劇場版名探偵コナンの犯人たちの事件簿   作:三柱 努

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100年前に仕掛けられたメモリーズエッグの謎
前世紀最大の謎を解くのは誰だ?


世紀末の魔術師 【前編】

私の名前は浦思青蘭。

みんなからスコーピオンって呼ばれてるわ。

ちなみに名前は日本語読みだと『ほし せいらん』、中国語読みだと『プース・チンラン』。入れ替えると『ラス・プーチン』。

そう、自他ともに認める熱狂的なラス・プーチン様ファンよ。

(えっ?ンが一個余るって?…………えっ?)

 

そんなラス様ファンの私、表向きにはロマノフ王朝研究家の中国人で通しているけど、実は裏の顔があるの。

それはICPOから指名手配を受ける怪盗『スコーピオン』。ロマノフ王朝の財宝専門の、邪魔者は右目を撃ち抜いて殺すがモットーの連続強盗殺人犯よ。

 

 

ある日、たまたまニュースを見ていた私は目が飛び出すほど驚いたわ。

日本の鈴木財閥の蔵から、ロマノフ王朝の秘宝「インペリアル・イースター・エッグ」が発見されたっていう大ニュース。

通算51個目のエッグ「メモリーズ・エッグ」なんだって。すぐに思ったわ。欲しい!

で、早速盗みに行くことにしたの。

日本の大阪。エキゾチックジャパン!天ぷら!寿司!刺身~♪

テンションアゲアゲね。

 

 

 

そんな矢先の…コレよ。

 

『黄昏の獅子から暁の乙女へ

秒針の無い時計が12番目の文字を刻む時

光る天の楼閣から

メモリーズエッグを頂きに参上する

 

世紀末の魔術師

怪盗キッド』

 

 

何コレ?

 

これはエッグ発見と同時期に送られてきた怪盗キッドの予告状らしいんだけど。

もう一度言うわ。

何コレ?

これのせいでアンタ。予告状なんて出てるせいで、美術館の警備がエゲつないことになってるんですけど!蟻の入るスキもない感じ。

そりゃ「行くよ」って言えば「来るんだ」ってなるでしょ。

噂では日本の警察には脈々と流れるポンコツの血というものがあるらしいけど…。

言っても質より量!

いつもみたいにチャッと潜入して、チャッと殺して、チャッと盗んで、チャッと帰るが出来ないじゃない!

迷惑この上ないったらありゃしない。

 

腹立つことは他にもあるわ。

この意味ありげな謎解き予告状よ。予告状出す神経もだけど、内容も内容。

言っていい?

普通お手紙でアポイントメントを取るなら、最低でも4Wを書くでしょ?when・where・who・what(いつ・どこで・だれが・何をする)よ。

あとの2つしか書いてない。

これじゃ、何でも「おい」で済ませようとするオッサンじゃない。

 

おまけに聞いた話、怪盗キッドは宝石専門の泥棒らしいわ。

何でエッグを?

何でラス様グッズを?

“にわか”じゃない!

困るのよね。にわかファンが出しゃばるせいで、グッズの競争率が上がっちゃって、私みたいな昔からのファンが困るって現象。

 

まぁ、愚痴をこぼしていても仕方がない。

今私がするべきことはただ1つ。いざエッグの仮住まい、鈴木近代美術館へ!

 

 

って、来てみれば。いるわいるわ、エッグにたかるハエどもが。

ロシア大使館の一等書記官のセルゲイ・オフチンニコフ。エッグをロシアに寄贈してほしいんですって。

何言っちゃってんの?それ私のだから。

 

ハエ2号は美術商の乾将一って怪しいじいさん。

ロシアにもロマノフ王朝にもラス様にも縁が無い…って、にわかじゃない!

8億円で商談に来たって…投資額で我が物顔する最悪の部類のにわかファン。

あのね、真のファンってものはお布施の額じゃないの。愛なのよ!

 

あとは、フリーの映像作家の寒川竜。

こいつも嫌だわ。日本の撮りオタって、モラル無いらしいじゃない。

実際、セルゲイと乾の喧嘩中に「アンタだって喉から手が出るほどエッグが欲しいんじゃないか?」って私を煽ってくるし。

最低な人間どもの集い。

 

でも、エッグの“今の”持ち主の鈴木会長は、人の良さそうなお父さんね。

話し方にも嫌味がないし、今回の怪盗キッドの予告状のことも分かりやすく説明してくれるし、ちょっと癒された。

で、キッドの予告状は全然癒されない!

 

ちなみに予告状について、現時点で日本警察が解読した内容によると…

『黄昏の獅子から暁の乙女へ』

というのは、獅子座の最後の日(8月22日)の夕方から乙女座から翌日の夜明けまでの犯行予定日を意味しているらしい。

分かりにくい。

星座占いとかで自分の生まれた日付と星座なんて気にするの、日本人くらいじゃないの?ロシア人や中国人はそんなこと気にしないわ……

えっ?“日本人だけが気にする”のって『血液型占い』のこと?

むしろ星座占いは西洋的?

……悪かったわね。どうせ私は占いをキャッキャッしあう友達なんていないわよ。

 

気を取り直して。

『秒針の無い時計が12番目の文字を刻む時』

は、犯行予定時刻を表しているようだけど、まだ分かっていないらしいわ。

 

最後の

『光る天の楼閣』

というのは天守閣という、大阪城にある場所で、キッドが現われる場所を意味しているらしいわ。

 

何よ、半分以上解かれてるじゃない。

さすが日本警察。舐めてごめんね。

それとザマァ、キッド。

 

……って、警備が固いことに変わりがないじゃないの!

このままじゃハエ2匹にエッグを買われちゃって、ピロシキとか寿司を食べた手でエッグをベタベタと触られちゃう。

でも8億なんて大金、私にはとても。

はぁ、どうしよう。

 

と、私が悩みながら商談の席に座っていると、鈴木会長の次のお客さんが部屋に入ってきた。ヒゲオヤジと子供が5人だ。

1人の女子高生は会長の娘で、あとはその友達とお父さん。

お父さんは毛利小五郎という日本の有名な探偵で、友達の1人は服部平次という西の高校生探偵だそうだ。

へぇ。どうでもいい。

それより、次の客が来たのなら、私たちはお帰りの時間ということね。一先ず退散。

 

美術館を出た私は決心した。

こうなったら、キッドがエッグを盗む方に賭けるしかない。

そして『盗んだところを私が横取りする』。これで行こう。

幸い、キッドが来るのは今日の夕方から明日の明け方までってことは分かっている。

なら待つわ。

徹夜の可能性もあるわね。

はぁ…ため息しか出ないわ。ラス様グッズならまだしも、キッド待ちとか。

 

【こうして、美術館周辺でキッドを待つことにしたスコーピオン。日も暮れ、7時20分となった頃、突如大阪城から花火が打ちあがった】

『何?素敵なサプライズ。夏の風物詩ね』

と、私がうっとりしていると…バチン!と今度は突然、町中が停電してしまった。

何!?何コレ!日本でも発展途上国みたいな電力不足の停電って起こるの?

『いや、違う。これは間違いなく、キッドの仕業!』

停電の混乱に乗じて盗みに来るに違いない。ならここで迎え撃つ!

 

と…思っていたけど。

ちょうど今、美術館前で高校生と何か言い争いをしていた子供が、スケボー(加速度とか初速度とか、全て異常な)で走り出した。

それからすぐに高校生もバイクで走り去っていった。

子供にも高校生にも見覚えがある。今日美術館に来ていた会長の子供の友達、高校生探偵だ。

『あの子達を追わなきゃ』

私の女の勘が囁いた。本当にただの勘だけど、この勘で今までも上手く行ったこともある。

「よし、追うわ!」

 

2人を追った私。やっぱり正解だった。

「ハングライダー!?」

大阪の街、ビルの間すり抜ける白い影。

これが怪盗キッドじゃなかったら、白い翼のガッチャマンしか考えられない。

 

ただ1つ気になったのが、キッドは美術館とは違う方向に向かって飛んでいるということ。

考えられる可能性は2つ。

1つは“もう盗み終わって帰るところ”。警察何やってんのよ。

だけど都合がいいわ。それならこのままヤツのアジトまで追って、一息ついてから殺してエッグを奪えばいい。

もう1つは“今から盗みに行くところ”。つまりエッグは最初から美術館じゃないところに移されているってことね。

そりゃそうよね。予告されておいて馬鹿正直に同じ場所にお宝を置いておくなんてしないもの。それにこっちの可能性でも、結局はこのまま追えばいいだけ。簡単な話じゃない。

 

簡単な話じゃなかった。

何故なら町中停電で信号機も全滅、あっという間に大渋滞。どこもかしこも罵声と怒号が飛び交っている。

『えっ?日本人のマナーって良いんじゃないの?あれって嘘?』

ショッキングな光景を横目にしながら颯爽とキッドを追う私。

なんてことはできないわ。どこもかしこも車車で、全然前に進めないの。

おかげでキッドを見失ったわ。

『まさか…ここまで計算のうち?追っ手を撒くための停電交通渋滞?だとしたら迷惑すぎるでしょ!経済損失半端ないわよ!』

私はギリリと歯を噛み締め、キッドのいない真っ暗な空を見上げながら呆然としたわ。

 

「終わった…さようならエッグ…ラス様…」

見知らぬ街の中、ラス様ロスの傷心に人の喧騒は辛すぎる。

私は人混みと渋滞を避け、町の外れで一人袖を涙で濡らすことにした。

『帰ったらお酒でも飲もう。そう、月明りで一杯…』

見晴らしのいい橋の上で、私はブロウクンハートで空を見上げた。

すると、なんということでしょう!

「お前は……ガッチャマン…じゃない、キッド!?」

それは、空の暗闇の中、私の方に向かってくる怪盗キッドであった。

きっとエッグを盗み終えて、今から帰るところなんだろう。

 

この期を逃してなるもんか!

私は急いで愛銃のワルサーPPK/Sを取り出した。

レーザーポインターで狙うは怪盗キッドの右目。

「散々面倒をかけてくれたわね。これはそのお礼よ。喰らいなさい!」

私は拳銃をぶっ放した。

射撃の腕はご心配なく。確実にキッドの右目に当たったわ。

 

銃撃を受けたキッドはハングライダーと一緒に海に向かって落ちていく。

「勝ったわ。キッドは死んだ、ラス様の名に賭けてもいいわ。見ていてくれましたかラス様。ラス様のエッグを盗んだコソ泥は、今こうして海へ…と……」

ってああああああああああああああああああああああああああ!!!

血の気が引く音が私の悲鳴に掻き消された。

手で必死に空気を仰いだ。

でも、そんな願いも虚しく。

 

私が撃ち落としたキッドは…

 

海へと落下していった…

 

 

 

エッグとともに…

 


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