アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~   作:サモアの女神はサンディエゴ

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隠し味なんて想いだけ。

願うのは美味しく食べてもらう事。

下手でも一生懸命頑張れば、きっと美味しく出来るはず。

真心を込めて貴方を想って作ります。

だから、忙しい貴方へと私から贈る精一杯の応援を受け取って下さい!!




指揮官………ご飯作ってみました!

「ええっと………このワカメってのを水に漬けると元の大きさに戻るから、その間に鰹節っていうこの木屑みたいなのと煮干しっていう小魚の干したのをネットに入れて沸騰した鍋に入れて出汁を取る……だよね?」

 

私ことJ級駆逐艦ジャベリンは鳳翔さん謹製のお手軽簡単レシピと書かれたノートを確認しながら前世と今世合わせて初のお料理をしてます。

 

それもこれも毎日のように仕事を頑張る指揮官の為に。

 

私の指揮官は重桜出身で額の黒い角がチャームポイントで背が高くて〜、カッコよくて〜、でもでも優しいイケメンさんです。

そんな指揮官は毎日毎日が大忙し。

私達がしっかりと戦っていけるように書類仕事から演習先の予約取り付けに、補給物資の発注とその護衛に関する航路の計画まで朝から晩までずっと働き詰め。

 

そんな指揮官にはジャベリンの作ったお料理で元気一杯になってもらいたい。

でも指揮官の好みが分からないので出身地の重桜のお料理を作ろうと思ってお料理に詳しそうな鳳翔さんにお願いしてみると

 

「そうですか、それはいい事です。少し待ってもらえませんか?………はい、これ。ここに書いてある通りに作れば絶対失敗しませんよ?」

 

「わぁ〜、ありがとうございます! 」

 

そう言って笑顔でこの簡単レシピを貸してくれたのだ。

感謝の気持ちを表すように何度も鳳翔さんに頭を下げて材料と道具のその日のうちに揃えて学園の調理室に向かった。

材料や調味料の分量なども人数分毎に細かく書かれていて間違いようがない素晴らしいレシピなんだけど………

 

「え〜と………あれ?今どこまで読んだんだっけ?」

 

初めての料理で緊張して読んでいた部分を忘れちゃった………

 

「も、もう一度最初から読めば大丈夫………大丈夫だから………」

 

レシピ本を手に取ってもう一度最初から読み直して手元の作業内容を確認すると、味噌汁の基礎になる出汁を作る工程である事をようやく思い出す。

 

「うう…まだ最初だよぉ………緊張し過ぎて手が震えてるよぉ」

 

私は生まれてからというか、転生という不思議な体験をした前世の男性の頃から料理をしたことが無い。

前世の頃からお調子者でムードメーカーと言われた私は仕事や遊びなど色んな事に楽しみながら挑戦してきた。

 

でも料理だけは学校で調理実習をする時に塩と砂糖を間違えるし、しょっぱいなら酸っぱくすれば良いと思って酢を入れて怒られた事もあって全くした事が無かったのだ。

料理が出来なくてもコンビニに行けばお弁当やパンが売っていたし、お惣菜もスーパーに並んでいる物を買えば事足りる生活。

 

飽食の時代とも呼ばれた前世ではそれが当たり前だと、何も考えずに生活していた自分がこの身体に転生してから初めて料理に挑戦する。

この身体になって感性が女性のものとして固定されてしまい、艦の記憶から料理に関する知識が増えていっても前世の記憶からなのか料理が上手くいくとは思えなかった。

緊張でガチガチになるのを自覚しつつ、それでも毎日私達を支え続けてくれる指揮官に自分の作った料理を食べてもらいたい。

 

「指揮官の為に諦めない………諦めたくない!」

 

指揮官は多忙過ぎて普段の生活で食事をエナジーバーやエナジードリンクだけで済ませる傾向がある。

メイド長のベルファストさんやお医者さんのヴェスタルさんが止めてもどこからか持ってきた携帯食料で乗り切って仕事を続行するのだ。

 

唯一仕事を止めて食べた物といえば鳳翔さんが出してくれた指揮官の故郷の味と言われる"味噌汁"だけ。

あの時だけは指揮官がいつも額に寄っている皺を解いて心から美味しそうに飲んでいたのをとても珍しくて今でも覚えているのだ。

 

いつも頑張って私達を支えてくれる指揮官にもう一度味わってもらって、感謝の気持ちを伝えたいから頑張れる。

 

「うぅ…出汁が取れたら煮干しなんかを出して豆腐を入れて少し煮るんだよね?」

 

自分でも分かるぎこちない手付きで出汁の素となった煮干しや鰹節の入った袋を鍋から取り出して、震える手で握った包丁で切った大きさのバラバラな豆腐を鍋に入れていく。

何度か指を切ってしまった痛みを堪えて指揮官の笑顔が見れる事を願って豆腐を切ったあの時間。

包丁を使う事に不安と恐怖を感じながら頑張ったのだ。

ここまで来れば後は少し沸騰させてワカメを入れるだけ。

 

「ワカメはすぐに大丈夫になるから、火を止めて味噌を溶いて………またもう少し煮込むんだよね?」

 

あと少しの苦労で完成する味噌汁を不安一杯に感じながらも精一杯の真心を込めて見つめ続ける。

ワカメを良い感じに見えるので火を止めて味噌をお玉に必要な分だけ掬って菜箸でゆっくりと少しづつ溶いてまた火を着けた。

 

「あとは沸騰するのを待つんだよね?良かったぁ〜………こんなに難しいなんて普段料理を作ってくれる人達に感謝だね」

 

最後の工程が終わってホッとした。

そして、鍋の蓋を閉めると沸騰が早くなるのを鳳翔さんから聞いていたので閉めて待っていると

 

 

 

鍋と蓋の間から白い泡が吹き出てきた!?

 

 

 

「え?ええ!?どうしよう?どうするの!?」

 

突然の出来事に頭の中がパニックになって吹き出る泡を前にただ慌てているだけで何も出来ない。

どうすればいいのか分からなくて思わず鍋を手に取ろうとして

 

 

 

「火を止めるんだ!!」

 

 

 

突然聞こえた指示に咄嗟に従ってコンロの火を止める。

すると今まで吹き上げていた白い泡が止まってそれまでの出来事が嘘のように何も起きなくなった。

 

「ふぅ、危なかったぁ………あれ?今の声って」

 

危機が去り一息ついてふと先程の声の持ち主に思い当たり、声の聞こえた調理室の入り口に目を向けるとそこには

 

 

 

私の尊敬する人、指揮官がそこに立っていた。

 

 

 

 

「無事かジャベリン?火傷はしてないな?」

 

「は、はい。大丈夫ですけど………」

 

どうして指揮官がここに?

その疑問を口にする前に指揮官が私の手を握って自身の目の前に持っていく。

 

「火傷は無いが、怪我をしているな………綺麗な手をこんなにして」

 

悲しそうに言う指揮官に私も悲しくなってくる。

指揮官をこんな気持ちにさせる為に頑張って料理を作った訳ではないのに………

 

「朝執務をしていたら鳳翔にここに来るように言われてな?来てみたらジャベリンが慌ててそのまま熱した鍋に触ろうとしているのを見て声をかけたんだ」

 

私の指のキズを優しくなぞりながら、そう言う指揮官に申し訳無さを感じてしまう。

心配をかけてしまった事に心が苦しくて、そのせいで声が出なくて………涙がゆっくりと溢れてくる。

 

 

「それで、ジャベリン?」

 

「はい……」

 

声をかけてくる指揮官に顔を合わせることが出来ずに下を向いていると肩に手を置かれて

 

「ジャベリンの作った味噌汁、俺に食べさせてくれるか?」

 

優しい口調でそう聞いてきた。

 

「え?で、でも上手く出来てないし、さっきので美味しくなくなったかもしれませんよ?」

 

明らかに失敗したと思われる味噌汁を指揮官にお出しするなんてとんでもない。

溢れる涙をそのままにそう言うと

 

「ははは、大丈夫だジャベリン。さっきのは吹き溢れただけで味には変わりはないぞ?それにせっかくジャベリンが心を込めて作ってくれたんだ、俺はそれが飲みたいんだよ」

 

優しい口調のまま、笑顔でそう答えてくれた。

それが嬉しくて、胸いっぱいで、言葉に出来ない何かが私の心を満たしてさっきとは違う涙がいっぱい溢れるのを感じる。

 

「はい、指揮官!私の作った味噌汁を召し上がって下さいね♪」

 

用意していた器に鍋の中で出来上がった味噌汁をお玉で掬い、零さないように注いで指揮官へとお箸と一緒に渡す。

それを指揮官は香りを嗅いでゆっくりと口に含んで味わうように食べていった。

 

そして器の中身を全て食べ終わると一言

 

 

 

「ありがとな、ジャベリン」

 

 

 

そう笑顔でお礼を言ってくれたのだった。

 

 

 

 

後日談

 

 

 

「はい指揮官!今日のお弁当です!」

 

「おう、いつもありがとなジャベリン」

 

あれから指揮官の為に何度も料理を作っていくうちにある程度、料理をする事が出来るようになった私は指揮官のお弁当を作るようになった。

指揮官曰く

 

「ユニオンやロイヤルの飯は美味い、けど胃腸が弱い俺には胃もたれしやすくてなぁ………」

 

との事なので簡単で胃に優しいサンドウィッチ等を作って渡すようにしたのだ。

すると指揮官は喜んで食べるようになり、食べてくれる事で私も嬉しくなる。

 

「これからもお前の飯を食べていきたい」

 

「ふぇ!?し、指揮官!?」

 

この言葉は作った初日に皆が集まる食堂でお弁当を渡した時に言われて一瞬だけ食堂が静まりかえった。

 

指揮官の後ろで控えていたベルファストさんなんて目を見開いたまま硬直して動かなくなってるし、同じく指揮官の近くでエナジーバーを食べようとしていたエンタープライズさんなんてテーブルにエナジーバーを落としてしまっている。

 

「ん?なんだかいやに静かだな?」

 

「えっと………これで失礼しますね指揮官!!」

 

「あ、待ってくれジャベリン!」

 

お弁当を渡して私は猛ダッシュで食堂を後にした。

 

だって………

 

「待ちなさいそこのロイヤルの駆逐艦!指揮官様に愛妻弁当なんて………羨ましいわ!」

 

「そうですわ!どうやって指揮官にお弁当を渡せるのか教えなさい!」

 

「そういうのは幼なじみの私の役目よ?なんで貴女が渡すのかしら?」

 

「ジャベリン様、不肖の身であるこのベルファストにその方法を伝授しては頂けませんでしょうか?」

 

「指揮官が他の娘にお弁当を貰ってる?許せない!!」

 

「ねぇ?お姉さんにもその方法を教えて貰えないかしら?」

 

後ろからそんな声がいっぱい聞こえてくる。

というかいつもの指揮官に好意を持ってる方々の怨嗟のような声ばかり。

 

「指揮官のおバカぁぁぁー!!」

 

その日は一日中は母港中を騒がせる鬼ごっこが起きてしまい、委託も演習も出来なくなってしまった為に指揮官に皆で怒られてジャベリン以外のお弁当を受け付けないとお達しを私を除いたKAN-SENは受けて落ち込んでしまったらしい。

 

ちなみに当事者である私は発端を作ってしまった指揮官に謝罪の意味を込めて膝枕して状態で頭を撫でて慰められるご褒美を貰った。

 

 

 

こ、こんな事で騙されませんよ!!

 

 

 

………ふにゃぁぁぁぁ………

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

指揮官の為に健気に頑張るジャベリンをお送りしました。

こんなに健気に頑張る子を見てたら応援したくなりませんか?

私は頭を撫でてあげたいです。

アクロさんとは違いますよ?

違いますからね?

今回の更新が遅れてしまいすみません。

リアルでの仕事等で執筆時間を取れずに長く時間がかかってしまいました。

ようやく落ち着いて来たのでまた再開したいと思います。

それではまた次回もよろしくお願いいたします。

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