アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~ 作:サモアの女神はサンディエゴ
閃光が煌めきを見せて私を照らす。
身体を照らす閃光が私を焼いていく。
痛くて痛くて堪らないけど。
この背にいるあの人だけには閃光が届かないように。
さかなきゅん、もう少し私に付き合ってくれるかな?
「ライプツィヒ、聞いてるか?」
はい指揮官さん、聞こえてますよ?
指揮官さんの語りかけるような声が私の耳に届いて返事をする。
ベットから起き上がって指揮官さんがいるであろう方向を向くと急に肩を掴まれて
「いや、そのままだ。寝たまま聞いていい」
ゆっくりと寝かせられて毛布をかけられる。
でもなんだか私だけが寝ているなんて申し訳ない気もするような………
そう思いながら毛布を握り締めると指揮官さんが優しく頭を撫でてくれた。
髪を指で梳かしていくようにゆっくりと撫でてくれるので、とても気持ち良くてつい笑みが溢れてしまう。
それを見られたのか指揮官さんが頬に手を当てながらさらに優しく撫でてきた。
とてもとてもとっても嬉しくなって頬に当てられた手を両手で被せるように当てると
「痛くないかライプツィヒ?」
不意に指揮官さんがそう聞いてきた。
私は何度も頷いて大丈夫である事を指揮官さんに伝えるとホッとしたようなニュアンスで
「そうか」
と言葉短く答える。
まったく、指揮官さんは心配性だなぁ。
そう思いながらもっと撫でて貰おうと頭を撫でている手に少しだけ押し付ける。
指揮官さんは黙って撫でてくれた。
「お前に会ってもう2年か………早いもんだな」
長い間撫で続けた指揮官さんがポツリと呟く。
しみじみと噛み締めるように呟く指揮官さんの声はそれっきりだった。
私も指揮官さんにならって2年前の事を思い出す。
あの頃は………少し、恥ずかしい思い出ばっかりだ。
今でこそ当たり前のように受け入れてはいるものの、メンタルキューブという摩訶不思議な立方体から建造という名の理解不能な技術によってKAN-SEN ライプツィヒという私は誕生した。
前世の陰キャで人見知りで若干上がり症だった男性時代の記憶を引き継ぎながらこの世界に産まれて、女性としての感性を植え付けられ混乱した状態のまま話しかけられるだけでもキョドってしまうようなコミュニケーション能力が底辺だった私。
それでも家族だと仲間だと戦友だと受け入れてくれた皆がいてくれたからこそ、2年間も一緒に戦い続けることができた。
世界を蝕むセイレーンという脅威に対抗して戦い占領された海域を解放しながら、戦局を優勢に持ち込めたほんの少しの休息。
誰もが一息の休みに心を落ち着けて戦いの事を忘れる一時を過ごしていたあの日………
セイレーンはそこを狙って私達の本拠地である母港に襲撃してきたのである。
必死に戦った。
さかなきゅんの砲身が真っ赤に染まりいくつかの砲が熱でネジ曲がりながらも無事な砲で撃ち続けなければならない程の大艦隊に、私達は疲弊しながらも励まし合いなんとか凌ぎ続けた………
………でも、想定外の出来事が起きてしまった。
なんとセイレーンの上位個体であるピュリファイアーが母港内に侵入して直接攻撃を仕掛けてきたのだ。
しかも通信回線がセイレーンの艦載機による先制爆撃で寸断した為に補給や防衛ラインの情報を直接聞きに来た指揮官さんと鉢合わせするタイミングの悪さ。
指揮官さんを見たピュリファイアーは驚きながらもサメに似た艤装の口のような主砲から光を溜めながら照準する。
主砲の壊れたさかなきゅんの修理の為に一度母港に戻って補給所への移動も兼ねて指揮官さんと一緒に歩いていた私は………指揮官さんの楯となる為に精一杯両手を広げて立ち塞がった。
さかなきゅんも指揮官さんを押し倒して覆い被さり、壊れた主砲を強制的に外す事でこちらに手を伸ばそうとしていた指揮官さんの手を完全に覆い隠す。
これで指揮官さんの安全は確保できた。
思い残す事もないかな?
こんな陰キャでコミュ症な自分を引き入れてくれた指揮官や皆には感謝しているし、こんな自分でも出来る事があるというのはとても嬉しかった。
上がり症で何を言ってるのか分かりにくいのに、一呼吸置いて落ち着くようにしてからゆっくりと話を聞いてくれる指揮官さんの優しさが嬉しかった。
失敗して落ち込んでいたら何も言わずに頭を撫でて励ましてくれる指揮官さん。
休日に一人部屋の中で閉じ籠ってた私をお茶会に誘ってくれた指揮官さん………
思い出す事は指揮官さんの事ばかりで思わず笑っちゃいそうになる。
ああ………メンヘラみたいで少し落ち込むけどこんな自分でも想う事があるんだなぁって考えてるとやっぱりここは絶対に引けない!!
だってこんなに大切な指揮官さんの為ならば、自分の命と引き替えても護ってみせる!!
私の代わりは………いっぱいいるし、私みたいな前世が男だった気持ち悪い存在が指揮官を想う事は迷惑だから………
せめて………こんな私でも………貴方を護る権利を下さい!!
真っ暗闇の世界で熱いのが終わる。
後ろで指揮官さんが何か言ってるけど………
もう聴こえないなぁ………
よく聴こえませんよ指揮官さん?
浮き上がる感覚………もしかして指揮官さんが私を抱えてる?
ダメですよ指揮官さん、いつも……カッコよく着こなしてる軍装………汚れちゃい…ますよ?
ああ………よく………分からない……けど………まもれたか…な?
指揮官さんを護れた安堵からそのまま意識を失ってしまって後から聞いた事だけど、補給の為に母港に戻っていた鉄血の皆が攻撃の光を見てすぐに駆けつけて来てくれたからピュリファイアーはすぐに逃げたみたい。
そして指揮官さんは倒れた私を抱き抱え、母港の誰もが見たことの無いような速度で明石ちゃんとヴェスタルさんの控える救護室まで駆け抜けたそう。
それから二人に私を預けると鉄血の皆を伴って前線の指揮に戻り、見事セイレーンの大艦隊を退けたとのこと。
あの時護れて本当に良かった。
私みたいな存在でも護れるモノがあって良かった………
でも………その代償はとても大きくて、私の身体は使い物にならなくなってしまったのだ。
明石ちゃんとヴェスタルさんが言うには外見こそ元に戻ったけれど視覚は完全に無くなり声も出せず、足は動くけど身体を支える程の力は出ない為に歩けないとのことだった。
………私、スクラップになっちゃった。
話を聞いて最初にそう思った、思ってしまった。
指揮官さんの指揮の下で戦えなくなっちゃった………
皆と一緒に海に出る事もできなくなっちゃった………
軍艦なのに戦えなくなっちゃった私の存在価値ってなんだろう?
一人でいる間ぐるぐるぐるぐるとそんな考えが頭の中を回り続けた。
それこそセイレーンの襲撃の後始末や報告書を纏め終わった指揮官さんが私の様子を見に来るまでの三日間、ずっと考えていた。
やっぱり、解体が一番良いよね?
戦えない上に満足に日常生活すらできない足手まといは母港にいちゃいけないんだよ。
皆に迷惑をかけちゃうようなダメダメなKAN-SENなんて解体するのが一番良いに決まってる………だから。
最期に指揮官さんに撫でて貰えて良かったなぁ………
私が楯になった事で損傷軽微なさかなきゅんなら私を乗せて解体してくれるドックまで運んでくれるはず。
だから、最期の指揮官とのふれあいを大切にしよう。
ね?さかなきゅん?明日はお願いね?
艤装でありながら生きているとも言えるさかなきゅんとの通信で明日の計画を伝えると………返事が返ってこない。
あれ?おかしいな?さかなきゅん?
通信は繋がっているはずなのにさかなきゅんからの返事がまったく返ってこないし、何度も繰り返し通信しているのに反応が無い。
いったいどうしたのだろうか?
さかなきゅんに何かあったのだろうか?
そんな不安が胸の中に湧いてきた頃にさかなきゅんから短い唸り声が通信で返事として返ってきた。
あ、さかなきゅん………ビックリしたよ!返事が無かったから何かあったかと思ったよもう!!
ようやく返事を返してくれたさかなきゅんに少し怒りつつもひと安心。
もう一度明日の計画をさかなきゅんに伝える。
だからねさかなきゅん?明日、ここに来て私を乗せて行ってくれないかな?お願い!!
するとまたさかなきゅんからの返事が返ってこない。
もしかして心配してるのかな?
でも戦えない軍艦はスクラップにしないと維持費なんか掛かるから結局迷惑をかける事になるから早めに行動しないと………よし!
私は努めて優しく伝わるようにさかなきゅんに通信を送る。
さかなきゅん?どうしたの?私は大丈夫だよ?
皆とは楽しく過ごさせてもらったし、指揮官さんには大切な思い出を貰えたからね?
だからもう、思い残す事は無いよ?
心配してくれてありがとうさかなきゅん。
これでさかなきゅんも返事をしてくれるかな?
そう思って指揮官さんの撫でてくれる手を堪能しようと意識を戻すと………指揮官さんの手が止まっている。
あれ?おかしいな?もっと撫でて貰おうと思ったのに………もう終わりかな?
あぁ、もう少ししっかりと覚えておきたかったのに………返事が遅いよさかなきゅん………
さかなきゅんに怒りつつも残念な気分で頬に当てられた指揮官さんの手から自分の手を離す。
これから指揮官さんはまた仕事に戻るのだろう。
忙しいのに心配かけてしまったのが本当に申し訳ない。
これでさようならですね指揮官さん………
名残惜しい気もするけれど明日に備えて休息を取るべきだろう。
この弱った身体で動くのは一苦労のはずだから今のうちに体力を温存しないと計画に支障をきたす可能性がある。
指揮官さんの手が私から離れるのを感じたらすぐに眠る事にしよう。
心穏やかに名残惜しい指揮官さんの手が離れるのを待っていると………いきなり背中に手を回されて抱き起こされた!?
そのまま力強く抱き絞められる。
はぇ!?指揮官さん?嬉しい………じゃなかったいったい何ですか?!
突然の抱擁に混乱していると指揮官さんの身体が震えているのに気が付く。
しかし、その状態でも片手で私を支えてもう片方の手で私の頭を撫でてくれた。
指揮官さんに抱き締められながら撫でてくれるなんて、幸福のハッピーセットがきているのに震えている原因が分からずに混乱が続いてしまう。
そしてされるがままにしていると
「………俺の前から居なくならないでくれライプツィヒ」
小さな声で私の耳元に呟くような感じで指揮官さんが話し、鼻を啜るような音も聞こえる。
もしかして指揮官さんが泣いてる?
自身で感じた事を予想してみたが、たぶん間違いない。
指揮官さんは今、泣いている。
嗚咽を含みながら私を抱き締めながら泣いているのだ。
その上で指揮官さんは口を開く。
驚愕の事実を私に教えてくれた。
「ライプツィヒ、お前は………大事な家族のさかなきゅんになんてお願いをしてるんだ?この三日間でさかなきゅんには、お前の考えた事や感じた事が伝わっていてな?今日の艤装整備をしていた夕張のパソコンにその全てが表示されていたんだ」
本当に驚いた。
さかなきゅんがそんな事をしていたなんて分からなかった。
慌てふためく私に指揮官さんは
「夕張が無理矢理したわけじゃないぞ?さかなきゅんは自分から全部表示してくれたんだ………そう、今もな」
そう言ってまた抱き締めた手の力を強くする。
その力強さは絶対に離さないという意思をありありと感じる事ができた。
そんな中で一つの疑問が浮かんだ。
………あれ?今もって指揮官さんが言ってたけど、もしかして指揮官さんの事を想ったメンヘラな部分とか恥ずかしい思い出の話も?
「現在進行形でさかなきゅんから俺の見ているタブレットの画面に送信してもらってるぞ」
思っている事に対しての返答がすぐ横にいる指揮官さんから返ってきた。
つまり指揮官さんには私の考えている事が分かっているということだ。
よし、自爆した恥だらけの私をすぐに解体してもらおう。
「待て待て待て!恥ずかしいのは分かるが早まるな!!」
指揮官さんの腕の中でジタバタと暴れてみるも弱った身体では抜け出す事は出来ずにただ疲れるだけ。
そうしてグッタリとした私を抱き締めたまま指揮官さんがまた頭を撫でてくれた。
そして指揮官さんはゆっくりと話し出す。
「聞いてくれライプツィヒ。お前がそんな風に俺の事を想ってくれたのは凄く嬉しかったんだぞ?………でもな」
不意に撫でるのを止めて私の頬に手を当てる。
そして額と額を付けながら一つ深呼吸をするのを感じた。
「そんなに想ってくれたお前が居なけりゃ俺は………俺の想いはどうすればいい?誰に俺も好きだって伝えりゃいいんだ?」
そう言ってまた指揮官さんは泣き出してしまった。
ぜんぜんそこまで考えが回ってなかった。
正直、私の想いが届くなんて考えてなかったし思いもしなかったのだ。
「お前の代わりが居る?そんなの何処に居るんだよ?俺の知ってるお前はここに………俺の目の前にいるお前しかいないんだぞ?そんな勝手に………勝手に消えようなんてするなよ!残される方はどうすればいいんだ!!」
本当に衝撃を受けると頭を殴られた気分になるとよく言われるけれど、自分がその体験をするとは思わなかった。
本当に重いハンマーのようなもので頭を殴り付けられたような衝撃が響いている。
指揮官さんの慟哭で目が覚めたような気分だ。
「解体なんてさせないぞ………ビスマルクやプリンツ達の鉄血の皆だけじゃない、他の陣営の皆だってお前がそんな風になるのを望んでない!仲間だって戦友だって、家族だって言える人が苦しんでるのに………助けないような連中じゃないんだよ!!今だって皆心配してるんだよ!!」
心がポカポカするような気がする。
何も見えないはずの両目から皆の顔が写るのだ。
家族だと言ってくれる鉄血の皆に仲間だと言ってくれるユニオンやロイヤルの皆、戦友だと言ってくれる重桜やヴィシアや東煌などの陣営の皆が浮かんでくる。
皆がいたから頑張って来れたのに、そんな皆を蔑ろにするような真似をなんでしようと思ってしまったのか………
自然と涙が溢れた。
何も見えなくてもすぐに浮かんでくる皆に、そして思い止まらせてくれた指揮官さんの優しさに覚悟を決めて消えようとして我慢した涙が止まらない。
「何が迷惑だ!大好きなお前が命に賭けて俺を助けてくれたんだぞ?そんなお前が消えるなんて間違ってる!!迷惑をかけてくれ!!家族だろうが!!」
互いに泣きながら、でも指揮官さんは私に熱い想いを言葉に乗せて伝えてくる。
そんな事を聞かされたら洪水のように流れて溢れる涙を止められない。
泣き続ける私を抱き締めながら指揮官さんは
「だから………だからなライプツィヒ?もっと俺に迷惑をかけて欲しいし、本当の家族として側に居て欲しいから………俺と結婚してください」
そう言って私の右手の薬指にナニかをスルリと嵌めた。
一瞬それがなんなのか理解出来ずに確認の為に左手で触ってみると硬い金属の輪っか………指輪だという事が分かった。
分かった瞬間に指揮官さんに向かって何度も頷いた。
すると指揮官さんは両頬に手を当てて私の顔を押さえるとゆっくりと情熱的なキスをしてくれたのだった。
互いに涙を流してボロボロなプロポーズだったけれども、私にとっては一生の思い出になる最高の瞬間となった。
これからとても大変な日常が待っているのだろう。
だけど………
私の思いに応えてくれて、嬉しいです……指揮官のためにも私、絶対倒れないように頑張ります……!
タブレットを見ているであろう指揮官さんにそれだけ言って笑顔で私の方からキスをするのでした。
自己犠牲もここまでくると暴走と変わらないものなのです。
残す方も辛く、残される方はもっと辛い………
試行錯誤しながらのライプツィヒでした。
鉄血軽巡3人衆の限界突破で入手可能となる彼女は最初に見たその儚さに、いつかこの立ち位置で書いてみたいと思っていた一人でした。
少しくどくなるような言い回しなどが難産でとても楽しい執筆でしたよ。
感想で出して欲しい娘のことを書かれていらっしゃいましたが、先に書きたい娘が何人か居ますので先にそちらを書いてからになるでしょう。