アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~   作:サモアの女神はサンディエゴ

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古き良き時代は過ぎ去りし日々の思い出。

これからは新しき風こそが時代を築くと想いを馳せる。

それでも古き時代の良き事を伝えていく事は大事なことだ。

古い時代を伝え聞くのだからといって今の貴方がそれを継ごうと慌てる必要は無い。

だからそんなに焦らなくてもいいよ?

古いだけの私でも、貴方を支えて導く事くらいはできるのだから




指揮官よ、少し力を抜くのはどうか?

「あの、三笠さん?」

 

「む?どうした?」

 

窓の外にある紅葉を見ながら徳利に入った熱燗を指揮官と互いにお猪口で飲み交わす。

座敷にも見える和の調和が織り成す部屋で、何とも風情のある状況に水を刺すような声色でこちらに声を掛ける指揮官に少々不満気な声が出るのは仕方がない。

指揮官の方を見ながらお猪口のお酒を一息で飲むと

 

「これ………本当に良いんですかね?」

 

「何を気にしておる!これで良いのだよまったく……ほら、指揮官もグイッと」

 

「えぇ………まぁ1杯くらいなら………あ、美味しい」

 

不安げな指揮官に喝を入れる。

昼間から飲むお酒もまた美味である事を確認しながら指揮官に促すと一息で飲んでしまった。

なかなかの飲みっぷりに感心しつつ、空いたお猪口に更に酒を追加で入れるとカパカパと飲み始めたではないか。

 

「ふむ、指揮官は酒豪の気があるな?今日くらいは遠慮せずにドンドン飲むと良い」

 

「こうなりゃヤケだ!飲めるまで飲んでやる!!………本当にありがとうございます三笠さん。ささ、三笠さんももう一杯」

 

「ああ、頂こう」

 

指揮官もノッてきたところで互いに酌をしながらもう一杯。

とりあえず、指揮官が吹っ切れたようでなによりだ。

 

まさか指揮官が休みを取らず、連続で勤務を続けていたなんて………

 

指揮官に甘い赤城や大鳳では止められず、天城や神通が策を巡らしてもそれを乗り越えて仕事をするのは流石に呆れて何も言えなかった。

なので仕方なく実力行使で我が重桜が誇る専用の旅館をまるごと貸切にして指揮官をそこに連れてきたのだ。

 

「良い具合になってきたな………どれ、おつまみの1つ作ってやろう」

 

「え?三笠さんって料理出来たんですか!?」

 

「何故そんなに驚く事がある?料理なぞ出来なくては女子として恥ずかしいではないか」

 

「いや、料理は他の人に任せてるような勝手なイメージがあって………」

 

指揮官に失礼な事を言われてフンっと鼻を鳴らして厨房へ向かう。

だいたい何年前からこの世界に生まれ、船の時代も含めればどれ程の時を生きていたと思っているのか。

おつまみ1つとは言ったがそれ以上に作って指揮官の鼻を明かしてやろう。

 

そんな決意を胸に上着を脱いで割烹着を身に付けると三角巾で髪を覆って調理を開始するのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

我は敷島型弩級戦艦三笠である。

 

そして、男性だった記憶を持つ転生者でもある。

 

とは言うものの、女性としてこの世界に生まれての年数がすでに前世を越えてしまって自分が男性であった事を忘れてしまいそうになる。

第一次セイレーン大戦の頃に生まれた我は重桜の誇る弩級戦艦としてひたすら戦場を駆け抜けた。

 

自分の現状に理解し納得するより先に敵であるセイレーンを撃たねば人類は絶滅する。

そんな現実の中で戦い続けて姉妹の中でも特別強いわけではなかったものの、船としての経験が指揮を取れるだけの能力を与えてくれていたので自然と旗艦として最前線に立っていた。

 

 

 

「世界の興廃はこの一戦にあり!各員、一層奮励努力せよ!!」

 

 

 

セイレーンの本拠地であるといわれた場所に攻勢をかける時に集結した聯合艦隊における檄を飛ばす総旗艦としての有名だと言われるこの言葉。

度重なる激戦の中で聯合艦隊の旗艦に抜擢されて、最後になるかもしれない戦いにおいて相応しい言葉だったと自負している。

 

若気の至りというか男性的な部分が思わず口を滑らせたといっても過言では無い状況に自分は酔いしれており、また後に後悔をする結果を残すこととなった。

戦争は勝利で幕を閉じて晴れて我は英雄、軍神として重桜の地に凱旋する事となったのだが………

 

「や、大和撫子ぉ?我が…?」

 

前世の記憶のままの常識で表彰や晩餐会に出席しようとして、姉である敷島姉様を含む姉妹達に国を代表する弩級戦艦として大和撫子足るべしと教育(洗脳)される事に………

 

この世界は自分の記憶に当て嵌めてみればすぐ分かるようにセイレーン大戦は日露戦争と第一次世界大戦に当たるものであり、その時代の重桜………つまり日本は大正時代。

男尊女卑の考えがまだまだ続く夫を立てる良き妻こそが尊ばれる世の中であった。

 

「料理のさしすせそ?効率の良い掃除の仕方?殿方との関わり方に女性としての立ち振る舞い方ぁ?無理ですよ敷島姉さ………はい、やります……」

 

あの檄を言ったからこそ知名度が上がり様々な式典に呼ばれる事となるのは必至。

故に敷島姉様はどこに出しても恥ずかしくない淑女………大和撫子として終戦後に我を1から育て上げたのである。

まぁ、あのような檄を飛ばすのを見て無事に嫁入り出来るのか心配になったのも原因だとも言っていたのだけれども………

 

「おっと、考え過ぎて焦がすところであった」

 

簡単に作れるおつまみの牛肉の佃煮。

醤油、酒、みりんと砂糖で作った汁に切り落としの牛肉を汁が無くなるまで煮込んだ物に刻んだ生姜を乗せるだけの簡単なおつまみだ。

簡単であるが故に作り手の腕が出やすくもあるので指揮官が満足してくれる味になっているのか心配だが、熱燗を飲んでいるから少し濃い目の味が丁度良いだろう。

 

「これを先に持って行って繋ぎとして出しておれば本命のこちらを作るだけの時間ができるな」

 

すでに下拵えを終えたブリと大根。

こちらも醤油、みりん、酒、砂糖でできる簡単な料理だが、煮込む時間を長くして出来るだけ味を染み渡らせたい我としては少し時間を取りたい。

 

「さて、指揮官は出来上がっている頃合かな?」

 

器に牛肉の佃煮を盛り付け、それをお盆に乗せて指揮官の居る居室へと戻る。

 

「あ、みかささんだぁ〜」

 

「これは………少し予想外だったな」

 

転がる数本の徳利と酒瓶に顔を赤らめた指揮官が若干回らぬ舌で話すのを見て自身の失敗を悟る。

前から酒は好きだと聞いていたが、ここまで出来上がってしまう程に飲兵衛だったという事は知らなかった。

 

「まぁ良い、ほれ指揮官よ。酒に合うおつまみを拵えて来たぞ?酒の肴に食すと良い」

 

「ありがとうぉございますぅみかささん〜………あぁ、おいしいですよぉ〜」

 

「それは良かった。もう1品作ってくるのでしばしそれをアテに待っていると良い」

 

「はぁ〜い、まってますよぉ〜」

 

「………酔い潰れるのが先かもしれんな」

 

完全な酔っ払いと化してしまった指揮官に苦笑しつつ、初めて見る様子にここに連れてきて良かったと思う。

こんな指揮官を見たのは我が初めてだろう。

いつも気を張って艦隊指揮を行う彼にだってこういう時間があっても良いはずだ。

 

「ふふっ♪可愛い所もあるものだ」

 

腕によりをかけて作る料理を食べてくれるであろう瞬間に思いを馳せつつ、厨房へ戻る我だったのだけれども………

 

 

 

「………まぁ、こうなるな」

 

「すぅ〜………か〜………」

 

 

 

ブリ大根が出来上がった頃には完全に眠ってしまっていた。

それを見咎めるつもりは無い。

休みなく皆の為に苦心しながら艦隊指揮を行う指揮官の休日を誰が咎められるというのか。

 

「このままではいかんな………ふむ」

 

予想より早く指揮官が眠ってしまっていたので布団を敷く時間が無かった。

指揮官の頭を畳の上に置きっぱなしというのも寝違いをしてしまったりする原因にもなるので、そのままに出来ない。

 

「なら………し、しょうがないなぁ」

 

指揮官の近くに正座してその膝の上に彼の頭を乗せる。

枕が無ければ自分の膝を枕にしてしまえば良い。

代償としては少し照れくさい事だろうか?

 

「いつもお疲れ様。貴方のお陰で後輩達は皆いつも健やかで笑顔に満ちているよ」

 

意識の無い指揮官の頭を撫でながら素の自分に戻って話す。

自然と頬が綻ぶがいつも頑張っている彼があどけなく寝顔を私に晒している為に仕方がないし、この瞬間が堪らなく愛おしく思う。

 

全力で頑張っている指揮官や後輩達の姿を見て、時代が移っていく様を自身の目でしっかりと刻んでいく。

自分達の時代が終わり、新しい風が吹くこの瞬間に立ち合える私はなんと幸運なのだろうかと。

 

だから、生き急ぐように全力全開で日々を戦う彼にこう言いたい。

 

「焦らなくてもいいよ?貴方は本当に良く頑張ってる。だから今は古いだけの私に身を任せてお休みなさい」

 

男性らしい固い髪を撫でつけながら彼の寝顔をその目に焼き付ける。

休息を摂ることは明日への活力となる。

今日が終わればまた、彼は艦隊指揮に戻るのだろう。

 

ならばまた、私も彼が無茶をしないように支えるのみ。

 

自慢の後輩達はこの指揮官を止められない。

私はその役目を………指揮官に休息を取らせ日々の戦いに繋げる活力を補充する役割を担おう。

 

 

 

「ああ、この感情………貴方を愛おしく思っていますよ指揮官?」

 

 

 

もうすぐ夜の闇がやってくる。

 

 

 

………少しだけ、私にも役得を………指揮官を休ませる役割への報酬を貰おう。

 

 

 

全ては包み隠す夜の闇の中で………

 

 

 

 





という訳で三笠大先輩でした。

普段はカッコイイ大先輩、でも本当は大正ロマンで古風なお姉さん。

私はこんな三笠大先輩大好きです。

さて、更新が遅れて申し訳ありませんでした。

インフルと肺炎のコンビネーションで入院していたので更新遅れました。

皆も予防接種でこんなに酷くならない様に気を付けよう!!

さて感想返しです。

フッドさんが可愛いく見えた?

元々綺麗で可愛いですよー!!

そして流行れ!アズレンTSFの輪!!

何回も読んでくれてる人もありがとー!!

それじゃまた次回に!!

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