今回は前作のバックボーンを整えつつ、オリジナリティも加えていきます。
なお、都合によりオルトネア氏が執筆活動を辞めた為、一人での投稿となります。
誤字、脱字など、報告していただけると幸いです。
六花ではまもなく《
《獅鷲星武祭》の開催前に六花を震撼させた
しかし、解決のやり方があまりにも強引であった為、世間の星猟警備隊に対しての評判は悪化していた。
理由としては星猟警備隊が正式に表明した犯人の処遇に対しての顛末。
『捕縛の際に激しく抵抗した為、隊員の命、付近の住民の命を優先し、やむなくその場で殺害した』という声明。
この声明に各マスコミや市民からの批判——実際に被害を被ったのは星猟警備隊だけなので、文句を言いたいのは星猟警備隊である——が全世界から殺到した。
世間が求めていたのはなぜ学生ではなく星猟警備隊の隊員を狙ったのかという経緯と動機の明確化。しかし、その部分が不明のまま、犯人は殺害された。
各メディアの質問にも頑なに星猟警備隊は沈黙を貫いた。その対応も世間からの批判に拍車をかけたのだった。
だが、そんなことも《獅鷲星武祭》の開催が近づくにつれて薄れていく。事実、星猟警備隊には声明を公表した当初は朝から晩まで事件に対しての問い合わせが殺到していたが、それもここ数日は音沙汰無し。一部のネットユーザー達がネット上で様々な憶測を立てているが、そんな根も葉もない憶測に対応するほど星猟警備隊も暇ではない。
星猟警備隊は鳴り止むことのなかった電話対応の業務から開放され、まもなく開催を迎える《獅鷲星武祭》に向けての警備強化が現在の主な任務となっている。
それは事件を解決した船曳が隊長を務める通称『暗部隊』も同様である。
「――そっちの方は引き続き様子を見ろ、動いたらすぐに映像に撮って表の奴らに回せるように準備しておけ」
『承知しました』
「もし一般市民に被害が出そうな場合は分かっているな?」
『承知しております』
その言葉を聞き終え、通話を切ったのは船曳。
通話を終えた船曳は自身のデスクで先程の通話内容の詳細をパソコンの事務ソフトに入力していく。相手は
船曳は統合企業財体やマフィアの動向を監視し、情報を集める隊員からの報告を統括して警備隊長のヘルガへ報告するのが任務の一つでもある。
大抵のことは船曳達の所属している暗部隊が“表の連中”と呼んでいる通常の業務や事件対応を行う各部署にヘルガを経由して送られる。
あまりメディアに触れられたくない秘密裏の案件などは当然ながら暗部隊が対応する。具体的なことは武力行使。それも場合によっては容疑者の殺害も含まれる案件である。
本来、表立った事件の解決は上述したそれぞれの部署が対応するが、前回起こった殺傷事件の解決にヘルガが起用したのは船曳であった。当然ながら、表立った事件の犯人を隊員や付近の住民の命を優先するという建前を繕っても殺害したとなれば世間の批判を浴びる。それでも事件が解決していない状態で《獅鷲星武祭》が開催されれば星猟警備隊の信頼は全世界から失墜する。その最悪の事態を避ける為、必要以上の隊員の犠牲を増やさないという二つの理由から、ヘルガは事件解決に船曳を起用したのだった。
ヘルガとしては捕縛という結果を望んでいたが、批判も承知の上でも事件解決の最低条件を確実に満たせる人材は星猟警備隊には船曳が最的確だったのだ。
各メディアからの問い合わせへの対応も事前に決めていた方針であった為、星猟警備隊の各部署の対応もスムーズであった。《獅鷲星武祭》の開催が近づくにつれて世間の興味が薄れていくことも想定範囲内。星猟警備隊の創設者であるヘルガの経験から基づく巧妙な舵取りである。
そんなヘルガの思惑を知っているのかは不明だが、事件解決にあたった当人である船曳はつい先日、事件の報告書を暗部隊の観点からまとめた最終報告書をヘルガに提出したばかりであった。現在は部下からの報告を統括した定期報告書の作成。《獅鷲星武祭》期間中の部下への活動指示が主な業務となっている。
最終的にはほぼ独立した活動を行っていた第二期新選組ではあるが、元の始まりは日本の警察組織である。船曳が三番隊の組長に就いた時にもこのような事務仕事を行っていた為、特に業務に困ることはあまりない。
「……時間か」
目の前のパソコンから『打ち合わせ10分前』と表記されたポップアップを見ると、作成した書類のデータを暗部隊の部署にある複合機へ送信。手帳とボールペンを持って席から立ち上がり、複合機の前に立つ。複合機に自身の隊員証を翳し、先程送ったデータをプリントアウトすると複合機の近くに備えられている各備品が収納されているケースからホッチキスを取り出す。プリントアウトした書類を水平な場所にトントンと軽く打ち付けて乱雑な状態の書類を整頓し、最後に整頓した書類の左上にホッチキスを打ち込む。これで打ち合わせの際に提出する書類は完成した。
パラパラと書類を確認し終えると取り出したものをケースへ戻す。次に足を向けたのは大きな電子ボード。そこには暗部隊に所属している人物の名前が全て明記されており、名前の横には勤怠の状況が表記されている為、誰が出勤しているのかを確認することができる。
船曳の名前の横には出勤中の文字が表記されている。船曳は自身の名前をタッチする。すると電子ボードから退勤、退席中、外出中、特務の文字が表示される。その中から退席中の文字をタッチすると備考欄に打ち合わせと入力し、何時から何時まで、どこにいるのかを細かく入力していく。全て入力を終えると確認と表示されている場所をタッチする。最後に隊員証を電子ボードのすぐ近くにある機械に翳すと船曳の勤怠の状況が打ち込んだ情報に更新された。
暗部隊の部署から出ると打ち合わせを行う場所へ向かっていく。前回の事件の戦闘の際に負った両太腿に若干の痛みを感じるが、足取りは決して重くはない。そのまま誰ともすれ違うことなく廊下を歩いていき、ある一室の扉の前に立つと隊員証を翳して入室する。
「お疲れ様です。警備隊長」
室内は長机と椅子、電子ボードが置かれているブリーフィングルーム。室内には警備隊長であるヘルガが座っていた。長机に置かれている書類から、船曳が来る前に他の部署の責任者と打ち合わせを行っていたことが推察できる。
船曳の姿を見たヘルガは視線で対面の席へ座るように促す。意図を汲み取り、ヘルガの対面に着席した船曳は作成した書類をヘルガへ手渡す。
「足の傷はどうだ?」
書類を受け取ったヘルガは書類に目を通しながら船曳へ傷の状態を問う。
「痛みはありますが、業務に支障をきたす程ではありません」
「そうか」
何とも味気ない会話交わすと、本来の目的である打ち合わせへと移行していく。今回の打ち合わせは開催が迫る《獅鷲星武祭》期間中の暗部隊に所属している隊員の行動予定を共有すること。とはいえ、ヘルガは船曳が率いる暗部隊は星猟警備隊に属していながらも、有事の際には船曳の判断で独立して動くことを容認している。統合企業財体を相手取った作戦やマフィアの壊滅など、大規模な作戦にはヘルガの署名捺印が必要な“作戦企画書”というものを作成することを義務付けている。
この作戦企画書の作成を義務付けた背景には船曳が星猟警備隊に入隊し、本格的な活動を始めた頃に遡る。
ここで少し、船曳正の率いる暗部隊。対企業特殊作戦部隊と六花公安部隊の成り立ちを振り返る。
*
船曳が星猟警備隊入隊間もない頃、ヘルガは船曳に対して二つの任務を与えた。
一つは六花でタブーとされている翡翠の黄昏に関する情報の再収集。
もう一つは六花のどこかで行われているとされる非合法の武闘大会に関する調査。
この二つの任務の遂行についての権限は全て船曳に委譲——この決断がヘルガに大きな後悔を生み、作戦企画書の作成を義務付けた原因である——された。ヘルガの目的は秘密裏に統合企業財体が日本へと向けた刺客と戦い続けた第二期新選組の事件に対する動きを確認することであったが、この二つの任務の結果はヘルガの目的よりも幸運か不幸か、大きな成果をもたらすことになった。
まず船曳は任務の遂行に際して人選から着手。ヘルガから推薦を受けた星猟警備隊の隊員のリストを受け取った船曳であったが、リストを受け取ると隊員の名前も見ることなく破棄し、『数人の隊士を受け入れる準備をしてほしい』とヘルガに頼んだ。理由としては統合企業財体に対して真っ向から対立できる覚悟を持つ人物は星猟警備隊にはいないという事実。それにはヘルガも異を唱えることはできなかった。船曳を直接勧誘したのがその証拠である。ヘルガは不承不承ながらも船曳の要請を承認。その後、船曳は解散した第二期新選組の中から八名を招集。全員が船曳の元へと集った。船曳を含めて九名体制。これが暗部隊の前身部隊『浪士組』である。
浪士組を発足して最初に取り掛かったのは翡翠の黄昏に関しての再調査。取り逃がした犯人の捜索は別の部署が行っている為、浪士組の目的は翡翠の黄昏に関して『統合企業財体や学園、もしくはマフィアが関与していたのか』という検証。もし統合企業財体や学園、マフィアが関与していたのならば、同じような大規模なテロ事件が発生する可能性を含んでいるからだ。
ヘルガから受け取った捜査資料、逮捕した犯人の経歴など、翡翠の黄昏に関する様々な資料から多角的に検証を重ね、浪士組は六つの統合企業財体の中から関与が疑われる企業を半分に絞った。
除外した企業は『
対して疑いをかけた企業は『銀河』、『ソルネージュ』、『フラウエンロープ』
除外した企業の理由としては運営する学園の校風や展開している戦略。
E=Pが運営している聖ガラードワース学園は厳格な校風で知られている。徹底された規律の遵守。将来的にE=Pの社員として登用されることを望むのなら、テロ行為に加担したという汚点を自ら被ることはないだろう。唯一、情報戦に長けている諜報工作機関が気がかりだが、諜報工作機関の存在を気にしていれば絞り込めることなど出来はしない為、諜報工作機関の影響については検証には考慮はしなかった。
次に界龍。運営する界龍第七学院は六学園の中でも最大規模を誇るが、いかんせん企業と学園の思惑の乖離が激しい。学園に所属している学生は己を鍛え上げることを目的としており、《星武祭》で優勝することは鍛錬の延長線上という思いを持っている学生が大多数を占める。そのようなストイックな学生が六花を巻き込んだテロ行為に走ることはまずないだろう。
最後にW&W。浪士組が真っ先に関与は無いと断定した企業である。六花で唯一の女子校であるクインヴェール女学園を運営しており、六学園の中では最小規模ではあるが、学園と企業の結びつきが六学園の中でも強い。しかし、展開する戦略が世界規模とする学生を用いた芸能活動である。それを企業がバックアップしており、かつ利益も上げている現実から、この企業と学園については手を付ける必要性は無いだろう。
疑いをかけた企業も理由は同様である。
銀河が運営する星導館学園は端的に言って自由。しかし、なぜか《
ソルネージュが運営するレヴォルフ黒学院も星導館学園同様、端的に言ってしまえば自由であるが、その自由というものが悪い方向に働いている。その理由が学園という名前を冠しながらも、校則という学園にあるべき規則が全くもって機能していない。その為、素行不良の学生なども多く、星猟警備隊が手を焼いている現実もある。それ以外にも六花に巣食うマフィアと関係を持つ、もしくはマフィアを作っている学生の存在。そして、最も危惧したのは大手PMCであるHRMSの社員を“傭兵生”と名付けて《星武祭》に出場させている経歴。PMCとマフィア。この二つの組織が手を組むようなことがあれば、テロ行為を計画することも十分に考えられる。
最後に、浪士組が半分に絞った企業の中で最もテロ行為を行う可能性が高いと見込んでいたのがフラウエンロープ。運営するアルルカント・アカデミーは落星工学の研究に関しては他の学園の追随を許さない。所属する学生は大まかに分けて実践クラスと研究クラスに大別されており、研究クラスに関しては企業が研究における費用を負担しており、《星武祭》が開催されるごとに新型の
浪士組が着目したのはアルルカント・アカデミーの研究クラスである。
研究のためなら非道徳的な実験すら厭わない。実験と嘯きながら六花を巻き込むテロ行為を平気な顔をして行うことが十分に考えられる。
フラウエンロープを主軸におきながら、銀河、ソルネージュの主要幹部。運営する学園と在籍している主な学生を翡翠の黄昏を起こした犯人達と照らし合わせ、時に翡翠の黄昏の解決の当事者であるヘルガも交えながら検証を重ねていった浪士組。だが、明確な決定打を見出だせないまま時間だけが過ぎていった。
ヘルガから見れば数人の逃走者を出したものの、解決済みの事件である翡翠の黄昏に対して様々な可能性を見出す浪士組の考察力には舌を巻いたが、目的であった事件に対する動きを見ることは十分に確認できた。なので、これ以上の検証は打ち切り、もう一つの任務である六花のどこかで行われている非合法の武闘大会への調査に業務を移るように船曳へ促したが、船曳を始め、浪士組の全員は諦めが悪かった。
転機が訪れたのは浪士組の一人が発した一つの疑問。
『なぜアルルカントは汎用性がある煌式武装の開発ばかりで、ウルム=マナダイトを使用した
フラウエンロープが運営するアルルカント・アカデミーは常に新型の煌式武装を開発するが、基本的に作り出されるのはマナダイトを使用した煌式武装が大半である。言うなれば、誰でも使える代物である。汎用性の高い煌式武装を大量に生産する為といえばそれまでだが、ウルム=マナダイトを使用した純星煌式武装は強力な武器である。その純星煌式武装に使うウルム=マナダイトもこの世に二つと無い物。しかし、ウルム=マナダイトには意思が宿ると言われ、純星煌式武装を使用する者はウルム=マナダイトの意思によって代償が必要になると言われている。
船曳はウルム=マナダイト、および純星煌式武装に宿ると言われるその“意思”と“代償”に着眼した。
『ウルム=マナダイト、もしくは純星煌式武装の意思や代償によって人格が崩壊し、破壊的、猟奇的、支配的な思想に陥り、テロ行為を起こしたのではないのか』
船曳が立てた一つの仮説。
この仮説から翡翠の黄昏に関係する人物が一人いる。
ヘルガが翡翠の黄昏の指導者と目していた“ラディスラフ・バルトシーク”である。
事件が解決した後、謎の失踪を遂げている人物である。
そのラディスラフは星導館学園の大学部教授であった為、身内の不祥事を他の企業に知られたくないという銀河の思惑が推察できる。
ラディスラフは純星煌式武装研究者としての実績も秀逸であるが、その中には曰く付きの純星煌式武装も存在する。
浪士組が目をつけた純星煌式武装。それは《パン=ドラ》である。
これまで何人かの学生がその力に魅了され、人格を破壊された代物である。
浪士組は捜査対象を銀河だけに絞り、外部からラディスラフに関する情報を徹底的に調べ上げたが、銀河によって情報工作がされているのか、決定的な情報を得られなかった。
本来ならここで手詰まり。捜査は終了となるが、統合企業財体の圧力程度で動じないのが第二期新選組出身の浪士組である。
ヘルガが求めた六花のルールに縛られず、統合企業財体に対しても強気に動いていける人材がここでその力を発揮したが、事後報告の形で入手した情報。その入手方法にヘルガは愕然とした。
それは第二期新選組の常套手段の一つ、“討ち入り”である。
疑わしきは罰せずという言葉がある。日本国憲法第31条のいわゆる“推定無罪の原則”のことを指した言葉であるが、第二期新選組はこの条例によって捕らえた犯人を決定的な証拠を握っていたにも関わらず、裁判官が統合企業財体の圧力に屈していた状況により、裁判で何度も苦杯をなめさせられた言葉でもある。
その経験から、統合企業財体の刺客と疑わしき者は即刻斬り捨てるという第二期新選組の中でも最も強引かつ単純な解決手段である。
この手段が日本と統合企業財体との間にさらなる軋轢を生んだ要因でもあったが、それはすでに過去の話。現在の日本は第二期新選組の存在など知らぬ存ぜぬという立場を貫いている。見方によっては切り捨てられたとも受け取れるが、この立場のおかげで生き残った第二期新選組の隊士達は統合企業財体から命を狙われることなく過ごすことができている。
閑話休題、いくら討ち入りを行うと決めても、相手は統合企業財体の銀河である。船曳はまず、討ち入りで入手する対象をラディスラフ本人ではなく、ラディスラフが残しているであろう研究資料に狙いを定めた。
そもそもの話であるが、ラディスラフの身柄を六花に留まらせているのかもわからないのだ。もし本人がいたとしても、脱出の際に足枷になることが想定される。
目標を定めたのであれば、次に研究資料がどこに保管されているのか。これには大体の目星がついていた。銀河のシステムサーバーである。大本から直接アクセスできればいくら厳重なセキュリティが施されていようと、その障害は乗り越えれば良い。その類に強い隊士は三名おり、第二期新選組時代に日本政府と共同開発した精密な情報解析装置もある。セキュリティを乗り越えれば、その情報解析装置“イーグルアイ”の出番である。船曳の居住地にある《ノーネーム》と同様、日本政府が秘密裏に所有していたウルム=マナダイトの一つを用いた人工知能であり、データが破壊されていようが改竄されていようが真実を暴くことができる。
知識欲旺盛なウルム=マナダイトであった為、人間が直接使えば知識の受け皿となる脳が破壊されてしまうが、その受け皿を人工知能に置き換えることで実現した情報解析装置である。
研究資料奪取についての情報的な障害はセキュリティ関連なら隊士三名が、情報の破壊や改竄なら《イーグルアイ》で解決できる。
物理的な障害。常駐する警備員などの戦闘においては言うに及ばず。物理的な障害で懸念すべきは各企業が有する実働部隊であるが、余程のことがなければ実働部隊は招集されない。何かの会合などで実働部隊が銀河の中におり、なおかつ全勢力が待ち構えられれば失敗することは目に見えているが、まず討ち入りという事態など想定されていない。
討ち入りに関しての障害はほとんど解決。懸念事項はシステムサーバーがどこにあるのか。これについては突入しなければ分からない。最悪、情報を入手することが叶わなくとも、討ち入りを許したという事実は他の企業に付け入る隙を与えることになる為、捕まらなければ銀河は公表することはないだろう。外部に伝えるとすれば星猟警備隊である。
綿密に、周到に、なおかつヘルガにも悟られずに練られた討ち入りは——成功した。
星猟警備隊であるという事実を偽る為、全員が着の身着のままの衣服、特殊な擬装によって素顔を偽ったが、全員に共通する部分がある。衣服の背に『誠』の文字——。
30分にも満たない迅速な討ち入りはあまり大きな成果を上げられなかったが、当初疑いをかけたウルム=マナダイトの意思による犯行の可能性が考えられる純星煌式武装の存在を発見することができた。それが《ヴァルダ=ヴァオス》という純星煌式武装の代償である『身体を乗っ取られる』という発見につながった経緯である。
犠牲者を出すことなく、浪士組の九名全員が星猟警備隊本部に帰還したが、当然ながら警備隊長であるヘルガには大目玉を食らうことになった。特に何度も確認されたのは銀河の社員を殺したのか。この部分については誰も殺していない。討ち入りとは大仰な呼び方ではあるが、何も知らない人間に対して剣を振るうことなどしないのだ。
しかし、次の任務である非合法の武闘大会に関する調査については文字通りの討ち入りとなった。
標的になったのは六花に巣食うマフィア。これについて船曳は一切の容赦をしなかった。
非合法の武闘大会については十中八九、マフィアが繋がっているだろうと考えていた。
安直な考えではあったが、黒い噂は黒い部分に集中する。それと同時にマフィアの壊滅へと繋げられれば一石二鳥である。
違法カジノ経営、人身売買などを始め、非合法な活動をしていたマフィアは大小限らず、ほぼ全てを浪士組は襲撃した。この時には星猟警備隊の制服を着て活動した為、一時期はマフィアと星猟警備隊が全面的に争う構図となったのは言うまでもない。
浪士組は抵抗した者はその場で斬り捨て、捕らえた者は拷問を行って非合法の武闘大会の捜査を進めていった。
それと同時に、浪士組は抑圧されていた人々の開放も積極的に行い、優秀な人材は浪士組に取り入れていった。
そのような活動を行った結果、マフィアの勢力図が大きく変わり、マフィア同士が同盟関係を結んで対抗するなど、再開発エリアや歓楽街は混沌としたが、目的とする非合法の武闘大会に繋がる証拠を入手すると浪士組は討ち入りを終了した。
終了した経緯はある学生マフィアに拷問を行ったところ、観客用のIDカードを押収できたことだった。そのIDカードにて非合法の武闘大会。《
場所の特定ができた後のことはほとんどヘルガが対応したが、船曳も《蝕武祭》の選任参加者については実際に目にしている。その選任参加者の中でも最も警戒していたのが《
ヘルガによって《蝕武祭》が潰された後はヘルガと浪士組の間で情報の共有を行い、六花で行われている非合法の武闘大会の調査は終了した。
船曳に与えられた二つの任務はヘルガに頭痛の種を与えることになったが、結果としては完遂することができた。
任務完遂によって、ヘルガは正式に船曳が率いる浪士組の星猟警備隊内における処遇について思慮していた頃には統合企業財体も六花に危険性を共有していた第二期新選組の存在を認知され初めていた。
《蝕武祭》の捜査に対して統合企業財体から圧力がかけられ始めた頃、ヘルガは浪士組を現在の対企業特殊作戦部隊と六花公安部隊に二分し、星猟警備隊での基本任務も整備した。
船曳が初めに迎えた八名、任務遂行中に取り入れた十二名を配分。船曳を二つの部隊の隊長に据え、対企業特殊作戦部隊には船曳が迎えた八名の中から武力、知力を兼ね備える三名を副隊長と参謀役、参謀補佐役とし、抑圧されていた十二名の中から腕自慢の七名を組み込んだ。荒くれ者で一匹狼の者達であったが、それぞれが対企業特殊作戦部隊の主要人物に恩義や尊敬の念を持っている為、組織として機能している。難点を上げるとするなら、各々が自分の力を認めてもらいたいが為に先走るような傾向があるが、その舵取りを務めるのも三名の仕事である。
六花公安部隊に配属された人物達は一定水準の武力を持っているものの、それぞれが一芸に秀でる能力をもった者達。浪士組として銀河に討ち入り、システムに干渉した三名を初め、特異な存在である治癒能力を持つ者が一名、索敵能力に秀でる者が一名。この浪士組の五名とペアになるように組まれる形で抑圧されていた人物達の残り五名を加えての十人体制。当然ながら、取り入れた五名も何かしらの特技を持っている。一定水準の武力を有し、突然の事態やアドリブに対する頭の回転は早く、アイコンタクトだけで相手の意を汲み取る程の団結力を誇る。その団結力はペアを固定することなく、週が変わるごとにペアを変え続けていった賜物である。
こうして星猟警備隊の庇護下に入った暗部隊は設立当初は総勢二十一名。年を追うごとに人員を少しずつ増やし続け、時に統合企業財体に攻撃的な作戦の実施。時に六花のマフィアの悪事を取り締まるという命の危険に晒される最前線で活動しながら、なんと殉職者を出さずに現在まで至っている。
ヘルガが抱えた問題としては統合企業財体に対しても攻撃的な姿勢を崩さない船曳の対応にはレヴォルフ黒学院の学生以上に手を焼いた。何しろ《蝕武祭》が明るみに晒され、統合企業財体がその捜査に圧力を加えたのは各企業の役員や幹部が関わっていたことを握り潰す為である。船曳はこの証拠を持って統合企業財体、企業体制という世の中に風穴を開けようと考えていたのである。いくら六花のルールに縛られず、統合企業財体に対しても強気に動いていける人材を求めたとしても、超えてはならない一線がある。もし今の拮抗している統合企業財体の内、また一つの企業が無くなるような事態に陥れば六花のパワーバランスは崩壊し、世界経済がまたも混沌とすることを若かりし船曳はまだ理解できていない。
国家体制の、日本国家の復権の為に戦い続けた船曳の至らない部分である。
だが、船曳も時が経っていくに連れて、現在の世界情勢を理解し初めてきた。星猟警備隊の存在意義。六花の治安と民衆の生活を守るという責任感。何より、第二期新選組としての誇り。船曳が企業体制という世の中に生きていく意味を見つけるには十分な期間だった。
*
「――私から話すことは以上です。何か質問はありますか?」
手渡した書類の補足事項の説明を終えた船曳がヘルガに問う。
「いや、大丈夫だ。分かっていると思うが、今年も各学園が悪知恵を働かせると想定される。去年の誘拐事件のようなことが起こらないように怪しい動きを察知したら事件が起こる前に対処しろ。公安部隊は引き続き、マフィアの動向に注視するように伝えておいてくれ、何しろ、レヴォルフがまた傭兵生を出してきたからな」
「承知しました」
「以上だ。戸締まりは私がする。先に戻っていてくれ」
ヘルガが船曳に退出を促すと、船曳は自身の手帳とボールペンを持つと席から立ち上がった。
「ああ、忘れるところだった」
「はい?」
「先の事件の犯人について聞きたいことがあったんだ」
「最終報告書は提出済みですが?」
「確かにな、だが、引っかかることがあるんだ。正、お前、私に隠していることがあるな?」
どこか確信を持ったような表情でヘルガが船曳を睨みつける。
「お前の牙突は確かに強力だ。私でもまともに受ければ治療するのに膨大な
「さて、どうでしょうか」
「不可解なんだ。犯人は胸に刀を打ち込まれ、更に上半身と下半身が分かれた。だが、解剖を担当してもらった治療院の者の話ではまるで“引き千切られた”ような断面をしていると――」
「話が見えませんね。犯人の後処理は管轄外なので、私から言えることはありません」
「犯人が持っていた亀甲の盾の割れ方も不可解だ。お前が牙突を打ち込んだと思われる箇所には罅が幾重にも入っていたが、全体的に見ると綺麗に二つに割れていた」
「それがなにか?」
「物理的におかしいと思わないか? 犯人が上半身と下半身が引き千切られる程の力を受けたにも関わらず、盾は綺麗に分かれた。本来なら盾は砕けていたはずだ」
立ち上がり、船曳の前に立つヘルガ。
「盾の壊れ方と、犯人の遺体の断面が一致しない。お前の報告書では盾ごと犯人を貫いたと書かれていた」
「どうでもいいことです。犯人は私が殺しました。それが真実です」
どちらも引くことのない睨み合いが数秒ほど続いたが、船曳は視線を外すと何事もないかのようにブリーフィングルームを後にした。
ヘルガはしばらく睨み合いを続けていた場所に佇んでいたが、すぐに退出の準備を始める。肝心な疑問は晴れないまま――。
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