アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~   作:サモアの女神はサンディエゴ

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それは遅過ぎた自覚。

時期を逃したその瞬間に恋という名の戦争には敗北している。

でも、それが自分で分かるようになるのが大人になるって事なのかな?



指揮官、恋を知ることに罪は有りますか?

私は失恋した。

 

気が付いた時には失恋していた。

 

ニートで自宅警備員だった穀潰しな男性の前世から巡洋戦艦 レパルスとして生まれてこの2年で前世と今世で初めて自覚した恋。

 

しかし、その恋は儚く散ってしまった。

 

前世とは違い仲間に囲まれて明るく活発になった自分が嬉しくて、ただ前を向き続けて走っていた結果………初めて自覚した恋を逃したのだ。

 

恋の相手はうちの母港の指揮官で、すでに恋人がいて婚約まで済ませていたのだから勝ち目が無さ過ぎる。

自分でも笑いが込み上げて来るほどに勝ち目が無いのだから始末におけない。

 

指揮官のその思い切りの良さと細やかな気配りの効く優しさと包み込むような器の大きさに2年間もかけて徐々に惹かれてしまい、いつも目で追ってるな~位にしか考えていなかったのが一番の敗因なんだろう。

 

だって………そんな事を学校じゃ教えてくれないし、家に引き籠ってた前世でもこんな感情を持った事が無いから分からないんだもん。

 

「あ~あ、なんで気が付いちゃったんだろ私」

 

茜色に染まり太陽が地平線に沈む空を見上げながら母港の埠頭に座って自嘲気味に呟く。

もうすぐ寮に戻って夕食の時間になるけれどもう少しだけここで空を眺めていたい。

 

「だいたい自覚したキッカケが結婚式を挙げるって報告を聞いてからとか救えないよね~………はぁ」

 

しかもこの身体になってからついついやってしまう即断即決の安請け合いで結婚式のスピーチまでする事になってしまっているのだ。

 

自分の心の整理すらついていないのにね。

 

それにこの恋には実らない事がその前に確定している。

 

 

 

何故ならうちの指揮官は………女性なのだ。

 

 

 

前世の性別からすればおかしくは無いのだろうけど、今世の身体………女性の身体に生まれて女性に恋をしたなんて周りが認めてはくれないだろう。

失敗しても次に活かせるフォローをしてくれるイケメンな対応力があって、頑張ろう相棒!………なんて笑顔で肩を叩きながら言われたら落ちるでしょ普通。

あれをおっぱいの付いたイケメンって言うのだろう。

 

世知辛い世の中になったもんだ。

 

まぁとにかく、自分のこの気持ちに決着を着けないとせっかくの指揮官の門出にケチがついてしまう。

そんなの指揮官の幸せを願う私は絶対に嫌だし、自分のせいでそうなるのはもっと嫌。

 

「頭では分かってるんだけどねぇ………」

 

足を腕で囲い膝を立ててその間に顔を入れて目を閉じる。

暗闇の中で少しずつ指揮官の幸せの為に諦めようと自分自身に声をかけているのだけれど頑固な私がそれを拒否するのだ。

 

やっぱりこんな気持ちじゃ指揮官の結婚式のスピーチは難しいから、ロイヤルが誇るメイド長に任せた方が良いんじゃないだろうか?

 

弱気になってしまった自分がそう囁く。

思わず頷きそうになるが、これは自分から引き受けた事だし指揮官も相棒なら任せられると笑顔で言ってくれた。

この信頼に答えなければ自分はいけないのだ。

 

指揮官が頼ってくれたのだから………

 

「………戦闘より難しいよこれ。狙って~ポンって感じで簡単にいかないかなぁ」

 

ゆっくり目を開けて戦いでつい言ってしまう口癖を挟んで軽く言ってみるけど、いつもならこれで決まるのにそんな様子は全くない。

 

自分には向いて無いのだろうか?

 

段々心が寂しくなって弱気が出てくる。

これじゃ前世の部屋から出られない弱々しい自分と一緒になっちゃう。

そんなのだけは絶対に嫌なんだけど………ってまた変な方に考えてが寄り道しちゃってる。

 

「はぁ………あれ?」

 

考えの袋小路に嵌まり続けているうちに太陽が完全に海の中へと沈んでしまっていた。

辺りは母港の明かりと空の星が煌めく夜の世界。

もう夕食は始まっているだろう。

 

「今日は晩御飯抜きかなぁ………」

 

自分で言った事に苦笑いを浮かべながら、また膝の間に顔を埋める。

今の弱々しい心には暗闇が心地良い。

 

「私もバカだなぁ………今さらこんな気持ちになるなんて」

 

どうすればいいか分からない。

自分の判断能力を越えているようにしか思えない難題に処理落ちしそうだった。

初めての感情を処理しきれずにウダウダしているのが性に合わないのだけれど、処理出来ないものは出来ないから困っているのであって………あぁ駄目だ駄目だ駄目だまた考えが脱線してる。

 

「うっがぁ~、頭が破裂しそうだよ………ほんっとに訳分かんないよ!」

 

頭痛までしそうなドツボな悩みっぷりに思わず顔を上げて空に叫んでみる。

まぁ、答えなんて出やしないんだけどね。

 

 

 

「ここにいましたかレパルス、探しましたよ?」

 

 

 

 

不意に聞こえた声に身体をビクリとさせてしまうが、聞いたことのある声だったので肩の力を抜く。

その人物はこちらに歩み寄り、私の後ろで立ち止まる。

 

「陛下が怒ってましたよ?夕食は母港にいる皆で食べるのが規則だと」

 

「分かってるよ姉さん」

 

チラリと顔だけ振り返ると私の姉であるレナウンが風で靡く髪を抑えながら困ったような表情でこちらを見ていた。

そして私の肩に手を置きながら

 

「だったら戻りましょうレパルス、今なら陛下も許してくれるはずですよ?」

 

笑顔でそう言ってくる。

何も知らないくせに………なんて八つ当たりめいた感情が湧くけれど、この姉は純粋に心配して来ているのだからその八つ当たりをぶつける訳にはいかない。

どうしたものかとまた頭を悩ませていると

 

「悩み事ですかレパルス?頼りになるかは分かりませんが、私にも相談してください。誰かに話すと楽になるとはよく言いますし、私は貴女の姉なのですから」

 

いつの間にか隣に座っていたレナウンがこちらを覗き込みながら訊ねてきた。

真面目な顔をして聞いてくる姉にそれも良いかなと思った私は恋を生まれて初めて経験してしかも失恋してしまった事を話してみた。

もちろん、その相手が指揮官である事を隠して。

 

するとレナウンは話を聞いてから少し空を見上げるとゆっくり話し始めた。

 

「レパルス、それは私には感じた事の無い経験ですね。本の中でしか書かれていない事に私からアドバイスするのは難しいでしょう」

 

最初の語り出しはなんとも不器用な実に私の姉らしい前置きだった。

思わず笑ってしまいそうになるのを堪えていると

 

「ですが私は貴女の感じた想いと経験は大切なモノだと感じました。それこそレパルス、貴女がこの世界に生まれ落ちて会得した最も人間らしい感情です」

 

私を見て………いや、私の眼を見ながらそう言いきった。

その表情は真剣で私の眼を見て離さない。

 

「物言わぬ鉄の船の記憶を持ってメンタルキューブから感情を得て生まれた私達KAN-SENが、人間のように恋をする。ましてや人間との正式な婚姻を結ぶのであれば倫理観や法律といったモノが障害となり、その道筋を進むのならば棘の道でしょう」

 

視線を外せぬままに語る姉の言葉に引き込まれていくのを感じる。

元の記憶からして鉄の船であった事、メンタルキューブという不思議な立方体から生まれた存在であるが故に人間とは違う存在である事。

恋をする上でその人との厚い壁のような種族としての壁を話す姉の言葉に心が閉じていくのを感じた。

 

恋をする以前の問題だった。

 

私達KAN-SENは人間とは違う存在だという事を失念していたのだ。

何を舞い上がっていたのだろうか?

恋をしたとして、その想いを伝える伝えないの前に種族からして違うという事を考えなくてはいけなかったのだ。

本当に何も知らないくせに恋なんてしてたんだなぁ………バカみたい。

無知過ぎた自分に恥ずかしさすら感じ始めた私はこちらを見つめる姉から眼を放す。

いや、羞恥心だけじゃない絶望感も入り交じった諦観の心からの現実逃避だった。

何もかもを諦めてしまいそうになったその時

 

 

 

「ですがレパルス………話は終わっていませんよ?」

 

 

 

レナウンは私の頭に手を置いてきた。

その行為に驚いて姉の方を見ると優しく微笑みながら頷いてくる。

私が見つめ直してしばらくするとまた空を見上げながら

 

「確かに棘の道かもしれません。ですが………感情を持つものなら、本当にそう思えたのならば棘の道であっても突き進めるはずです。貴女はどうですかレパルス?」

 

そう言って頭を撫でてくれた。

それはまるで諭すかのように未熟な心に成長を促すよう語りかけながら。

 

「今回の事は経験した事の無い事態に貴女は振り回されてしまい、気が付かずに終わってしまった………ですが、素敵で可愛い私の妹の事ですから恋が一度きりで終わるなんてあり得ません」

 

本当にそう思っているのだろうか?

いや、そう思っているからこそ確信を持って語りかけている姉に感じていた諦観が少しずつ消えていっている。

 

「サディアの方が言ってました、女性は恋をするほど美しくなれると。ならば私の妹はこの恋の分美しくなったのですから、その分強くもなれるはずなのです………ですから」

 

そこで言葉を切るとレナウンは私の頭を抱き締めて耳元で囁く。

 

「今は次の恋の為に泣いて全て吐き出しなさい。強くなって失恋した相手よりも、もっと魅力的な方と出会って今日の事を笑顔で語れる思い出とするために………その為ならばこれくらいしか出来ない不器用な私のこの胸を貸しましょう、大切な妹の為ならばいくらでも貸し出しましょう」

 

ジワリと目尻から涙が溢れる。

今まで失恋したと自覚しても出なかった涙が溢れてポロポロと落ちていく。

 

「ぅぐ……ふぇ…っぐ……」

 

「ここには貴女と私しかいません存分に泣きなさい。その涙が全てを洗い流して貴女を強くします………ですからこの哀しみを涙で流してしまいましょう」

 

嗚咽が姉の胸の中で響く。

ああ、私は今やっと自分が失恋した事をしっかりと理解したんだ。

だから涙が止まらないんだ。

 

抱き締めてくれる姉に背中を擦られながら私は泣き続けた。

延々と気が済むまで泣き続けて、目がウサギのように真っ赤になって涙が止まった頃には月が夜空の頂点を過ぎていた。

 

「ぐすっ、ありがと」

 

「どういたしまして」

 

ニッコリと微笑む姉に改めてお礼を言って立ち上がる。

そして空に浮かぶ月を見つめながら

 

「恋も戦争も手段を選ばない、今度は絶対に勝つよ!連戦即決が勝利の決め手なんだ!!」

 

力一杯右手を伸ばしてそう宣言するのだった。

 

 

 

後日談

 

 

 

そんな事があっても気が付けば月日は過ぎるもので、私は今とても幸せです。

今日、この日を迎えるにあたってあの日の姉の言葉に私は救われて強くなりました。

 

「レパルス時間よ?」

 

「了解姉さん、今日まで本当にありがと。………見ててね?私の晴れ舞台を」

 

純白のヴェールを被る私に始まる前から声を震わせて話し、目を赤くする姉に苦笑しつつ愛しいあの人の待つチャペルへと歩みを進める。

 

ここから始まる私の幸せ

 

あの時を笑顔で語れる思い出とする為に今、私は自分の恋を愛に変えて………

 

 

 

 

 

 





恋というものは自覚してからが本番ですが、その自覚が早くても時期を逃せば横から盗られるなんてしばしば………

作者はこの口で小学校からの幼なじみが結婚して式でスピーチしました(実話)

ただ自覚していたあの時の私には告白する勇気なんてどこにも無かったですねw←ヘタレ

漫画や映画の主人公やヒロインのように勇気を振り絞るなんて難しい事です。

皆さんはどうでしょうか?

話は変わりましてアニメのアズレン面白いですね。

個人的にはハムマンの扱いがなかなか………感想の方にもハムマンは弄られキャラだと言っている方が居ましたが作者と酒を酌み交わしながら談義したいものです。

あと唐突なジャベリンのおぱいプルンプルンに目が点になりましたw

まぁ本社の社長自らエロゲー認定してますから仕方ないですねw

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