学戦都市アスタリスク 壬生の狼   作:PS

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モデルは斎藤一ですが、あくまでもこの作品の主人公はオリ主です。


第七話 衝突の前触れ

 星猟警備隊(シャーナガルム)本部、対企業特殊作戦部隊と六花公安部隊の部署。

 勤怠の状況を明示している電子ボードを背に、船曳はバインダーを片手に佇んでいた。

 ぐるりと周りを見渡せば、この部署に所属している隊員全員が自身のデスクの前で起立しており、船曳を見ている。この光景は一年間の中でも片手で数えられるくらいに珍しいことである。

 組織として同じ部署に所属している人間なら、毎日顔を合わせることが普通に思えるが、そのような普通が通じないのがこの部署。暗部隊である。

 

「全員、分かっていると思うが——」

 

 その暗部隊の隊長を務める船曳が静かに、半ば呆れも混じった声音で言葉を発した。

 

「明日から《獅鷲星武祭(グリプス)》が始まる。それに伴って各学園の学生が悪知恵を働かせると予想される。各自が活動予定を作成してもらい、警備隊長殿から表の連中の活動予定とすり合わせて、ここにいる全員の勤務時間が均等になるように調整したが、あいにくと予定通りに進まないのがこのくだらないチャンバラ期間だ」

 

 六花の最大のエンターテイメントである《星武祭(フェスタ)》を子供の遊びの期間と吐き捨てる船曳だが、それを批正するような発言をする隊員は誰一人としていない。

 

「昨年は俺の判断ミスで、外部から来た未成年者が誘拐されるという事案が発生した。それを察知していた公安部隊には改めて謝罪する。すまなかった」

 

 そう言って去年の《鳳凰星武祭(フェニクス)》の期間中にレヴォルフ黒学院の諜報工作機関の暗躍を報告してきた隊員へ視線を向け、謝罪を口にする船曳。

 

「今回は昨年のような動きを察知したら早急に対応してくれ、報告も場合によっては事後報告で構わん。学生同士の抗争なら放っておけ、どうせ表の連中が対処するからな。俺達はあくまでもこの六花の民衆と観光客の安全を優先する」

 

 船曳は暗部隊にいる全員の顔を見る。その顔つきからは自身の成すべきことを理解できていることが伺える。

 

「すでに準備はできているようだな、だが今は力を抜け。例年通り、今日の任務は俺の話を聞くだけで終了だ。暗部隊の全員が集まるのは今年の御用始め以来だ。飲みに行っても構わんが、明日に支障がないようにな」

「組長には言われたくないです」

 

 浪士組時代からの隊員からの言葉に船曳は嘆息も漏らす。その様を見た数人の隊員が顔を綻ばせる。顔を綻ばせた隊員は船曳が漏らした嘆息が自分に向けたものだと分かっているからだが、多くの隊員は船曳からの労いの言葉になぜ突っかかったのか理解できていない者のほうが多数を占める。

 

「とにかく、明日だ。あまり話を長引かせてお前達の貴重な時間を無駄にしたくはない。出勤してもらってまだ30分も経ってないが、今日の任務は終了だ。全員、しっかりと乗りきろう。暗部隊の全員が次にこの場に集まるのは形だけの御用納めだ。以上」

 

 言葉を締めくくった船曳は自身のデスクへと向かっていく。同時に、隊員達も各々が帰り支度を初める。船曳が言った通り、暗部隊の本日の任務はこれで終了になる。警備隊長であるヘルガが毎年のように星猟警備隊の人手不足を嘆き、更にこれから星猟警備隊にとって一番忙しくなる時期に差し掛かっても、ヘルガは暗部隊には《星武祭》が始まる前日は開催期間中の最終確認だけを済ませて仕事を終えるように規則を定めている。この規則は星猟警備隊の中でも特に休みが取れない暗部隊へのヘルガなりの配慮である。

 

「ガミラ、少しいいか?」

 

 帰り支度を済ませ、電子ボードに自身の勤怠状況を入力しようと隊員達が列を作っていく中で、船曳は視線を自身のパソコンへと向けながら、列に並んでいる一人の女性隊員の名を呼んだ。

 

「なんでしょうか、隊長」

 

 ガミラと呼ばれた小麦色の肌で茶髪をショートカットにした凛々しい顔つきの女性隊員は列から離れると船曳のデスクの前で姿勢を正し、力強く声を発した。

 船曳は顔を上げてガミラの顔を見る。

 

「んー、あぁ……」

 

 いつもきっぱりと物事を言う船曳が珍しく口籠る。

 

「——まぁ、あれだ、お前、表の方に異動する気はないか?」

 

 口籠りながらも船曳がそう言葉を言った途端、部署の空気が凍りついた。全員が船曳とガミラの方へと視線を向ける。

 

「……いつか、言われると思っていました」

 

 そんな空気の中でも、ガミラは動揺する素振りは見せない。

 

「お前も、人生を共にする伴侶に恵まれた。いつか、子供が生まれることもあるだろう」

 

 船曳は視線を一瞬ガミラが首から下げている指輪に向けるが、すぐに視線をガミラの顔へと向き直した。

 この女性隊員は暗部隊が発足した当時から所属している古参の隊員であり、まだ暗部隊が浪士組として活動していた頃にマフィアから開放した人々の中から取り入れた人物の一人である。

 昨年の《鳳凰星武祭》が閉幕した後に結婚し、すでに結婚式も挙げた。その結婚式は暗部隊の中心人物である船曳を始めとした最古参の隊員が全員で参列した。

 

「暗部隊は、警備隊の中でも汚れた仕事だ。こんなところにいつまでもいる必要はない」

 

 船曳は目の前のガミラの実力が暗部隊の水準を満たしていないから去れと言っているわけではない。ガミラの幸せを願っているからこそ、部署異動の提案を持ちかけたのだ。常に命の危険がまとわりつく場所に、人生で最高の幸運を手にすることができた人物を留まらせる必要はないのだ。純粋に、命の危険が少ない場所で幸せな家庭を築いてほしい。それが船曳の思い。

 

「すでに警備隊長殿には話は通している。早ければ《獅鷲星武祭》が終わったら受け入れてくれるそうだ」

「もう、私がここを離れることは確定事項ですか?」

「半分は、な。お前の意見はできる限り尊重するが、いつまでも暗部隊に留まっていては家族との時間もろくに取れないだろう。折角掴んだ幸せを、仕事の関係で手放すようなことをしてほしくはない」

「私はここに残りたいです! 主人にも分かっていただきます!」

 

 突如として感情を顕にして船曳へ食って掛かるガミラ。

 こうなることは予想していた船曳だが、珍しく対策を立てていなかった為、言葉に詰まってしまう。

 ガミラは主人にも分かってもらうと言っているが、暗部隊の活動を赤の他人に漏らすわけにはいかない。最悪の場合、結婚した相手が統合企業財体と繋がってしまう可能性も含まれるからだ。当然ながら、ガミラの結婚相手の身辺調査は行っており、統合企業財体との繋がりはないと確認が取れてはいるが、新婚で二人の時間が取れないとなれば、折角掴んだ幸せを失うきっかけになってしまうかもしれない。

 船曳はそのことをどうにか分かってもらおうと言葉を選んで伝えようと思考するが、いい言葉は浮かばず、ただ無言でガミラを見つめている状況が続いてしまっている。

 

「ガミラ、組長」

 

 そんな中、船曳とガミラの元へ一人の隊員が歩み寄る。

 

「灘」

「灘参謀補佐」

 

 二人の前に現れたのは暗部隊の対企業特殊作戦部隊参謀補佐役、灘浩俊(なだひろとし)

 船曳が第二期新選組の中から招集した一人であり、ガミラを見出した人物でもある。

 

「ガミラ、抑圧されていたお前が、組長に随分と突っかかるようになったな」

「灘」

 

 船曳は灘を睨めつけるが、当然ながら臆することはない。

 

「お前を初めて見た時、勝てる見込みのない戦いに挑み続け、負けてもそれを認めることはなかった。無鉄砲な女だった」

 

灘はガミラの前へと立つ。一方のガミラも灘へと向き直る。船曳は対応を灘へ任せることに決め、他の隊員と同様、成り行きを見守る。

 

「誇りも、尊厳も、全てが奪われてなお、お前はただ一人、誇りと尊厳を守るために戦い続けていたな」

「…………」

「警備隊に入っても、勝てる見込みのない戦いに挑もうとしていた。本当に苦労させられたよ」

「灘、さん」

 

 灘はふっ、と笑うとガミラの肩に手を置いた。

 

「そんなお前は、今や誇りと尊厳を守る立場をやっと理解し、人生を共にしたい思える人と出会えた。全てが奪われていたお前が」

「それは灘さんや隊長が救ってくださったからです! 私はまだここで、灘さんや隊長達とずっと戦い続けていたいです!!」

「警備隊に残るなら、戦い続けられる、これからも」

「でも、隊長が異動する気はないかと——」

「役割が変わるだけだ、ここを巣立っていった奴らと同じように、警備隊の門を叩いて入ってくる連中に、誇りと尊厳を守ることの重要さを、お前が伝える。俺がお前に伝えたようにな」

 

 ガミラの肩に置いていた手を離すと、今度はガミラの背を優しく叩き、船曳の前に立つように促した。

 

「ここを離れることは、組長も言っていたが、確定事項だ。後はお前がここを離れる時期を決めるだけだ」

「……ガミラ、酷なことを言うが、お前をここに置いておけるのは最長でも今年までだ。来年以降は表の方に異動するか、警備隊から除隊するか。選んでくれ」

 

 目を閉じて、ガミラに選択肢を与える船曳。酷なことを言っているのは承知である。それも、自分達から入らないかと言い出したのに、今度はいつ暗部隊から離れるかを問うているのだ。

 勝手ではある。しかし、それはガミラの幸せを願ってのことでもある。

 

「……異動します。でも、ギリギリまで、ここにいます」

「すまない」

 

 謝罪の言葉を口にする船曳。

 

「隊長、謝罪なんて入りません。私がお礼を言いたいです。何もかも奪われた私を警備隊へ迎えてくれた隊長に、灘参謀補佐に」

 

 ガミラはそういうと、先程まで船曳が立っていた電子ボードの前に立ち、部署全体に伝えるように口を開いた。

 

「皆さん、ありがとうございました。私は今年で暗部隊を離れますが、ここの仲間と駆け抜けた戦場。過ごした時間。全てが私のかけがえのない大切な時間でした。暗部隊で学んだことを、今度は別な場所で役立てるようにします」

 

 ガミラが言い終えると部署全体から拍手が起こり、暗部隊の隊員達がガミラへ赴き、抱擁や惜別の言葉を贈っている。

 

「灘」

 

 それを横目で見ながら、船曳は小さな声で灘を呼んだ。灘は船曳の横へと歩み寄る。

 

「苦労をかけた」

「ガミラを浪士組に入れたのは私です。送り出すのも、私の役割ですよ」

 

 ガミラの異動という一幕があり、暗部隊の隊員達はまだ異動するのは先だというのに、送別会を行うという運びとなった。船曳や灘といった隊員は後で向かうということにして、他の隊員はまだ昼間の商業エリアへと繰り出していった。

 

「組長、本当に異動の話をする時だけは人が変わりますよね、主に丸く」

「……言うな、自分でも分かっている」

 

 灘から言われた言葉に自嘲する船曳。

 

「それを補佐するのも、俺達の役割だろ」

「組長ってそういうところがいつまでも変わらなくて、かわいいところですよね」

「言ってやるなよ、組長が不貞腐れる」

「…………」

 

 部署に残ったのは船曳が第二期新選組の中から招集した隊員である。

 

「でも、この8年で浪士組、暗部隊も変わりましたね。組織としても、人としても」

 

 一人の隊員がそう言うと、全員が電子ボードを見つめる。

 電子ボードには現在、二十八名の名前が表示されている。今年度でガミラが抜ける為、このまま行けば二十七名で来年を迎えることになる。

 

「発足した当初は、ホワイトボードでしたね」

「ええ、懐かしい」

「名前もガラリと変わってしまって——」

 

 暗部隊は発足してから三十名を超えたことはない。それでも、発足した当初は二十一名だった為、人数は増えて入るが、人員は変わっていってしまった。現在の暗部隊は最初期の九名は変わってはいないが、取り入れていった十二名の名前は今や四名。ここから更に一名が抜ける。抜けていった者達は全員が人生の伴侶に恵まれ、暗部隊から巣立っていった。星猟警備隊に残って活動を続けている者も入れば、星猟警備隊から除隊した者もいる。中には、六花から離れていった者も——。

 

「さて、いつまでも感傷に浸ってないで、俺達も行くとしよう」

「あっ、そういえば組長が停学になる前に気が合ったっていう人はどうなったんですか?」

 

 ふと、一人の隊員から船曳の色恋沙汰について問いかける。

 

「……時々、連絡は取っている」

「へー、停学になった問題児にまだ連絡してくれるって人なら期待してもいいんじゃないですか?」

 

 生暖かい視線を浴びながら、船曳は電子ボードに足を進めた。

 

「俺には過ぎた女だ、それ以上はない」

 

 どこか達観したような様子で電子ボードに勤怠状況を打ち込んでいく船曳だが、後ろからはまだ船曳の色恋沙汰について追求しようと意地の悪い笑みを浮かべた隊員が船曳を見ていた。

 

「本当に? 本当ですか?」

「くだらないこと言ってないでさっさと出ろ。今日の任務は終わりだ」

 

 半ば強引に話題を切った船曳。意地の悪い笑みを浮かべていた隊員もこれ以上の追求をすれば痛い思いをすることを悟ったのか、船曳に続いて部署を後にして、暗部隊から巣立っていく隊員の送別会へと繰り出していった。

 

「あっ、組長、お酒は飲まないでくださいね」

 

 送別会が行われている場所へ向かう道すがら、一人の隊員が船曳へ忠言した。

 

「一合瓶くらい——」

「駄目です!」

「やめてください!」

 

 全員が船曳へ懇願する。

 こんなにも必死に止めるのにはもちろんわけがある。

 船曳は酒癖が悪い。特に騒ぎ立てることはないのだが、昔から船曳は酒が入ると第二期新選組時代の顔を覗かせるのだ。それを分かっているからこそ、船曳をよく知る八名は必死になって祝いの席でも船曳に酒を飲ませることはさせないのだ。

 

 

 

 

 ささやかな宴も終えると、ついに《獅鷲星武祭》の開催期間に入った。

 すでに六花にも観光客が数多く入ってきており、星猟警備隊の隊員達もそれぞれが治安維持活動の為に各地へと散らばっている。

 その中には船曳も混じっており、日によっては星猟警備隊本部には向かわずに現地で活動を開始。居住地から星猟警備隊の制服を纏って六花の警備にあたっていた。

 

「…………」

 

 制帽を目深に被り、主に商業エリアを巡回する船曳だが、混雑している商業エリアにも関わらず、船曳の周りには人が寄り付かない。星猟警備隊の制服を着ているということもあるが、制帽を目深に被り、その奥には眼光鋭い人相。一歩踏み出せばその行路を観光客が空けるように離れていく。

 様々な視線を受ける船曳ではあるが、任務には忠実である。日が傾き始める頃には巡回を終え、星猟警備隊本部へと戻っていく。

 

「戻った」

 

 暗部隊の部署に到着するとボソリと呟いた船曳だったが、部署に着いた途端に目についたのは一つのデスクに集まっている部署内で勤務中の隊員達。

 

「どうした?」

 

 当然、そのことを訝しんだ船曳が集団の中へ入り込んでいく。

 

「あっ、隊長!」

 

 たった今気づいたと言わんばかりの反応で一人の隊員が口を開く。

 

「お疲れさまです組長。巡回から帰ってきて早々ですが、星導館のクローディア・エンフィールドの会見をご覧になりましたか?」

 

 次の隊員は冷静に、船曳へクローディアの会見を見たかと確認を取ってくる。

 

「いや、見ていないが?」

「では、これを見てください」

 

 そう促されて船曳は部署で勤務していた隊員全員が釘付けになっているモニターを見る。

 モニターには《獅鷲星武祭》に出場しているクローディアの会見映像。

 

「——やってくれたな」

 

 クローディアの会見映像を見た船曳はモニターへ静かな苛立ちをぶつけた。

 原因はクローディアの記者会見での発言。優勝時の望みは何かを尋ねられた時。クローディアは六花での禁忌に触れる望みを公言した。

 クローディアの望みは——ラディスラフ・バルトシークとの面会。

 この望みは所属している星導館学園の運営母体である銀河を敵に回す発言である。

 

「どうしますか? 組長」

「対企業特殊作戦部隊の全員を至急招集しろ、公安部隊はマフィアと銀河以外の企業の監視を打ち切り、銀河の動向に全労力を注げ」

「承知しました」

 

 《星武祭》の活動予定は予定通りに行かないのが常ではあるが、今回の事態は想定を大幅に超えている。船曳は部署にいる隊員へ指示を送ると自身のデスクに腰掛け、ヘルガへと連絡を取る。

 

『正か』

「あの女の会見は?」

『私も見た』

「途中でこけてくれればいいのですが、銀河を対象にした特殊作戦の準備をしておきます。事態がどう動くか想定できないので、作戦に当たる人選を今日中に決めます。作戦企画書は詳細を省きますが、よろしいですか?」

 

 ヘルガとの通話と並行して作戦企画書の作成を進めていく船曳。

 

『事態が急だからな、許可する。もし作戦を実施するようなことになるなら、銀河へのダメージは極力抑えるように努めてくれ。それと、公安部隊の任務をこちら側の部署である程度カバーする』

「ありがとうございます。銀河への損失については約束できませんが、善処します」

『それと、特殊作戦の人選は今日中に報告しろ』

「承知しました」

 

 通話を終えるとそれを見計らってか、一人の隊員が船曳へ歩み寄る。

 

「組長、先程は対企業特殊作戦部隊の招集でしたが、警備隊長とのやり取りで公安部隊の任務をある程度カバーして頂けると聞こえたので、公安部隊の全員にも招集をかけました」

「分かった。おおよそでいい、どれくらいで集まる?」

「30分、混雑状況を含めると40分かと——」

「そうか」

 

 暗部隊の全員が集まるおおよその時間を把握した船曳はデスクから立ち上がる。

 

「出払っている連中には後で伝えるが、今回は対企業特殊作戦部隊と公安部隊、両部隊から実行部隊を選出する。各々、銀河と衝突する覚悟をしておけ」

 

 力強く、慌ただしくなり始めた部署に響き渡るように発した船曳。部署内に緊張感が高まっていくのを感じながら、船曳は最悪の事態を想定した特殊作戦の人選と略式化した作戦企画書の作成を進めていく。

 隊員の見込み通り、30分で暗部隊のすべての隊員が部署に集まった。

 

「まさかこんなに早くここの全員が集まるとは想定外だった」

 

 数日前と同じく、電子ボードを背にして佇む船曳が暗部隊の全員に向けて口を開いた。

 

「今回の特殊作戦を実施せざるを得ない状況になった場合、銀河の実働部隊と衝突する可能性が高い」

 

 クローディアの発言が銀河の後ろ暗い部分に触れる望みを公言した為、銀河の幹部達も船曳達と同様に緊急の対策を協議しているのだろう。

 

「当初は対企業特殊作戦部隊だけで対応してもらおうと考えたが、警備隊長殿のはからいで公安部隊の任務をある程度カバーして頂けるそうだ。なので、実行部隊の人選は暗部隊の最高戦力で臨む。今回も指揮は俺が取る」

 

 去年の誘拐事件の時と同様。船曳自身が実行部隊を率いることを公言する。

 

「では、銀河を対象とした特殊作戦の実行部隊の人選を発表する」

 

 その言葉を発した途端に、船曳は自身へ向けられる覇気を感じた。それはまるで自分を選んでくれといった期待感の現れなのだろう。企業に対して刃を向けるという自殺行為にも関わらず、猛る者が既にいる。

 だが、そんな覇気を向けられながらも、船曳は平静に、自身が決めた人選を隊員達に伝え始める。

 

「対企業特殊作戦部隊から、宮ヶ原(みやがはら)尼子(あまご)、灘の三名」

「なっ!?」

 

 数名の隊員が驚愕を顕にする。当然である。本来企業に対して作戦を実施する部隊から三名しか選出されなかったからだ。

 

「六花公安部隊から、(うるし)磯井(いそい)鎌田(かまだ)大刀洗(たちあらい)薬袋(みない)の五名。以上、俺を含めて九名が実行部隊だ」

 

 再び驚愕の声が上がる部署。しかし、実行部隊に任命された人物は船曳と同様、平静な表情のまま。

 

「なお、今回の作戦は実行すると決まったわけではないが、実行するとなったら早急に動く。準備は今から始める、残りの隊員は後方支援として、主に諜報活動を行ってもらう。後方支援の詳細は明日以降に伝える。特殊作戦の役割については以上だ。実行部隊以外の隊員はもう上がってもらって構わない。明日以降、本格的に動いてもらう。なお、人選に関しての質問は一切受け付けない。実行部隊の八名は少し残ってもらう」

 

 言葉を結んだ船曳は暗部隊の部署にある一室に向かう。船曳に指名された実行部隊の隊員達も船曳の後に続く。

 船曳が目的の室内の扉の前に立つと隊員証を翳して入室する。

 入った部屋は大きなモニターとパソコンが置かれたブリーフィングルーム。その名も“作戦企画室”。最後に入室した隊員が作戦企画室の扉に施錠を施すと同時に船曳は作戦企画室のパソコンを起動。数秒で立ち上がったパソコンの中から一つの圧縮されたファイルを解凍するとモニターに星導館学園とその付近を表した詳細な地図が映し出された。

 

「なんだか、8年前の討ち入りの時を思い出しますね」

 

 そう呟いた一人の隊員。そう。船曳が今回の作戦の実行部隊に選んだのは暗部隊の最古参。元第二期新選組の隊士達である。

 

「でも、今回は状況が違いますね」

「これを機に銀河を失墜させますか」

「尼子、謀略を巡らせるのは結構だが、そんなことを警備隊長殿が許すはずないだろう」

「はいはい、分かっていますよ」

「それで組長、もし作戦を実施するような状況になったら、作戦の目的はどうするのですか」

「昨日も言ったが、俺達は民衆の安全を優先する」

「ということは、人命救助ですか」

「おおまかにはな」

 

 一通り作業を終えた船曳がモニターに暗部隊が集めた銀河に関する情報を映し出す。

 

「途中でこけてくれれば杞憂に終わるが、果たして公の場であんな発言をしたあの女を銀河が生かしておくか……」

「私の予想は、どう転んでも杞憂に終わることはないですね」

「断言するか? 尼子」

「ええ」

 

 対企業特殊作戦部隊の参謀役を務める隊員がそう言い切った。

 

「——実働部隊との衝突もやむなしか」

「そうなると、因縁のあの一族かもしれませんね」

 

 銀河の実働部隊との衝突。浪士組として六花のマフィアと対立したような構図が再び訪れようとしている。

 それでも、船曳以下、選ばれた実行部隊の全員は揺るがぬ真実の元に行動する。

 

 

 




今回は船曳の青年らしさを出したいと思っていました。

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