デュリオ・ジュズアルドは過去の記憶を鮮明に思い出していた。
というより、一瞬でそれを思い返していた。
―あー。これあれだ。走馬灯だ。
ぼんやりと、デュリオはそう確信する。
そんな思考の中、記憶の中のデュリオはもぐもぐと日本の魔改造料理の筆頭であるコロッケを食べながら、同じ戦災孤児の相談を受ける。
「……ぶっちゃけ、SE〇したいと思う時もあるわけよ」
「ぶっちゃけたねー。俺は教会の
敬虔な信徒では考えられない暴言だが、デュリオは平然とそう返す。
目の前のイルマ・ジュズアルドは、デュリオと同じ戦災孤児で同じ孤児院出身である。
曰くPTSDで記憶が混乱しており、ファミリーネームを忘れたとのことで、デュリオが気前よく自分のファミリーネームを名乗っていいといってからの腐れ縁だ。
なので、イルマがこういう発言をすることは何となく想像ができていた。
イルマ・ジュズアルドは割と享楽的というか、娯楽を楽しむ性質である。
飲酒可能年齢になったら確実に酒を飲むと断言し、飲酒の緩さにおいては先進国でも有数のイギリスに出向したときはワインからウォッカまで飲み比べたと豪語した猛者だ。喰い歩きが趣味の自分と一緒にこっそり訓練施設を抜け出して買い食いしたことなど数えきれない。ゲーム機をこっそり購入して持ち込んで、攻略ができなくなって相談されたこともある。
ならば、当然色事にも興味を持って当然だろう。そういうお年頃でもある。
そして同時に、それがどこか借り物めいた印象を抱かせることも少なくない。
昔からこうなのだ。楽しむことが大好きに見えて、たいてい費用がかかりそうなものはかなり安上がり。総合的に見て、彼女にかかる金は多いように見えて孤児院でも低い部類だ。
「っていうか、イルマ姉さんは悪魔払いをやめたいだけでしょ?」
なので、それとなく鎌をかけてみる。
「……どうなんだろうね」
そして、それとなくごまかされた。
イルマはデュリオと姉弟に勘違いされる緑色の髪をぼさぼさとかきむしりながら、天井を見上げる。
その目は澄んでいるように見えて、どこか濁っている印象を見せる。例えていうなら、澄んでいるように見せかけた濁った眼だ。
「本当にさ、善行はしたいの。善行をして生きていきたいんだよねぇ」
どこか切実な声が、イルマから漏れる。
そして、同時に苦しげな声もまた、イルマから漏れる。
「だけどさ、アタシは絶対に
……そして、本音が漏れた。
要はそれが本音なのだ。
イルマ・ジュズアルドは信徒ではない悪魔払いだ。
善行をしたい。教会の施設に流れ着いた。そして、戦闘の才能が有った。
だから、彼女は悪魔払いをやっている。
だが同時に、彼女は信徒に向いてない人物なのだろう。少なくとも、彼女自身はそう思っている。
故に、彼女はそう愚痴を漏らしたのだ。
「ま、イルマ姉さんは信仰心薄いだろうとは思ってたよ」
特に責めるわけでもなく、その言葉がいつか出てくることを予期しているからこそ、デュリオは相違返す。
なので、こんなこともあろうとかと頼んでいた相談者に話を振ることにした。
「……ってな悩みがあるみたいなんですけど、どうしたもんですかねぇ、先生?」
「ふむ、確かに能力と所属のみで信仰心の強さが必要なこの職をあてがったのは、施設の者たちの失敗ではあるな。戦士候補生デュリオよ」
その声を聴いて、イルマは冷や汗を垂らした。
当然だろう。教会の戦士が彼にこんなことを漏らしたなど、知られたらどんなことをされるかわからない。
それほどまでの生きた伝説。現代を生きる悪魔払いたちの目標。生きた英雄とも称される人物なのだ。
というか今の段階で助祭枢機卿である。恐れ多すぎる。
「す、す、ストラーダ猊下!? デュリオ、あんたなんて人物を連れてきてんの!?」
心臓が止まりそうな勢いで、イルマはデュリオの胸ぐらをつかみにかかる。
当然だろう。寄りにもよって悪魔払いが、悪魔払い上がりの枢機卿にして教育機関の代表格の前で「信仰心無いからこの仕事辞めたい」とも取れることを漏らしたのだ。
大騒ぎになりかねない。
しかし、その手を優しく止めながら、ストラーダはうんうんとうなづいた。
「うむ。信仰心がなくとも善行を積みたいというその考えそのものは、一定の賞賛を送るべきだろう。むしろそういうものを信徒たちの中に押し込んだことを謝罪する必要もあるかもしれん」
「きょ、恐縮です!!」
思わぬ対応に、イルマはあわあわしながらも一礼する。
そのイルマの目を、ストラーダは覗き込んだ。
その目は何かを見透かし、しかし決して覗ききれない。
「……戦士イルマよ。何を抱え込んでいるのかはわからないが、これだけは伝えておこう」
だが、何をどう抱え込んでいるのかだけは、付き合いの長いデュリオにも、慧眼を持つストラーダにもわかっていた。
だからこそ、デュリオはストラーダに彼女に悩み事を相談されたときに手伝ってほしいといったのだ。
「……いずれ告解するときがあるのなら、その時は素直に話すといい。我らが神は厳しくもあるが、慈悲深くもあるのだから」
その言葉にイルマは肩を震わせ、そして―
「……できれば、それができる覚悟が決まることを自分に望んでいます」
―そう、漏らした。
「……戦士デュリオよ。大丈夫かね?」
そして意識が目覚めたとき、デュリオはその記憶より少しだけおいたストラーダの顔を見ることになった。
「いやぁ。情けないところを見せましたね。子供たちには「デュリオは任務で当分会えない」とか伝えてくれると……」
「安心したまえ。傷はふさがっている」
そう遮られて、デュリオは自分の体を再確認する。
言われてみれば、痛みは引いているし出血も止まっているようだ。
しかし、すごく疲れている。気を抜けば一瞬で気絶してしまいそうだ。
どうしてこうなったのかをすぐに思い出す。
何人かの枢機卿が、教会の重要地区の視察のために移動することになり、現役の悪魔払いで最強戦力の自分に護衛任務が下った。
そして護衛任務を終えて観光をしようと思った時に、イルマに緊急の連絡を受けたのだ。
彼女はストラーダに相談し他結果「悪魔払いとして致命的な欠落がある」として教会を表向き追放された。
しかし実際のところはストラーダの弁護もあってはぐれ悪魔払い扱いを受けることなく、教会と契約をしたフリーランスの傭兵という形で、暗部案件の任務を引き受けることになったのだ。
具体的には、教会と敵対している三大勢力の一角、堕天使側の依頼を中心に受けるフリーランス。
双方から報酬をもらい、その六割を自分が世話になった孤児院に寄付しながらの毎日。そして、それゆえにデュリオは彼女についての想像を確信に買えた。
イルマ・ジュズアルドの享楽は、見せかけだ。
一見すると遊び歩いているように見えて、その実それは「遊んでいると思われたい」からしているだけ。その実態は下手な信徒をはるかに超えるほどに「善行」を望んでいる。
強迫観念にも見えるその行動の理由を、デュリオは理解できない。
だがしかし、彼女が本気であることだけはわかっていた。
故に、彼女に助けを求められたときはすぐにそれに賛同した。
曰く、はぐれ悪魔払いとしても離反したやつを追っていたら、人体実験の素体探しも兼ねた人身売買組織を発見したとのことだ。
そして、「わかる中じゃ自分じゃないと対応できないことがあるけど、腕利きの囮が欲しい」と素直に言ってきたので、たまたま気づいた風に見せかけて近くまで来たのである。
……そして、不意打ちで脇腹に矢を喰らった。
油断していたつもりはない。自分は現役の悪魔払いとしては最強クラスだと自負しているが、それでも格上がいる世界に生きている。
だが、その相手はその中でも格が違った。
神クラスの実力を保有するその相手との戦闘で、自分は何とか大打撃をあたえたがそのまま殴られて気を失っていた。
内臓を損傷していたので、致命傷も覚悟していたのだが、いつの間にやらふさがっている。
「もう一度眠っても大丈夫だぞ。イルマが言うには「絶対に成功する臓器移植をしたようなもの」出そうだ。消耗は激しいが命に別状はない」
「いや、イルマ姉さんが心配なんですけどねぇ……」
言われた意味も理解しづらいが、その治療をしたというイルマが心配だ。
あの化け物みたいに強い男は危険すぎる。言っては何だがイルマでは一人で対応できるとは思えない。
だが、ストラーダは安心させるように微笑んだ。
「安心したまえ。私とクリスタリディが近づいたことで形勢不利と見たようだ。もとより時間稼ぎが目的だったのか、すでにあの難敵は撤退したとも」
……安心すると同時に戦慄する。
ストラーダとクリスタリディは、一線こそ引いているが教会最強格の戦士でもある。
少なくとも、接近戦の技量ならデュリオをしのぐ猛者だ。戦士あがりで枢機卿にまで上り詰めたのは伊達ではない。
そのストラーダがその状況下で難敵と断言した。それも、消耗しているデュリオを安心させる発言でだ。
それほどまでの実力者だということだろう。下手をすれば、自分は死んでいてもおかしくなかった。
「それで、イルマ姉さんは……?」
「炎上した施設内に向かったようだ。クリスタリディもついているから大丈夫だと思うが……」
「……ええ、今戻りました」
その言葉に振り向けば、そこには顔を青くさせながらも微笑みを絶やさないイルマがいた。
20歳になるイルマは、少しだけ成長したその女性らしさと少女の残滓を残した顔に笑顔を張り付けて、一組の少年少女を抱きかかえていた。
「無事なようだな。クリスタリディは?」
「駆け付けた警官隊をごまかしています。この子たちは、警察に預けるにはいろいろと問題がありまして……」
ストラーダにそう返すイルマは、抱えている二人の子供を悲しげに見てから、まっすぐな視線をストラーダとデュリオに向ける。
その顔には、無理やり作った決意が見え隠れしていた。
「二人に、お話しするべきことが……いえ」
そして、一瞬だけ目を伏せ―
「―私たちというこの世界の異分子について、法王猊下はもとより、セラフの方々にもお話しなければならないことがあります」
―告解を、無理やり始めたのだった。
そして四年後、とある事件を兵藤一誠という若手悪魔は経験する。
聖書の神が作り上げた、
彼はいくつかのトラブルを経験したうえで、堕天使の運営組織である
そこで最大の禁忌である聖書の神の死を知りながらも、彼が宿す赤龍帝ドライグと対をなす、白龍皇アルビオンを宿した者が乱入したことで助かるが、問題が勃発している。
「……数日ぶりだね、赤龍帝。俺の名前はヴァーリというんだ」
その白龍皇が、一誠ことイッセーの通う駒王学園に現れたのだ。
白龍皇ヴァーリは、堕天使側の人間だそうだ。しかもイッセーよりよほど神器を使いこなしている。
ついでに言うと赤龍帝と白龍皇は二天龍という異名を持つとても強いドラゴンであり、毎回毎回その力を宿した者は殺し合いをしているとのこと。
なんでも三大勢力の殺し合いに割って入るほどの喧嘩を繰り広げている最中に、ブチきれて共同戦線をした三大勢力に魂を封じられてからいつもこうだという。実に迷惑だ。
イッセーとしてはそんなことをする気は毛頭ない。彼は上級悪魔になってハーレムを作りたいのであり、そのための手柄も競技試合であるレーティングゲームや、仕事である悪魔としての契約で済ませたい。命がけの戦闘をして志半ばで死ぬなど勘弁だ。
だが、白龍皇の方がどうだかわからない。
思わず息をのむと、ヴァーリはふふっと面白そうに笑みを浮かべる。
「そうだね。隙だらけだし術の一つでもかけてみるのも―」
そう言いながらヴァーリが手を伸ばした瞬間―
「悪ふざけはそこまでにしてもらおうか」
「こんなところで二天龍の激突などやめてもらおうか?」
そのヴァーリの首元に、二振りの剣が突きつけられる。
それを突き付けるのは、イッセーの同僚である転生悪魔の、木場祐斗とゼノヴィアだ。
木場祐斗は、教会の非合法実験で死にかけたところをリアスに救われて転生悪魔になったもの。魔剣を生み出す神器である
ゼノヴィアはもともと悪魔払いだったが、コカビエルによって聖書の神の死を知らされたことで破れかぶれになって悪魔になった。伝説の聖剣デュランダルの持ち主であり、攻撃力ならば自分達の中で随一だろう。
しかし、その二人に剣を突き付けながらもヴァーリは動揺すらしていない。
「やめておきなよ、気おされてるのがすぐにわかる」
そう告げるヴァーリは、むしろ評価するように微笑む。
「格の違いが判るのは素質がある証拠だ。いつかは俺とも戦えるようになるだろう。……いまではないけどね?」
そしてヴァーリは、半ば二人を無視するようにイッセーに視線を戻す。
「兵藤一誠。君は、自分が上から数えてどれぐらいか考えたことはあるかい?」
全くない。
上級悪魔になるだけの力があれば十分だと思っているし、世界最強になりたいなんて思ってもいない。
少なくとも、主であるリアス・グレモリーの兄であるサーゼクス・ルシファーよりは弱いことは断言できる。
そして、ヴァーリは返答を聞かずに空を見上げる。
「あの最強の魔王であるサーゼクス・ルシファーですら十番手に入ることはないだろう。そして、一位の座は不動だ」
「……それがお前だとでもいうのかよ?」
この世界の常識について疎いが、少なくともヴァーリは相応に強いことだけはわかる。
だからこその嫌味だったが、ヴァーリは静かに首を振る。
「残念だけど違う。まあ、いずれは分かることさ」
そして、ヴァーリの視線はイッセーからずれる。
「彼は貴重な存在だ。しっかりと育ててくれよ、リアス・グレモリー」
その言葉を受けた少女、イッセーたちの主である純血悪魔、リアス・グレモリーは、眷属である姫島朱乃や塔城小猫を引きつれ、静かにヴァーリをにらみつける。
「どういうつもり、白龍皇ヴァーリ。此処が私の管轄区で、三大勢力の会談の場所だと知っての狼藉かしら?」
臨戦態勢のリアス達を無警戒の体勢で迎えながら、ヴァーリは肩をすくめる。
「本当にただの興味本位さ。この街にはアザゼルの付き添いで来ていてね。ちょっと暇をつぶしていたら、たまたま目についただけさ」
その言葉に、イッセーたちは心のどこかで納得する。
堕天使総督であるアザゼルは、遊び半分で正体を隠してイッセーに接触を図っていた。ヴァーリがアザゼルの付き添いになるような人物なら、似たような側面があってもおかしくない。
とはいえ挑発ともいえる行動に警戒心だけは残していると、ヴァーリはリアスに再び視線を合わせる。
「過去、二天龍にかかわったものは碌な生き方をしていない。……あなたはどうなのだろうな、リア―」
そしてその瞬間―
「おいおい。堕天使ってのはTPOってのもわきまえられねえのかよ」
ヴァーリの首元に新たな切っ先が突きつけられる。
問題は、それがリアスの眷属でないこと。
そして、ヴァーリが一瞬で飛びのくと構えを見せたことだ。
見れば、その表情には驚きの色があり、警戒と歓喜の感情が浮かべられている。
そして、それをなしたのは一人の少年。
実用性重視の頑丈な格好の、イッセーと大して変わらない年齢の少年が、明らかにデュランダルにも匹敵するだろうオーラの聖剣を突き付けている。
そして、その気配に誰もが気付かなかった。ヴァーリですら反応が一瞬送れたほどだ。
「さっきがなかったとはいえ、俺が反応に遅れるとはね。……何者だい?」
とてもうれしそうなヴァーリの質問答えたのは、少年ではない。
「はいはいそこまでにしときなよ。いい加減にしないと堕天使側が不利になると思うからさ」
その言葉とともに、ヴァーリの肩に手が置かれる。
今回も、ヴァーリですら反応が遅れていた。
そして、それをなしたのは緑色の髪を二つにくくった少女の面影が残っている美女。
不敵な表情を浮かべた女性は、聖剣を構える少年に笑みを浮かべながら、すぐにその視線をリアス達に向ける。
「どもっ! セラフのミカエル様からの依頼で会談にかかわることになったイルマ・ジュズアルドっていうよ! そっちのは弟子の麻宮鶴木ね?」
「うっす。なんか揉めてそうだったんで、サービス代わりに助っ人に入ったけど、余計だったかい?」
不敵な表情を浮かべるその女性と少年の登場で、緊張感が生まれると同時に緊張が薄らぐという矛盾した状況が生まれる。
この日、世界の命運を左右した三人の英雄が邂逅した。
現在過去未来において最強の白龍皇になると断言された、明星の白龍皇ヴァーリ。
歴代最弱とされながらも、のちに歴代最優にして最強と称された、燚誠の赤龍帝兵藤一誠。
そして、異界の法則をその身に宿し、聖騎士王の聖剣を扱うもの。騎士王剣の英雄、麻宮鶴木。
世界の命運を左右したその戦いは、異界のその技術根幹となった戦いになぞらえて、こう呼ばれることになる。
聖杯戦争、と。
そんなこんなでとりあえずプロローグです。
デュリオ視点のプロローグはふつうないんじゃないかって感じですよね。ただ、教会関係者でかつイレギュラーに近い主人公たちなので、原作キャラとのかかわりを持たせようとするとこれが一番都合がよかったりしたんですよ。
そしてぶっちゃけここで言いますと、Fate/Apocryphaはこのストーリーというか方向性がある程度でもウケルかどうか探るための作品でもあります。いわばテストケースですね。
なので、原作からの追加要素は結構近くなります。そんなわけなので匿名はしないでそのままにしました。
さて、それではこの作品がケイオスワールドやイレギュラーズに続くことを祈って、今回はここまで