「じゃあ、はい」
ずっと地面と仲良しだった彼女がベンチへ向かってきたかと思えば、随分と勢いづいて手を差し出してきた。そこには、やけに精巧なシロツメクサの冠。少しくすんだ白色は、目を霞ませる夕焼けのせいか、それともシロツメクサそのものの色か。くすんでいるのにはっきりしているのも、どこか可笑しく感じる。
無言。目は口ほどに物を言うらしいが、視線から汲み取れるものは期待だけ。どれに対してだ。取捨選択、ひとつを声に出してみた。
「……つけろ、と?」
「そこまでは言わないけど、受け取ってよ」
「貰うだけ貰う。いらないし、妹にでもあげようかね」
「あ、ひどい。心を込めたプレゼントなのになぁ」
「二十歳を前にシロツメクサを貰ってもなぁ」
プレゼント、とな。忽然へ今更戸惑いもない、彼女はそういう奴だ。理解などとは程遠い、呆れのような、受容のような感情。矛盾と突かれればそれまでだ。背理法でなら、どちらなのか暴けるだろうか。
溜息を飲み込みつつ、半ば無理やり押し付けられた冠を眺めてみる。よくできている。少なくとも人並み以上にはコレを見てきたであろう身だが、過去一ではないだろうか。しかし、それだけ。所詮はありきたりな雑草だ。中学生の妹に押し付けたところで、間違いなく不機嫌を誘う代物だ。もう一歩幼さが残っていれば、喜ばれたかもしれない。正直、一歩では足りない気もしている。
「昔は喜んでくれたじゃーん」
「いつの話だ、遠すぎる」
そんなこともあった。お互いにコレを作り、完成品を相手の頭に被せる謎の遊び。あんなことで毎度のごとくキャッキャッと親に見せ散らかしていたものだから、今日になっても間々掘り返されては逐一上書きされるのだ。
「覚えてるでしょ?」
「まあ、薄らと」
「覚えてないーって嘘つけないのかわいいなぁ」
「……そうですか」
異性の友人曰く、「『かっこいい』は幻滅するから諸刃の剣だけど、『かわいい』はなんでもそう見えるから最強」──らしい。なぜその持論を俺に向けたのか、察せないほど愚かではない。……嗤える。恋慕を遊ばせる
ぬるま湯のような暖かさに、氷水を刺された。実際は、何も変わらないのに。
「ねぇ、私にも作って」
「えぇ?なんで」
「私を『クローバーのお姫様』にしてくれたら教えましょう」
「……」
ベンチを立ち上がる姿は、さぞ気怠く見えたことだろう。実際、面倒だ。しかし反面、仰せのままに身体は動くのが、なんと憎いか。
西の赤が濃くなれば、有象無象の白は染まる。今日も白は、黄昏に溶けて──