今宵は月に捧げる観月の宴。
刀剣男士たちは不思議な里で遡行軍を倒し、ウサギからお団子を貰おうとしましたが……あれ、ウサギはどこ?

FGO「月の女神はお団子の夢をみるか」×刀剣乱舞「月見の里」



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※今回、諸事情によりバトルシーンはカットしています。





刀剣男士はお団子の夢をみるか

 どこかの時代、どこかの場所にあるという濃い霧に包まれた里。

 そこは様々な報酬を手に入れることができる不思議な里だった。

 

「しかし、遡行軍を倒して、兎から団子を貰うなんざ、変な任務だよな」

 

 和泉守兼定は打刀の遡行軍を切り捨てた。

 

「まあ、甘いからいいけどさ」

「食べ過ぎはダメだよ、兼さん」

 

 堀川国広が言葉を返す。その彼に乗っかるように、歌仙兼定が話し始めた。

 

「そうそう。君のはこの間、団子を喉に詰まらせていたじゃないか。団子を食べることは、しばらく厳禁だ」

「うっ、あの時は、たまたまだよ!」

「堀川がお茶を用意していなかったら、最悪、手入部屋に放り込まれていたぞ?」

 

 歌仙が呆れ果てたような顔をすると、大きく息を吐いた。

 

「無駄話は後にしよう。三日月、包丁、薬研。そちらは終わったか」

「問題ない。無事に終わったぞ」

「よーし、ウサギを探すぞ!」

 

 包丁藤四郎が兎を探しに走りだした。

 

「なあ、歌仙。いまのが敵の大将だったと思うんだが……ウサギがいなくないか?」

 

 薬研藤四郎が歌仙に話しかける。

 歌仙も大きく頷いた。

 普段は遡行軍の大将を倒せば、その近くに身を潜めていたウサギがぴょんと飛び出し、お礼の団子をくれる。だが、今回は遡行軍を倒したのに、ウサギがいない。 

 歌仙が頭を悩ませていると、近くの草むらが揺れ、包丁が慌てふためいて戻って来た。

 

「ちょっと来て。なんかおかしなことになってる!」

 

 歌仙たちは顔を見合わせると、包丁の案内でススキ野原を分けながら進んだ。 

 しばらく進むと、楽しそうな声と食器が触れる音が聞こえてくる。遡行軍にしては愛らしい声で、幸せそうな笑い声である。

 

「ここから見て」

 

 包丁が屈みこみ、そっとススキを分けた。

 すると、その向こうの少し開けた場所に、少女たちがテーブルを囲んでいた。西洋の紅茶セットを並べ、中心に白い団子を置いている。

 

「甘いですね。お団子って、モチモチして美味しいです!」

 

 サンタクロースの服装をした女の子が、団子を幸せそうに屠りながら呟いた。そんな彼女を見て、黒いゴスロリに身を包んだ少女が足を揺らしながら笑う。

 

「ええ、甘くておいしいわ。でも、ジャンヌ、食べ過ぎはダメよ。虫歯になっちゃうから」

「虫歯、ですか?」

「そうよ。虫歯はとっても痛いの。虫歯になったら、フェルグスのおじさまのグルグル回る剣で……ああ、想像するのも怖いわ。とにかく、虫歯は痛くて、治すのはもっと痛いの」

「うう、痛いのは嫌です」

「大丈夫」

 

 サンタクロースの女の子が顔を歪めていると、その隣に座った顔に傷のある女の子がぽんぽんと背中を叩いた。

 

「わたしたちが、かいたいしてあげるから」

「それはそれで、痛そうなんですけど!!」

 

 女の子たちは、なんだかんだ言いながらも楽しそうにお茶を飲み、団子をつまんでいる。

 その女の子たちに挟まれて、げんなりした空気のウサギが一匹、座っていた。後ろからでも、黒い影を背負っているのが丸わかりである。

 

 

「……どうする、歌仙」

「いや、どう考えても、あれが僕たちの追って来たウサギだが……」

「あの和やかな茶会に入るのは、気が引けますね……」

「しかし、あの団子は……」

「細かいことは考えなくていいんじゃねぇの? あれは、俺たちの団子なんだからさ。奪われたなら取り返すってもんだろ」

 

 和泉守兼定が立ち上がると、ススキ野原から飛び出した。

 

「御用改めである! 刀剣男士だ!」

「兼さん、それやりたかっただけじゃない?」

 

 堀川が苦笑いをしながら、彼の後に続いた。

 

「まったく、君は雅じゃないよ。仕方ない、僕たちも行こう」

 

 歌仙は周りの仲間と一緒に、和泉守たちの横に並んだ。

 

「僕たちは、そのウサギから団子を貰わないと帰れない。申し訳ないが、そのウサギをこちらに渡して貰おう」

「あら、それはダメよ」

 

 ゴスロリの女の子が、きっぱりと断った。

 

「お茶会には、ウサギさんがいれば完璧だもの。ウサギさんを手放すわけにはいかないわ」

「そうかもしれないけど……」

「それより、貴方たちもお茶会に参加しない? 人数が多い方が楽しいわ!」

「……しかしだな、その団子は我らのもの。持って帰らなければ、主の命に逆らうことになってしまう」

 

 三日月が優しく語りかけたが、ゴスロリの女の子は口を尖らすばかりだ。

 

「駄目よ。これはお茶会用のお菓子。私たちが買ったお菓子だもの」

「……買った? 貰ったじゃなくて?」

 

 包丁が首を傾げる。

 

「ええそうよ。黄色くて丸いおじさまがウサギさんから買い上げたお団子を、私たちが『お茶会のお菓子に』って買い取ったの」

「とっても高かったけど、甘いからいいよね」

「でも、ウサギさんの財布は、ほとんど空っぽだから変ですよね……売ったなら、たくさんお金を持っていると思ったのですが……」

 

 女の子たちはいきさつを説明し始める。

 

「あー……もしかして」

 

 薬研が面倒くさそうな顔になった。

 

「黄色いおじさんって奴がウサギから安値で団子を買い叩いて、それを数倍の値段で売りさばいたんじゃ……」

「なにそれ。博多でもそんなことは……しないとは言い切れない」

「とにかく、その団子を返してもらおう」

 

 ぷくぅ、と女の子は膨れた。

 

「分かったわ。それなら、戦いましょう」

「は?」

「うん、かいたいしよう!」

「え?」

「不本意ですが、仕方ありません」

「ん?」

 

 女の子たちは、ぴょこんと椅子から飛び降りる。

 そして、一人は禍々しい雰囲気の本を、一人は血の臭いがするナイフを、最後の一人は煌びやかに飾り付けられた槍を構えた。

 

「ちょ……君たちが戦うのかい?」

「お茶会を邪魔する無粋な人たちは、招かれざるお客様。戦い終わったら、お月見が終わるまで、みんなで仲良く優雅にお茶を飲んで、甘いお団子を食べて、素敵な絵本を読みましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……疲れた」

 

 歌仙は一握りの団子を袋に入れると、大きく肩を落とした。

 

「ははは。とても元気のよい童であった」

「元気のよいって範疇か? めっちゃくっちゃ強かったぜ?」

 

 三日月が優美に笑っている姿を見て、和泉守兼定が苦言を漏らした。

 

「よく分からない生き物を召喚してくるわ、霧に隠れて切ろうとしてくるわ、お菓子を降らせるわ……」

「ある意味、遡行軍より厄介だったかもね」

 

 女の子たちは見た目以上に不可思議な力を行使し、刀剣男士たちを苦しめた。辛うじて勝利したが、彼女たちは少し不満げに微笑み

 

『私たちが買った団子をあげるわけにはいかないわ。お菓子がなくなっちゃうもの』

 

 と言ってきたので、包丁が持ってきた飴をすべて渡した。

 包丁は不服そうに口を尖らせていたが、団子には代えられない。

 

『あら、見たことのないキャンディー!』

『おかあさんの故郷のキャンディーに似てる』

『トナカイさんのキャンディーですか! 珍しいですね!』

 

 三人はきゃーきゃー喜ぶと、残った団子を素直に渡してくれた。

 

『でも、ごめんなさい。この団子が全てではないの。私たちが買いきれなかった分をもって、おじさまは荒野へ行ってしまったわ』

 

 彼女たちはそう言うと、お茶会を再開した。

 ウサギはいない。戦いの隙を見て逃げ出したらしい。

 

「あー……僕の飴が……」

「帰ったら、また買えばいいだろ」

「奪われた分は盗り返さないといけないけど……黄色いおじさまって何者なんだ?」

 

 歌仙たちは歩く。

 この里は普段の任務よりも、歩くと疲労度がたまっていく。先ほどの戦闘もあり、和泉守は見るからに疲れを露にしていた。

 

「……おい、国広ー」

「駄目だよ、兼さん。まだ全部、取り返していないんだから」

「まあまあ、一個くらいはいいんじゃないか? まだ残ってるんだしさ」

「薬研、恩に着るぜ!」

「兼さん。まだあげると決まったわけじゃないからね」

 

 会話に花を咲かせながら、荒野に向かって進軍する。

 

「しかし、黄色のおじさんか……」

 

 歌仙の脳裏に、刀剣男士の中でも随一の金儲けに力を注ぐ少年が横切った。

 もちろん、あの黄色の少年は少年であり、おじさんでは断じていない。ましては、ふくよかな体型ではない。完全に人違いだが、あの少女たちの話から連想してしまった。

 

「博多が、どこかの刀剣男士か一般人をそそのかして……」

「それはないだろ」

 

「すみませーん!」

 

 歌仙たちが歩いていると、少し離れたところから声をかけられた。

 振り返ると、そこには黒髪の少年と薄紫色の髪をした少女、そしてクマのぬいぐるみを肩に乗せた白い女性が駆け寄って来た。

 

「あの、このあたりでカエサル……えっと、黄色と赤の服を着た太った怪しげな男を見ませんでしたか?」

「いや、僕たちもその男を探している。団子を奪われてしまったね」

「えっ! 貴方たちもですか!?」

 

 少年は蒼い目を丸くさせると、同じく驚きを隠せない紫髪の少女と顔を見合わせる。

 

「僕たち、カルデアから来ました。お月見をしようと思ったら、団子を大量に盗まれてしまって」

「僕たちとは少し違うな。僕たちがウサギから団子を貰おうとしたら、ウサギはその男に団子を全部奪われてしまった。だから、追いかけている」

「カエサルさん……先輩、これ以上、被害者が増える前に止めないと!」

 

 紫髪の女の子が目を伏せると、少年たちは頷いた。

 

「どうやら、俺たち以外にも被害者がいたみたいだな」

「ははは。せっかくだ。敵は同じなのだから、共同戦線をとるのはどうだろう?」

 

 三日月が提案する。

 

「盗り返した団子は、しっかり分配すれば良い話だ。それに、戦力は多い方がいい。どうだろう?」

「え、いいんですか?」

 

 誰も異議を唱えない。

 少年と紫髪の女の子は少し戸惑った後、大きく頷いた。

 

「ありがとうございます。俺は藤丸立香。こっちは、マシュ。この人はオリオンさんです」

「おりおん? どっかで聞いたことがあるような……」

「ふむ……月のように美しい女子よな」

「ふーん、貴方たち……面白いわね」

 

 オリオンと呼ばれた白い女性が、じろじろと刀剣男士たちを眺めてくる。そして、彼らには聞こえないほど小さな声で呟いた。

 

「付喪神。異国の神ね。ふーん、なるほど。だから団子を追ってるわけか……」

「えっ、オリオンさん? 何か言いましたか――……」

 

 マシュがオリオンの言葉を聞き返そうとした、その瞬間だった。

 

 

 

「ウォォ! 練口――――っ!!」

 

 荒野一体に歓声が響きわたる。

 歌仙たち刀剣男士は藤丸たちと顔を身わせると、声の方へ走り出した。

 

 

 声の主はすぐに見つかった。

 サンタクロースの袋のように膨れ上がった白い袋を脇に置いて、黄色い服の太った男性と、褐色の肌に眼が赤い男性が団子を食べている。

 

「ふっ、そちらもなかなかの健啖ぶり。やはり、ローマ皇帝たるもの、グルメでなくては」

 

 黄色い男は団子をほおばりながら、隣の男性をふっと見た。

 

「いや、厳密に言うと私は皇帝ではないがね。帝政の基礎を作った男にすぎん」

「ウォォ! DEBUUUU―—ッ!!」

「太っているのではない! ふくよかなのだ!」

 

 

 お茶会をしていた女の子たちとは、別の意味で楽しんでいる二人組を見て、オリオンは笑った。

 

「あの二人の後ろに積み上げられた大量のお供え物。やっと本命に辿り着いたみたいね。

 どうする? やっぱり、話し合い?」

「あの二人にそれは無理じゃないかな?」

 

 刀剣男士たちが答える前に、藤丸が断言する

 

「そ、そうですね……あの男……カリギュラはバーサーカー、話しは通じません」

「確かに、意思疎通が難しそうな男だな……」

 

 マシュの意見に、薬研が同意する。歌仙も頷くと、太った男を一瞥した。

 

「あっちの男も弁が立つようだ。下手に話し合いをしたら、丸め込まれる」

「はい、私もそう思います。カエサルさんは口が立つので……

 とにかく、接近しましょう!」

 

 マシュは少しカリカリしながら、二人組に近づいて行った。

 

「その食糧は、私たちのものです。ローマのものではありません!」

「?」

 

 カリギュラと呼ばれた男は、眼に見えて困惑を示した。

 

「ローマではない?……ローマは、団子……ではない?

 だが、偉大なるカエサルは……丸い……これは……どういうこと、だ?」

「どうもこうもない!

 私と円形のものを重ねるな!」

 

 カエサルは一喝した。

 そして、集まった錚々たる者たちを見渡して、やれやれと頭を振る。

 

「はあ、幸福な食事を邪魔しおって……面倒なことだ。実に実に面倒だ。だが、やはり現れたか! 諸君らの目的はこれ、この月見団子であろう。

 これは、私が悪鬼のごときライダーやウサギから、うまいこと横領せしめたものではあるが……」

「「横領って言った!」」

 

 藤丸と包丁の声が被った。

 

「横領とは人聞きの悪い。これには、正当な理由があるのだ!

 では語ろう。私がいかにして、この団子を私物化したのかを」

「そのことはどうでもいい。さっさと団子を――……」

「私は肥沃なるこの土地にて、美味しいにおいに出会った」

 

 歌仙の言葉を遮り、カエサルはとうとうと演説を開始する。

 

「私は匂いに出会った。ならば、来た、見た、食べた! となるのは当然だろう。

 これは、私が管理しなければと思い、徴収したのだ。うむ、だが、元は盗品ともなれば諸君らの怒りも分かる。正当性、と言う奴は復讐よりも強い怒りを産むものだ。

 私は戦いを好まない。面倒だしな。なので、こうしよう。

 

 まず、私が諸君らを信用し、この荷物をいったん預けよう。諸君らはこの荷物を原価の三倍の価格で売りさばき、戻ってくるのだ。その売り上げを私が受け取り、諸君らにはなんと! 原価の二倍もの金額を返却する!

 どうだろう? 諸君らは損せず利益を得て、私も諸君らを信用して良かったと満足を得る」

「おお……平和的すぎる……」

 

 藤丸は感極まっていたが、薬研がいやいやと首を振った。

 

「藤丸の旦那、あんた、騙されてるぜ」

「むう、上手くいかないものだな……

 仕方あるまい、カリギュラよ! 戦支度をするがいい!」

「クォォォ……どう見てもあちらが正しいが……ウォォォ!」

「ふ、では来るがいい。

 我が黄の死のさえをお見せしよう!!」

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、あっけなく戦いの幕を閉じた。

 カエサルたちは、先程の少女たちのように得体のしれないものを召喚したり、視界を阻害することなく、剣と拳で戦いを挑んできた。 

 マシュという盾を引き受けてくれる少女や、オリオンと言う遠距離から攻撃を支援してくれる者が増えたからだろう。刀剣男士たちは普段よりも安心して敵に接近することができた。

 

「せめて、雅に散れ!」

 

 歌仙がカエサルの剣を弾き飛ばしたのと、マシュがカリギュラを地面にたたきつけたのは、ほとんど同時だった。

 

「ぐぉぉぉ……」

「ぬう、やはりセイバーでは限度がある。もっとこう、楽に勝てるクラスがいいな、私は!」

「戦闘終了。これで、遠慮なくお団子を回収できますね。

 やっと、これでカルデアに帰れ――……重いっ!!」

 

 マシュが袋を持ち上げようとして、尻もちをついた。

 

「お前さんには団子の袋は重すぎたみたいだな。よし、では俺が……って、重っ!!」

 

 和泉守がひょいっと持とうとして、驚いたように手を離した。

 

「団子の重さじゃないぜ、これ!」

「そんな馬鹿な……」

「待って。なにか聞こえない?」

 

 包丁に言われ、皆が黙り込む。

 すると、袋の中から咀嚼音が聞こえてきた。

 

「なんだ……と? 待て……中身を……確かめて、やる」

 

 カリギュラが袋に近づいた。

 

「勝者には栄光が与え……られる……ものだ……それを阻むものは……よくない……」

「それには及ばない。これは私の物だ」

 

 カリギュラが袋を開けようとした瞬間、彼の身体が一閃される。

 袋から三色に光る剣を持った白い髪の女が、ゆっくりと現れた――……団子を食べながら。

 

「しまった。勢いあまって袋ごと切ってしまったか。もぐもぐもぐ……許せ」

「なんかすごい人が出てきた!」

「うそ、アルテラ!? なんで、彼女がこんなところに!」

 

 オリオンが警戒を露にする。

 

「何を今さら驚く、もぐ? どこだろうと、文明あるところに私は現れる」

「アルテラだと? 西方世界の大王、破壊の化身と謳われたフンヌの戦士か!

 だが、いつの間に袋に入っていたのだ!」

 

 カエサルが驚愕していると、アルテラは淡々と答える。

 

「もぐもぐ……基本、徒歩で来た」

「藤丸、マシュだったか? あやつに油断は禁物だぞ」

 

 三日月が目を細めると、刀を握り直した。

 

「淡々としてるが、甘くみて良い女子ではない」

「そうよ。あいつは人間にとっても天敵みたいな奴だから」

 

 オリオンがその先の言葉を引き継いだ。

 

「目についた建物は壊す。遠くにある建物も壊す。自然には手を出さないけど、結果的に壊す。

 そんな歩くだけで周りがどんどん壊れていく、はた迷惑な奴なんだから!」

「それは誤解だ。もぐもぐ。私にも分別がある。

 いい文明と悪い文明だ。

 お団子は良い文明。だが、月見は悪い文明。よって、この荷物は私が預かる、もぐもぐ。月見をするお前たちは壊す、もぐもぐ」

「……あのさー、食べながら言われても、威厳ないよ」

 

 包丁が刀を構えながら、少し呆れた声で話しかける。

 すると、アルテラは少し黙った後、口に入れた団子を飲み込み、ほっと一息ついてから

 

「邪魔するなら容赦はしない! 悪い文明を破壊する!」

 

 と言い放った。

 口元に団子のかすをつけたままなので、しまりがないことには変わりがない。だが、圧が強まったのは事実だ。

 

「検非違使みたいな気迫を感じるぜ……之定!」

「分かってる。

 本戦はここか。あいつには雅の欠片も見当たらないね」

 

 歌仙は口元に笑みを浮かべる。

 

「僕たちはこいつを倒す。君たちはどうする?」

「もちろん、倒します! カルデアに帰って、マシュと月見をしたい!」

「先輩……もちろんです。私もお月見をしたいです!」

 

 藤丸の真っ直ぐ放たれた言葉に、マシュは頬を赤らめながら盾を構えた。

 歌仙は彼女を見て少し目を緩めたが、すぐに視線をアルテラに向けた。

 

「さあ、行くぞ。我こそは之定が一振り、歌仙兼定なり!」

「マシュ・キリエライト、出撃します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団子を奪った罪は重いぞ!!」

 

 歌仙は周囲に風を巻き起こすと、アルテラに切り込んだ。

 アルテラは剣で受け止めようとしたが、受け止め切ることはできず、そのまま地面に打ち付けられる。

 

「……私が、負けるなんて……」

 

 がくっとアルテラは消滅した。

 

「良かった……敵サーヴァント、消失を確認しました」

「ああ、やっとつながった!」

 

 マシュの隣に人が投影される。

 

「ドクター! 通信が回復したんですね。……と、これは、レイシフトが起動して……?」

 

 マシュと藤丸の周囲に金色の粉が舞い始める。

 

「ああ。君たちのすぐ近くに食料資源があるのも確認したからね。すぐにレイシフトをスタートさせたんだ。別にやり残しはないだろう? すぐにカルデアに戻ってくるといい。お月見の用意をして待ってるよ」

「確かに目的を達成したのですが……」

「あれ、オリオンと彼らがいない?」

 

 藤丸は周囲を見渡した。

 どこまでも広がる荒野。身を隠す場所はない。あるのは大量の団子と先ほどまで戦っていたカエサルだけ。

 

「手伝ってくれた礼を言いたかったのですが……どこへ行ってしまったのでしょう?」

 

 マシュが不思議そうに見渡した。

 たった数時間、あの男たちに至っては数分間だけ共に戦った。しかし、共に戦った仲であることには変わりなく、せめて礼を言いたかった。

 

「……先輩……」

「大丈夫。きっとまた会えるよ」

 

 藤丸はレイシフトされる感覚を味わいながら、消えてしまった二組を思い返す。

 もう二度とない出会いだったかもしれないし、また出会ったときに同じ彼らとも限らない。でも、生きていれば出会うことはできるかもしれない。

 そのときに、しっかり礼を言えばいいだけだ。

 

「でも、できれば一緒にお月見をしたかったな」

 

 月が輝く夜の空に向かって、藤丸は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団子で商売!?」

 

 博多藤四郎は、薬研から今回の出陣の一端を聞くと、きらんと眼鏡を光らせた。

 

「そん方法は思いつかんかった!」

「この団子は貴重な団子だ! 商売の道具にするな」

「長谷部しゃん、酷かね。まだやるて言うとらんばい?」

「まあまあ、二人とも落ち着いて。

 本丸で作ったお団子でお月見をやるから、主を呼んできてくれるかい?」

 

 長谷部が博多を注意していると、燭台切が宥めるように話しかけている。

 その様子を横目で見ながら、和泉守は廊下を歩きだした。空に目を向ければ、降ってきそうなくらい大きな満月が浮かんでいる。内番服に着替えた三日月が縁側に座って、黄金色に光る満月を眺めていた。

 

「和泉守」

 

 彼の傍を通り過ぎようとすると、声をかけられる。

 

「遡行軍を倒して団子を貰うとは変な任務だと言っておったな?」

「あー、そんなことも言ったような……」

「藤丸たちと行動を共にして、俺は分かったような気がする」

 

 三日月は満月を眺めながら、静かに言った。

 

「食事において、始めの持ち主と最終的な持ち主は違う。

 たとえば、団子は誰の持ち物なのか」

「最初に持っていた奴じゃないのか?」

「いや、最後に口にする者のモノなのだ。食べてしまえば、返そうにもかえせない」

「そりゃ……確かにそうだけどさ」

 

 和泉守が首を捻らせていると、三日月は茶を啜った。

 

「月見に供える団子は、神を迎えるための『御機嫌取り』なのだ。ウサギが遡行軍を倒した礼として渡す団子も、いわば、俺たち刀剣の付喪神に捧げる供物ということなのかもしれん」

「そういうもんかねー」

「そういうものなのかもしれん」

「だったら、あいつらは……」

 

 和泉守は藤丸たちのことを思い出した。

 アルテラなる人物を倒した後、不思議と世界が分れたように消えてしまった。広い荒野には一口団子が入った袋と自分たちだけが残り、藤丸もマシュもカエサルも、誰一人として見当たらなかった。

 

「あいつらの団子は……」

「兼さん! お月見始めるよ! 三日月さんも来てくださいね!」

「おう、国広! すぐ行く!」

 

 和泉守は考えるのを止め、国広の方へと歩いて行った。

 縁側には、三日月だけが残される。

 

「異国の月の女神に捧げる供物、か。なんとも面妖な話よ」

 

 三日月宗近はゆっくりと立ち上がると、気心の知れた仲間たちがいる場所へと歩き出した。

 

 

 

 

 



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