なんせニューヨーク何て初めてだったものだから、仕事場の住所はわかっていてもどうしても辿り着く事が出来なかったんだ。
もう約束の時刻も迫ってきている・・・焦った俺はタクシーを使う事に決めた。
通りに出てタクシーを探す俺。しかし中々タクシーは見つからない。
あーもう間に合わない!とイライラも頂点に達したかと思ったその時、向こうから走ってくる1台のタクシーを発見!
俺はすかさず手をあげ、「ヘイ!ヘイ!へエエエエエエエイ!」と全力で叫んだ。
すると向こうからチャリに乗って猛スピードで走ってきた外人がすれ違いざまに「ヘイ!グッボーイ!グッボーイ!hahahahaha!」と言いながらハイタッチをして走り去って行った。
タクシーは行ってしまった。
そんな話です。
《真夜中》
僕はネズミ。
この屋敷に古くから隠れ潜んでいるネズミだ。
そう自分に言い聞かせ、僕は生糸の絨毯の感触を踏みしめながら、暗闇の中を進んで行く。目的の部屋の前までたどり着き、扉を少しだけ開けた。勿論、木の擦れる音すらならないほどに、ゆっくりと。部屋の中に人の気配がないのを確認し、体を中に滑り込ませた。完全に部屋に入ったところですぐさま扉をまた同じように音をたてぬように且つ素早く内側から鍵を閉めた。少し木の軋む音が鳴ったが、この際もう気にしなくていいだろう。施錠音を聞き、その場に座り込みそうになる体をなんとか気合いで持ち上げた。
振り返れば、僕のお目当てのものはすぐに見つかった。
50センチ四方の重厚間のあるダイヤル式金庫。向かいの壁の真ん中で一人居座っている彼に、窓の外から満月の光が一層引き立てるように照らしていた。彼の頭に手を置き、そっと撫でる。至って普通の金庫だ。少し財力のある家なら必ず置いてある一般的な金庫である。
そして僕は知っている。この金庫には少なくとも五千万は入っていること。そして、この家の主人は、そんな大金を大金だと思っていないと、これは私にとっては財産の内にも入らない、たいしたことのない金なのだと話していたことを。そんな話を意気揚々と話す彼のことであるから、盗まれたことにさえ気づかないだろう。このことを思い出した時はまさに九死に一生を得たと思った。まさか彼の自慢話がこんな形で役に立つとは。
必死になって思い出した金庫の暗証番号を慎重にダイヤルを回していく。回すたびに鳴る金属の擦れ合う音が、やけにうるさく僕の頭に響いた。
……カチリ。
「(!)」
恐る恐るダイヤルの上の取っ手を掴み、手前に引いてみる。
「(…本当に開いた。)」
中には、案の定金庫の中いっぱいの札束が積んであった。僕は中の札束を素早くショルダーバッグの中に詰め込んだ。
「(いつか必ず返しに来るからな。)」
ファスナーを最後までしっかり閉めると、緊張感でガチガチに固まっていた体に、ようやく解放されたような心地がやってきた。
「ふう……。」
「ふうー。」
「へ?」
不意に頭上から聞こえた声に思わず変な声が漏れた。
「あ、どうもー。」
見上げると、金庫の上に肩肘をついた茶髪の男性が、ヒラヒラと僕に手を振っていた。
「うわ「ちょっ!しっ…急に大声出さないでよ、全く(ヒソヒソ)」!!?!?」
暗視ゴーグルの真っ赤な瞳に見つめられ、さらに口を押さえられた僕は瞬時に扉の方に目をやった。
「(コイツ、何時からこの部屋に…!?)」
扉は開いていなかった。仮にもし、この男が外から何らかの方法で鍵を開け、そしてまた僕と同じように内側から鍵をかけなおしたとして、背後から聞こえる音と気配に自分が気づけなかったとは到底思えない。とすると、コイツは僕が来る前からずっとこの部屋にいたということか?
「もう手ェ離していいかな?」
ゆっくりと口から手が離れ、僕は大きく息を吸った。
「(同じ泥棒…にしては、少し服装がラフすぎやしないか?)」
ワイシャツにベスト…あとこの腰に巻いてあるのは、チェーンか?
「…君も、これを盗みに来たのかい?」
「これって?」
僕が金庫の中を指差すと、
「あー違う違う。俺はそんなのには興味ないの」
男はそう言って、空になった金庫を興味なさげに見つめた。
「泥棒じゃ、ないのかい?」
「心外だなぁ。俺をあんなのと勘違いしないでくれる?」
あ、あんなの……。
「俺は泥棒じゃなくてか……名乗るよりも、これを見せたほうがわかってくれるかな」
そういって、彼はポケットから何かを取り出した。
「じゃーん」
それは、青い宝石がはめられたネックレスだった。一般人から見ればただの綺麗な首飾りだとしか思わないだろう。だが、俺は知っていた。
「ッ!まさか、君はっ!」
「さっき俺がお迎えにあがったお姫様でーす!」
彼はこのネックレスをお迎えにあがったと言った。つまり、この屋敷からついさっき手に入れてきたということだ。この屋敷にはさまざまな宝石や絵画が飾られている。それらはどれも一千万は軽く超える代物ばかりだ。そしてつい先日、主人のコレクションに新しく加わった宝石があった。
スターサファイアのネックレス。
銀の装飾が施されたネックレスの真ん中で青く輝くその宝石は、光を当てることで六条の光を放つといわれている。一ヶ月前にインドの古代遺跡で発見されオークションにかけられた彼女を、その日たまたま出張で訪れていた主人が一億二千万円で落札したのだ。
彼女とともに日本へ帰国した日、主人の下に一通の手紙が送られてきた。
―明日の夜、スターサファイアのネックレスをお迎えに参ります。―
それは、とある怪盗からの予告上だった。
怪盗が自分の大切なネックレスを盗みに来ると知った主人は、ネックレスを保管している部屋だけでなく、屋敷自体の警備を厳重にし、決行日である今日、主人はギラギラと目を光らせながら怪盗が現れるのを今か今かと待ち構えていたはずだ。
だから僕は、警備が手薄になったこの別館に狙いを定めて、盗みに入ったというのに。
突如、本館のほうからけたたましいサイレンの音が響いた。やっと誰かがネックレスが盗まれたことに気づいたのだろう。
「それじゃ、俺もう行くわ。」
男は涼しい表情でサイレンの音に耳を傾けていた。
「あなたも早く逃げたほうがいいよ。そのうちこっちにも警備隊の人たちが来るだろうし。」
屋敷内の警備は完璧だった。
廊下には赤いセンサーが張り巡らされていたはずだし、外には半径三メートル間隔で警備員が配置されていた。何より、ネックレスが保管されている部屋に入るには、主人が肌身離さず持ち歩いている鍵と十桁の暗証番号がなければまず開かない。仮に扉に穴を開けて侵入しようとしても、特殊合金で作られた厚さ二十センチの扉だ。ドリルやレーザーだろうと傷一つつくことはない。
なのに何故、この男は無傷で、お目当てのお宝を盗むことが出来たのだろう。
「ま、待って!」
「ん?」
僕は無意識に、窓から出ようとする彼を呼び止めていた。
「あ、いや、その…」
まさか振り返ってくれるとは思わず内心戸惑いながら、僕は一呼吸置いて彼の目を見た。
「君は…いや、君が、例の怪盗君、なのかい?」
「………」
彼は暗視ゴーグルを外し、立ち上がった僕に優しく微笑んだ。僕を捕らえるその瞳は、スターサファイアにも負けないほどに美しい、エメラルド色の瞳だった。
「またね、泥棒ネズミさん。」
そう言って、彼は背中から倒れるように窓から飛び降りた。
「!!」
急いで窓から身を乗り出して下を見てみたが、既に彼の姿はどこにもなく、けたたましいサイレンの音が漂うばかりだった。
後日、一億二千万円相当のネックレスが盗まれたと、世界各地のニュースや新聞で大々的に報道された。
怪盗が一体どのような手口であの完璧な警備網を潜り抜けネックレスを盗んでいったのか、世界中のマスコミから様々な憶測が飛び交う中、彼らが口を揃えて言っていたことがある。
「絶対に捕まらない男」
それが彼、怪盗ウーノの通り名であった。
《とある昼下がり》
戸棚から三人分のティーカップを取り出し、ランダムにティーバッグを上から落としていく。コポコポと可愛らしく音をたてるポットに呼ばれ、コンロの火を止めた。カップの中にお湯を注げば、フルーティーな香りがキッチンと私を包み込んだ。皿に乗ったアップルパイの隣にカップを添えた時、丁度時計から午後三時を知らせる音楽が流れた。
「よし!時間ぴったりね」
私はトレイを持ち上げ、鼻歌と共にキッチンをあとにした。
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ここに、二人の男がいる。
一人は新聞の記事を見つめ、もう一人は携帯ゲーム機の画面を睨みつけ、それぞれが優雅な昼下がりを過ごしていた。男が革製の椅子に腰掛け、組んだ足を揺らしながら新聞をめくっていく。そして、この青年もまた、L字型の白いソファーに寝転がりながら、組んだ足を揺らしていた。
「ニコー、団長―。アップルパイが焼けましたよー!」
ゲーム機からファンファーレの音が鳴り響いたと同時に、腰まである長い三つ編みの少女が笑顔と共に部屋に入ってきた。
「レモン、オレンジ、ピーチがあるけど、二人ともどっちがいい?」
「僕オレンジで」
「団長は?」
「ピーチティーをもらおうかな」
少女は新聞を読んでいる男のデスクにピーチティーとアップルパイを置き、二段の階段を下りて青年が寝ているソファーに腰掛けた。そしてトレイから残りのティーカップとアップルパイを取り出し、ガラスで出来た机の上に置いた。
「はい、ニコの分」
「おぉー」
ニコと呼ばれた青年は、体を起こし、目の前のアップルパイに目を輝かせた。
「団長―?アップルパイ冷めちゃいますよー?」
「………フフッ」
「団長?」
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフッ……」
男の持つ新聞紙が小刻みに震え、そして
「ああーッはっはっはっはっはっはっはっはあーーっはっはっはっはーーー!!」
バッ!と新聞から顔を離して大きく体を仰け反らせたかと思うと、彼は高笑いと共にクルクルと座った状態で回り始めた。
「え?なにあれ?」
「昨日の夜に帰ってきてからずっとあんな感じなんで、気にしたら負けですよ。…いただきます」
団長の高笑いに動じることなく、ニコはアップルパイにフォークを突き刺した。
「 『神出鬼没の大怪盗ウーノ!カーズ邸に現る!』『彼の鮮やかな犯行に警備隊手も足も出ず!』だってよぉおおおおお!!」
笑いが止まらないと言わんばかりに、彼は机の上に広げた新聞の記事をバシバシとたたき出した。
「この俺にあーーんなあまっちょろい警備体制で挑もうなんてよぉおお!あのデブも爪が甘すぎるんだよおおお!ぬぁああっはっはっはっはっはっはっはっはーー!!!」
「団長ったら、また私たちに内緒でお宝盗んできたの?」
「そうそう。この人もよくやるよねー全く」
ニコがオレンジティーを片手に目の前の4Kテレビの電源を入れると、丁度団長が盗んだお宝についてのニュースが流れていた。
『「絶対に捕まらない男」の異名を持つ怪盗ウーノ。今年に入り4回目の犯行に及んだ彼が今回盗んだ宝石はスターサファイアのネックレス。これは1ヶ月前にカーズ財団のライナス・カーズ社長がオークションで1億2000万円で落札し、先日自宅の豪邸に持ち帰ったばかりの代物だったそうですが、社長、怪盗ウーノは一体どのような手口でスターサファイアのネックレスを盗んでみせたのでしょうか?』
『それはもう一瞬でした。何もない場所から突然彼は現れ、瞬きのうちに彼はもう私の宝石を手にしていたのです。私の完璧かつ無駄のない警備システムが破られてしまうとは…いやはや、恐れ入りましたよ、怪盗ウーノには』
「フッフッフ…やはり!この俺の完璧且つ華麗なる犯行の前には!どんな警備システムだろうと最強の警備員だろうと手も足もでないということだなあ!!」
1人テレビを指差しながらドヤ顔を決めているこの男には、テレビに映っている怪盗姿のミステリアスな雰囲気など微塵もなく、本当に同一人物なのか見比べてしまうほどだった。
「ほんと、外見はまあまあイケてるのに、中身が残念な男よねぇ」
「カテリーネだって、お菓子作りは一流のくせに、料理に関してはポンコツじゃないか」
少女もといカテリーネは、フォークを皿の上に置き、レモンティーに口をつけた。
「くせにとか言わないでよね。ニコだっていっつも部屋でゲームしかしてないじゃない。」
「人を引きこもりのゲーム廃人みたいに言わないでくれる?」
「違うの?」
「いや違わないけど?」
曇った眼鏡を赤ジャージの袖で拭きながら、ニコライは真顔で答えた。
「はぁ。でも、今日はちゃんと呼ぶ前にリビングに来ていたのね、めずらしー」
「僕だって、仕事の話がなければ出てこなかったさ。な?団長」
団長に向かって振り向いたニコライに続いて、カテリーネも団長に目を向けた。そして、肝心の団長はというと、
「あぁ、そうだな」
先ほどのテンションから一変、椅子の上にはプロの仕事人といわんばかりのオーラを放ちながらピーチティーを口にする男がそこにいた。
「今回の計画には、お前ら2人にも協力してもらう」
「総動員で取りに行くの?ちょっと多すぎやしませんか?」
「それな。僕も、そこが気がかりだったんだ」
まだピンときていない2人に向かって、社長がそれぞれに長方形の写真を投げた。突然飛んできた写真に動じることなく、ニコは右手の人差し指と中指とで写真を挟み、カテリーネも同様に写真を受け取った。
「その写真に写ってるのが、今回のターゲットだ」
「これは………?」
「…!?まさか」
いまだにピンときていないカテリーネと写真を見るや否や血相を変えたニコライに、団長がにやりと口角をあげた。