アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~   作:サモアの女神はサンディエゴ

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戦いの中でしか生きる意味を表せない。

この両手がそれを示している。

血に塗られたこの両手が暖かさを知ることは無い。

でも貴方はそんな私の両手に触れてくれる。

その暖かさは私には勿体ないのに………




その手で抱きしめられるのなら………

「任務完了、帰還するよ」

 

「この程度、物足りないわね………あの下等生物にもっと戦闘任務を持ってくるように言わないと」

 

赤々と燃え上がるセイレーンの傀儡艦隊を背に母港を目指す私こと装甲巡洋艦アドミラル・グラーフ・シュペーとドイッチュラントお姉ちゃん。

セイレーンが近海に現れたから掃討するように言われて向かったけど、駆逐艦や巡洋艦しかいなかったので私達だけですぐに終わってしまった。

 

任務完了の報告をするZ23ことニーミと警戒体制を取ったままのシャルンホルストとグナイゼナウ達の活躍の機会はなくて、私達姉妹だけで終わるのはお姉ちゃんの言う通り少し歯応えが無さ過ぎる。

船の頃の大戦の記憶からすれば前哨戦にもならない模擬戦のような簡単さに少し不安を覚えた。

 

「……ペー、シュペー!!」

 

「ッ!?ごめんお姉ちゃん………ボーッとしてた」

 

「もしかして調子が悪いの?なんでもっと早くあの下等生物に言わないの!編成から外して休ませたのに………」

 

「大丈夫、そういう訳じゃないから。お姉ちゃんも心配し過ぎ」

 

少し考え込み過ぎてボーッとしていてお姉ちゃんに呼ばれた事すら気が付かなかった。

普段の高飛車な態度から一変して本当に心配そうな顔をするお姉ちゃんに少し苦笑する。

身内にはとても優しいお姉ちゃんは指揮官の事を下等生物とか言ってるけど、本当は照れ隠しでそう言ってるだけなのは鉄血の皆の公然の秘密。

 

「本当に大丈夫なのね?………帰ったらすぐにヴェスタルの所に行って診てもらいなさい」

 

「うん、分かった」

 

「絶対よ?」

 

「皆さん!報告を終わりましたので帰還しましょう!」

 

念を推してくる心配性なお姉ちゃんに頷きながら答えていると、報告が終わったらしいニーミがこちらに寄ってくるのが見えた。

 

心配性なお姉ちゃんから解放されてようやく帰れるとホッとしていた………

 

 

 

ニーミの後ろで沈みながらも主砲をこちらに回すセイレーンの巡洋艦が見えるまでは

 

 

 

「シュペー!?」

 

「シュペーさん!?何をっ?!」

 

「ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」

 

見る者に威圧感を与える血を思わせる真っ赤で巨大な艤装の両腕でニーミを包み込んで覆い隠すと、その瞬間にセイレーンの砲撃が私の両手を吹き飛ばした。

あまりの激痛に獣みたいな叫び声が出るけど、我慢して艤装の主砲をセイレーンに向けて発砲する。

 

「……う……あぁ…」

 

「シュペーさん!!」

 

「シュペー!!」

 

砲撃が命中したセイレーンはそのまま大爆発を起こして轟沈。

その瞬間を確認すると我慢していた痛みがぶり返してきた。

心配する2人に声をかけられるけれど、それより自分の腕を確認したい。

 

うん、腕は付いている。

 

「大丈夫………艤装が壊れただけ………」

 

「そんな……でも血が!」

 

「痩せ我慢なんてしないのシュペー!血だらけじゃないの!!」

 

「2人とも落ち着け!大丈夫かシュペー?ほら、両手を出してくれ」

 

大騒ぎする2人を宥めながら応急処置装置を持っているシャルンホルストが私を治療してグナイゼナウが母港に連絡してる。

無線越しに慌てる指揮官と今日の秘書艦だったグラーフ・ツェッペリンの声が聞こえてきた。

それを何処か他人事のように感じてシャルンホルストの応急処置を受けていると

 

少し…眠く……なった………

 

「……これでよしっと、ん?おいシュペー?シュペー!?」

 

「シュペーさん!?」

 

「ダメよシュペー!起きなさい!!」

 

気が付くと皆が覗き込んでいるのが分かる。

お姉ちゃんとニーミが涙を流しながら私を揺すっている感じがするけど身体が動かない。

 

あぁ……またお姉……ちゃんに迷惑………かけた…な……

 

必死に揺り起こそうとするお姉ちゃん達を見たのを最後に私の意識は、ほの暗い闇へと沈んでいくのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

私ことアドミラル・グラーフ・シュペーは転生者である。

 

前世の成人男性だった記憶と鉄の船だった前世の入り交じった特殊な転生者。

とはいうものの、人間だった頃から自分の意見を積極的に出せるような質ではなく、吹けば飛ぶような流され続けてきた人生を歩む影の薄い存在。

 

そんな存在が濃い大戦時の記憶と経験に殆どすり潰されて出来た精神が今の私だった。

 

どうせ戦うのであれば信頼のおける指揮官の下で今度は自爆して果てるのでは無く、味方を庇って敵の砲弾の浴びて沈めれば良いなと何処と無く考えていた。

新たに手に入れた身体でお姉ちゃんと一緒に着任した母港は暖かさが滲み出るような血に塗られた兵器である私なんかには勿体ない場所。

 

「ようこそシュペー、君の着任を歓迎するよ」

 

そう指揮官に言われて差し出された手を私は見つめて、握れなかった。

あまりにも暖かい雰囲気を放つ指揮官の手を私の手で握ってしまったら汚れてしまうのではないか?

そんな考えで躊躇していると

 

「あ、ごめん。いきなり馴れ馴れし過ぎたかな?」

 

苦笑いしながら手を引いて頭を掻く指揮官。

そして違う、そうじゃないという声を出す前に新たな任務を持ってきたニーミと一緒にまた仕事に戻る指揮官を私はただ見送る事しか出来なかった。

 

私は………どうすれば良いのか分からない。

 

その後の母港での生活は私に度々混乱を与えた。

戦う為に生まれたのにまるで人間のように生活する皆を見て

 

どうして笑えるの?

 

人間みたいに行動してるの?

 

私達は………殺す為の道具なのに………

 

次から次へとそんな疑問が湧き上がる。

 

指揮官も

 

「おはようシュペー、朝ご飯一緒に食べないか?」

 

「お?シュペーじゃないか。お散歩か?俺もたまには運動しなきゃな」

 

「助けてくれシュペー!このままだとヒッパーとニーミに書類浸けの生活を送らされてしまうぅぅ!!」

 

ことある事に私に絡んできた。

 

まるで私が人間のように見えているみたいに。

 

本当によく分からない。

私は兵器………KAN-SENという名前の戦う為の道具なのに何故そんなに話しかけてくるのか?

お姉ちゃんもそんな毎日を楽しそうにしている。

私には真似出来ないよ。

 

「指揮官はどうして私に話しかけるの?私は兵器だから話す必要は無い筈だよ?」

 

そう聞いたのがつい昨日の事。

指揮官はとても困った顔をしていたけれど、答えようとした所でヒッパーに捕まって執務室に連行されて行った。

そして私は理解不能のまま今日を迎える事に………

 

 

 

「ん………ここは………」

 

「ッ!?気が付きましたかシュペーちゃん!?」

 

 

 

目に入る光が眩しくて思わず呻き声を上げてしまうと、すぐ近くで私を覗き込むようにして診ていたヴェスタルが声をかけてきた。

どうやらここは母港の医務室のようだ。

 

「良かったぁ………あれから1日ずっと眠っていたんですよ?」

 

「そうなんだ」

 

「どこか痛い所はありませんか?」

 

「特に無いよ、大丈夫」

 

ヴェスタルによる問診と傷付いて包帯でグルグル巻きの腕を触診しながらの診察を受けて外を見るともう真っ暗だ。

こんな時間まで迷惑をかけるなんて申し訳ない。

 

「大丈夫だから部屋に戻るね?」

 

「え?シュペーちゃん!?まだ怪我が治ってませんよ?!」

 

「このくらい大丈夫。私は兵器だから」

 

「あ、ちょっと!?もうっ!ちゃんと治ってから………」

 

引き止めようとするヴェスタルにそれだけ言って医務室を後にする。

ヴェスタルが怒っているようだけれど別に沈む訳では無いので、戦闘継続出来る限りはこの程度の傷は損傷の内に入らない。

そして非常灯だけが照らす廊下を歩いて鉄血寮へ向かっていると

 

「シュペー!なんでここに居るんだ!?」

 

「………指揮官」

 

曲がり角の先から指揮官が現れた。

急いでいたらしく息を切らしているのが分かる。

そんな指揮官を見ながら彼の息が整うのを待っていると

 

「執務が終わったから少し見て行こうと思ってたんだ。医務室に戻ろうシュペー?まだ怪我が治ってないよ」

 

心配した様子の指揮官にそう言われた。

でもその必要性を感じない。

兵器としての性能が下がった訳では無いし、両手を使えなくても主砲が撃てて航行出来れば軍艦としては充分であるはずだ。

 

「この程度損傷の内に入らないよ。自室で次の任務に備えるから」

 

「何を……言ってるんだシュペー?」

 

「アドミラル・グラーフ・シュペー、中破なるも戦闘継続可能。自室にて戦闘任務に向けて待機します」

 

それだけ言って指揮官の横を通り抜ける。

兵器は兵器らしく戦う事だけを考えれば良い。

私は兵器で鉄血が誇る装甲巡洋艦 アドミラル・グラーフ・シュペーなのだから。

指揮官の横を通り過ぎて曲がり角を過ぎようとした時

 

「………ちょっと待てよシュペー」

 

「っ!?」

 

今まで聞いた事が無いような指揮官の低い声が背後から聞こえた。

そのまま鉄血寮へ進めばいいのに足が止まってしまう。

そして、後ろから指揮官が歩いてくる靴音が聞こえた。

 

「シュペー、何故そんなに自分を大事にしない?」

 

歩む足音がとても緩やかで聞き方によればまるで処刑人が歩いてくるかのような錯覚すら感じる。

 

「ニーミとドイッチュラントが心配してたぞ?あんなに心配してくれる皆がいるのに………何故答えようとしてくれない?」

 

すぐ後ろに指揮官が分かる。

身長差で頭の上から声が聞こえた。

 

「お前が兵器?確かにそうだな。セイレーンと戦う為に生まれた存在だよ……でもよ………」

 

両肩を掴まれて強制的に振り返らされる。

振り返って見た指揮官は

 

 

 

「生きてるじゃないか!人間のように心があるじゃないか!なんでそんなに自分を傷つける!!」

 

 

 

悲しげに表情を歪ませて溢れる涙を拭こうともせずに私に話しかけてきた。

そんな指揮官に私は何も言えない。

 

だって………分からないから。

 

こんなに涙を流して悲しんでいる指揮官に何をしてあげればいいのか?

前世の記憶は両方とも役に立たない。

流される男の記憶に人との交流や繋がりなんて知識は無いし、船の記憶では規律による統制によって兵器として運用される事しか知らない。

 

「分からないんだよ」

 

「シュペー?」

 

「こういう時にどうして良いのか全く分からないんだよ指揮官」

 

「………」

 

ありのままを指揮官に伝える。

人として扱おうとする指揮官に自分はどう反応すれば良いのか分からない。

この心を持つものとしてどう反応すれば良いのか全く分からない事を伝える。

 

「指揮官が教えてよ!私にはこういう時どうして良いのか分からない………理解できない!私は兵器で軍艦だよ!人間みたいに振る舞うなんて良く分からない………戦う為に生まれた私は、私達にはこんなもの要らない筈なのに………」

 

「シュペー………そうだったのか………」

 

感情の暴発とも言うべき取り留めのない言葉の羅列。

それでも指揮官は私の言葉をしっかり聞いてくれている。

何故出たのか分からない涙と言いたくてもハッキリと言えないもどかしさが私の心を掻き乱して暗い影を落とす。

 

 

 

こんな事なら………こんなに悩むなら………

 

 

 

「こんなに苦しいなら………心なんてモノいらなかった………」

 

 

 

 

不意にそんな言葉が口から出た。

理解できない分からないものが自分を苦しめるのならそんなモノが無ければ………無ければこんなに苦しく無かったのに。

こぼれ続ける涙を止めることもできずに指揮官にそう訴える。

 

「そうか…シュペーは知らなかったのか……分からなかったから苦しんでたのか………」

 

指揮官は悲しげに歪めた顔のままこちらを見つめてゆっくりと肩に置いた手を外して………私の両手を握ってきた。

 

「指揮官?」

 

「俺は勘違いしてたよ、シュペーが皆と打ち解けないのはまだ信用が足りないんだって、そう思ってた。でも違った……シュペーは知らなかったんだな?仲間や家族と一緒に居て感じる感情の事を…」

 

握られている両手が指揮官の両手によって暖められていく。

優しく労わるように握られた両手は何故か安心感を感じている。

 

「俺が………いや、俺だけじゃなくて皆でシュペーに教えるよ。これは1人で悩む事じゃないんだよシュペー?俺達に頼ってくれないか?」

 

「………いいの?」

 

「ああ、任せてくれ!それに鉄血の皆がよく言うだろ?鉄血の皆は家族なんだって。家族は互いに良い事や悪い事を分かち合える、迷惑を掛け合えて助け合えるもんなんだってさ」

 

指揮官は私の目を見てハッキリと言ってくれる。

なら聞かせてもらいたい。

 

 

 

「なら………私は指揮官の家族で……いいの?」

 

「勿論だ!遠慮無く頼ってくれよ?他の皆と比べて頼りないかもしれないけどな?」

 

 

 

非常灯だけが照らす廊下の中で涙を流し続けて不格好だったけれど、そう言ってくれた時の指揮官の笑顔は私にとってまるで太陽のように感じた。

この太陽の傍にずっと一緒にいたい。

 

これが最初に私が感じた家族への最初のわがままだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「あー、シュペー?」

 

「どうしたの指揮官?」

 

あれから数ヶ月経ったある日の事。

私は指揮官と一緒に秘書艦として働いていた。

 

「秘書艦として一緒に仕事してるのは分かるけどな?」

 

「うん、私も頑張ってるよ」

 

「そうだな」

 

指揮官から皆に私の状態について説明があったり、それに伴いお姉ちゃんから号泣しながら謝られたり甘やかされたりと色々あったけど。

 

「なんでシュペーは俺の膝の上で仕事をしてるんだ?」

 

「ここが1番落ち着くんだよ。仕事の効率も指揮官と近い方が上がるよ?」

 

「まぁ確かにそうなんだが………」

 

私はあの日から指揮官に着いて周り人間らしい感情を学んでいる。

それは食事の時も眠る時にも………お風呂とトイレは流石にお姉ちゃんに止められたけど。

 

「俺が落ち着かないんだよなぁ………」

 

「大丈夫、今のところは書類のミスなんかしてないみたいだから」

 

「いや、そうじゃなくて………」

 

たった数ヶ月だけど、一つだけ分かった事がある。

 

それは………

 

 

 

「指揮官?私は指揮官の家族だからいつでも良いよ?私はいつでも指揮官にされても大丈夫だから」

 

「え?」

 

「本当の家族………子供が出来るんなら3人は欲しいな」

 

「いやちょっと!?」

 

 

 

指揮官と一緒に居られるのならばどこまでも着いて行けるって事を………

 

 

 

 





という訳でアドミラル・グラーフ・シュペーでした。

1人で思い悩む無知系無表情な娘ってコンセプトで書いてみました。

陥落したらデレしかないってお約束付きで………

シュペーちゃん可愛いですよね!

TEKKETU KAWIIなんてプラカード作って振っちゃうお姉ちゃんの気持ちが分かります。

今回は感想無いのでここまです!

ではまた次回に


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