劇場版名探偵コナンの犯人たちの事件簿   作:三柱 努

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地上300mの超高層ビルを舞台に、出口の見えない殺人ゲームが今始まる。
脱出不可能、シリーズ史上最も危険な事件が待ち受ける!


天国へのカウントダウン

ワシの名前は如月峰水。富士山を描かせたら日本一の、御年60の大ベテランじゃ。

かれこれ30年、富士山の日本画を世に送り出しておる。常盤財閥の令嬢もワシの弟子の1人じゃ。

お気にの写生スポットは西多摩市の小高い丘。ここから見える富士は世界一、何十年も通い詰めておる。

とはいえ体力ゼロで登りきれるものではない。

「ならいっそ、ここに住んでしまえばいいじゃないか」

と、3年前に買っちまった。丘と家。もう生涯ここで富士山描いて過ごせれば、いつ死んでもいいと思える最高最善のハウスを手に入れたワシ・・・じゃったが・・・

 

弟子の常盤美緒が、家から見える富士のど真ん中にビルを建ておった。

はぁ!?

お主、ワシの何を見てきたんじゃ?節穴アイにも程があるぞ!

それに待て待て。市の条例で建てれんビルじゃないのか?市議会議員が黙っておらんぞ!

 

怒れるワシが耳にしたもの。

それは馬鹿弟子から賄賂を受け取った市議会議員の大木岩松が圧力をかけ条例を不正に改正したという衝撃的事実じゃった。

再三の抗議も虚しく曲解され、『馬鹿弟子がワシの絵を買い占めて高く売ったことで険悪になった』と話が広まっておった。

 

このことについては2つ言いたいことがある。

『そんな事しとったのか?』と『そんな事気にしておらん』じゃ。

転売の件は初耳じゃったし。そもそもワシは富士山を描く行為が快感であって、その後のことは正直どうでもいいんじゃ。(『ヤッて満足したら後はポイ』は最低じゃと?何を言っとるんじゃ?)

 

無論、ワシも指をくわえて黙って見ておったわけではない。

建築家に「透明なビルを作れ!」と注文しておいたわ。

じゃが、聞く耳をもってくれんかった。(そのくらいできるじゃろ?今の技術なら)

 

 

終わる・・・

ワシの富士山ライフが・・・

ありがとう・・・ワシの富士山ライフ

今まで楽しかった

ちょっぴり嫌な事もあったが・・・

こうして、幸せな富士山ライフじゃった

でも終わり

ワシの富士山は終わるんじゃ・・・

ツインタワービルとともに・・・

終わりに

する

わけには

いかない!

 

命を殺せ!

 

 

ワシは決意した。

ラスオタ・常盤美緒と酒の愚弄者・大木岩松の2人を殺すと。

2人を殺してワシも死ぬ!

富士山の名に賭けて!

 

 

こうして、富士山の仇を討つべくワシの殺人計画は始動した。

じゃがここで1つ注意することがある。

それは「2人を殺してワシも死ぬ」モードの時には、無関係の人を巻き込まんようにすることじゃ。

でなければ必ず後悔する結果が待っておると、ソムリエの人が言っておったからのぉ。

 

殺人の舞台は無論、ツインタワービルに決定じゃ。

タワー完成のオープンパーティーの場で、馬鹿弟子を殺す。決定事項じゃ。

ワシの怒りを表現する富士の絵をバックにその中央を裂くように馬鹿弟子の首つり死体を掲げてやるわい。

そのために、まずワシがやるべきことは、富士の絵を描く事じゃった。

これが地獄の始まりとも知らず。

 

『苦痛!』

なんせ自分で台無しにする予定の絵を描くわけじゃ。

これは苦痛以外の何者でもない。

じゃが、「祝いの席にこの絵をくれてやる」とでも言わん限り、ワシの望む“シュチュエーション”で富士の絵が登場してくれんじゃろう。

手を抜くことができんのじゃ。

 

そして完成した新作『春節の富士』

我ながら見事じゃ。

値をつければ5000万はくだらんじゃろう。

 

あと用意するのは真珠のネックレス。を2本。

これは後で紹介するんじゃが、トリックに使うんじゃ。ちなみに50万かかった。

 

そんな準備の最中、ワシにオープニングパーティーの打ち合わせの連絡があった。

犯行の下見をしてくれと言ってるようなもんじゃ。

 

向かったツインタワービル最上階のパーティー会場。

本番で舞台の立ち位置を確認し、同時に絵の位置やポジションを見ていく。

(終わり頃に馬鹿弟子の知り合いの探偵やら子供たちやらが来ておったが、まぁここは関係ないじゃろう)

そんな最中、ワシの耳にとてもキャッチーな会話が入ってきた。

酒愚者が隣のホテルのスイートルームに泊まるというのじゃ。

 

これはチャンス!

と、ワシは「帰らせてもらう!」と一方的に通告して急いでホテルを出た。

ワシがいきなり怒ってもそんなに驚かん連中じゃ、「見送りも結構」と断るのも容易い。

 

その足でワシは家に帰って掛け軸をチョイス。

一番安い100万程度のモノを持ってホテルへリターン。

掛け軸をエサに酒愚者の部屋に入り、

そして刃物でサクッとキル!老人にも真似できる楽な殺し方じゃな。

オープン前のホテルだから、防犯カメラの心配も無し。

最後にワシの身を裂くような怒りを表現するために、ビルに割られた富士山に見立てた割ったお猪口を残して。

これにて第1の殺人ミッションコンプリートじゃ。

 

ここで1つ感想をば。

『トリックは金がかかる!』

絵とネックレスの他にも色々と用意したが、とにかく出費が激しいのぉ。ワシ、今まで殺人なんてしたことないから知らんかった。

世の殺人鬼たちも、大変じゃなぁ。

 

その後、酒愚者殺人事件について警察からの取り調べを受けたが、ワシへの疑いは弱いようじゃ。

さてあとはパーティーの日を待つだけじゃ。

 

と、その前のある日、富士山を描いているワシの所に訪問者があった。珍しい。

それはパーティー打ち合わせの日に来ておった4人の子供たちじゃった。

少年探偵団とか名乗っておったが、「子供が警察の真似事をするでない!」と叱ったら恐縮してしまった。ちと厳しすぎたかのぉ。

その詫びにワシは4人の似顔絵を描いてやった。

売るところに売れば1枚10万の価値があるじゃろう。喜んでもらえたはずじゃ。

 

その夜、ワシはTOKIWAのプログラマーの原さんの家に向かった。

何故ワシが原さんの家に、とな?

新しいゲームの意見を聞かせてほしいというのじゃ。

ではどんなゲームか?というと・・・ちょっと待て、PVがある。

 

 

 

≪ブラブラ❤ダイシューゴウ≫

お酒を美少女化した恋愛シミュレーション。

新任教師『レンヤ』を操作し、個性豊かなヒロインに囲まれ学校生活をエンジョイする愉快痛快アルコールストーリー。

 

~登場キャラクター紹介~

・ポルシェ356Aを乗り回すサラサラロングヘアー暴力系ヒロイン『ジン』

「黒と黒が混ざっても、黒にしかならないんだゾ」

 

・どこでも爆発。関西弁ナチュラルボーン・ボンバーガール『テキーラ』

「アカン、ウチまた爆発してもうた」

 

・物語の根幹に関わるお薬レディ『シェリー』

「あなたは死なないわ。私が守るもの」

 

・レンヤとは長年の付き合い。カメラ嫌いのお転婆少女『ピスコ』

「ピスコはいつだって先生の味方なのよさ」

 

・テクマクマヤコンして娘に成りすまして入学したママ『ベルモット』

「秘密が無くっちゃ、女の子は女の子のままなんだよ」

 

・物語のカギを握るかもしれない隠しキャラ『ラム』

「ダーリンはウチが守るっちゃ」

 

(ゲーム中会話イベントから一部抜粋)

 

 

 

 

というものじゃ。

これを最初見せられた時に、ワシはこう思った。

 

『わかっとるじゃないか。なんてドストライクなゲームなんじゃ』

 

 

ワシは迷わずテストプレイヤーを快諾し、その感想を今夜聞いてもらうために原さんの所に来たというわけじゃ。

じゃが・・・原さんの家には鍵がかかっておらず・・・リビングの床には何者かによって銃殺された原さんの遺体が転がっておった。

 

なんということじゃ!一体誰が。

この素晴らしい『ブラダイ』を作った原さんを殺すとは。

原さんも、一体“誰に何を恨まれて”殺されなければならなかったんじゃ?

しかし、死んでしまっては仕方がない。きっと仇はゲームの世界から飛び出したジンちゃんがとってくれるじゃろう。(ジンちゃんはワシの嫁)

 

じゃがそれはそれ。

どうやら死亡推定時刻は、ワシが少年探偵団の似顔絵を描いている頃じゃということが分かった。

何故、死亡推定時刻が分かるか、とな?

何故ならワシは“死亡推定時刻が分かる系のジジイ”だからじゃ。

 

そしてこれは好都合。

何かあったときの為にいつも持ち歩いておるお猪口を現場に残して、これにて第2の殺人も同一犯による連続殺人となるようにリードして、完了。

これで死亡推定時刻にアリバイのあるワシは自動的に容疑者から外れることになる。

えっ?原さんの死は悲しくないのかって?

それはそれ。ワシが好きなのはゲームだけじゃからな。

 

 

そして土曜日。ついに訪れたオープニングパーティーの日。

(普通、関係者が2人も死んでおるのに、パーティーを予定通りに開催するとか。流石は馬鹿弟子。安定のクズっぷりじゃ)

ここで馬鹿弟子を殺して、頃合いを見てワシも死ぬ。

最後に夕日に照らされた富士山を女子高生2人と並んで眺めるのが、ワシの最後の光景かと思うと、ちょっと寂しい。

 

パーティーは特に何事も無く進んでいった。

ワシに必要のない車の当たる『30秒当てゲーム』

ワシに必要の無くなる時計に宝石プレゼントと。

ことごとくワシの神経を逆なでするイベントが続いたのは癪に障るが。

それもどれも、この後で馬鹿弟子を殺せると思えば苦ではなかった。

 

そして遂にその時が来た。

壇上にてワシと馬鹿弟子、建築士が並んで挨拶する時がな。

真っ暗な舞台の上で、足元のライトの位置に立つワシら3人。

 

ここからがトリックじゃ。

馬鹿弟子が着けておるのは、あらかじめ外れやすいように細工をしておいた真珠のネックレスじゃ。ワシがプレゼントしたのぉ。

そのネックレスと同じネックレスを、これまたリハーサルの時に仕掛けておいたピアノ線に結びつける。

あとは細工ネックレスを外し、馬鹿弟子が焦っておる所に「ワシが着けてやろう」と言ってピアノ線ネックレスを着けてやる。

証拠となる細工ネックレスは杖の中に収納して、最後にお猪口を置けば完成。

あとは富士山の絵が降りるのと同時に、ピアノ線に引っ張られたネックレスが馬鹿弟子を吊り上げ、富士山の絵を割る首吊り死体の構図のできあがりじゃ。

 

なんじゃが、さすがに首吊りだけでは即死とはいかん。

苦しむ声を聞きつけた誰かが助けてしまうかもしれん。

そこでこのトリックに不安のある人は、一工夫をしておくとよいぞ。

ワシの場合は杖に毒針を仕込んで、ネックレスをかけた後に一突きで即死させておいた。

こうすることで、首吊りが見つかってからすぐに誰かが助けに来ても、馬鹿弟子はもう死んでいることになるんじゃ。

 

こうしてトリックは無事に成功したんじゃ!

えっ?トリックじゃない?

何を言う。トリックではないか。

 

その後、会場に来ていた探偵が事件を推理。

馬鹿弟子の秘書の沢口ちなみが犯人だという結論に至った。

『何故?』

探偵曰く、このビルの建設には酒愚者に対して馬鹿弟子と原さんが賄賂を贈った経緯があったそうじゃ。

まさか。原さんはワシにチョコレートをくれるイイ人じゃぞ?

それに一介のプログラマーが、このビルじゃなきゃ仕事が出来ない!なんていって市議に賄賂を贈ったというのか?

 

そして、探偵はお猪口のメッセージについて、猪年生まれの彼女が自分の苗字の『沢口』の口をかけたメッセージだと言ったんじゃ。

そんなの、ただのトンチの効いたこじつけじゃないか。

じゃが、警察がそれを鵜呑みにして、彼女を重要参考人にしてしまった。

まさか・・・すまん、沢口さん。

 

こうして、ワシの殺人は無事に完了した。

あとは頃合いを見て自殺するだけ。

最後はワシの描いた富士山を見ながら、死ぬとしようか・・・

 

と、その時!床の下から強い衝撃が。

地震か?と思ったが、そうではなかった。

 

なんと、ビルの電気室とコンピューター室が爆発したというんじゃ。

『まさか・・・テキーラちゃんか?あの娘がここに!?』

ワシの予感が的中したのかは知らんが、ビルは大規模停電。

火災も迫っており、ワシらは脱出を余儀なくされた。

 

だがそれも好都合。

このままビルと一緒に心中というのも一興。

エレベーターや階段から脱出する客たちを見届けてから、ワシは一人ここに残って自殺することに決めた。

 

途中、警部さんがワシにもエレベーターで降りろと命じてきたが、ワシが「年寄り扱いするな!」と一喝したらすごすごと引き下がった。

えっ?ここで引き下がる?

普通に考えて、階段で逃げるってことは、今からビルを15階分降りるということじゃぞ?

さすがに杖ついた年寄りにそれは危険で無謀じゃろ。

じゃが、警部さんはそれでGOを出した。

まぁ、どのみち逃げるつもりがないからいいんじゃけど・・・

 

そして男が全員脱出する中、ワシは密かに抜け出して会場に残った。

 

これで一人、ひっそりと死ねる。

 

殺人事件の犯人として逮捕されることもなく。

 

毒を飲むのはさすがに怖いが、シェリーちゃんがくれた薬だと思って飲めば怖くもない。

 

「誰かいるわ」

その時、シェリーちゃんの声が聞こえた気がした。

振り返るとそこには、探偵団のメガネ坊主と小さな女の子がおった。

「江戸川コナン、探偵さ」

 

探偵を名乗るメガネ坊主じゃったが、その口ぶりはまさに探偵じゃった。

咲き誇る推理の数々は、ワシのトリックだけではなくお猪口の謎、原さんの殺害別犯人説、証拠の所在、そしてワシの犯行動機を見事に的中させていった。

怖っ。老人の心臓には悪すぎるぞ。

だが、ワシの気持ちを理解してくれたことには感謝したい。

 

ワシは感謝と怒りを胸に、持ってきておいた巨大ブラシに墨汁を垂らした。

そして、ワシの怒りを表現するため、春節の富士に墨の一閃をぶつけた。

『重っ!墨汁つきのブラシ、思ってたのよりも重い!』

もちろん怒りもあるが、体力を想像以上にもっていかれたワシは、息も絶え絶えに最後のメッセージを残した。

 

謎は全て解かれた。

 

「もはや、言い逃れはできんな」

これでもう、思い残すことも無い。

坊主と少女の目の前ではあるが、ワシは毒薬を飲んで死ぬことにした。

ところで、チクッと何かに刺され、ワシは眠たくなった。

 

 

その後、目を覚ますと、ワシは隣のビルのプールにいた。

ワシが真犯人ということは、おそらく坊主が警察に証言したのじゃろう。

ワシは手錠をかけられ、連行されていった。

 

 

こうして事件の幕は閉じた。

 




パトカーに乗り、ビルを見上げると、ビルは盛大にぶっ壊れていた。

ここでワシは思った。
会長である馬鹿弟子はワシが殺した。
コンピューター室は何故か爆発で破壊されていた。(おそらく爆発魔の森谷帝二の弟子である建築家の風間英彦の仕業じゃろう)
ホテルも殺人事件があったこともあり、もう営業はできないだろう。

ということは、このビルはもう潰れることが決定ということ。
ワシの仕業じゃないコンピューター室の爆発だけでも、きっと廃業確定だったじゃろう。

ってことはワシが2人を殺さなくても、富士山ライフが復活してたんじゃね?
家で大人しく『ブラダイ』やってれば、万事解決していたってことじゃないか!?

『風間ァ、爆破が遅いんだよ!』

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