学戦都市アスタリスク 壬生の狼   作:PS

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船曳正の半生です。


第四話 第二期新選組

 時は流れ、入梅を果たした昼下がりの星猟警備隊(シャーナガルム)本部。

 星導館学園の生徒会長、クローディア・エンフィールド、並びに星導館学園高等部2年生の天霧綾斗、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト、沙々宮紗夜、星導館学園中等部2年生の刀藤綺凛。最後にクインヴェール女学園の生徒会長、シルヴィア・リューネハイムを加えた六人は六花の星猟警備隊本部のブリーフィングルームの一室に集められ、横一列に座っていた。

 妙な緊張感を各々が覚えながらも雑談を交わし、リラックスした状態を保っていた。

 不意に、ブリーフィングルームの扉が開く。中に入ってきたのは星猟警備隊隊長であるヘルガ・リンドヴァル。そして、星導館学園大学部の船曳正。

 現在も停学期間中であり、外出を禁止されている人物が、あろうことか星猟警備隊の制服を纏ってこの場に現れた。

 しかし、その姿に違和感を覚える者はいない。その姿は大学園祭の最終日にクローディアを除くここにいる生徒側全員が目撃していたからだ。

 クローディアも船曳が星猟警備隊と何らかの繋がりを持っていると確信していた為、姿を見て声を掛けることはしない。そして、大学園祭の最終日に起こった出来事もすでに綾斗達から報告を受けてこの場に臨んでいた。

 

「お待たせして申し訳ありません。始めましょうか」

 

 ヘルガが六人と対面する形で着席し、船曳はヘルガの後ろに立って瞑目する。

 学生と星猟警備隊の隊員が向かい合わせで対面するという状況は、通常であれば学生側が何らかのトラブルを起こして星猟警備隊から注意、または指導というような構図だが、実際は逆。

 

「まずは、星導館学園の生徒会長から」

 

 ヘルガがクローディアに質問を促す。

 

「はい、まずは我が校から停学処分を受けているそちらの船曳正さんのことを説明して頂きたいです。船曳さんの身柄は警備隊に預けられ、行動監視も実施されているはずです。ですが、我が校の生徒とクインヴェール女学園の生徒会長からの証言。そして今、警備隊の制服を纏って我々と対面している状況。これに納得できる説明を求めます」

 

 クローディアは声には出さないが、船曳が星猟警備隊の隊員なのかの質問を投げかける。

 

「すでに察せられていると思いますが、こちらの船曳は正式な警備隊の隊員です。そして、行動監視という名目で身柄を預かり、生活情報などを星導館学園側へ報告していたことですが、その報告には虚偽がありました」

「やはり、そうでしたか」

「それに対して我々警備隊に弁明の余地はありません。申し訳ございませんでした」

 

 ヘルガはそう言うと頭を下げる。同時に船曳も腰を曲げて謝罪の姿勢を見せる。

 

「頭をお上げください。確かに我々としては警備隊への信用を下げる要因となりましたが、彼はこちらにいるユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトの関係者を誘拐犯から救って頂いております。違いますか?」

 

 頭を上げた二人を見ると、去年の夏に起こったフローラ・クレムの誘拐事件のことを問う。

 

「フローラ・クレムという少女の誘拐事件の解決に当たったのはこちらの船曳です。同時に、誘拐犯を捕えたのも彼です」

「その誘拐犯はどうなったのだ! レヴォルフの奴らか!」

「ユリス」

 

 ユリスはフローラの誘拐犯を捕えたという船曳へ誘拐犯は誰だったのかを怒声を浴びせるように問う。

 クローディアは宥めるようにユリスの名前を口にする。

 

「その質問に対してはお答えすることは出来ません」

「なぜだ!」

「犯人の素性が分かっていない為です。今、レヴォルフ黒学院の関係者かということを問われましたが、素性が分かっていない為にお答えすることは出来ません。ですが、犯人は現在も我々の管理下にあることは事実です」

 

 これは嘘である。

 へルガは去年の夏に起こったフローラ・クレム誘拐事件の犯人がレヴォルフ黒学院の諜報工作機関『黒猫機関(グルマルキン)』の金目の七番、ヴェルナーという人物だと分かっている。だが、その裏に繋がっているはずのレヴォルフ黒学院の生徒会長、ディルク・エーベルヴァインが全く尻尾を出さない為、声高々にレヴォルフ黒学院を罰することが出来ないからだ。

 ヴェルナーから押収した携帯端末からディルク・エーベルヴァインと思われる人物との通話履歴等から繋がっているのは分かった。だが、それが本当にディルク・エーベルヴァインと確証できる証拠の裏付けは出来ていない。

 なので、ユリスの質問には業務上の理由で答えることは出来ないのだ。

 

「ならその犯人に合わせろ!」

「ユリス、口を慎みなさい」

 

 感情的になったユリスをクローディアが口調を強めて注意を促し、その言葉で犯人の追求を止めるユリスだが、表情からは怒りが収まってはいない。

 

「我が校の生徒が失礼いたしました」

「いえ、誘拐された関係者の方々が犯人の素性を知りたがるのは当然のこと。我々としても捜査を続けておりますが、有力な情報がつかめていないので、業務上の理由でお答えは出来ません」

「大丈夫です。犯人が警備隊の管理下にあるのであれば、こちらとしては特にこの問題を掘り下げることはありません。今日伺ったのは船曳さんが警備隊とどのような関係を持っているのかを確認することです。なのでユリス、悔しいでしょうが、今は引きなさい」

 

 クローディアの言葉で渋々といった形で溜飲を下げるユリス。

 しかし、ユリスはすでに星猟警備隊への信用はほぼ無くなっていた。それを表情から察するクローディアだが、そのフォローは後にすることに決める。

 

「では次に、先程船曳さんが警備隊の隊員であるとおっしゃりましたが、具体的にはどのような活動を行っているのですか? わざわざ当校に虚偽の報告をしていたのですから、ただの一隊員では無いと推測できますが?」

 

 今度は船曳の核心を付いてくるような質問。

 

「警備隊長、申し上げるのですか?」

 

 その質問に対して目を開き、答えるのかをヘルガに問う船曳。

 

「仕方あるまい、この場はお前の立場を説明する場だ。この質問に答えなければ警備隊は星導館学園とクインヴェール女学園からの信頼は完全に失墜する」

「警備隊長がそうおっしゃるのなら――」

 

 ヘルガの決断に船曳は再び瞑目する。

 

「皆さん、今から話すことは他言無用でお願いいたします。この情報は我々の治安維持活動に重要なことが多分に含まれておりますので、それを約束していただかない限り、質問に答えることは出来ません。もし仮に他に漏れるようなことがあれば、我々も容赦はいたしません」

「それが先程おっしゃった信頼が完全に失墜するとしても、ですか?」

「そうです」

 

 クローディアの問いに即決するヘルガ。

 この対応には全員が息を呑む。

 クローディアは星導館学園の全員を見遣る。

 

「と、申されておりますが、皆さんはどういたしますか? 私は立場上、お聞きすることになりますが、皆さんは退出されても構いませんよ?」

 

 言うだけ無駄と分かってはいるが、一応確認の言葉を掛ける。

 

「俺は問題ないよ、クローディア」

「私もだ、その男には聞きたいことが山ほどある」

「私も大丈夫」

「私も大丈夫です、クローディア先輩」

 

 星導館学園の全員は肯定の意向を示す。

 

「私も大丈夫だよ、クローディア。私もその船曳さんって人が気になるし」

 

 クインヴェール女学園のシルヴィアも肯定の意向を示す。

 

「と、言うことですので、ここにいる全員が覚悟は決まっているようです」

「分かりました。ちなみに先程の言葉は録音済みです。あしからずに」

「とても機密性が高いと察せられますが――」

「それほどの情報なのです」

 

 そう言うとヘルガは一拍置き、口を動かす。

 

「船曳の警備隊での肩書は『対企業特殊作戦部隊隊長』兼『六花公安部隊隊長』です。我々は通称『暗部隊』と呼んでおりますが船曳は二つの部隊の隊長を兼任しております」

 

 ヘルガが口にした船曳の二つの肩書に六人が目を見開き、息を飲む。

 

「それは、具体的にどのような部隊で、どのような活動をしているのでしょうか」

「言葉の意味をそのままに受け取ってもらって大丈夫です。対企業特殊作戦部隊とは統合企業財体に対しての特殊作戦の実施。また、統合企業財体の人物に対して六花に危険を及ぼす可能性がある人物を調査する部隊です。六花公安部隊とは主にこの六花に巣食うマフィアや反社会的団体に対して六花の治安と民衆の生活を守る為に編成された部隊です」

「そのような重要なことを行う二つの部隊の隊長を、彼は兼任されているのですか」

「はい。表沙汰の事件に対しては私の名前が、裏側の事件に対しては船曳の名前がこの六花での治安の抑止力になっているのです」

「船曳さんは、いつから警備隊でそのような活動をなされていたのですか?」

 

 一介の学生が持っていい肩書では無いことが十分に分かったクローディアはいつから船曳が星猟警備隊で活動していたのかを問う。

 

「船曳が警備隊へ入隊したのは15歳の時、今から約7年程前です。つまり、星導館学園の高等部へ入学してからです。そして、船曳は正規の入隊ではなく、直接私が勧誘しました」

「警備隊長自らですか」

「はい。より詳しく言えば、私は彼が六花に来る前に活動していたある理由から船曳のことを探していたのです。船曳は六花に来る前から今のような活動を行っていました」

 

 ヘルガの説明を聞き終えたクローディアは視線を瞑目している船曳へ向ける。

 

「船曳さん、六花に来る前から今のような活動を行っていたのですか? 一体なぜ?」

「そういえば、あの時に仮面の人が第二期新選組の三番隊組長って言っていましたよね? あと“国家衰退期”という言葉。それと何か関係があるのですか?」

 

 綾斗が述べた重要と思うキーワードを聞くと、ヘルガは視線を船曳へと遣る。

 

「やはり、知られていたか」

「申し訳ありません。あのときは冷静さを欠いていました。」

「ふぅ。仕方ない、説明して差し上げろ」

「承知しました」

 

 ヘルガの言葉に船曳は目を開き、学生の全員を見遣る。

 

「《落星雨(インベルティア)》が起こった後に、既存国家が衰退の一途を辿ったことは全員がご存知ですね?」

「そんなことは世界の常識だろう。まぁ、皮肉なことだが、《落星雨》でリーゼルタニアも復権したが――」

「その通りです。今ユリスさんがおっしゃったように既存国家が衰退し、世界経済を乗り越える為に数々の企業が融合したのが統合企業財体です。そして、今は企業体制という世の中が構築されたのですが、当然今の企業体制を快く思わない国家は無数に存在しました。ユリスさんの出身地であるリーゼルタニアも企業体制の影響を受け、傀儡国家になりかけておりますね」

「そんなこと……、今はどうでもいいだろう!」

「いえ、全く関係が無い訳ではありません。事実、私の出身はこの六花を出ればすぐの日本ですが、統合企業財体がこの六花に集中した結果、企業の圧力を強く受けたのは日本も例外ではありません。事実、今の日本も半ば傀儡国家です。表向きには経済状況で企業に屈した構図だったのですが、裏では企業側から仕向けられた刺客に企業体制という状況に強く反対していた政治家や活動家が暗殺されるという事案も起こっていたのです」

「なっ!」

 

 その事実に学生側の全員が愕然とする。

 船曳はそのことに気付いているが、気にせずに淡々と口を動かす。

 

「それに対抗する為に、日本の警察、政治家も極秘裏に動きました。警察内の志願者、全国に点在する武芸者、企業体制に反対する人物、更には身寄りを無くした子供などを集め、企業から向けられる刺客から国家を守るという名目で少数精鋭の武力部隊を構築したのです。それが、公安警察よりも更に秘匿性も高く、なおかつ殺傷権も有する部隊。それが『第二期新選組』です。政府役人からは日本の江戸時代末期の新選組にあやかり、壬生浪と称す方々もいらっしゃいました。最終的に日本が統合企業財体に経済的理由により屈した構図となり、解散しておりますが、私もその第二期新選組の一人だったのです」

「待ってください。先程、こちらの天霧綾斗から三番隊組長という言葉がありましたが……」

「はい。私は第二期新選組の三番隊、厳密に言うと少年隊。先程身寄りを無くした子供と申し上げましたが、私もその一人です。そして、言葉通り、私はその三番隊の組長でした」

「そんな、過去を」

 

 船曳の壮絶すぎる少年時代に六人が息を呑む。

 

「私は生まれが服役している囚人だったそうです。幸運か不幸か、生まれ落ちた私は《星脈世代(ジェネステラ)》であり、すぐに第二期新選組へ移されたそうです。事実、私は本当の母親と父親を知りません。物心ついた時には刀を握らされ、殺しの技と情報セキュリティ分野を徹底的に叩き込まれました」

 

 場が段々と重苦しい雰囲気になっていくが、自身の半生の説明を続ける船曳。

 

「当時の三番隊の隊士は18歳になると別の隊へ異動するのですが、私の当時の組長もその慣例に習って異動しました。その際、次の三番隊の組長は第二期新選組の局長と副長の立ち会いのもと、実力で勝ち取るものでした。私は7歳で三番隊の組長となり、第二期新選組が解散するまで務めました。解散した当時は13歳でした。その後、義務教育を受けながら、私はしばらく第二期新選組の局長が立ち上げた孤児院に身元を預かって頂いておりましたが、その後にヘルガ警備隊長に星猟警備隊への入隊を勧められました。当時は乗り気では無かったのですが、局長とヘルガ警備隊長の度重なる勧誘で、現在の地位に就きました」

「船曳の言っている局長という人物は船曳猛(ふなびきたける)。第二期新選組を立ち上げた人物です。そして船曳へ“正”という名前を与えた人、正しく生きてほしいという願いを込めて名付けたそうですよ」

「そう、ですか。ですが、船曳さんの両親はすで他界されているはずでは?」

「事実です。二人共、獄中で亡くなったそうですよ。第二期新選組に入隊後、しばらく経ってから聞いたことです」

 

 クローディアは質問するべきでは無かったと後悔する。

 その証拠に、学生の全員が表情に暗い影を落としていた。

 

「同情はいりませんよ、私は実の両親を知らないですから」

 

 肩を竦めながら船曳は言うが、効果は芳しくない。

 

「船曳さん、事情は分かりました。今この場で私の口で何も言うことは出来ません。あなたが当校に黙って外出していた事実はこの場にいる者しか知りません。よって、船曳さんの星導館学園からの停学処分は引き続き継続する形になります」

「ええ、先程申し上げた通り、船曳は統合企業財体に対して強い圧力を掛けている存在でもあります。余程の上級役員で無い限り、船曳の裏の顔を知っている者はいません。各学園にはあまり船曳のことを触れ回ることはしないように忠告しておきます。万が一この話が漏れるようなことになれば、警備隊の暗部隊が皆さんの命を奪います」

「肝に命じておきます。皆さん、よろしいですね」

 

 クローディアが全員を見遣るが、船曳の半生が余程ショッキングな内容だった為、全員が生返事しか返さない。

 その時、船曳の携帯端末へ一通のメッセージが届く。

 

「失礼」

 

 詫び言を入れ、携帯端末を起動すると内容を見る。内容はある統合企業財体の下級役員が六花のマフィアと繋がっている裏付けが取れたということ。そして、その役員が勤めている企業から正式に抹殺の依頼が届いたということ。

 その二つの内容をヘルガに確認させる。

 

「当初の予想通り、切り捨てることを選んだか――。任せる」

「承知いたしました」

 

 そう言うと船曳はブリーフィングルームを後にしようとする。

 

「どこへ?」

「すみませんが、船曳にはある作戦に参加していただきます。変わらず、船曳のことは私の口から出来得る限りのことは説明しますので――」

「そうですか」

「では生徒会長、失礼します。ヘルガ警備隊長、後を頼みます」

 

 そう言うと船曳はブリーフィングルームから退出する。

 

「さて、少し空気が重いので、船曳を勧誘するに当たって少し問題視していた部分の話をしましょうか」

 

 船曳が去った後も学生達の表情が芳しくない為、やや強引ではあるが話題を船曳の勧誘に当たって問題視していた部分の説明を行おうとヘルガは思い、口を動かす。

 

「問題視?」

「はい。あの時、船曳から溢れ出る強烈な殺気を醸し出していたのを覚えていますか?」

「えっ? あっ、すみません、確かに、もう殺す。と船曳さんが言った時、背筋が凍る思いをしたのを覚えています」

 

 ヘルガからの問いに綾斗が答える、他のメンバーも先のことを引きずっている様子だったが、船曳と処刑刀と呼ばれていた者の戦闘を思い出す。

 

「私が船曳を勧誘するに当たって問題視していたのは、第二期新選組の、いえ、船曳自身のある信念だったのです」

「信念?」

「悪即斬」

「悪即斬?」

「言葉通り、『悪』は『即』『斬』り捨てる。船曳が星猟警備隊入隊間もない頃なんかは私に許可を得ることもなく、六花に巣食うマフィアを片っ端から斬り捨てていました。その姿はまさに血に飢える狼のようで――。今でこそ落ち着いてはいますが、当時の船曳は任務とあれば常にあのような殺気を平時でも滲み出していたのです。まぁ、元は日本の重要人物達を統合企業財体の刺客から護る為の武力部隊の出身でしたから、常に生きるか死ぬかの世界でしか生きてこなかった船曳にとって、その元凶が巣食う六花での警備隊の活動は、彼の言う平和ボケが行き過ぎていたのでしょうね」

 

 言い終えるとへルガはクローディアに視線を向ける。

 

「クローディアさん、私が言うのもおかしいですが、彼の在学期間は後一年です。その一年間をどうか、普通の学生らしいことを学内にいる内に十分に体験させてあげてください。これは私の個人的な老婆心です」

 

 

 

 

 歓楽街(ロートリヒト)のあるビルの一室。

 ある企業の下級役員があるマフィアのボスと取引を行っていた。

 

「では、これが約束の」

「はい、確かに確認しました」

 

 この下級役員は統合企業財体が世界の権力を握り始めてきた時代からの古参であるが、私欲が強すぎることが災いし、いつまで立っても下級役員の地位から抜け出せないでいた。

 そして、それに業を煮やしたこの下級役員は六花のあるマフィアと繋がり、私腹を肥やそうと影で動いていたのだ。

 

「ではこれで解散しましょう、あまり時間を掛けるとあなたの立場も危ういですので」

 

 そう言ってマフィアのボスが立ち上がろうとした瞬間、室内の窓が割れると同時に、マフィアのボスの頭が血を吹き出して爆ぜた。

 

「ボス!」

 

 それを見た側近がボスの元へ駆け寄ろうとするが、その側近もボスと同じ運命を辿った。

 

「ひぃぃ!」

 

 それに腰を抜かした下級役員が窓から見えない場所へ命からがら逃げていく。

 狙撃。それがマフィアに起こった悲劇だった。つまり、この場はどこかの勢力に見られており、同時に自分の命も狙われている可能性が非常に高まったのだ。

 狙撃が行われ、この室内には下級役員一人しかいない。すると、室内の出入り口が開く。その姿を見た下級役員が驚きの声を発する。

 

「警備隊だと!?」

 

 現れたのは船曳、左手に持つ新調した打刀には血が滴っている。

 この場に来る前に、マフィアの下っ端と下級役員に雇われた用心棒をすべて斬り捨ててきたのだ。

 

「来るなッ! 私は企業の役員だぞッ! 私を殺せばどうなるか――」

「お前は一つ勘違いをしているようだな」

 

 下級役員の言葉も聞かずに船曳は言葉を遮る。

 

「お前ら企業側の人間は自分達で企業体制の世を築いたと思っているが、俺達国家側の人間も敗者という役で企業体制の世の構築に人生を掛けた。俺が警備隊として服従しているのはその企業体制を食い物にするダニ共を始末する為だ。この六花に生きる新選組としてな」

 

 言いながら下級役員の方へ歩みを進める船曳。

 

「ヘルガ・リンドヴァルだろうが誰であろうが私欲に溺れ、この六花に、なにより祖国に厄災をもたらすようであれば、悪、即、斬のもとに斬り捨てる」

 

 船曳が打刀の切っ先を下級役員へと向ける。

 

「ま、待てッ! 待ってくれッ! 金ならいくらでも――」

「犬はエサで飼える。人は金で飼える。だが、壬生の狼は何人にも飼うことはできん」

 

 言い終えると下級役員の心臓へ打刀を突き刺す。

 

(あの頃、そして今も、狼は狼。新選組は新選組。そして“人斬りは人斬り”)

 




史実の斎藤一は諸説ありますが、粛清約、暗殺役、スパイ活動を主にしていたという文献がございますので、本作もその文献に元に作成しております。

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