安心してたけど、復讐当日にとんだサプライズゲストよ!
祈るしかないわ。この刑事がポンコツであることを祈るしかない。
でも、そんな私の祈りを無視して、女の子は続けたわ。
「それに、このスケベで、どんくさいところもある、はじめちゃんですけど、実は名探偵、金田一耕助の孫だったりするんです」
なんでよ!
なんで名探偵の孫と刑事の最強コンビが、こんな時に限って・・・。
ただでさえ美佐捜索と復讐と責任転嫁の殺害予告の掛け持ちで綱渡り中なのに。
美佐のせいよねコレ。殺意覚えるわよ、いい加減。
湧き上がる憤怒と忍び寄る絶望が私の心に飛来したわ。
でもその時、一筋の光明みたいなのが心に差しこむように、何かの幻影が私にささやいたわ。
『孫。確かに祖父は名探偵。しかしヤツは孫、2親等』
って。
心の幻影さんの言う通り、推理力が隔世遺伝するわけじゃないんだし、心配しなくていいわ。きっと。
それによく考えたら、こっちは犯人5人組。負けるわけないじゃない。
いけるかも。
もう1組、名探偵と刑事でも現れない限り・・・ね。
そしてその夜・・・ついにその時は訪れたわ。
祝・美佐発見!
会いたかったわ美佐。殺したいほどにね。
だけどすぐには殺さない・・・・ってこの台詞だと、まるで苦しめて殺すサディストみたいだけど、私の場合は事情が違うわ。
なんせ今この島には刑事と名探偵の孫がいる。慎重にトリックを使って殺さないと、私が疑われて復讐に支障をきたしちゃう。
トリックはこうよ。
まず舞台は島の外れの灯台。
そこに美佐を呼び出して、灯台の上から岩をスローインして殺すの。
こうすれば美佐が灯台から投身自殺したように見えるでしょ?
もし他殺だとバレても、「まさか女が重たい岩で殺害なんてできないだろう」って盲点を突ける2重の防衛策。後で大男の犯行に見せかけるトリックも実施するわ。完璧ね。
さて、そうと決まれば灯台へGO!
まずは暗闇の中でも美佐を見つけられるように、店長から盗んでおいた光るアラーム腕時計を灯台の元に置いておいて。
次に上の展望スペースの手すりに滑車をかけて、ロープの端と端に岩とバケツを結び付けて、このバケツに展望スペースにある水道から水を入れればあら不思議。エレベーターみたいに重たい岩が持ちあがっていくではありませんか。
あとは岩を持ちあげて美佐を待つだけ・・・
『腕もげるほど重い!』
計算外だったわ。華奢な女が持ち上げられない凶器でチョイスしたから、岩が、手すりの下で、滑車のところで止まった、ロープにひっかけた岩が、重くて持ちあがらない!
このままじゃ『裏切り者は許さないマン』に私が殺される・・・負けてなるもんか!
『ナメんじゃないわよ。土産物販売員の筋力』
日々パンフレットの束やクッキーの箱、木刀やシルバーアクセサリーを持ち上げて鍛えた筋肉で、どうにか岩を持ち上げて、展望スペースのベンチに岩を置いたわ。
結局フィジカル
トリックって、最後はフィジカル
思い知らされたわ。
さぁ、あとは美佐が腕時計を取ったら、その光に目がけて岩を落として当てるだけ。
岩を・・・当てるだけ?
冷静に考えましょう。持ち上げるだけで精一杯のこの岩を?
灯台からピンポイントで投げ落とす?
それができたら最初から直に殺しとるわ!
ここにきて盲点が・・・トリックに体が追いつかない!
もう・・・駄目なの?
『諦めるな!』
その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が私に届いたわ。
絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男の人が、私の目の前に現われたの。
屈強なマッチョな男性が・・・
誰?
「あなたは誰?」
「俺の名前はケビン・ヨシノ。キミと敵を同じくする者。そして、“出ることができなかった”者さ」
混乱する私に優しく手を差し伸べたのは、画風の違う男・ケビンだった。
「俺は・・・いや“俺達”は、苦難を前にした犯人たちを助けるために召喚された。決して最終回だからトンデモ設定をぶちこんでやろうなんて魂胆の無い。いわばクロスオーバーの産物なのさ」
訳の分からない説明をする得体の知れないケビンだったけど、ようは私を助けてくれるらしいの。願ったり叶ったりよ。
するとケビンは爽やかな笑顔とマッチョボディで岩を軽々と持ち上げて、灯台の下で光るアラームを美佐が拾い上げたところに、スナイパーのように岩を投擲して美佐を殺してくれたの。
「ありがとう。ケビン・ヨシ・・・ノ・・・あれ?」
気付いた時、ケビンは消えていたわ。まるで最初からその場にいなかったみたいに。
不思議なこともあるものね。
だけど、私は立ち止まってなんかいられないわ。
次のトリックが私を待っている!
【この時、彼女は気付かなかった。彼女たち復讐者5人に迫る“トリック再現の困難”の数々に
しかし恐れる事はない。彼女たちには“強い味方”もまた、たくさん待っているのだ】