浅見京太郎の事件簿もついに最終目標に到達さ。
仇の4人を夕闇島に送り届け、あとは25年の呪いの島、夕闇島を爆破するだけ。
嫌な思い出しかないあの島を破壊して初めて、僕の耳に残る“生き埋め事件”の時の音が消えてくれるはず・・・
なんてしんみりしていたらポジティブの伝道師の名が泣いちゃうね。
やっと日沖から25年待ったGOサインが出たんじゃないか。「遺骨全部掘れたよ」って。
これで心置きなく島を爆破して、島の皆のお墓を作れるんだ。テンション上がってきた!
ここからは、僕のステージだ!
さて、島中に爆弾を設置していくわけだけど。ここからはスピード勝負。
なんせ毛利小五郎を放置しちゃっているからね。(明智警視?あのポンコツは気にしない)
探偵に邪魔されないうちに、ササッと設置しなきゃいけないんだ。
えっ?事前に準備しておけばよかったじゃないかって?小学生の子供に明日の授業しておきなさいって叱るお母さんみたいなことを言うね。
あのね、今日の今日までこの島には炭鉱労働者がたくさんいたでしょ?誰かが触ったら危ないでしょうが!
使う時に使うものを出して、使い終わったら収納する。これ当たり前。
あと、島を破壊する爆弾だけど・・・ざっとトンいくくらいかな。
うん。バカみたいな量だね。
普通に無理。トラックも無くは無いけど、狭い道には入れないから最後は人力頼み。一人じゃ無理。
だけど・・・忘れていないかい?
僕には頼もしい犯人たちがいるんだ。
次元の壁を超えて現われる協力者が!
さぁ!カモン!
・・・・・あれ?来ない。
いつもなら呼ばなくても来るのに。困っている時にはいつも来てくれるのに。いつもと同じパターンだよ?何故来ないの?
まさか・・・だけど・・・多用しすぎた?
犯人のストック・・・尽きた?
マジかよ。
えええええええええ!こんな時に限って!?もう最後の最後のひと押しなんだよ!集大成なんだよ!一番要るタイミングなんだよ!
嘘だといってよ、ハンーニィン!
どうしよう。このままじゃ島の浄化ができない。島の呪いを消せない!
【突然、浅見の頭に哲学的な疑問が走った】
『むしろこの状況こそ普通なんじゃないか?』
復讐ってのは、誰かに助けてもらって成すものではないんじゃないか?
自分の力でやり遂げなきゃ、達成感なんてものも無く、僕は駄目な人間になってしまうんじゃないか?。
今こそ自分の足で立つ時なんじゃないか?
こうして僕は地道に爆弾を設置していった。
1つが人体の重さに匹敵する爆弾。つまり拉致1回の労力と変わらないじゃないか。ならば問題ない。
【1時間後】
浅見、過労死寸前!
しかし、目標達成率わずか20%
『今を逃したら探偵が来てしまう。謎を解きにやってきてしまう。あきらめて、たまるか!』
【数時間後】
ついに僕はやり遂げた。
総移動距離、都内の環状線1周分。
くじけそうな時が何度もあったけど、その度に心を支えたのは仲間と、そして好敵手の影。
僕は1人じゃない。共に復讐を誓った日沖と、僕の背を追いかけてくれる毛利小五郎がいる。孤独じゃないんだ!
とはいえ、かなり疲労困憊。
一度休憩がてら三井町長邸に行こう。ちなみに僕の本名は三井京太郎。そう、我が家に。
ついでにお母さんの形見の天使の羽のブローチも回収して、思い出に浸ってリラックスしたい。
のに、しまった場所、わ~すれちゃった~よ~。
時間をかければ見つからなくはないが。
「ごめんくださ~い」
お客さんが来たみたいだ。「は~い今行きます!」と出てみれば、何故かそこにはコナンくん。この子との遭遇率、最近高くない?
そこから咲き乱れるコナンくんの質問タイム。時間があったら答えてあげたいけど、生憎今は駄目。って僕の都合を無視してグイグイ来るコナンくん。
爆弾のスイッチをちらつかせても、こうかはいまひとつのようだ。苦手なタイプだ。
しまいには25年前の惨劇の、僕のトラウマな部分にまで目ざとく質問をぶつけてくる。
最期にはどうにかサヨナラバイバイできたけど、この短時間で一気に子供嫌いになった。
その後、僕は炭鉱内に時限爆弾を設置して、炭鉱奥の隠し船着き場に到着。
あと10分で呪縛から解放される。
そうしたら、次は夕闇島を名乗っている日暮島の番だ。サイコーに大きな花火を上げてやる!
その時、僕のテンションが徐々に上がっていく足音と共に、僕の背後から声が聞こえた。
「おや!?えっと?あんたはどなたですかな?」
毛利小五郎、参上!! と、何人かの日暮島の島民。
部下を引き連れて僕と対決に来たようだ。
ちょっと形勢不利か?
いや待て様子がおかしい。
このすっとぼけた様子・・・こいつはホテルにいた偽物だ!
「ほへ? ふにゃ~」
突然、マヌケな声を上げたかと思うと、毛利小五郎は眠ったように座り込んでしまった。
なんだコイツ。
あれ?でもこの声と展開、何処かで見たような・・・
「と、冗談はこのくらいにしておきましょうか」
ん?
「夕闇島と日暮島、双子島にまつわる悲しい真実。そして、その双子島で起きた25年前の惨劇。その惨劇への復讐心が巻き起こした今回の一連の事件。あなたたちが企んだ計画のすべては、もう私にはわかっているんです!」
毛利小五郎は変貌したかと思うと、語り始めた。
僕達の復讐の全ての真実を。
25年前の金塊発見を発端に、仇の5人が起こした連続殺人事件と島民生き埋め事件。そして日暮島民がその悪行を見過ごしてきた罪。そしてその悲劇から生まれた僕らの復讐の真相の全てを、毛利小五郎は巧みな話術で暴き出した。
全てを解き明かされて、僕の心は妙な清々しさを覚えた。
はじめて理解してもらえた僕らの苦痛、そして憎い日暮島民たちにも知ってもらえたから。
さすが名探偵。
こっちの夕闇島には今日初めて来たはずなのに、ものの数時間の滞在で全ての真相を暴き出したというのか!?
最期にはコナンくんまで現れて、僕を追い詰めた。
「過去の呪縛から解放されたいのは、自分自身じゃないの?浅見さんは忘れたいだけなんだよ。この島にまつわる辛い思い出を!昔の面影が残るこの島を見ていると思い出しちゃうんでしょ?あの辛い思い出を。その辛い思い出から逃げるために、破壊しようとしているだけだよ。この島の全てを」
なんという冷静的確な判断力から導き出された図星なんだ!
でも教えてあげよう。オーバーキルしすぎると、犯人は逆切れして何をしてくるか分からないんだよ!
僕はタイムリミットを待つことを止め、島の全てを破壊する爆弾のスイッチを取り出した。
「浅見さん!これを見て!」
コナンくんはそう叫ぶと、形見の天使のブローチと、昔の僕とお母さんが写る写真を僕に見せた。
「聞こえるでしょ?お母さんの声が」
そう、僕には確かに聞こえてきた。次元の壁を超えるわけではない、でも絶対に出会うことのない、監督とか媒体とか無粋なことを言わず、僕が本当に会いたいと思っているお母さんの声が!
「いけっ!」
その時、コナンくんの方からキュインキュインと音が聞こえてくると、何処から取り出したのか分からないサッカーボールを射出するように作り出して、僕の手ごと爆弾のスイッチを破壊した。
犯人が戦意喪失した所に暴力。これがお前のやり方か!
「確かに、この島には辛い思い出ばっかりかもしれないけどさ。でもさ、この島には楽しい思い出もいっぱい詰まってるんじゃないの?この島がなくなっちゃったら、お母さんの思い出も全部消えちゃうんだよ?本当にそれでよかったの?そんなことをしてお母さんが喜ぶとでも思ったの?」
追撃の説得。むしろ憧れるよコナンくん。
25年前の僕にも、コナンくんと同じくらいの力があれば、あんな惨劇くらい、止められたのに・・・
その後、時限爆弾が作動し、炭鉱が崩れ始めた。
まぁ走って逃げれば間に合うから、コナンくんたちは助かるだろう。
僕はこのまま炭鉱に埋まって死ぬことにするよ。25年前に本当はそうなるはずだったんだ・・・・
「そうは、させねーぞ」
そう呟くと、コナンくんは僕に手を差し出した。どういうつもりだ?
「バーロ。どういうつもりもあるかよ。あんたも一緒に逃げるんだよ。あんたには、ちゃんと罪を償ってもらわなきゃならないんだからな」
歳不相応な言い方で僕を説得するコナンくん。お前、本当に何者なんだよ?
「オレは江戸川コナン、探偵さ」
こうして、謎は全て解かれた。
僕は最初から負けていたんだ。
2人の名探偵を相手にしていたんだから。
その後、日暮島の島民たちは罪を償うために夕闇島の復興を約束し、僕は大人しく逮捕されることにした。
じゃあ元気でね、小さい名探偵さん。