その乱入者の存在で、結果的に状況は三つ巴の様相を見せる。
駒王町を管轄する、悪魔の令嬢、リアス・グレモリー。
その眷属であるイッセーにちょっかいをかけてきた、堕天使側に属する白龍皇ヴァーリ。
そして、割って入ってヴァーリを牽制するミカエルに雇われたというイルマと鶴木。
微妙な緊張感の漂うその中で、ヴァーリは何かに気づいたのか手を打った。
「ああ。確か教会の依頼を受けてスパイ活動を行っていたっていう、元悪魔払いのイルマ・ジュズアルドか。思い出したよ」
「お、アタシって結構有名? いやー。それほどでもないかなぁ?」
堂々とうれしそうに笑うイルマに、ヴァーリは苦笑いを浮かべる。
「ああ。「ミカエルの使いっパシリならもっと安い金でこき使えばよかった」とアザゼルが愚痴を言っていたのを覚えている」
その説明で、アザゼルがいい性格をしていることがよくわかってしまう。
大半のメンバーが同乗の視線をイルマに向けるが、しかしイルマはうんうんとうなづいた。
「確かにね。実際教会からスパイ活動の報酬はもらってたし、いやぁ、あれはボってたわぁ」
こいつもいい性格だな、オイ。
皆の心が一つになったその時だった。
「なんやなんや! イルマ姉さんも鶴木もご苦労さんやなぁ」
更に乱入者が現れる。
そこに現れたのは、ラフな格好をした背の小さいくせに胸が大きい、かつ色黒の少女だった。
「遅ぇよアルマ。こっちが割と命がけでアホやらかしたバカに牽制入れてんだからよ、援護しやがれってんだ、援護」
「ええやんええやん。相手さんもその気はあらへんみたいやし、ここでお開きにするっちゅうんが一番ちゃうんか?」
ぼやく鶴木に関西弁もどきでさらりと流したアルマという少女は、そして視線をヴァーリに向け―
「どっちにしたって、負けるとわかっとる喧嘩をするほどあほちゃうやろうしな?」
-最大レベルの暴言をぶちかました。
「……へぇ?」
気温が五度ぐらい下がった錯覚を、イッセーたちは覚える。
白龍皇ヴァーリの力は圧倒的だった。少なくとも、彼が一蹴したコカビエルはリアス達が総出で挑んでも勝ち目が薄い相手だった。
そんなヴァーリを相手に「確実に勝てる」と言外に告げたのだ。
よほど自信があるのか、それともただのバカなのか。
もし後者だとするのなら、このままだと本当に激戦が勃発するだろう。
寒気を感じたイッセーたちだが、しかしヴァーリは肩をすくめると、背を向ける。
「確かにね。同時に君たち三人を相手にするのは、俺も分が悪いようだ。せっかく宿命のライバルに会えたのに、その目の前で死ぬのも味気ない」
そう告げると、ヴァーリはそのまま歩き出す。
そして、それが見えなくなったのを確認してから、緑髪を風に揺らさせながら、イルマはため息をついた。
そして、一瞬でアルマにヘッドロックを仕掛けていた。
「ア~ル~マ~? 余計なことしてトラブルを生むのはやめてほしいんだけどな~?」
「あだだだだ!? せ、せやかてほんとのことやろ!? ウチら三人なら確実に勝てるって言ったんイルマ姉さんやんか!?」
「「う、羨ましぃ……」」
悲鳴をあげるアルマだが、その顔はイルマの胸に半ば埋まっている。
それゆえに、イッセーはそんな声を漏らし、そして被ったことに気づいて振り向いた。
そこには剣をどこにしまったのか消してしまっている鶴木がいて、そして目が合った瞬間に通じ合った。
「羨ましいよな!!」
「ああ!!」
そしてがっしりと手を握り合った。
「イッセー!」
「イッセーさん!」
後ろからリアスとアーシアに頬をつねられたが、しかしこれは男のロマンである。
理解を求める視線を男たちに向けるが、しかし反応は冷たかった。
祐斗は苦笑しながら視線をそらしているし、なぜか鶴木は冷たい視線を向けていた。
「……一遍死ね。この裏切り者」
「なんでだぁ!?」
思わず絶叫するが、しかしいつの間にか解放されていたアルマが、にやにや笑いながらイッセーを面白そうに見る。
「そらそんな別嬪はんたちとあんなことやそんなことしてもらってそうやからやろ。鶴木はウチとしかHなことしたことあらへんからなぁ」
その瞬間、イッセーは一瞬で限界を超えた。
「……お前が死ねぇ!!」
「なんでだぁ!?」
しかしその拳は鶴木にあっさり回避された。
世界は無常に満ちているのである。
そんなことを思い出しながら、イッセーは駒王学園で行われる三大勢力の会談に出席していた。
あれから本当にいろいろなことがあった。
リアスの眷属最後の一人である、引きこもりの女装男子デイライトウォーカー、ギャスパー・ヴラディの面倒を見た。
その途中でアザゼルにまた接触され、意外なことにギャスパーの問題解決をおこなうためのアドバイスを提供された。
そしてそのアザゼル達堕天使の血を朱乃が引いていることが発覚した。
まあ朱乃が堕天使の血を引いているのはどうでもいい。堕天使には殺されたり街ごと吹き飛ばされかけたりからかわれたりといい思い出がないが、朱乃は朱乃である。
なので朱乃が大好きなことに変わりがないのをは普通に告げたのだが、なぜか朱乃に泣かれてしまった。その後膝枕をされたらリアスに怒られた。
先輩同士の後輩可愛がり合戦は時々大変だなぁと思ったりする。イッセーとしてはそれはそれでうれしいが、彼氏になってエロいことをしたいのである。
まあそんなことを思いながら、リアスはイッセーに手を握られながら会談の場にいる。
自分を握ると勇気が出るからということでリアスに握られているが、光栄かつヒャッホーなことである。
なぜかミカエルの近くで参加している、イルマからはにやにや笑いとともにみられているが、どういうことだろうか。
「……以上で、私たちの視点によるコカビエルの起こした事件の全容を語り終えます」
「ありがとう。座ってくれて構わないよ」
サーゼクスにねぎらわれ、一同は席に座り、そして話が進んでいく。
まず真っ先に驚いたのは、アザゼルが真っ先に和平を持ち込み、そして首脳陣が抵抗なく受け入れたことだ。
しいて言うなら「お前が切り出すか」とでも言いたげな表情を浮かべていたぐらいだが、実際問題アザゼルは戦争を望んでいないとコカビエルはこき下ろしていた。
なので和平についてはとんとん拍子に話が進み、そして次はミカエルがイッセーの視線を向ける。
「そういえば。赤龍帝は私に聞きたいことがありましたね。会談も重要な部分は終わりましたし、ここで聞いてもよろしいでしょうか?」
「私は構わないが、イッセー君はセラフのトップに何を聞きたいのかな?」
「え、ええと……」
サーゼクスまでもが興味深そうに見てきて、イッセーは一瞬躊躇する。
どうしても教会や天界の重鎮と出会った時に聞きたかったことなので衝動的に聞いたが、このタイミングでいうことになるとは思わなかった。
そして、視線を一瞬アーシアに向ける。
それだけで、アーシアは理解してくれたようだ。
「イッセーさんのこと、信じてますから」
……これは、裏切れない。
「ミカエルさん。どうして、アーシアを追放したんですか?」
その言葉に、全員がわずかにだがけげんな表情を浮かべる。
当然だろう。和平がむすばれたこのタイミングで、教会の方針に喧嘩を売るような発言だ。
だが、イッセーはアーシアの境遇を知ってから、堕天使以上に天界や教会に許せない部分を感じていた。
そして、ミカエルが口を開こうとしたとき―
「ま、当然といえば当然かな」
イルマが、ミカエルを制するように口を開く。
そして、一歩前に出ると、ミカエルの方に振り向くとにカッと微笑んだ。
「だめですよぉ、ミカエル様。こういうピーキーな話題は、トップが自分からしゃべったらややこしいことになりますからねっと」
「じゃあ、あんたが答えてくれるのかよ?」
機先を制された気がして、イッセーは少しむっとなる。
ナイスバディなお姉さんということでイッセーはできればお近づきになりたいと思っている。だが、アーシアのことがかかわっている以上話は別だ。
その敵意が少し混じった視線に対して、イルマはあえて涼しく受け流しながら目を向ける。
「常識的に考えなよ、赤龍帝クン。第二次世界大戦中に、日本で「アメリカの社長が首を吊りそうな勢いの会社に多額の寄付をしました!!」……なんて堂々とのたまったやつがいたら普通DISられるよ? 裏切り者ジャン? ……少なくとも、味方陣営だったから下手な敵より憎まれると思わない?」
「それが、何も悪いことをしてなくてもかよ?」
「それが悪いことと考えるのが、これまでの三大勢力の関係だっていってるの」
イッセーの反論をそう切り捨て、イルマは真剣にまっすぐイッセーの目を見、そして周りを見渡す。
「このさい首脳陣の方々にも行っときますけど、これ絶対禍根生みますよ? 数十年かけて停戦条約から始めて段階的に和平するならともかく、いきなりじゃあ和平して仲良くしましょうだなんて、納得できない奴らはいくらでも出てくる。そのアーシアちゃんって子を追放したやつらとか、マジギレするんじゃないですか?」
真剣な表情でそう告げるイルマに、サーゼクスもアザゼルもうなづいた。
「確かにそうだろう。主要な戦争継続派はすでに追放しているが、和平の方針に難色を示した貴族も多少はいた」
「
「そゆこと。異形社会に赤十字の概念は存在しないんだよ、少年?」
二人の言葉を追い風にし、イルマはさらに告げる。
「それに、主の死の影響は大きいんだよ。ぶっちゃけ、今の天界や教会の手に余ってるのが現状」
「……コカビエルが行ってた、システムってやつですか?」
イッセーはふと思い出した。
コカビエルは、聖書の神の死を告げた後こう言ったのだ。
聖書の神が残した奇跡をもたらすシステムを、ミカエルたちが使って奇跡をもたらしている。
よくやっているが、しかし神が生きていたころのような真似はできていないとも。
「はっきり言ってトラブル頻発でね。アーシアちゃんの神器は悪魔を治療できるって観点から信仰に揺らぎが生じるから、それがわかった時点で教会に置くわけにもいかないわけ。……ま、残酷だとは思うけど、世界ってのは基本そんなもんなんだよね」
最後の発言はどこか寂しさが漂っており、イッセーは反論を一瞬とどめてしまう。
「ほんと、君はついてるよ? 平和な国に生まれて、立派な主に仕えられて。世界に食う者にも困る子供や、子供時から体を売らなきゃ生きていけない女の子がどれだけいるか……」
その表情は先ほどまでの笑みが消え、どこか暗いものが漂っている。
「日本ですら極めて珍しいけどたまにいるんだから、そういうのが」
その言葉に、一瞬だが誰もが何も言えなくなった。
「それではそろそろ行動に移りますよ。……
「……無論だ」
その後、ミカエルが結局アーシアとゼノヴィアに頭を下げたり、アーシアとゼノヴィアはむしろ今の生活を気に入っていることを告げたりなどあったが、しかし会談はつつがなく進む。
そして、話題はかつての三大勢力の戦争を引っ掻き回した二天龍に話題が降られる。
「俺は強い奴と戦えればそれでいい」
「それ、和平の場でいうセリフじゃないよね」
白龍皇であるヴァーリの物騒な言葉に、イルマが半目を向けるが次はイッセーの番である。
とはいえ、ただの下っ端程度の意識が強かったイッセーはすぐには考えられなかったが……。
「ちなみに、戦争になったら子作りができなくて戦争をやめればできる。……戦争になったらリアス・グレモリーを抱けないぞ?」
「和平オンリーでお願いしまっす!!」
アザゼルの茶化しで即答だった。
「イッセー君、サーゼクス様がみておられるんだよ?」
「はっはっは。リアスと赤龍帝の子供ができれば、グレモリー家は安泰だね。そう思わないかい、グレイフィア」
「サーゼクス様。それはさすがに早すぎるかと」
「冗談って言わないんだ……進んでるね、グレモリー家」
サーゼクスにピシャリという側近のグレイフィアの言葉の真意をさとり、イルマは軽く戦慄する。
しかし、その表情がどこか真剣なものに変わると、イルマはミカエルに向き直った。
そして、にこやかに今までの会話を見ていたミカエルもまた、真剣な表情になると周りを見渡す。
「……では、そろそろこちら側にとってのもう一つの本題に入りましょう」
「あん? なんかあるのかよ?」
アザゼルがそう聞き返すと同時、ミカエルはすぐにうなづいた。
「ええ。できればアザゼル、あなたの力を借りたい事象でした。……ここにはいないアジュカ・ベルゼブブにも協力を仰ぎたいところです」
「……アジュカちゃんに?」
ミカエルの言葉に、サーゼクスとともに魔王の座についている、外交担当であるセラフォルー・レヴィアタンが反応する。
そして、ミカエルは神妙な顔でうなづいた。
「今の教会とセラフの技術でどうにかできない以上、和平がむすばれたのならば堕天使と悪魔の最高峰の技術者の力を借りるのが賢明ですから。……事態は、それほどまでの危険性を秘めております」
その言葉に、首脳陣は全員が気を引き締める。
そして、イッセーはよくわかっていなかった。
具体的には、アジュカという人物がよくわからなかった。
「……イッセー君。アジュカ・ベルゼブブ様はお姉様とサーゼクス様に並ぶ、現四大魔王のおひとりです」
それに気づいたのか、セラフォルーの妹であり駒王学園の生徒会長を務めるソーナ・シトリーが眼鏡を直しながら告げる。
「悪魔において最高峰の技術者であり、
「まあ、魔王の中じゃ一番魔王の仕事をいい加減にしてるやつでもあるだろうがな」
と、そこでアザゼルが茶々を入れるが、しかしサーゼクスとセラフォルーは苦笑ですらない笑みを浮かべるだけだった。
「ファルビウムとどちらが不真面目だろうか?」
「丸投げと適当のどっちが不真面目なのかしらねん?」
すさまじくイッセーは冥界の未来を案じたが、それは置いておく。
「それで? 俺やアジュカの力を借りたいってのはどういうことだよ? 何について調べたい?」
「具体的には、主の死によって発生した世界のひずみについてです」
ミカエルはそういうと、視線をイルマに向ける。
それに対してイルマは静かにうなづき、一歩前に出る。
「……私は、聖書の神の死によって生まれた世界のゆがみの影響で、ある特徴を持って生まれてきました。……まずは私の魂をここで調べていただければわかると思います」
「ふむふむ。どっこいしょと」
いきなりアザゼルはどこからか機会を取り出すと、精査を始める。
そして、サーゼクスとセラフォルーは特に驚くことなく覗き込み―
「「「……なっ!?」」」
そして、三人は目を見開いてイルマに顔を向ける。
その目は驚愕と、畏怖の感情すら見せていた。
「おい、イルマ・ジュズアルド」
そして、アザゼルが代表してイルマに問いかける。
「……お前の魂、人間ではあるが明確に普通の人間じゃない。っていう魔力を生み出す人間なんてそうはいない。転生悪魔でも混血悪魔ないってんなら、いったい何者だ?」
その言葉に、イルマは一瞬目を伏せると、真正面からアザゼルを見返した。
「私は、魔術使いだよ」
「魔術使い? 魔法使いではなく?」
サーゼクスがそう聞き返すと、イルマは苦笑を浮かべる。
「その通り。肉体に魔術回路という固有の臓器を持ち、それを媒介にすることで魔力を生み出し魔術を使う…………この世界の外側の世界にいる異能保有者」
『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』
その言葉に全員が驚愕し、そしてイルマは続ける。
「たぶんだけど、聖書の神の死で世界がゆがんだのが原因かな? っていうか、ザ・クルセイドのメンバーは全員が魔術回路を持ってる」
「ゆえに、私たちは同様の存在を探し、記憶を保有するものたちを探していたのです。ですがレアケースであるのは間違いないので、いまだ彼女たちしか発見できていません」
ミカエルの説明に、アザゼルはなるほどとうなづいた。
「なるほどな。それをばらしたから堕天使と縁を切ったってわけか。……で? お前はどうやってこの世界に来たのかわかるのか?」
「それが全然。っていうか、アタシってば二十歳ぐらいで一度死んでるはずなんだけど、気が付いたら子供の姿で孤児院いたんだよねー。元日本人なのにイタリアの孤児院とか勘弁してほしいっつーか」
そう言って肩をすくめるイルマだが、すぐに表情を改めると、緊張感すらにじませる。
「問題は、間違いなく私と同様の奴がいて、しかもそいつは犯罪組織側でとんでもない強者を呼び出してるってことが問題なんですよ」
「強者? それって、私たちみたいに強いのかしらん?」
セラフォルーの言葉に、ミカエルがうなづいた。
「最強格のエクソシストであるデュリオ・ジュズアルドが隙をつかれて死にかけ、ヴァスコ・ストラーダとエヴァルト・クリスタリディですら聖剣無しでは二人掛かりでも苦戦確実の相手です」
その言葉に、明らかにアザゼルが嫌そうな顔をする。
そして、ゼノヴィアもまた目を見開いた。
「歴代最強とすら称されるデュランダル使いのストラーダ猊下が、クリスタリディ猊下とともに挑んでも苦戦必須と!? そんな存在、もはや神の領域ではないですか!!」
「そ、そんなにぃ!?」
あまりの狼狽ぶりにイッセーが驚愕する。
そしてその瞬間―
「あれ?」
イッセーが違和感を感じたと同時に、時が止まった。
……書いておいてなんだけど、これ仕立て直したほうがいいような気がしてきた今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
いや、いろいろと考えたんですが、ちょっとインフレ再現で困った事態が起きそうで、どうしたもんかと思案中だったりします。
……場合によっては仕立て直しも考えています。ちょっとご了承ください。