異世界転生したので前世の死因を考えてみる。 作:N-SUGAR
新学期二日目から学校をボイコットした不良少女の自称探偵と違い、不真面目に真面目であることに定評のある俺はその後、きっちりと朝礼を受け、一時間目の緊急全校集会で昨日の夜通り魔に殺されたという
そして、三限目の終わりの号令でやっと俺は目を覚ま…もとい、黙祷を終えた。
「さて、昼休みだな」
「かずと、二時間目からずっと休んでたくせに、まだ休むの?」
自前の弁当を取り出しながら、亜里沙が言う。
「失礼な。なにか証拠でもあるのかね」
「授業中ずっと寝息が聞こえて鬱陶しかったのよ」
「おっと、それはすまない」
若干幼馴染みが神経質過ぎる気がするが、受験生最後の夏というやつはストレスも溜まりやすいだろう。こういうときの幼馴染みにはあまり刺激は与えない方が吉だ。
「なあに、心配無用。午後は理解不能な英語と化学が待ち構えてるからな。これ以上俺が仮眠を取ることは無いと約束しよう」
「…普通逆じゃない?」
逆?
「逆って、何が?」
俺が訊くと、亜里沙は椅子をこちらに向けながら、
「普通、得意な授業で起きて、苦手な授業で寝るんじゃないかってこと」
と訊き直す。
その疑問に俺は笑う。
「それになんの意味があるんだ?分かってる授業は聞かなくても良いけど、分からない授業は聞かないと永遠に分からないままだろ?俺、自習なんて高尚なことはしないんだぜ?」
「………」
なるほど、これが地味な要領の良さ…ってやつか。
ぽそりと呟く幼馴染みを後目に、俺は椅子から立ち上がった。
「ん?どこ行くの?トイレ?」
「違う。購買だ。俺は今日昼飯を準備してこなかった」
「そう。じゃあ、チョココロネよろしく」
なんということだ。この幼馴染み、流れるように自然に俺をパシろうとしやがった。
「…まあ、いいだろう」
だけど心優しい俺は幼馴染みの要求を快諾し、左手を幼馴染みの前に突き出す。
「?なにこの手」
幼馴染みは俺の手にぽんと、お手をしながら尋ねる。
「金を寄越せと言う手だ。誰がお手をしろと言った」
俺の返答を聞いた幼馴染みはあーなるほど、と、相槌を打つ。そして、
「財布持ってきてない」
とぬかす。
こいつ…パシらせるだけでは飽きたらず、自然に人を財布代わりに使う気でいやがった!?
前からどうもこの幼馴染みにはヤンキーの素質があると思っていたが、ことここに至って確信する。こいつは紛れもなくヤンキーだ。
「お願い。明日。明日ちゃんと返すから」
亜里沙が手を合わせて上目遣いにお願いする。やろう。なんでもかんでも神妙にお願いすりゃなんとかなると思いやがって…。
その通りだから始末が悪い!
良かったな亜里沙!俺がちょろい幼馴染みで!
「いいか!明日だぞ!明日必ず返せよ!」
俺は捨て台詞を残して教室から出ていった。
***
階段を降りて一階の購買へと向かう。
公立旧苑坂中学購買部はその利用人数に比べて規模が小さい。
商品はそれなりに揃っているのだが、いかんせん購買そのものが狭すぎて、昼休みの始めともなると大変な混雑となる。しかも、その利用客の殆どは歴戦の運動部員達だ。学生の実に七割が予め弁当などを用意しておく習慣をつける理由がこの購買部の構造的欠陥にあるといっていい。俺だって、ど忘れさえしていなければコンビニで昼めしを買っていたはずだった。
今日も今日とて大量の人間が詰め放題に詰められて、購買部に入るのにそれなりの勇気が試される。
俺は息を整えて、助走をつけ、そして、勢い良く購買へと飛び込んだ!
人混みに揉みくちゃにされながら、俺は目的地へと徐々に徐々に突き進む。
「こな…くそ!」
狙いはまず、自分が食べる分のカツサンド。ボリューミーでそれだけ食えば成長期男子でも腹が満たされると話題の購買部人気商品ランキング五位に入賞する一品。当然人気商品なのだから売り切れるのも早い。今からだと、多分最後の一品を取れるか取れないかくらいだろう。急いで人波を潜り抜ける。
それが取れたら次は亜里沙から頼まれたチョココロネだ。女子人気の高い一品だが、ラッシュ時に購買部に来る生徒の七割は男子なので、この時点で売り切れることはまず無い。恐らくは、余裕を持って獲得できるだろう。
そんなことを考えながら進んでいくうちに、カツサンドの販売スペースが見えた。残りは―――ひとつ。
あぶねえ。もう少し遅ければ売りきれるところだった。
内心焦りながら手を伸ばし、カツサンドの端を掴む。
すると反対方向から伸ばされた手が、俺とほぼ同時にカツサンドの反対側を掴んでいた。
「な…に…。お前は…!」
「む。乙坂か…。久しぶりだな」
前髪が長すぎてどこを見ているのか今一良く分からない不気味な男だが、多分こちらを見ているのだろう。じっと観察するような視線が突き刺さる。
「お前も、カツサンドか?」
「ああ。今日は朝から憂鬱なニュースがあったからな。縁起を担いでおきたい気分なんだ」
歌手師が言う。そう言えば、昨夜殺されたとかいう被害者は、こいつと同じクラスの生徒だったか。
「…もしかして今朝言ってたやつ、お前の友達だったのか?」
俺が訊くと、歌手師は首をかしげる。
「須藤のことか?いや。クラスメイトではあったが、特に関わりはないな。というかあいつは、クラスから孤立してたからな」
「は?いやでも今朝憂鬱なニュースがあったって…」
「ああ違う違う。何で人が死んだ縁起かつぎにカツサンドだよ。俺達受験生だぞ?今朝、郵便で学習塾で受けた模試の結果が返ってきたんだけど、その成績が悪かったんだ」
「テストの成績かよ紛らわしい!」
「紛らわしいとは何だ。学生の本分は勉強だろうが」
うちの幼馴染みといいこいつといい、どうも真面目な受験生というやつは事の優先順位を勉学に割り振りすぎている気がする…。受験ってそこまで大事なのか?いや、大事だとは思うのだが…、今朝のショッキングなニュースを上回るほどに大事だとは俺にはどうしても思えない。
それは、俺が真面目に生きていないからなのかもしれないけれど…。
…いや、待てよ?
「歌手師、お前、そんな勉強頑張るようなやつだったっけ?どっちかと言えばお前は馬鹿の部類だったと思うんだけど」
歌手師明人。俺の記憶が正しければ、こいつは去年までは成績は俺とどっこいどっこい。勉強なんかほったらかしで専ら遊び歩いているようなやつだった。最近接点が無かったが、去年まではそこそこよく話したりもしていたので覚えている。
「失礼な評価をしやがる。誰もがお前みたいにぱっぱらぱーのまま変わらないと思っているならそれは大間違いだ。俺には明確な目標が出来たからな」
歌手師は抑揚の無い声で言う。
「目標というと…。もしかしてお前も県立?」
「まあ。そうなるな」
俺達の暮らすこの町には高校が二つある。一つは俺が行くことになっていたであろう私立明朗高校。名前を書かなくても入れると噂の底辺高校でこの町の人間からは専ら県立高校の滑り止めとして利用される高校だ。
で、そのもう一つというのが、この町の学生の大半が出来れば通いたいと思っている偏差値60越えの高校。県立
「はー。あの歌手師が新牧東ねえ。人は変わるもんだなぁ」
「変わらん方が問題だろう。成長が無いってことなんだから」
「確かに。じゃあ俺は問題だ」
「お前のことなど知らん。じゃあ、そういうことだ。またな」
「ああ。また…――って、ちょっと待て」
立ち去ろうとする歌手師の肩を掴む。その右手に掴まれているカツサンドを睨み付けながら。
「なんだ。まだ何か用か」
「何か用か、じゃない。そのカツサンド、掴んだのは俺とお前同時だったろうが!」
「しかし、今手にしているのは俺な訳だが」
「そんな騙し討ちみたいな手を認めるわけにはいかない!お前も縁起を担ぎたい気分なんだろうが、俺の口もカツの気分なんだ!」
「早い者勝ちだろう。掴んだのは同時でも、取ったのは俺が先だ」
「じゃんけん!せめてじゃんけんを!」
「じゃーんけーん」
俺の提案に、歌手師は乗ってきた。一呼吸すら間を置かずに。
俺はそれに気づくと慌てて手をグーにするが、時既に遅し。
「ほい」
歌手師はパーを出し、そして、俺の手はグーのままだった。
「じゃ、そういうことで」
歌手師は開いた手を振りながら俺の前から去っていった。完全敗北の四文字が、俺の脳裏に浮かぶ。
「ぐぬぬ…。歌手師の方が一枚上手ということか…。いや、でも良く考えたらさっきのじゃんけんも不意打ちみたいなものだったしあまり納得が…」
しかし、じゃんけんを提案したのがこちらである手前、これ以上の反論しても歌手師を論破出来る気はしなかった。俺は肩を落としながらとぼとぼと、手近にあった照り焼きチキンサンドを取って、それから再び人混みをかきわけ、チョココロネを獲得して、会計へと向かったのだった。
会計を終え、購買部から出た俺が教室へと向かっていると、さっき会って苦渋を舐めさせられたばかりの歌手師が、なにやら見知らぬお姉さんと話していた。スーツ姿で、黒髪をポニーテールにしたクール系のお姉さんは、学校訪問者用のプレートを首から下げていた。
ちょうど話が終わったのか、二人は挨拶をすると、それぞれ別方向へと歩き出す。歌手師は俺の進行方向と同じ方へ、お姉さんはその反対へ。
俺はお姉さんとすれ違いつつ、歌手師に追い付いて話しかける。
「おいおい歌手師。あの美人のお姉さんはいったい何者だ?」
「ん?なんだまた乙坂か。美人?お前、あの人みたいなのがタイプなのか?」
「タイプっていうか、普通に美人だったじゃん。スタイルも良さげだったし」
「まあそうだな。俺からすれば身近すぎて、あまりそういう目では見れないが…」
「親戚なのか?」
俺の質問に、歌手師は頭をかきながら
「親戚というか、近所付き合いが長いお姉さん、だな。刑事なんだよ。あの人」
あー。と、俺は納得する。刑事。確かに今ならば、この学校に刑事が訪ねて来ていても不思議ではない。
「最近警視庁の方に転属になったらしい。何処の所属かまではいまいち知らんが、殺人事件の捜査で来てるから多分捜査一課だろうな。姫島さつき。お前の場合、覚えておいて損はないだろう。確かお前、あの自称探偵と友達だったろ」
「あー。そうだな」
脳裏に金髪リボンの少女が浮かぶ。あいつは多分近いうちに警察の厄介になるだろう。事件を引っ掻き回す未来しか見えない。
「あの自称探偵、朝に俺のクラスに聞き込みに来ていたからな。お陰で朝の集会が始まる前から須藤の死を知るはめになっちまった」
「それは…何と言っていいかわからん…」
あいつ、自分の教室に来る前にそんなことしてやがったのか…。相変わらず節操がない。手段を選ばず徹底的にとは、確かあいつの信条だったか。
「ちなみに訊くけど、あいつ、何を訊いたんだ?」
俺が尋ねると、歌手師は少しだけ間を置いてから
「確か、基本的には須藤の人間関係についてだったな。まあ、さっきも言ったがあいつはクラスで孤立してるから、人間関係らしい人間関係なんて無いんだけど」
と答えた。
「それ。少し気になったんだけど、クラスで孤立してるってのはどういうことだ?苛めでも受けてたのか?」
「乙坂は一度も須藤と接点が無いんだっけ?まあ、いじめってほどじゃねえよ。遠巻きにされてたってのは事実だけどな。進んで話しかけたいような奴では無かった。特に女子はな」
「あー。えっと、つまり?」
「一言で言えばキモイ奴だった。女子に向ける目線がいやらしいし、話し方も、長い、早口、どもりと、何がとは言わんが三拍子揃ったようなやつだったからな。不謹慎かもしれんが、一部女子なんかは、居なくなってせいせいしてる奴もいるかもしれない。ていうか、多分確実にいるな」
「あー…」
要するに、思春期を悪い方向に拗らせた陰キャだったということか…。
「…そう言えば、俺の通っている学習塾にあいつが現れてたって話を、クラスの女子がしてたな」
「学習塾?駅前の?須藤って奴も塾に通ってたってことか?」
確かにそう考えれば、昨夜、須藤が外出していたという話も自然になる。というか、学習塾の帰り道に殺されたとかだったらマジで洒落にならない。亜里沙の塾通いを止める理由がまた一つ増えた。
そう思っていると、乙坂は思わぬ方向に話を持っていった。
「違う。
「は?」
どういうことだ?意味が分からない。
「どういうことだ?」
俺は訊いた。
「んなもん俺が知るか。須藤に聞け」
歌手師は、突き放すようなことを言って首を横に振った。
気がつけば、俺と歌手師の二人は自分のクラスのある教室棟まで歩いてきていた。
「ま、そういうわけだ。せいぜい自称探偵に振り回されんよう気を付けるんだな」
歌手師はそう言うと、さっさと自分の教室へと入っていってしまう。それを見送った俺は、自分の教室へと戻り、その後は幼馴染みとお昼を食べながら、他愛の無い雑談をして昼休みを過ごしたのだった。
だんだん登場人物が揃ってきました。まだ登場してないだけで、話のなかに出てきただけの人を含めるなら登場人物は全員揃っているとすら言えます。つまり、この段階で犯人予想くらいはできるかも?