南ことりは、途方に暮れていた。
今日は彼女の誕生日。校内の至る所で声をかけられ「おめでとう」と祝福されていた。
時間は放課後。日直の仕事を放り出してしまいお叱りを受けた幼馴染が職員室へ連行されてしまったので、先に一人で部室へ向かった。──そこで、今の現場に居合わせてしまった。
「ううぅ……」
「えーっと……」
テーブルに突っ伏して、暗い影を落とすメンバーが一人。
いつも賑やかな一年生、μ'sの元気印、星空凛が本人を前にしてお祝いの言葉すらかけないという異常事態に、ことりは困惑していた。いつも一緒の一年生他二人の姿も見えない。
「えっとぉ……凛ちゃん? どうかしたの?」
そのまま放置もできないので、ひとまず声をかける。こうなった理由も知りたい。
「!」
ガバッ! と顔を上げた凛は、やや潤んだ目でことりを捉える。
「うわぁぁぁん! ことりちゃんお誕生日おめでとう〜っ!」
「え、えぇ〜っと……ありがとう……?」
泣きながら抱きつかれ、それでお祝いの言葉を贈られても戸惑うしかない。
「どうかしたの?」
「…………」
半べそ状態の凛は、ことりの問いに視線を逸らす。
直感的に自分絡みだと判断したことりは、胸の前で手を合わせる。
「ことりは、笑って元気な凛ちゃんの方が可愛くて好きだな〜。元気な凛ちゃんに戻るには、どうしたらいいのかなぁ?」
すると凛は、
「これ……」
とケータイの写真を見せてきた。
「これは……?」
そこに写っていたのは、黄色と茶色の混じった、グチャグチャした固形物。見たところ食べ物のようだが、お世辞にも美味しそうには見えない。
ことりが正解を出せずにいると、
「……チーズケーキ」
凛はポツリと呟いた。
「ことりちゃん、チーズケーキ好きでしょ? よく作ってきてくれるし、美味しいお店も知ってるし。それで、せっかくの誕生日だからってことりちゃんにチーズケーキご馳走してあげたかったんだにゃ。……それで、作ってみたら、全然うまくできなくて……。それで……」
ショボン、と俯く凛。対面のことりはしばらく無言だったが、
「…………」
徐々に笑みがこぼれていく。
「こ、ことりちゃん……?」
何の反応も示さないことりに不安を覚えたのか、凛は恐る恐る顔を上げる。瞬間、
「か〜わいい〜っ!」
「にゃ⁉︎」
ことりに思い切り抱きしめられた。
「ことりの為に、凛ちゃんがケーキ作ってくれたんでしょ? 可愛い〜! 凛ちゃん大好き!」
抱きしめられた上に頭をナデナデされ、凛は混乱する。
「で、でも、失敗しちゃったし……食べられないから置いてきちゃったし……。結局、何も用意できなかったし……」
「凛ちゃんのその気持ちだけで、ことりはとっても嬉しいな♪」
「ほ、ホント……?」
「うん♪」
ことりは本心からそう頷くと、
「──あ、でも、チーズケーキは私も食べたいかも」
ふと、何かを思い出したように呟いた。
「ねえ凛ちゃん、今から、ことりと一緒にケーキ作りしない?」
「えっ?」
「一緒に作れば、きっとも〜っと美味しいチーズケーキが作れると思うの。ことりの特製レシピ、教えてあげる♪ だから〜、お願いっ!」
「凛がいて、迷惑にならない……?」
「全然♪ 一人より、二人で作った方が美味しくなると思うの!」
「じ、じゃあ……一緒に作るにゃ!」
「うんっ。美味しいケーキ作ろうね♪」
家庭科室を借りたことりと凛は、二人でチーズケーキを作り出す。そこへ、
「──やっぱりことりちゃんのお菓子の匂いだった!」
「どんな嗅覚ですか……。ことりも、探しましたよ」
「あ、穂乃果ちゃんに海未ちゃん! 今ね、ことりちゃんと一緒にチーズケーキ作ってるんだ〜」
「チーズケーキ⁉︎ 穂乃果も食べたい!」
「まだ完成してませんよ。ことり、何か手伝える事はありますか?」
「じゃあ〜、生卵を割って黄味と白身に分けて欲しいな」
「分かりました」
穂乃果と海未が加わってすぐ、
「ことりが家庭科室の鍵を借りに来た時はどうしたのかと思ったけど……」
「そういう事だったんやなぁ」
「この家庭派アイドルにこにーを差し置いてケーキ作りだなんて、みんなひどぉ〜──」
「馬鹿な事言ってないで手伝うわよ。主役がいきなりケーキ作りなんて始めて……。パーティーの時間無くなっちゃうわ」
「凛ちゃんも、言ってくれたら良かったのに……」
続々とメンバーが家庭科室に駆けつける。
テキパキと役割分担の指示を出したことりは、わちゃわちゃと騒がしくケーキ作りに没頭する八人を眺める。
「──ふふっ♪」
楽しげな笑みが口元からこぼれ、ことりはニッコリ笑顔を見せた。