ーー八幡の奇妙な体験ーー   作:龍@

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女性誌『今日のあなたの運勢は大吉!恋愛成就にはサッカーです!』

結衣「恋愛成就……サッカーかぁ」



戸部「サッカー部今日は休みかぁ。ねぇ葉山くん!サッカーしようぜ!」

葉山「え?ああ、まあいいか。いいね、やろうか」



結衣「いいな〜、私もやりたい」

三浦「何言ってんだし、女なんだから男の動きについていけるわけないっしょ。それよりカラオケ行きたいし」

海老名「男の動き!?男の……男の……葉山くんと戸部くんの……動き……ブハッ!」

三浦「はいはい、想像力が逞しいし」

結衣「む〜、でも確かに男の子について行けそうもないし……胸も邪魔だし……」


***


雪ノ下「ピクッ」

八幡「どうした?」

雪ノ下「いえなんでも、それより由比ヶ浜さん遅いわね」

八幡「なんでも三浦達と話してから来るんだとよ」

雪ノ下「そう、なら後で由比ヶ浜さんが来たら伝えて欲しいのだけれど…………」


***


結衣「うう〜ん、あ!そうだ!ゆきのんならなんとかしてくれるかも!」

三浦「は?雪ノ下さんがどうかした?」

結衣「優美子!あたし部活に行ってくるから!またね!」

三浦「え、ああ、うん」



八幡の奇妙な体験

放課後、俺こと比企谷八幡がいつものように奉仕部で本を読んでいると、ガラガラと部屋の扉が開けられ、奉仕部部員の由比ヶ浜結衣が入ってきた。

 

 

結衣「やっはろー!ってアレ?ゆきのんは?」

 

八幡「帰った、なんでも用事があるんだと」

 

結衣「ええー、相談があったのにー」

 

 

由比ヶ浜はピンク色の髪をお団子に結んだ頭をがっくしと下げ、うなだれる。

 

 

結衣「どうしよぉ」

 

八幡「…………なんの相談なんだ?」

 

結衣「え!?もしかしてヒッキーが相談にのってくれるの!?」

 

八幡「いや、まあ、本もある程度読み終えて暇だしな」

 

結衣「暇つぶしなの!?え、じゃあ聞いて欲しいけど、ヒッキーじゃ力不足の気もする」

 

八幡「じゃいいわ、聞かなくて」

 

結衣「あ、いや待って待って!やっぱり聞いて欲しい!」

 

 

由比ヶ浜ブンブンと手を振って俺に相談を求めてきた。ズイッと詰め寄ってくる。

って、近い近い!いい匂いがするし大きな胸が視界一杯に広がってって、違う!くそ!なんでこいつは距離感がムダに近いんだ!

 

とりあえず由比ヶ浜を椅子に座らせ、いつもの依頼者がきた時のように由比ヶ浜の話を聞く。

 

 

八幡「で?」

 

結衣「あ、うん!あたしね、サッカーがしたいの!」

 

 

俺は持っていた文庫本を開いて読書を再開する。聞いて損した。

 

 

結衣「わー!待って待って!待ってってば!葉山くん達がサッカーやるって聞いてね、本当にサッカーがしたいんだってば!」

 

八幡「知らね、勝手にやってろ」

 

結衣「えー!でもあたし女の子だから男の子について行けないし、胸も大きくて邪魔だし……」

 

 

由比ヶ浜はしょぼんと顔を伏せて、胸に手を当てる。ふよんと由比ヶ浜の細い指でふくよかな胸が柔らかく形を変える。

眼福だけども目のやり場に困る。

 

 

八幡「だからってどうしようもないだろ?お前は女なんだから」

 

結衣「むうぅそんなぁ、あたしもサッカーしたいよぉ。あーあ、私もヒッキーみたいな男の子だったらなぁ」

 

 

なんじゃそりゃ、と由比ヶ浜の妄言を軽く聞き流す。

すると突然、なんの前触れもなく俺と由比ヶ浜の体が光に包まれた。

 

 

結衣「きゃっ!?」

 

八幡「な、なんだこれ!?」

 

 

一瞬の暗転の後、目を開けると目の前には椅子に座る自分の姿があった。

目の前にいる自分も、俺を見て驚いた顔をしている。

 

 

結衣「ええっ!?なんで俺がそこに……って、なんだこの声!?」

 

八幡「うええっ!?あたしがもう一人!?」

 

 

自分の発した高い声に戸惑う。

喉に手を当てるとスベスベとした肌の感触、さらには喉の方から細くしなやかな指に触れられた感覚を覚えた。

慌てて自分の手を見ると、文庫本を持った手は17年間付き合ってきた自分の指や手とは違う、綺麗で細い美しい手になっていた。手のひらも小さいし、腕も細い。

まるで女のような手だ。

 

文庫本を置いて立ち上がる。立ち上がると何も履いてないみたいに下半身が涼しい。

 

 

結衣「な、何が起こってんだ!?」

 

八幡「あー!あたしもしかしてヒッキーになってるのかも!」

 

結衣「はあっ!?ヒッキーって事はもしかしてお前は由比ヶ浜なのか?というか俺になってるってどういう事だよ」

 

八幡「だから!あたしがヒッキーになって、ヒッキーがあたしになってるんだよ!」

 

 

自分が女々しい動きで一生懸命説明しているのを虚しい気持ちで見ながら、俺は目の前の自分が言ったことを反芻する。

 

つまり俺は由比ヶ浜になってて、由比ヶ浜は俺になってるって事か?

 

 

結衣「そ、そんなこと有り得るわけないだろ!」

 

八幡「でも目の前には私がいるし、この体もヒッキーの体でしょ?」

 

 

目の前の由比ヶ浜らしき俺は、己の体を見て、そう俺に説明する。

待て待てそんな非現実的なこと信じられるか!

 

 

八幡「あ!きっとさっき私がヒッキーになりたいって言ったから入れ替わったのかも!」

 

結衣「た、確かに言ってたが……」

 

八幡「やったー!これで葉山くん達とサッカーができるよー!それじゃあ早速行ってくるー!恋愛成就っ!恋愛成就!」

 

結衣「え、ちょ待てバカ!」

 

 

俺が止める暇もなく、あっという間に俺の体をしている由比ヶ浜は部室から出て行ってしまった。女々しい走り方で。

 

あ、あんな俺の姿を学校の連中や、葉山とかに見られたら俺の学園生活が終わる……

おい、誰だ今お前の学園生活はボッチになった時点で終わってるだろ、とか行った奴は。

 

 

結衣「あのバカ……」

 

 

追いかけようとも思ったが、部室の外を見てももう居なくなっていた。

どうしよう、と頭を抱えると、その時頭を抱えるために腕を体の前に持ってきたことで、腕に柔らかい何かが当たった。

 

 

結衣「んっ」

 

 

不意に喉から得体の知れないものがせり上がり、声が上がる。

な、なんだ今の!?

 

俺が視線を下げると、そこには見たことのない光景が広がっていた。

足元が全く見えないほどの大きな山が、俺の視界に広がっていた。

要するに巨大なおっぱいだ。

 

 

結衣「こ、これが、由比ヶ浜から見た由比ヶ浜のおっぱい、なのか……」

 

 

俺しかいない部室に響くのは、由比ヶ浜の声。おっぱいなんて言葉を由比ヶ浜の口から聞けるとは思わなかった俺は、頭が干上がるくらいに熱くなってきた。顔が熱い。

 

 

結衣「これ……触っていいのか?いやさっき不覚とはいえ触ってしまったし」

 

 

さっきの腕で胸に触れてしまった時の感触を思い出す。

 

ポヨンと触れた腕を押し戻すような、弾力のある感触。

そして胸から伝わってきた、触れられたという感触と、体の奥からせり上がってきた“気持ちいい”という感覚。

 

 

結衣「う、思い出したらまた顔が熱く……」

 

 

どうしたもんかと、自分の胸を見下ろす。

大きいなぁと感慨に深っていると、視界に胸とは違うあるものが入ってきた。

あれは、カバン?

さっき由比ヶ浜が部室に来た時置いていった由比ヶ浜のカバンだ。走り去った時に持って行ってなかったのか。

 

そこで俺の中に好奇心が生まれた。

……ちょっとだけ、見るだけならいい、かな。

いいや別にいいだろ?それに今は俺が由比ヶ浜だ、自分のカバンを見て何が悪い。

俺は心の中で言い訳をしつつ、罪悪感を覚えながらも由比ヶ浜のカバンを開ける。中には色々小物が入っていたが、一番に気になったのは四角い物体だ。

取り出してみるとそれは鏡だった。

 

 

結衣「か、鏡……べ、別にいいよな!うん!」

 

 

俺は鏡を使うことにした。

念入りに俺は部室の扉を閉めて鍵をかけ、窓やカーテンを閉め切って外から部室の中が見えないようにした。

しかし考えれば誰に見られても、側から見ればただ由比ヶ浜が鏡を見ているだけなんだ。気にすることはないと思いつつも、俺はいけない事をしている気分になっていた。

そして鏡を部室の机の上に置いて今の自分の姿を写す。

 

 

結衣「あ……」

 

 

そこにはやはり比企谷八幡の顔ではなく、由比ヶ浜結衣の顔が写っていた。

 

ピンク色の髪にお団子に結んだ髪。

パッチリとした大きな目に、綺麗な形に揃えられた顔のパーツ。柔らかそうな薄いピンク色の唇は女の魅力を醸し出していた。

ぴと、と頰に手を当ててみると鏡の由比ヶ浜も頰に手を当てていた。

由比ヶ浜の頰は柔らかく、スベスベとした肌に思わずうっとりとする。

 

 

結衣「これが……俺……」

 

 

両手で頰を引っ張ってみたり、鼻をつまんでみたり、由比ヶ浜の顔で遊んでみる。唇に触れるとふにふにとした感触がした。

 

 

結衣「…………ごくっ、それじゃあ……」

 

 

由比ヶ浜の顔を鏡に映して一通り遊び終えると、次は本題の体の方に意識を向ける。

鏡から一歩、二歩離れると全身が映る、いつも部活の時に見てきた、総武高校の冬服を着る由比ヶ浜の全身。

 

結衣「由比ヶ浜……」

 

 

自分の精神が入っているとはいえ、由比ヶ浜結衣の体には変わりない。身近に感じる、その愛らしい見た目は俺の神経を刺激した。胸の鼓動がうるさい。

 

俺は鏡の前でいろんなポーズをとってみた。

可愛らしいポーズ、魅惑的なポーズ、ぶりっ子、アイドルっぽい仕草。

もし俺の元の体でしていたら間違いなく吐き気を催していた。しかし今は由比ヶ浜だから女の子らしいポーズも様になる。というか可愛すぎる……って、いかんいかん!

 

ブンブンと頭を振る。すると頭を振った事で俺の胸がプルンプルンと揺れる感覚がした。

胸が揺れて付け根のあたりが刺激される。俺に女の子の胸が付いている事を鮮明に教えてくる。

 

ハッ、と下を見てみると、相変わらず足元が見えない大きな胸が見える。よくみると首元から胸元までブラウスのボタンが開けられていて、鎖骨とか、その……む、胸の谷間が見えてしまっていた。

 

 

結衣「ごくり」

 

 

生唾を飲み、もう一度由比ヶ浜の姿をした自分を見る。

申し訳なさそうな顔をした鏡の中の由比ヶ浜はポツリと呟いた。

 

 

結衣「服、脱いでも、いいよな?」

 

 

上着をそろりそろりと脱いでいく。きぬ擦れの音がして、さらには腕や手が自分の柔らかな体に当たる。

その魅惑の感触に耐えながら上着を脱いで、俺がよく座っている椅子の背もたれににかける。

そして鏡の前に戻ってきてから、ブラウスのボタンに手をかけた。

 

 

結衣「ん……んん……」

 

 

ひとつひとつ外していくたびに胸の鼓動が激しくなる。スカートの中に入っていたブラウスの裾を引っ張りだして、一番下までボタンを外した。

ばさっ、とブラウスを脱ぎ捨てると、鏡の向こうにブラとスカートのみの格好となった由比ヶ浜のあられもない姿が……

 

 

結衣「ぶふぅ!!」

 

 

思わず鼻血を吹き出してしまった。

 

ブラは紫のシマシマ模様のあるもので、俺の大きな胸を包み込んでいる。谷間も胸元も丸見えだ。

肌も綺麗で、へそも小さく可愛らしい。そして何よりスタイルが本当に凄かった。

 

 

結衣「ぶ、ぶふっ、血が……鼻血が……」

 

 

あまりのエロさに鼻血が止まらなくなった。慌てて俺の(比企谷八幡のカバン)からポケットティッシュを取り出して、鼻に詰める。

 

 

結衣「うう、こ、これじゃあ由比ヶ浜の美貌が穢れてしまう……」

 

 

鏡を見れば鼻にティッシュを詰めた由比ヶ浜の顔があった。情け無いし、女の子らしくもない。

その顔を見ていると段々頭が冴えてきて、さっきまで自分が何をしていたのかを冷静に考えた。

 

 

結衣「……こんなところ、俺になった由比ヶ浜に見られたら殺される……」

 

 

慌てて床に落としたブラウスを拾い上げて着直す、椅子にかけていた上着も着る。

あ、あぶねー、俺ってば柄にもなくはしゃぎ過ぎたな。

けれどそれも仕方ないだろう、なにせ触れられる位置に可愛い女の子の体があるんだから。それもスタイル抜群で胸も大きな女の子の体が。

 

 

結衣「い、いかんいかん!それよりも思い出したが俺の体に入っている由比ヶ浜の方はどうなったんだ?」

 

 

確かサッカーをするとか言っていたから、グラウンドの方にいるだろう。というかアイツ俺の姿で葉山達とサッカーしてるのか?

……し、しばらく葉山達と顔を合わせられそうもないな。まあしかしそれも元に戻ってからの話だが。

 

 

結衣「ってそうだよ、元に戻るにはどうすりゃいいんだ?」

 

 

そもそも原因が分からない。

由比ヶ浜の言う事が正しいとすれば、『ヒッキーになりたい』と言ったのが引き金となった可能性がある。ならもう一度由比ヶ浜が同じ言葉を言えば戻るのか?

 

いや、この場合どうなんだ?由比ヶ浜は俺になりたいと言って俺になったんだ、だったら俺になった今俺になりたいとは思わないだろう。ややこしいが、俺になった状態から俺になりたいと言うのは違うような気がする。

 

なら由比ヶ浜に『自分の体に戻りたい』と言わせれば元に戻るのでは?

確証はないが、試してみる価値はあるな。

 

俺は鼻からティッシュを取ってゴミ箱に捨てると、行動を起こす。

スカートのヒラヒラ感に戸惑いつつ、自分のカバンと、鏡をしまった由比ヶ浜のカバンを担いで部室を出ようとする。アイツもカバンを忘れていったから大変だろうと言う俺のイケメンな配慮だ。

そしていざ部室の扉に手をかけた、その時。

 

コンコン、と部室の扉がノックされた。

扉の目の前にいた俺は驚いて、持っていたカバン2つを落としてしまった。

ガタッタンッ!と言う大きな音に、扉をノックしたやつは気づいた様子で扉の向こうから声をかけてきた。一体誰だ?もしかして由比ヶ浜か?と期待を込めて相手の声に耳をすませた。

 

 

いろは『せんぱーい!もしかしているんですかー?いたら返事して下さーい!』

 

結衣「お前かよ!」

 

 

期待外れにも程がある。扉の向こうにいるのは後輩の一色いろはだった。ちなみに生徒会長。

最近よく俺を頼ってくることが多くなってきていたが、なんともタイミングの悪い。

扉の向こうのいろはが俺の声に反応した。

 

 

いろは『あれー?結衣先輩ですかー?すみません、比企谷せんぱいいますかー?せんぱーい!』

 

 

しまった、今の俺は由比ヶ浜なのを忘れていた。どうしようか、いろはに相談して協力してもらうのもありだが、なんだがそれは気がすすまない。これ以上面倒事になるのは避けたい。

だったらとりあえず誤魔化そうか、と俺は由比ヶ浜の演技をすることにした。

 

 

結衣「こ、こほんっ!いっし……じゃなかった。い、い、いろはちゃん!ごめんね今手が離せなくてー!後でまた来てもらえるかな?」

 

いろは『すみませーん、急ぎせんぱいを使う……けふんけふん、せんぱいに手伝っていただきたい事がありまして』

 

 

今使うって言いかけたよな?というか誤魔化したけど思いっきり言ったよな?

まあそれはそれとして、俺の由比ヶ浜の演技上手くないか?

……い、いろはちゃんと呼ぶのは抵抗があるが仕方ない。

 

 

結衣「えっと、今俺……いや、ヒッキーはいないよー!」

 

いろは『え?そうなんですか?でもそれなら、なんで扉の鍵を閉めてるんですかー?部活動の一環じゃなけりゃ結衣先輩一人で何を……』

 

 

く、不味い、いらぬ誤解を生んでしまいそうな流れだ。

 

 

結衣「な、なんでもないよー?」

 

いろは『……怪しいですね?本当はせんぱいもそこにいるんじゃないですか?』

 

結衣「えっ!?」

 

いろは『なんでもないなら扉を開けて下さーい!開けて証拠を見せるのです!』

 

 

これ以上変な詮索をされると、これからの由比ヶ浜の学園生活に支障が出るかもしれない。

そんな懸念から、俺は扉の鍵を開けて素直に一色を部屋に入れた。

 

ガチャ

 

 

いろは「お邪魔しまーす。あれ、本当にせんぱいはいないんですね」

 

結衣「ほ、ほら、言った通りでしょ!」

 

いろは「むぅ〜、でもなんだか結衣先輩怪しいような……あれ、なんでそんなに服がぐちゃぐちゃなんですか?」

 

結衣「へ、へぇ?服?」

 

いろは「ほらこことか、こことかちゃんと着れてないですよ」

 

 

一色はホイホイと俺の着ている制服を着なおしてくれる。スカートに入れていなかったブラウスの裾とか、さっき脱いだ時にちゃんと着れていなかった上着の具合など。

あ、女子の制服は着慣れてなかったからちゃんと着れていなかったのか。

 

 

結衣「あ、ありがとう……いっ、ろはちゃん」

 

いろは「どうしたんですか?先ほどから不自然ですよ。着崩れるなんていつもならこんな事ないのに……あ、まさか」

 

 

思案顔で手を顎に当てた一色がグイグイと顔を近づけてくる。女同士とは言え由比ヶ浜の中身は俺だ。照れ臭くなって一色の顔から顔をそらす。

ってそれどころじゃない!も、もしかしてバレたか!?

俺は冷や汗を流す。

 

 

いろは「まさか……」

 

結衣「ま、まさか?」

 

いろは「まさか、その、《ピーー》してました?」

 

結衣「ぶっほ!?」

 

 

予想外の言葉を投げかけられて俺は顔がさっきまでとは比べ物にならないくらい、燃えるように熱くなった感覚に陥る。何言ってんだこいつ!

 

 

結衣「す、するわけねぇだろ!そんな事!」

 

いろは「そーですかー?でもならなんで部室もカーテン閉めてて、服も乱れてたんです……ありゃ?“するわけねぇだろ”?」

 

 

あ、部室のカーテンを閉めたままだった。出るときに開ければよかった。

それに口調が元の俺のになってしまっている。軌道修正軌道修正!

 

 

結衣「あっ!いや、その、するわけないよそんな事!ここは学校だよ!?それにいろはちゃんは生徒会長じゃん!そんな事言っちゃダメだよ!」

 

いろは「ふーん……ま、いいです」

 

 

疑われてるなぁ……ちょこちょこボロが出てきている。強く気をつけないとその内本当にバレてしまうかも知れない。

……もうここまで来ればバレても構わない気もするが。

 

 

結衣「そ、それでいろはちゃんは何しにきたの?」

 

いろは「あ、そうそう、せんぱいに用があるんでした。けどいないなら仕方ないですねー」

 

 

待てよ?これは使えるのでは?

まず一色が校庭にいるはずの由比ヶ浜(俺の体)を呼びに行く。

その間俺(由比ヶ浜の体)は手伝いと称し生徒会室で待機する。

そして待っていれば由比ヶ浜(俺の体)を連れた一色がやってきて、俺もあまり動かずに目的が達成できて、みんな万々歳だ。

よしこの計画で行こう。

 

 

結衣「待って!お、ヒッキーがいるところなら知ってるよ」

 

いろは「本当ですか?」

 

結衣「う、うん!多分校庭で葉山君達とサッカーしてるはずだよ!」

 

いろは「え?え?あのせんぱいが葉山先輩達とサッカー……?結衣先輩、日本語って分かります?」

 

 

くっ、コイツ!

俺(八幡)が葉山達とサッカーするのがとても信じられなくて、俺(由比ヶ浜の体)の国語力を疑ってきやがった。

こういうのは由比ヶ浜(本人)の役目だろうに!

 

 

結衣「し、信じられないけど確かにヒッキーは葉山君達とサッカーするって言ってたもん!」

 

いろは「うーん、おかしいですねぇ……そうだとすると、葉山先輩が今カラオケに行ってるという連絡はどういう事になるんでしょう」

 

結衣「はっ?」

 

 

カラオケ!?葉山がカラオケ!?どういう事だ!?アイツサッカーしてるんじゃなかったのか!?

しかもそうなると俺の体は!?

 

 

いろは「ちょっとお待ちを、聞いてみますねー」

 

 

一色はぽちぽちとスマホをいじると、葉山に繋げた。

 

 

いろは「あ、葉山せんぱ〜い、いろはです!お疲れ様でーす!今日のサッカー部はお休みでしたけど、今葉山先輩は何してるんですか〜?あ、写真送ってくれるんですか!ありがとうこざいますぅ〜!」

 

 

どうやら葉山が写真を送ってくれるらしい。

俺と一色は写真が来るのを待った。しばらくすると写真が送られてきて、一色と一緒にそれを見て驚愕した。

 

ーー写真に写っていたのは5人の総武高校生だった。

苦笑いの葉山。

葉山の左肩から肩を組み、スマホを持っているであろう体制の戸部。

奥の方で鼻血を垂らして机に突っ伏している海老名さん。

海老名さんを介抱する三浦。

そして葉山の右肩から肩を組んで、笑顔でマイクを持っている俺の姿が、比企谷八幡の姿が……

 

 

結衣「おっぷぇいーー!?!?!?」

 

 

変な奇声が出た!なんだこの地獄絵図は!?

なんでサッカーじゃなくてカラオケ屋にいるのかとか、戸部の顔がふざけ過ぎてるとか、海老名さんは俺(由比ヶ浜)と葉山と戸部が肩を組んでいるから鼻血を吹いて倒れてるんだろうなぁ……とか、色々言いたいことはあるけど!

一番はなんで俺の身体(由比ヶ浜)が葉山達とカラオケに行ってるのかって話だ!どうなってんだ一体!

 

 

結衣「なに……これ……」

 

いろは「あ、今葉山先輩から連絡が来ました。なんでもサッカーをしていたらいきなりせんぱいが入って来たそうで。

いつもと違う雰囲気に戸惑いはしたようですが、なんか打ち解けていって、最終的には三浦先輩や海老名先輩を誘ってみんなでカラオケ屋に行ったようです」

 

結衣「ちょ、スマホ、貸してもらえる?」

 

いろは「はいどうぞ」

 

 

一色からスマホを貸してもらい、葉山につなげる。

俺は慌てて葉山にワケを聞く。

 

 

結衣「どういう事なんだ葉山!?なんでお前俺とカラオケ行ってんの!?」

 

葉山「……やっぱり様子がおかしいとは思っていたけど、もしかして君は結衣じゃなくてヒキタニ君かい?」

 

結衣「え、あ」

 

 

しまった、演技を忘れていた!いや葉山相手だと演技していてもバレていたかも知れないが。

チラリ、と一色の方を伺うと、ちょうど部室の椅子に座ろうとしていたところで、こちらの話は聞こえていないようだ。

 

 

葉山「そこにいろはも一緒にいるんだろう?だったらこっちから一方的に話させてもらうよ」

 

結衣「え?」

 

葉山「バレたら困るんだろう?こちらも君の中に結衣が入ってるって事は誤魔化してる。……戸部以外にはバレていそうな気もするけど、まあなんとかするよ。

それよりも君はすぐにでもこっちにいる結衣に会いに来たいだろうけど、やめた方がいい。接触するのは避けて、一度距離を置くんだ」

 

結衣「なんで」

 

葉山「こっちが楽しくしてるからさ。最初は君の見た目をしていたから抵抗があったけど、今はすっかり打ち解けてるよ。まあ中身が結衣だからね。

でもこれを機に戸部や優美子とも君が仲良くなれればいいと思ってるんだ」

 

結衣「そんな勝手……」

 

葉山「勝手かい?でも結衣は楽しそうだよ?サッカーしてた時もすごく楽しそうだった。

多分君の体になった事で、どうやら今まで溜め込んでいたものが吹っ切れたような気がするんだ」

 

結衣「……!?」

 

葉山「これは僕の勝手かも知れない、でも今結衣は楽しそうなんだ。

それに戻れる確証はあるのかい?結衣がこのまま戻らずに、これから先“君と同じ道を歩んでしまってもいいのかい”?

頼む、結衣のためだと思ってしばらくは我慢してくれ」

 

結衣「……………あー!もう!わかったよ!」

 

葉山「ありがとう、それじゃ」

 

結衣「え、あ、おい!」

 

 

プチッ、と葉山は電話を切ってしまった。

アイツ……あの野郎……

ギリギリと歯をくいしばる。

 

 

いろは「どうでしたー?葉山先輩との電話は終わったんですかー?」

 

結衣「え、あ、うん!ありがとうね、いろはちゃん」

 

いろは「えー、もっと葉山先輩と話したかったのにー」

 

 

ブーブーとふくれっ面で文句を言いつつ、一色は俺から返されたスマホをポッケにしまい込む。

って、あれ?よく見ると一色の前には紅茶と茶菓子が置いてあった。

 

 

結衣「あ、勝手に」

 

いろは「すみませんー、暇だったもんでー」

 

 

一色はパリパリと茶菓子を頬張る。

こ、コイツ……

いやそれよりも、どうもさっきから気になることがある。俺は壁に掛けられている時計を見る。

すると驚くことに俺と由比ヶ浜が入れ替わった時間から一時間も経っていた。

俺はそんなに由比ヶ浜の体を堪能していたのか!?

 

 

いろは「それで、せんぱいはいないんですよねー?」

 

結衣「あ、うん」

 

いろは「あー、じゃあせんぱいに押し付けたかった仕事があったんですが明日にしますー」

 

 

ダラダラと机に突っ伏して、スパッと本音を言い表す一色。そう言えば俺は由比ヶ浜になっているんだ、俺の愚痴も抵抗なく出てくるんだろう。遠慮なんてする必要ないからな。

しかし……俺に対する悪態よりも、一色が机にダルそうに突っ伏している事が気になった。

 

 

結衣「もしかして……いろはちゃん疲れてる?」

 

いろは「ええ、まあ、せんぱいが来るまでに大体のことは終わらせとこうと思って、先にずっと仕事してましたから〜、とこんなの結衣先輩に言っても仕方ないですよね」

 

結衣「……うん」

 

いろは「あはは、すみませんーーってあれ?どうしました?」

 

 

俺は椅子に座っている一色のそばに立つと、ソッと一色の肩に手を置く。

一色が首をかしげる。

そのまま一色の体を引き寄せて俺は一色を抱きしめた。

 

 

いろは「えっ!?ちょ!?結衣先輩!?どうしたんですか!?」

 

 

腕の中から一色の戸惑う声が聞こえる。

自分でも何をしているのかわからない、だがこうしなきゃいけない気がした。

俺はさらに一色の体を抱きしめる。

 

 

いろは「ちょ、むきゅ!」

 

 

一色の顔が俺の大きな胸の谷間に埋もれるが、それに俺は気がつかなかった。

苦しむ一色にも気づかず、俺は言葉を紡ぐ。

 

 

結衣「いろはちゃん……少し頑張りすぎだよ」

 

いろは「むーむー」

 

結衣「いろはちゃんの身体が壊れたら、他に誰が生徒会長をやるって言うの?」

 

いろは「む、むぅ〜」

 

結衣「それに……その、いろはちゃんに何かあったら……アタシも嫌だし」

 

 

最後の言葉はわりかしスッと口に出して伝えられた。アタシ、という由比ヶ浜の名義で誤魔化せられているからだろうか、一色の事を心配する言葉が抵抗なくスイスイと出てくる。

 

葉山は俺の体になった由比ヶ浜が吹っ切れたように楽しんでいると言っていた。

だったら由比ヶ浜になった俺も、どこか吹っ切れているのかも知れない。

 

 

結衣「だから、ね?もし疲れてるならいつでもここに来ていいから、いつでもヒッキーを頼っていいから、もっといろはちゃんの体を大事にしてね」

 

いろは「…………」

 

結衣「ん?あれ、いろはちゃん?」

 

いろは「…………」

 

結衣「へえぇっ!?い、息してない!?ちょ、しっかりしていろはちゃん!」

 

 

******

 

 

その後俺は窒息気味だった一色を介抱した。

そして復活した一色の第一声が。

 

 

いろは「…………おっぱいに殺されるところでした」

 

結衣「ご、ごめんね?」

 

いろは「……いえ」

 

 

危うく俺もおっぱいで人を殺すところだった。

というかさっきまで俺は何してた?

一色の身体が離れて冷静になってくると、どんどん自分のしていた事が恥ずかしくなってきた。

 

 

結衣「ほ、本当にごめんね、勝手な事も色々言っちゃって」

 

いろは「……」

 

 

何も言わずぷいっ、と一色に顔を背けられた。

どうしよう、もし由比ヶ浜に対して嫌悪感を覚えていたとしたら、これから先由比ヶ浜と一色の関係が悪化してしまう。

勝手に体を使ってそんな事をしてしまえば後悔しきれない。慌てて俺は弁解しようと顔を背けたままの一色に声をかける。

 

 

結衣「あの、いろはちゃん……」

 

いろは「……うれしかったです」

 

結衣「え?」

 

いろは「同情でそう言う事を言う人ではないと知ってます、だからなおさら心にひびきました」

 

 

スッ、と俺に目を合わせてくる一色の顔は赤く、照れ臭そうにニッコリと微笑んでいた。

 

 

いろは「これはほんのお礼です……“せんぱい”」

 

 

顔が近づいてきた、と思えば一色の顔で視界がいっぱいになった。

 

 

ーーそして唇に当たる柔らかな感触。

 

 

どれくらいそうしていただろうか。

気づけば目の前には俺から離れた一色の顔があって、そしてその顔は照れ臭そうにしつつも、どこか大人びた女の子の顔だった。

 

 

いろは「ファーストキスですからね、“せんぱい”。もし戻れなかった時のために……ね」

 

 

何も考えられなくなった俺はずっと一色の顔を見つめていた。

 

その後、俺と由比ヶ浜の体が元に戻ったのか、そして俺と一色の関係はどうなったのか。

 

それはまた別の話……




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