劇場版名探偵コナンの犯人たちの事件簿   作:三柱 努

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めぐりあう2人の名探偵 =第6章= 【前編】

待望の主人公の出番が来たぜ。

 

 

 

俺は日沖竜平。復讐チームのリーダーだ。

そう、俺は25年前の惨劇を引き起こした日沖竜一の息子。その惨劇を咎めた母と共に、実の父に殺されかけた過去を持つ、バックボーンの重い復讐者。まさに映画の主人公と言っても過言はない。

 

 

 

さて、満を持して登場した俺だが、軽く前回までのあらすじを振り返っておこう。

 

25年前の復讐の舞台・夕闇島に、偽・島民として借金漬けの人間を大量に雇った俺は、財宝の発掘と偽って、生き埋めになった島民たちの遺骨を掘らせている。

なおかつ、仇の5人に恐怖を味わわせるために、25年前のタイムスリップを演出するために、島民として俺のシナリオ通りに動く仕掛け人としての指示をしていた。

 

そしてついにその日。

仇の1人目、火野隼人の殺害日・・・奴らは現れた。

金田一耕介の孫、金田一一。マヌケ面の見た目と裏腹に、巧みな戦術と推理力で俺たちを翻弄する高校生探偵。

俺も巧みな話術と演技力で金田一を牽制して対抗したさ。

その火花散る二人の攻防、一進一退の鍔迫り合いは、まさに主人公と好敵手の因縁の戦いの日々だった(と話したら、仲間の美優に鼻で笑われた)。

 

 

 

 

そしてもうすぐ、全ては終わる。

 

 

 

 

 

の・・・前に、1つ俺の身に起きた奇妙な出来事を話しておこう。

復讐の邪魔が外から入らないように、この復讐劇の事前に島の通信手段を破壊しておく必要があった日の事だ。

当然、この島には外部の人間、無関係で罪の無い観光客も来ているわけだ。

通信手段が壊れたままだと、その人たちの帰る手段が無くなってしまう。

だからこそ、復讐の間だけ通信機器に沈黙してもらって、終わったタイミングでちょうど直ってもらわなきゃいけなかった。

 

 

 

だが・・・・そんな都合よく機械って壊せるものだと思うか?

俺には無理だ。

 

と、そんな時、次元の壁を超えるような、不思議な、絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男が、俺の前に現われた。

 

「私は検事・日下部誠」

不審者が出た。そうじゃなくても警察関係者の介入は復讐の邪魔でしかない。しばらく眠ってもらおう。

 

「ちょっと待て。警察官は警察庁。検事は検察庁。管轄が違うぞ」

そうじゃなくても無関係者の介入は復讐の邪魔でしかない。しばらく眠ってもらおう。

 

「だから話を聞いてくれ。キミは通信手段を一時的に沈黙する手段を欲しているんだろう?なら私に任せてくれ。IOTテロなら得意なんだ」

この島の通信機器はネット回線を使っていない。無線だ。しばらく眠ってもらおう。

 

「待て!待ってくれ。頑張るから、なっ?」

そう言うと頑張って通信機器を一時的に壊してくれた日下部は、まるで最初からその場にいなかったように、霧のように消えていった。

その時は、日下部が何だったのかわからず、とりあえずは丁度良く壊れてくれた通信機器に満足するだけで精一杯だった。

 

 

 

その後、美優や浅見、須永から似たような報告が上がった。

なるほど、どうやらこの夕闇島と日暮島には、俺達の復讐を手助けしようと積極的に介入してくる実体を持つ幽霊が出没するようだ。

この存在が吉と出るか凶と出るかは、今の段階では分からないが・・・とりあえずは復讐に支障はないようだ。

 

 

 

話が脱線したがもう一度言おう。

もうすぐ全ては終わる。

全てを終わらせる上で一番の障害は、もちろん金田一なわけだが、今回はむしろ金田一を招き入れようと思う。

普通、殺人事件を起こそうとする現場にあえて探偵を呼ぼうなんて思わないだろう。

ところが俺は前代未聞のその行為をやってやろうってんだ。空前絶後だろ。

 

 

 

舞台は旧・三井邸。浅見京太郎の実家だ。

実家を提供してくれた浅見、サンキュー。

そして屋敷に使用人を配置して、俺は浅見から受け取った水川と土田を天井裏の隠し部屋と外の物置にセット。

この前、難癖つけて誘拐しておいたガキ3人を人質に、金田一と剣持を屋敷に呼びつけて放置。

その間に俺はムード作りさ。

殺人にも気分を盛り上げるための雰囲気が大切・・・ってのは少し違う。

 

 

 

今回の1件目の水川殺害は少し大がかりだ。

窓が1つしかない部屋に眠らせたヤツを閉じ込めて、目を覚ました頃に仕掛け人の偽・島民を使って暴動風の騒ぎを起こす。そこに俺達も部屋の扉を叩いてヤツを怖がらせる。

パニックになったヤツが、その1つしかない窓から出ようとした所を、俺が先回りして殺すって算段さ。

 

 

さて、水川がパニックになるくらいの騒ぎを、借金まみれのクズどもに起こさせるわけだ。

 

HOW?

どうやって?

 

暴動は演技。不満もクソも無い、見たことも無い町長宅に押し寄せて、馬鹿馬鹿しい騒ぎを笑わずに起こすには、劇団並みの演技力と、総監督並みの統率力を要求される。

そんな演技力があったら、クズどもは借金まみれにはなりません。

そんな統率力があったら、俺は警察に入って出世して、普通に25年前の事件を捜査して仇を逮捕しています。

 

 

 

やることは少ない。だけど、無いものが多い!

せめて、集団の大音声を指揮できる経験と技能があれば・・・

 

 

 

 

『そこは私に任せなさい』

 

その時、俺の前に例の声が聞こえてきた。

例のごとく現れたのは、白髪の眼鏡のじいさんだった。

俺達犯人の前の現われる犯人・・・

犯人?こんなじいさんが?

 

 

「私は譜和匠。堂本音楽ホール館長でピアノの調律師だ。もちろんピアノも弾けるし指揮者もできる」

なんか音楽家が来た。音楽家はお呼びじゃない!

 

「あとは農薬を飲み物に混入させたり、狭い住宅街に大型トラックで突っ込んだり、ライフルで狙撃したり、工具で人を殴ったり、爆弾で小さな部屋から大きなホールまで爆発させたりできる」

ヤベェ殺人力の持ち主が来た。これはお呼びだ。だけど、今じゃない。

 

「まぁ今回は音関係でお困りのようだから、私が炭鉱労働者たちを指揮しておこう。そうすれば本物の暴動と誰もが見間違う、警察や探偵すら本気にしてしまうほどの偽・騒動にまで発展させることができるぞ」

お呼びでした。

 

こんなことある?

俺に出来ない事を平然とやってのける、思わず憧れてしまうじいさんが来てくれるとか。

 

 

 

そこから咲き乱れる譜和匠先生の華麗なる指揮指導。

みるみるうちに変貌していく『夕闇歌劇団』

 

やばい・・・惚れそうだ。

俺、こういう歳の取り方したい。

 

 

復讐終わったら・・・そう、この歌劇団を俺が率いて、金田一を倒してから!


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