それをきっかけにした新たな事件
やぁ久しぶりの方は久しぶり。そうでない方はヤッホー、浅見京太郎だよ。
探偵に邪魔されながらも、着実に復讐達成に近付いている今日この頃。
今回の僕の目標は3つ。
1つは、仇たちを絶望させるために、その子供たちに殺し合いをさせる。
2つ目、毛利小五郎を始末する。
そして、仇の水川助吉と土田文子を拉致する。
・・・・やることが多い。
ってことは、楽しめることが多いってことだ!
ということで早速、土田文子の次女・明美をたぶらかして、その姉と水川の息子を殺させようじゃないか。
舞台はパーティ会場。
えっ?僕が連続爆弾事件を起こしているから、そんな時期にパーティなんてやらないんじゃないかって?
大丈夫。このパーティは仇たちが25年前に夕闇島民を皆殺しにして金塊を奪ったことに気付いていた当時のこの島民への口止めになっている恒例行事。爆弾事件ごときじゃ止めないクズの催し物だよ。
そんな事よりトリックさ。僕の考えたトリックはシンプルに姉の方は毒入りの水で毒殺。息子の方はボウガンで毒矢を発射。
これだけさ。今回は爆弾を使わない。
なんてったって半分以上は他人にやらせるんだから。他人の扱う爆弾ほど怖いものは無い。
そうじゃなくても委託殺人を複雑にしてもメリットは無い。シンプルがベスト。気配りができる犯人はモテるんだよ。
そう、モテる・・・これが一番の難関だ。
なんせ僕は25年間、復讐一筋でやってきているから女性経験なんてものが子供時代で止まっちまってる。
不得手どころじゃない。モテる自信も何もないんだ。
こんなんでどうやって金持ちのお嬢様のハートキャッチしろって言うんだ・・・
【その時、ダビデの星の方から『俺がついてるぜ』という声が発せられたが、どうやら出演回数が尽きているようだ】
仕方ない・・・読むか、ホットドッグ・プレス。
付け焼刃の生まれ変わりがどこまで通用するか・・不安しかないけれども・・・
その時、次元の壁を超えるような、不思議な光が僕のパソコンから照らされた。
絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そもそも次元が違う、そんな場所から来たような電子音声が、僕の耳に届いた。
「我が名は、ノアズ・アーク」
パソコンから流れる聞き覚えの無い音声。というか、電源入れっぱなしだったっけ?
何か不気味な気配すら覚えながらも、僕はPC画面の前に立った。
すると電子音声は僕の様子を見ているかのように、こう続けたんだ。
「ボクは恋愛シュミレーションゲームをインストールしたノアズ・アーク。キミのように恋愛に奥手な人をサポートするためにやってきたんだ。よろしくね」
どうやらコンピュータウイルスに感染してしまったみたいだ。爆弾の材料を集めるために海外の怪しいサイトにアクセスしたのが悪かった。大事な時にトラブルに見舞われると凄いストレス。
けれどポジティブ浅見に死角は無いよ。
悩み多き今の僕に必要なのは気分転換だ。恋愛シュミレーションゲームなんて、ぴったりじゃないか。
「さいしょからあそぶ、をポチッと」
「ようこそ、黒ずくめの女たちを攻略しまくるゲームの世界へ」
僕はパソコンから放たれるノアズアークの光に包まれた。
【107分後】
「ジンちゃんは僕の嫁」
僕は生まれ変わった。
ハートキャッチ浅見、誕生!
今や大地に咲く一輪の花。モテ力が全身にみなぎる。女子の5人や10人、ドンとかかってこい!
「健闘を祈っているよ」
そう言い残し、ノアズアークはパソコンからアンインストールされていた。
あれだけ素晴らしいゲームなら、世に出たらきっと一世風靡の大ムーブメントを起こしていただろうに。惜しい事をした。
その後、海風に揺れる一輪の花となった僕は明美のハートをキャッチ。彼女をたぶらかして姉と息子を殺す気にさせ、息子殺害用のボウガンセットを渡し、ターンエンド。
【翌日】
今日は殺人・拉致パーティだ。
パーティ中に明美と一緒に2人を殺して、隙を見て会場を抜け出し、
毛利小五郎を「メガネのガキは預かった。返してほしければ、森にこい」の手紙で呼び出して始末する。
その後、僕自身は調理場の奥の食糧庫に戻って、手足を縛られた状態のフリをして待機。身の潔白を主張して事件を迷宮入り、もしくは明美に全ての罪をかぶせる。
そして絶望感が漂ってきた頃に、仇の水と土を拉致。
完璧じゃないか。これだけ計画しておけば何が起きたって平気さ!
起きたよ。不測の事態。
パーティ会場に、毛利小五郎と明智警視、メガネのガキ(と女子高生)。
明智警視はまだ分からなくもない。強い権限もあるし、会場の警備の名目で潜入してくることも予想できていた。
だけど毛利小五郎・・・いくら名探偵でも一般人。どうやって招待状が必要なパーティに参加できるの?
さすがは名探偵ということか。何がさすがなのか分からないけど。
そしてメガネのガキ、キミも想定外の外。後でサッカーゴールでも撒いておけばホイホイ釣られて誘拐できると思っていたのに、よりにもよって一番誘拐しにくい名探偵と迷警視の側ですか?そして傍らには明智警視と仲良しの女子高生。スキが無い。
本当に、こんな状況で殺人なんてできるのか・・・
できた。
何この肩すかし。
明智警視の横で平然と姉と男の2人を殺した明美。彼女のスキルが強すぎるのか、明智がポンコツすぎるのか。
俺は「明美が凄すぎる説」に一票を投じたい。
明美、自分で殺したくせに姉が殺されて嘆く妹のように嘆いているんだ。しかも現職の警視の横で。凄い度胸。
大御所の目の前で予告ドッキリのリアクションを求められているに等しいこの状況で迫真の演技。有力者の次女にしておくには勿体ないレベル。
決して明智警視がポンコツだなんて、思いたくない。そんなこと起きていたら、ギャグでもなくリアルに日本の治安がノーフューチャーだ。
いや、マジで日本の未来が不安だ。
毛利小五郎はお酒の飲み過ぎでヘベレケになってんだもの。あのぉ、今2人死んだとこなんですけど。
偽爆弾魔を追い詰めた時の気迫が嘘みたいにベロンベロン。
ん?嘘?
そうか、分かったぞ!この毛利小五郎は影武者だ!
僕を油断させるために、誰かが変装しているんだ。間違いない!
なら今頃、本物の毛利小五郎は僕が出した手紙に呼び出されて、森に行っているのか!
『時間が無い!』
僕は急いで殺人の証拠になるボウガン入りの木箱や毒水入りのグラスを片付けた。
いや、この瞬間も戦々恐々だよ。殺人したばかりの広間から、警視と探偵の目を盗んで、ドデカい木箱を持ちだすんだから。でもできたんだから、本当に未来がクライシス。
そして大急ぎで森に向かう。
と、その前に。本当に眼鏡のガキを監禁しておかないとネタバレしてしまうから、ホテルのフロントに電話してガキに203号室に来るように伝言を頼んでおく。
そして203号室には一度ドアを開けて入ったら外から鍵がかかるように仕掛けをしておく。
これでガキが部屋に入れば、“携帯電話の通じないこの島で、自分が架空の拉致の被害者になっていて、誰かが自分を探しに森に呼び出されてしまっている”ことに絶対に気付かない。
そして連絡手段が無い状況で、手紙に呼び出されてガキを探しに行った毛利小五郎も、ガキが実は無事だってことには気付かない。
さぁ、待っていろ毛利小五郎。
お前の命もあとわずかだ!