アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~   作:サモアの女神はサンディエゴ

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最初の出会いは桜の花道の真ん中で

朗らかに微笑む貴方に、優しそうな雰囲気を感じ取り

一緒に戦う毎日の中で貴方に惹かれていく

でも貴方の瞳に綾波は映らない

それでも良いと思ってた

あの時のあの瞬間までは………


綾波は羨ましい…です。

「あ、綾波?」

 

「綾波ちゃん?」

 

見てしまった。

 

ジャベリンと指揮官が学園の校舎裏で互いに顔を合わせていたのを見てしまった。

 

それを見た綾波は、胸が激しく痛んでその場から全速力で逃げ出した。

 

「指揮官………」

 

寮の部屋のベットで足を抱えるようにして座り込む。

胸が張り裂けそうで頭も真っ白でどうする事も出来ずにただ抱え込む。

 

この世界に綾波として生まれ落ちて数年、前世の記憶という不思議なモノを持って生きてきた中で受けた最大の衝撃。

前世の男性の記憶から戸惑いもあったけれども、女性としての感性を自分の中で育んで記憶と決別したばかりの自分にとって初めての体験。

 

恐らくこれが

 

「………失恋、なのです」

 

いつから惹かれていたのか分からない。

もしかしたら女性としての感性が育ち始めた頃から無意識に惹かれていたのかもしれない。

でも指揮官が選んだのは………ジャベリンだった。

 

「ジャベリンは友達なのです」

 

底抜けに明るくて可愛い女の子。

自分とは違って前世の記憶なんて混じり物のない純粋な女の子がジャベリンで、綾波にはそれが少し羨ましいと感じていた。

陣営の違う自分を最初に友達になりたいと言って手を差し伸べてくれた大切な友達。

本当なら諸手を挙げて祝福するのが普通なのだけれども、自分気持ちに整理が付かなくて祝えない。

 

「嫉妬なのです………みっとも……ないです」

 

引っ込み思案な前世の頃の男性の記憶なんて混じり物があるから、皆と少し距離を置いていた綾波の孤独な影をゆっくりと持ち前の明るさで照らしてくれた優しい友達。

そんな友達と好きな人が一緒になり、先を越されてしまった。

 

「どうすればいいのか……綾波には分からないです………」

 

悩み続けても解決しないその状況にもどかしさを感じつつ時間だけが過ぎていく。

結局悩みはそのままに、その日は部屋から出てこない事を心配してご飯を持ってきてくれた時雨や夕立に雪風の好意に甘えて一日中外に出なかった。

 

 

 

翌日

 

 

 

「今日はロイヤル艦隊との演習だ。各員しっかりと己の力を出し切るように」

 

演習海域で長門様が綾波達を見回すようにしてそう告げる。

綾波のどんよりと曇った気分とは裏腹に雲1つ無い蒼天の海原に集まった重桜艦隊。

主力として長門様、赤城さんに加賀さん。

前衛に綾波と愛宕さんに高雄さんという布陣だ。

 

「大丈夫か綾波?何か悩んでいるようだが…」

 

「お姉さんも心配してるのよ?」

 

高雄さんと愛宕さんがこちらを覗き込むようにして俯いていた綾波の心配をしてくる。

 

「ううん、なんでも無いのです」

 

これは綾波の問題。

今から始まる演習にそんな事で皆に迷惑をかけてはいけない。

心配している2人に見えるように首を振って剣を握る。

身の丈程ある大太刀を二振り、改となった綾波の主武装であるそれを片手に一振りずつ握った状態で演習開始の合図を待つ。

 

『演習開始まであと20・19・18……』

 

開始までのカウントダウンが始まって全身に力を込める。

今はただ一振の剣として目前の敵を倒す。

 

ただそれだけでいい。

 

 

 

 

「綾波」

 

「……赤城さん?」

 

 

 

 

不意に声をかけられて振り返ると赤城さんが真剣な表情でこちらを見ている。

何故声をかけられたのか分からずに首を傾げていると

 

「貴女、恋………してるのね」

 

「!?」

 

いきなり核心を突いてきた。

何も言えずにアタフタしていると赤城さんはゆっくりと近づいて綾波を抱き締める。

 

「可哀想な子ね。誰にも相談出来なかったのね?」

 

「赤城!もう演習は始まっているぞ!」

 

赤城さんにされるがままに抱き締められていると高雄さんの切羽詰まったような声が聞こえた。

 

だけど………

 

「うむ、赤城と綾波には時間が必要だな?ならば我らは時間を稼ごう」

 

「赤城姉様と綾波を護りながらの戦闘、出来ぬ訳ではあるまい?」

 

長門様と加賀さんがそう言って海原を走り始める。

それを見ていた愛宕さんも笑顔で

 

「可愛い妹分の為よ高雄ちゃん?精一杯暴れてあげましょう?」

 

腰に履いた刀を勢いよく抜刀して長門様達に続いて行った。

呆れたように首を振っていた高雄さんは

 

「はぁ………仕方ないな。だが、そういうのも悪くは……無いか」

 

獰猛な笑みを浮かべて愛宕さんと同じように刀を抜刀すると、いつの間にかこちらを偵察に来ていたソードフィッシュを対空射撃で撃ち落として吶喊を開始する。

 

「あとは任せたぞ!赤城!!」

 

「ええ、任せなさい」

 

綾波を抱き締める力を込めながら赤城さんが高雄さんに手を振りながら答えた。

そして、綾波の頭を撫でながらまた優しく抱き締める力を込めてくれる。

 

「綾波?」

 

「はい」

 

眠ってしまいそうにもなるその絶妙な力加減と暖かさに心地良さを感じつつ、抱き締めてくれている赤城さんを見ると優しく微笑んでいた。

 

「初めて恋をしてみてどうだったかしら?」

 

「えっと……」

 

「大丈夫よ?ここには私しかいないし今から聞くことは全部、私の胸の中に閉まっておくわ」

 

綾波は問いかけられた事にすぐに答えられなかったけれど、赤城さんは微笑んだままそう答えてくれる。

全部を言葉に出来るのかは難しかったけれど、赤城さんの包み込むような優しさにポツリポツリと話し始めた。

 

初めて恋をした事

 

その恋をした事を誰にも相談出来なかった事

 

つい昨日、その恋をした人と同じ人を大切な友達が好きになって先を越されてしまった事

 

伝える度に

 

「そうなのね」

 

「そう、苦しかったわね?」

 

と慈しむように撫でながら相槌を打つ赤城さんの聞き方にいつしか涙が溢れてきた。

そして、全てを話し終わった時に赤城さんは綾波の頬に手を添えて上を向かせる。

 

「綾波、貴女は私と同じね?」

 

「?どういう事ですか?」

 

微笑みながら赤城さんは答えた。

 

「私は指揮官様を愛してるわ。それこそこの世界を全て燃やし尽くしても足りないくらいにはね?でも、指揮官様の周りには私と同じようにあの方を想う人達が多くいるの」

 

しっかりと綾波の目を見ながら指揮官への愛を語る赤城さんの背にはまるで紅蓮の炎が吹き上がるのが幻視出来る程にその想いが見て取れた。

 

「でも、私の想いは誰にも止められない!!あの方を想う人達が居たとしても………それが私の愛よ綾波?貴女も先を越されたくらいでその恋を諦められるのかしら?大切に想うその心を止められるのかしら?」

 

熱い想いを語る赤城さんに当てられたかのように綾波の心が熱くなる。

 

そうだ。

 

綾波は指揮官が好き!

 

この想いだけは綾波だけのもの!!

 

ジャベリンに先を越された?

 

そんなの綾波の想いを諦める?

 

そんなの………そんなの………

 

 

 

「嫌なのです!!綾波は諦めたくないのです!!」

 

「ふふふ♪そうよ綾波、恋や愛は止められない………貴女も私と同じで燃え上がる炎で全てを燃やし尽くしても足りない程に想いを昂らせる」

 

綾波の心の内をさらけ出すと口角を吊り上げるように笑みを深める赤城さんが綾波を長門様達が吶喊した方角に振り向かせて

 

「さぁ行きなさい綾波。貴女の想いを邪魔するモノを踏み越えて………相手が先んじているとしても、それでも喰らいつくという宣戦布告をね?」

 

耳元でそう囁く。

綾波は全速力で飛び出した。

 

「後ろは気にしないでいいわ。その想いを………燃え尽きぬ想いの丈を叩きつけなさい!!」

 

赤城さんの艦載機が綾波の周りに着いてくる。

激戦区となった演習海域で突撃してくる綾波に気が付いたイラストリアスのソードフィッシュが攻撃しようと突っ込んで来るけれど、赤城さんの艦載機が迎撃して全て叩き落とす。

 

「綾波様が来ましたか…っく?!」

 

「お主の相手は拙者だ!!」

 

それにベルファストさんが気が付いて砲撃しようとするのを高雄さんが接近戦で刀を振り抜きながら追撃する事で抑え込む。

 

「行きなさい綾波ちゃん!ここはお姉さんが!!」

 

「ああ、誇らしいご主人様………どうかこの卑しきメイドに力を」

 

連続砲撃でシリアスを足止めし、刀で大剣に鍔迫り合いに興じながら大立ち回りをする愛宕さんがウィンクしながら綾波を送り出す。

 

「吹っ切れたか綾波………ならば余も全力を出すとしよう。余は長門……重桜の長門である!」

 

「はぁ!?ちょっと!!いきなり本気を出さないで………きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!?」

 

長門様がクイーンエリザベスに何発もの光弾の雨を降らせながら41cm連装砲で砲撃してこちらに近づけさせないようにしてくれた。

 

「さぁ、見せてみろ!その上で喰ろうてやるぞ………ロイヤルの装甲空母の力をなぁ!」

 

「あら?なかなか激しいワルツを踊る方ですのね?では御1曲お付き合い致しますわ♪」

 

加賀の艦載機とイラストリアスの艦載機が激しいドッグファイトを繰り広げながら本人達も互いに回避行動を取りながら遠ざかっていく。

 

「行きなさい綾波!貴女の想いを………その想う炎を見せつけてやりなさい!!」

 

「一生懸命に走る駆逐艦の子は可愛いなぁ………っ!?敵機直上だと!?」

 

鼻からナニかを流していたアークロイヤルに爆撃機を次々と急降下させて注意を引いてくれる赤城さん。

 

ここまでお膳立てしてくれたみんなの為にも綾波は………伝えるのです。

 

 

 

「綾波ちゃん!!」

 

「ジャベリン!!」

 

 

 

向かい合うようにして槍を構えるジャベリンに綾波は両手にもつ大剣の柄を連結して構える。

 

接近しながら頭上で回転させて連結した大剣を振り下ろすとジャベリンはその持ち前のスピードでサイドステップを踏んで回避して逆に槍を突き込んできた。

それを連結を解除する事で軽くなり片手で振るえるようになった剣で掬い上げるようにして払い除ける。

 

払い除ける剣を死角にして左側の魚雷を発射するけれど、それは向こうも同じ様で右側の魚雷発射管から魚雷が滑り落ちるのが見えた。

互いにそれを確認してその場を離れると魚雷同士がぶつかり合ったのか大きな水柱を作り上げる。

 

そして互いに距離を取った相手に向かって主砲を構えた。

 

「綾波ちゃん、凄く強いね」

 

「ジャベリンの方こそ、攻撃が当たらないです」

 

互いに得物を構えたままの会話。

 

いつ再開してもおかしくはない状況の中で互いを見つめ合ったまま動かない。

 

「ジャベリン」

 

「何かな綾波ちゃん?」

 

ジャベリンに想いを伝える為に大きく息を吸う。

 

 

 

「綾波は指揮官が好きです!大好きです!!この想いは誰にも負けないのです!大切な友達のジャベリンにだって絶対………絶対負けないくらい大好きなのです!!」

 

 

 

それは海域全体に響き渡るような自分でも驚くくらい大きな声だった。

こんなに大きな声を出したのは初めてだったけれど、今まで感じていた胸の澱みが全部どこかへ吹き飛ぶような感じがした。

 

そんな清々しさを感じつつジャベリンを見ると

 

「へ?そ、そうなの?あれ?」

 

なんだか困惑した様子で首を傾げている。

 

………予想していた反応と違ってなんだか嫌な予感がした。

 

「………ジャベリン?」

 

「あ、いや、え〜とぉ………」

 

ジャベリンの言葉が続かない。

本当に嫌な予感がしてきた。

 

「あ、あのね綾波ちゃん?」

 

「?」

 

何となく気まずそうな雰囲気で、ジャベリンが頬を掻きながら綾波を呼ぶのを首を傾げながら聞いていると

 

 

 

「この前の事で勘違いしてるみたいなんだけどね?あれは指揮官から綾波ちゃんの好きな食べ物とか、どんな贈り物だったら喜んでくれるのかとか………指揮官からの内緒で聞かれてただけなんだよね」

 

 

 

 

………?

 

…………………!?

 

「え?ええぇぇえ!?」

 

理解するのにだいぶ時間が掛かってしまったけれど、これだけはハッキリと分かる。

 

「つ、つまり………綾波の勘違い?」

 

「う、うん」

 

どうしよう、凄く………気まずい………

 

「え〜とね、あの、あのね綾波ちゃん?」

 

「………なんですかジャベリン?」

 

真っ赤になり俯いているとあたふたしながらジャベリンが

 

 

 

「りょ、両想いだね綾波ちゃん!!」

 

 

 

トドメ刺してきた。

 

「………いっそ……殺せ…です」

 

「綾波ちゃん!?」

 

羞恥心のあまりその場に崩れ落ちてしまう綾波にジャベリンが慌てて駆け寄る。

 

 

 

結局その日は恥ずかし過ぎて動けず、ジャベリンから励まされながら海域から母港へ牽引される事となった。

 

しかも、あの告白が実は中継用の観測機から指揮官のいる執務室のスピーカーに繋がっていて丸聞こえだったというオチまで付いて…………

 

そのせいで綾波はしばらく部屋から出られなくて軽い引きこもりになってしまったのでした。

 

 

 

後日談

 

 

 

「綾波はやや波………ううん、ダメ波なのです………」

 

「大丈夫だよ綾波ちゃん、指揮官も待ってるよ?」

 

扉の前でモジモジする綾波をジャベリンが励ましてくれる。

でもこの扉の先で待っている指揮官に会うのがとても緊張して足が動かないのだ。

 

「ああもう!もう少しなのに………あ、そうだ」

 

「どうしたのですジャベリン?」

 

いつまでも動かない綾波を見て眉を顰めていたジャベリンが何かを思い付いたようで声をあげる。

 

「動けない綾波ちゃんの代わりに私が指揮官の所に行くね?」

 

そう言ってジャベリンが扉に手をかけた。

 

 

 

「それはダメなのです!!綾波の指揮官は渡さないのです!!」

 

 

 

綾波の指揮官は渡せない。

 

そう思い、ジャベリンを押し退けるように扉を開く。

 

「ふふ♪そうだよね♪ほら、扉を開けれたよ?」

 

ジャベリンは笑いながら扉を指差す。

 

大きく開け放たれた扉の向こうに眩い光を浴びて綺麗に写るステンドグラスと赤いカーペットの敷き詰められたチャペルがあり、その先に優しく微笑む指揮官の………綾波の大好きな指揮官がそこにはいた。

 

「ほら、行っておいでよ?指揮官が綾波ちゃんを待ってるよ?」

 

弾けるような温かな笑顔でそう言うジャベリンが綾波の背中を押す。

 

この日の為に着てきた綾波だけの白無垢の裾がふわりと揺れた。

 

「綾波ちゃんの晴れ姿を後ろから見てるから、いっぱい幸せになってきてね♪」

 

ジャベリンからの祝福の言葉に勇気を貰い、意を決して綾波は歩き出す。

 

高鳴り続ける胸を抑えながら1歩ずつ。

 

愛しい指揮官の待つその先へと………

 

 

 

「どんなことがあっても指揮官のもとに居るのです……だって、指揮官と一緒にずっと居たいですもの……」

 

 

 

辿り着いた指揮官に勇気を出してそう告げると頬に手を当てて、優しく触れるように………甘酸っぱいキスをしてくれました。

 

 

 

 





という訳で勘違いからの自爆する綾波でした。

一途でピュアな娘ってものなかなか良いですよね?

赤城さんの励ましはアニメや原作の仲間思いな部分を考えてライバルが増えるけど、深刻そうに悩んでいる子を見ていたら思わず手を差し伸べてしまうだろうという作者の妄想です。

さて、感想返し…………

ジャベ弁………アニメで出てましたけど、美味しそうなサンドウィッチでしたね。

私も食べるぅぅぅぅ!!

ポネキとアクロが出るのを待ってる。

ポネキは既にネタは浮かんでいます。

ポネキは大暴走しやすいので書きたい事から逸れ過ぎないように注意しなければ………

アクロさんは………すでに構想は完成しています。

あとは文字にするだけですね。

あと皆様に毎度申し訳ないのですが、TS要素薄くてすみません。

作者の執筆能力が低過ぎて男性から女性へと変わる感性の葛藤なんかを書きたいのですが、どうも上手く出来ません。

しかし、TS要素を外すと何故か出てくる登場キャラを虐めたくなる謎の衝動のせいで、シリアスと鬱要素を混ぜて×二乗した誰が救えるのこれ?が出来てしまうのです。→(1度サラトガとサンディエゴの執筆中にやらかしてデータ全消ししました)

本当に申し訳ありませんが、私の妄想の産物であるこの作品を生温かい目で見守り下さい。

それではまた次回


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