アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~   作:サモアの女神はサンディエゴ

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いつ如何なる時も優雅たれ

栄えあるロイヤルネイビーの戦艦ならば必ず言われるこの言葉。

紅茶を嗜み、慌てず騒がず冷静に余裕をもって行動する。

それが私達の………私のモットーだった筈なのですが………




如何なる時も優雅に………指揮官様?あの……それは………

「………あの、指揮官様?」

 

「なんだフッド?何か問題か?」

 

「い、いえ………ですが……うぅ………」

 

「どうしたんだフッド、いつもの君らしくもない」

 

執務室のソファーにていつもの昼下がりのティータイムのはずなのに会話が続かない。

指揮官様も言葉に詰まる私を心配するように声をかけて下さるけれども………

 

 

 

「やはりおかしいですわ!何故私は指揮官様の膝の上で紅茶を頂いておりますの!?」

 

 

 

羞恥で顔から火が吹き出そうになりながら指揮官様にそう抗議する。

しかし、指揮官様は左手を私のお腹に回して抱き締めながら右手で紅茶を飲んでポツリと耳元で一言。

 

「フッドは良い香りがするなぁ」

 

「ッ!?そのような事をされると恥ずかしいですわ……」

 

非常に男性的なゾクゾクとするような低いバリトンボイスで囁かれるとどうしても腰砕けになってしまう。

自身の香りを直に嗅がれるという羞恥も合わさって今日はもう散々な日。

 

どうしてこうなってしまったのか………

 

羞恥のあまり彷徨う視線を右手に持ったままの紅茶を覗き込むように固定してそう思う。

 

あれは何がきっかけだったのか………

 

それはほんの30分ほど前の出来事の些細なことだったように思えた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「指揮官様、こちらの書類の確認をお願い致します」

 

「ああ、ありがとうフッド。確認させてもらおうか」

 

昼食も終わり、午後の執務を始めてようやく確認作業を残すのみとなった昼下がりの時間。

時計を見ると午後の3時に差し掛かろうかという時間に、指揮官様と私ことロイヤルのアドミラル級巡洋戦艦フッドはゆったりと余裕を持って仕事を終わらせておりました。

 

書類の山を朝から崩しつつ、皆の割り振られた仕事や遠征と演習の組み合わせの発表などもこなしてようやく終わりの見えた仕事についつい気が抜けてしまいそうではある。

しかし私はロイヤルネイビーの栄光を背負う戦艦フッド、この程度の仕事で気を緩める訳にはいかないのです。

 

「そろそろベルファストがお茶を持ってきてくれる時間だな………フッドが一緒に執務をしてくれると仕事が捗るよ」

 

「いいえ、指揮官様の執務の効率が上がっている成長こそがこの結果を導いているのですよ」

 

「そうかな?フッドにそう太鼓判を押されるならそうかもな」

 

指揮官に微笑みながらそう言うと彼もまるで太陽のように明るい笑顔で答えてくれた。

黒髪に青い瞳を持つ男性らしいワイルドな顔立ちをした指揮官が笑う瞬間を見ながら、おそらくベルファストが見ると見惚れながらも仕事をするのだろうなと思わず苦笑する。

 

しかし、私にはそれは効かない。

 

何故なら私は………前世が男性だったから。

 

前世の成人男性としての記憶という特級の秘密を持っている私はこの世界に生まれた瞬間に、ロイヤルネイビーとしての自分自身を無理矢理植え付けられた。

前とは違う風習に習慣、男性と女性との感性のギャップに鉄の船の頃からもたらされる誇りと栄光。

 

全てが初めてであり既知であり、そして不安の塊だった。

 

こんな自分がロイヤルネイビーを代表する戦艦の1隻で良いのだろうか?

建造されてすぐにロイヤルの代表である陛下 クイーン・エリザベス様にロイヤルネイビーの栄光を他に示す存在となるように言われてしまったが為に降りられなくなってしまった重圧。

その全ての不安が私の肩に掛かる事で他者との関わりに1つ壁を取り、何に関しても思考と策略を廻らしながら話すといった三枚舌染みた事を毎日のように行っていました。

 

でも、それはこの指揮官様に出逢う前までの話。

 

新設された母港に新気鋭の指揮官、そのコネを作るために会話をすると一言。

 

 

 

「なぁフッド、なんでそんなに回りくどく話すんだ?もっと気軽に話さないか?仲間だろ?」

 

 

 

あっさりと懐に入られて手を差し出し笑いながらそう言われた。

その毒気を抜かれる行為に目を白黒させているといつの間にか私はこの指揮官所属の戦艦として母港に配属される事となったのです。

 

陛下からも

 

「そうね、その指揮官がロイヤルの利益になると言っているならフッドがそこにいるのは仕方ないわね」

 

と外堀まで埋めてきたのだ。

正直、何がなんなのかまるで分からないうちにトントン拍子に決まって反対意見を出そうとすると

 

「フッド、君があそこに居るとたぶん壊れる。無理し過ぎだよ………うちでその張り詰めたの緩めて過ごしなよ」

 

そう見透かされるように言われてどこかホッとした私はそれ以上何も言わなかった。

 

それから共に戦い、苦楽を分かち合うように過ごした数年間。

不安定としか言えなかった母港の運用は安定して拡張を続けられるようになり、数人しか居なかったKAN-SENは数百人に増えたアズールレーンを代表する母港となった今。

こうして安全な海を護る充実した毎日を優雅に行える事が何よりの達成感を感じさせている。

 

それもこれもあの時に指揮官様が私を引き留めてくれたおかげ。

 

でも少し困った事が………

 

「アフタヌーンティーでございますご主人様、フッド様。………今日も仲睦まじい御様子でこのベルファストも嬉しく感じます」

 

「そう見えるかな?フッド、ベルファストも嬉しい事を言ってくれるじゃないかい?」

 

「またそのような戯れ事を………」

 

ベルファストが微笑みながら流れるような手馴れた動作で紅茶を入れてからかってくる。

指揮官様も満更な様子ではなく、執務室には2つもソファーがあるのに私の隣に座って笑顔を見せた。

そんな2人に私はどうすれば良いのか分からずに眉を潜めてしまう。

 

ここ数ヶ月間、指揮官様からのアプローチが何度もあり周りもそれが当たり前のように見ているという事。

 

確かに指揮官様と一緒にこの母港を盛り上げていく上で長く側で過ごしていたのは私なのですが………戦線が落ち着いたこの時期を狙っていたのかのようにアプローチが続いているのです。

 

「今日もフッドはつれないなぁ………どう思うベルファスト?」

 

「そんな様子も含めてフッド様でありましょう。そこからはご主人様の言葉次第………準備が終わりましたのでこれで」

 

余計な一言を言って一礼し退出するベルファストに恨みがましい視線を送るも涼しげに躱されてしまって仕方なく紅茶を飲む。

入れたのがメイド長たるベルファストなので非の打ち所がまるで無い紅茶の味に思わずため息が出てしまった。

 

「フッドがため息なんて珍しいじゃないか」

 

「いったいどなた達のせいですかね」

 

からかうように言う指揮官に若干淑女的ではないが、皮肉を言うけれどもスルリと躱されてしまってまたため息が出る。

そんな私をニコニコしながら見ている指揮官はとても紳士とは言い難いですね。

 

「いや、すまないフッド。君が膨れる様子がとても可愛くてついついやり過ぎてしまったよ」

 

「かわっ!?ゴホン、レディに対して可愛いというのは失礼ですわよ指揮官様?」

 

「ああ、それは済まなかったよフッド………でも本当に可愛いと感じたんだよ許してくれ」

 

「もう、そうやってまた私をからかいになる」

 

歯の浮くような言葉を次々と出す指揮官様に聞いているこっちが恥ずかしくなる。

指揮官様はサディアの方ではないはずなのにどうしてこんなにも私を口説きにかかるのか………

 

だからだろうか?

 

「はぁ、指揮官様はいつもそうやって女性を口説かれるのですか?」

 

こんな不躾な事を聞いてしまったのは。

 

あまりにも失礼な事を言ってしまって後で後悔してしまう。

これでは指揮官様の気分も悪くなるし、何よりロイヤルの淑女としてとても相応しくない。

気まずい気持ちになりながら指揮官様の顔を窺うと先程と変わらずニコニコしたままでこちらを見ていた。

 

「あの………指揮官様?」

 

「うん?どうした?」

 

恐る恐る声をかけてみると返事は返してくれる。

怒ってはいないし、機嫌を損ねた訳でもないようで少しホッとした。

あまりの失言に動揺してしまう自分を落ち着ける為に紅茶を飲む事で仕切り直しを図る。

すると指揮官様が

 

「でもそうだなぁ………やっぱりそう見えるかな?俺はフッドだけにしかこんな事を言ってないんだけどね」

 

「ッ!?ケホッケホッ!」

 

いきなりの不意打ちでそんな事を言ってきた。

お陰様で飲んでいた紅茶を危うく吹き出しそうになってしまう。

ここでなんとか耐えれて本当に良かった。

淑女どころか女性として終わってしまうところでしたよ。

 

「大丈夫かフッド?」

 

「どなたのせいだと………」

 

心配そうにこちらを見る指揮官様に思わず当たりたくなるが、ここはグッと我慢する。

それよりも聞きたい事ができた。

 

「あの、私だけにこのような言葉を掛けているというのは本当にでしょうか?」

 

「そうだぞ?俺はフッド以外にこんな事言った事無いな」

 

これ程に多く集まったKAN-SEN達の中で私だけを口説いているなんて正直信じられない。

人数が多ければその分だけ多様化した美女・美少女達が集まるこの母港で指揮官様の感性に合う娘が居るだろうとは思っていましたが………それが私?

 

いやいやいやいや、そんなはずは無い。

 

指揮官様はよく駆逐艦の子達を膝に乗せて紅茶を飲む事があるので影でそういう趣味があるのでは?と噂になっているほどなのだから。

せっかくの機会なので聞いてみましょう。

ここまでくれば怖いものは無いですし、普段からからかわれている分のお返しとかは考えておりませんので。

 

「ならお聞きしますけれど、駆逐艦の子達をよく膝に乗せて紅茶を飲まれますが………そういう趣味がお有りなのでは?」

 

「ああ、あれか、言ってなかったかな?俺には4人の妹がいるんだけど、よく妹達の面倒を見ながら膝に乗せて紅茶を飲んでてな?なんだか駆逐艦の子達を見てたら無意識にそれをやってしまってなぁ」

 

普通に理由付きで返された。

このフッド、地位的によく嘘をつく人間等を見るのでだいたい嘘つく瞬間が分かるという特技があるのですが………指揮官様が嘘をついているようには見えません。

それどころか懐かしさを感じているようにも見受けられます。

 

つまりは駆逐艦の子達を妹のように見ているだけ?

 

アーク・ロイヤルのような異常性癖を拗らせている訳では無い?

 

疑いの眼差しで指揮官様を見つめると何を思ったのか指揮官様は

 

 

 

「もしかして………膝の上に乗ってみたかったのか?それなら言ってくれれば良かったのに」

 

「えっ?」

 

 

 

そう言って膝をポンポンと叩いて乗るように促してきた。

予想の範疇を越えてきた現状に思考がショートしそうになるけれど、少し考えてみる。

もし指揮官様にアーク・ロイヤルのような異常性癖が無いのであれば私を膝の上に乗せれば男性的な反応や口説く行為があるのでないかと。

 

そう、これは駆逐艦の子達を守る為の確認作業なのだ。

 

 

 

「………過去の自分を砲撃したいですわ」

 

 

 

本当に30分前の自分の選択をもう一度検討すれば良い程の後悔。

紅茶などすでに冷えてしまっているのにベルファストが来ない所をみるとたぶん余計なお節介を焼かれているのだろう。

 

「俺はこうしているだけで幸せなんだけどなぁ」

 

「ひゃんっ!?急に抱き寄せないでください………それでなくとも恥ずかしいのに………」

 

指揮官様の膝の上に座ること30分、もはや借りてきた猫のように縮こまる私を満足そうに抱き締めるこの方は本当に私を求めているように見える。

長く座っているので負担が無いか聞くと

 

「フッドがご飯食べてるか心配になるくらい軽いから大丈夫大丈夫、それにこの幸せを長く感じたいんだよ」

 

と満面の笑みで言い切られてしまうとこちらからは何も言えない。

というか普段見た事が無い程に指揮官様の笑顔がとても眩しいですわ………

 

「指揮官様………そろそろ降ろして頂けませんでしょうか?」

 

これだけ堪能されたのならもう降りても大丈夫なのではないのかという一縷の望みをかけて聞いてみると

 

「もう少しだけ………この幸福感をまだ味わっていたいんだ」

 

「うぅ……」

 

抱き締める力を少し強めて引き寄せながら耳元でそう言う指揮官様の男性らしい低い声にやはり腰が抜けそうになるほど力が抜ける。

このままでは夕食の時間まで膝の上に座り続ける事になりそうで、感じている羞恥心とよく分からない込み上げてくる"ナニか"に自分の理性が耐えられるのか不安になってきた。

 

特にこの"ナニか"は私のアイデンティティを揺るがしそうになるような気がして必死に抑えつけているものの、指揮官様の声を直に聞く度に理性の壁を勢いよく崩そうとしているのが苦しくて堪らない。

いったいこの感覚は何なのかが検討が付かずに必死に耐えていると………

 

指揮官様が急に両手で私を抱き締めて耳元でハッキリと

 

「フッド、好きだ」

 

愛を囁いてきた。

 

突然の告白に硬直していると指揮官様は更に言葉を続ける。

 

「初めて出会ったあの日に無理して話す君を見て助けたくなった。でも、ここで一緒に過ごしていると明るくなっていく君を見て………俺は君が好きになったんだ」

 

ゾクゾクと背筋が震える。

指揮官様の熱い思いが私の"ナニか"を震わせる。

 

「それなのに君はいつもつれなくて………俺はフッドの事が好きで好きで堪らないのに冗談だって思われて………」

 

気が付けばその男性的な大きな腕に身を任せて指揮官様の告白に耳を傾けている自分がいる。

 

「だから今ここでハッキリと言うよ」

 

早くその言葉を聞かせて欲しいと願う自分を止められない。

 

「フッド、俺は君が欲しい。君に俺の伴侶となって貰いたいんだ」

 

静かにしかし、伝わる熱はそのままに私の耳を焼くように入って心臓を大きく震わせる。

今の私の顔は誰にも見せられないだろう。

なぜなら伝わってきた熱ですでに侵されているからだ。

 

「フッド、今日ばかりは返事を聞くまで逃がさないよ?その為にベルファスト達にも協力して貰ってこの執務室の周囲には誰も来ないようにしてもらってるんだ………だから教えてくれ、俺の一世一代の告白の結果を」

 

暴走したかのように跳ねる心臓を抑えようとしても止まらずに指揮官様からは告白の答えを待たれる。

私はいったいどうしてしまったのでしょうか?

 

「わ、私…は……」

 

いつもならすぐに断っているはずの言葉が出てこない。

 

真剣に伝えられた言葉に震える心が抑えられない。

 

何故?

 

私は元々は男性で………でも今は彼の言う女性として生きている………

 

 

 

「………あ」

 

 

 

そこまで考えて急にストンと理解できた。

元々は男性であったけれども、今は女性としてすでに生きている………

それを………自分が女性として生きていこうと気が付かせてくれた魅力的な男性に自分がすでに堕ちていて、一生懸命に気が付かないフリをしていただけだったのだと。

 

「これは………淑女失格ですわね」

 

「フッド?」

 

不意に笑う私に心配そうな指揮官様の声が聞こえる。

 

そんなに心配そうな声を出さなくても大丈夫ですよ?

 

だって………

 

 

 

「ふふ、そんなに緊張したご様子ですとレディには心が伝わりませんよ指揮官様?………ですがあなた様の心ならちゃんと私に伝わりましたわ……フッドは、喜んでお受けいたします。」

 

 

 

心からの笑顔でそう答えるのは決まっていますもの。

 

 

 

 

 





フッドさんはチョロインっぽい気がしたのです。

そして何故か長くなりました………

フッドさんは意中の相手でも普段は飄々としてそうですが、真剣に想いを伝えるとオロオロしつつも受け入れそうな雰囲気がありますよね?

さて感想返し………

誤字報告ありがとうございました〜

なんで気が付かなかったんでしょうかね?

何度も見直してるはずなんですが………

長島さんはうちの第2艦隊の周回専用艦隊のレギュラーですよー

あの燃費と攻撃の回転率が良くてビーコン乗っけて良く金図やパーツ取りに出てます〜

………働き方改革を言われないよね?

それではまた次回に

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