遊戯王5D's Next Wind!   作:suryu-

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 皆様どうもこんばんは。suryu-です。今回もなんとか編集を終えて、出すことが出来ました。

 こうして編集もしてるのですが、最近は体調を崩す事も増えました。やっぱり季節の変わり目はきついですね。皆様もお気をつけて。

 では、今回も閲覧なさって下さると幸いです!


DUEL2.黒いカードなどの噂・前編

 夜の旧BAD地区は、未だ再開発の手が及んでいない真の暗闇だ。Dホイールのヘッドライトが照らすのは、前方を行く宍戸の後ろ姿のみ。「暗夜行路」という言葉はこういう時に使うんだったか、少し違う気もするが。

 そんな由無し事を考えていると、数十メートル先に小さなネオンサインを見つけた。どうやら、ツーリングの終着駅が見えてきたようだ。宍戸さんのDホイールがゆっくりと減速した。

 たどり着いた先は小洒落た店だった。旧BADエリアの一角にある店は、一つだけさながら異世界にあるかのようであったが、看板に書かれている手書き感満載の「遊戯王」という文字が全てを台無しにしていた。

 

「何が悲しくて野郎をお持ち帰りしなきゃならんのかねぇ……」

 

 よく使い込まれたサイフォン、暗い光沢を讃えるカウンター、多種多様に並べられているボトル。こんな立地でなければきっと評判になっていただろう。

 

「さて、少年よ。要件を聞かせてもらおうか?」

 

「要件は……僕の友達が居なくなったから探している。ただそれだけだよ」

 

「それじゃあ答えになってねぇのよ。肝心要はWhatじゃあなく、Whyの部分だ。数週間前からネオダイダロスブリッジに検問が張られて、常にセキュリティが目を光らせてやがる。そんな状況で、なぜシティの学生がサテライトで行方不明になったと確信してるのか?なぜお前は検問を掻い潜ってまでこっち側に来たのか?それを聞かせてもらおうじゃねぇの」

 

 彼は考える、メリットは三つ。

一つ、この地域を熟知していること。

二つ、治安の悪い旧BADエリアで高級品を扱いながらも維持するだけの権力、ないしは人脈があること。

三つ、純粋に人手が増えること。

 

 不安点としては三つ。

一つ、自分に接してきた目的が不明であること。旧BADエリアの住人がまさかただの親切で声をかけてくるはずがない。

二つ、明らかに自分より格上であること。無茶な見返りを要求されても突っぱねることは不可能だ。

三つ、この老人に取り付いてる数えるのも馬鹿らしくなる程の精霊、怨霊の数々。常人が耐えられるものではないはずだ。

 

心の中でこの老人を味方につけるメリットとデメリットを天秤にくべ、判断を下した。

 

「......僕の友達は、どうやらサテライトに出没している謎のカードについて調べてたらしい。黒いカードや半分魔法のようなモンスターが使われてるって都市伝説は、情報屋のあなたなら当然知っていますよね?」

 

 宍戸は応えない。黙ったまま眉一つ動かさず、此方をじっと見据えている。

 

「贔屓目に見てるわけじゃなく、いるかは相当な天才なんだ。決闘の腕はもちろん、技術や知識、咄嗟の判断力も優れている。自分に自信があって、それでもって好奇心旺盛で。あいつなら、検問なんて問題は楽々クリアしてサテライトに侵入してるはずなんだ。もしも危険に巻き込まれたとしたら、都市伝説級の謎の力が関わってるとしか思えない。だから僕がこうやって探しに来たんてです。何かある前に、助けるために」

 

 これで良いはずだ。嘘は吐いていないし、宍戸が都市伝説について何か知ってるなら聞き出せるだろう。かといって、まだ信用できる訳じゃあない。精霊のことやいるかの情報は出来るだけ隠しつつ、どうにか情報を貰えたら……

 

 

 

■宍戸side■

 

 

 

 ……黒いカードに、半分が魔法のカードねぇ……確かに知っているとも、使い方から効果、なんなら実物だって持っている。

 だがそれらはまだ構想すらできていないはずだ。思いの他面倒な事態になったことについ舌打ちしそうになる。

 それにこいつ、嘘はついてないが全部話してもいねぇな。まぁ出会った場面や俺の住んでる場所を考えりゃ仕方ないか……

 他人の俺が見てもわかるくらい頭に血を登らせているし、黙っていても勝手に突っ走るなこれは。なら、俺がやるべきことは……

 

「フゥ。まぁとりあえずはよしとするか。おまえの知りたいことは大体心当たりはあるし、情報も出せる。だが、こちらも仕事だ、ただってわけにはいかない。そこで一つ取引と行こうか?

ちょうど最近人手がたりねぇんだ、お前、ここでバイトする気はないか?」

 

 鏡を見たわけではないので確証は持てないが、この時の自分は大分悪どい顔をしていたと思う。

 

『遊斗、コレは不味いわ。絶対にブラックバイトってやつよ。契約書にサインしたが最後、最低時給で30連勤の上に賃金未払いのまま首にされるに決まっているわ!』

 

 あいつは何かの横槍に半分同意しながらも、儂の提案の裏を読み取ろうと必死に頭を動かしているのが分かる。一介の労基法違反の雇用主であるだけ、なんて事があり得るだろうか。何か裏があるはずだ。なんて思ってるかもな。

 

 数秒が経過した。しかし、睨み合いはカランカランというベルの音によって中断される。

 

「お〜い宍戸の旦那ぁ。今日は店開けるの随分と遅かったじゃないかぁ。何してたんだい?」

 

「おぉ〜?誰だこのにーちゃんは、見ない顔だなぁ。この店にはちと早いんじゃないかぁ?宍戸さんの隠し子とかかぁ?」

 

「んなわけあるかよ。こいつはバイトで雇った学生だ。どうしてもうちで働きたいってんでな」

 

「なっ、ちょっと待ってよ!」

 

 冗談ではない、こんなもの白紙の手形にサインしたようなものだ、のんとしてでも取り消さなければ。とか思ってるかもな。ま、続けさせてもらうが。

 

「待たんよ。まっ、そっちは小遣い稼げて情報をもらえる、こっちは足りない人手を確保できる。お互い損はない話だろ?しばらくの間仲良くしようぜバイト君♪ほら、客が来てるんだモタモタしてねぇで働け」

 

 ”やられた、完全に既成事実を作られた。このまま逃げ出せば確実にこの場所へは戻ってこれないな。現状では唯一のいるかに繋がる手がかりだ、不意にすることはできない。取り敢えず今は言われた通りに働くしかないか……”

 

 とか考えてるのかもな。ま、労働力が貰えるんだから良いんだけどな。

 

 結局閉店まで働かせた。旧BADエリアにあるのになんでこんな繁盛してるだこの店は……と自分でもたまに思う。

 

 

 

■■■

 

 

 

「女三人寄れば姦しい」とは言ったものだが、中年の男性労働者でひしめく店内はそれどころの騒ぎではない。「最近はようやくBAD地区にもまともな酒が入ってくるようになった」だの、「うちの工場は機材が時代遅れだ」だの、酔っ払い達の会話はこんなオーセンティックバーではなく大衆居酒屋でして貰いたいものだ。

 

そんな喧騒の中、軋む扉の音とともに浅黒い肌をした初老の女性が入店した。

 

「相変わらずこの店はうるさいねぇ。うちの子供たちよりしつけのなってない奴らばっかりじゃないか」

 

 店を見渡すなり、彼女は呆れるように、しかし快活そうに笑った。

 

「そりゃねぇぜマーサぁ」

 

「珍しいじゃねぇかマーサ!今日はお守りはどうしたい?」

 

「この頃は上の子たちがチビの面倒見てくれてるんだよ。良い子たちに育ってくれた。お蔭であたしはこうして羽伸ばしにこれるってもんだよ」

 

 マーサと呼ばれたその女性は、コートを脱いで丁寧にハンガーにかけると、カウンターの席に座った。先ほどの会話と、臙脂色の修道服を纏っているところからして、どうやら教会で孤児院を営む人らしい。

 

「久々だな、マーサ。昔みたいにショットでかけつけ1杯いくかい?」

 

「悪いけど夕飯は食べてきたんでね、今日は軽くにしとくよ。ブラックローズをシロップ抜きで貰えるかい」

 

 どうやら宍戸さんとも旧知の仲らしい。こんな胡散臭い人と教会のシスター、何やら似合わない組み合わせだ。

 

 ゴールドラムを30ml、作り置きのアイスコーヒーを適量注ぎ、しばらくシェイカーを振った後、予めロックの氷を入れたタンブラーグラスに慣れた手つきで注ぐ。

注いだことで弾ける氷の音に耳を傾けながらも、徐々に黒く染まっていくグラスは形も相まって黒瑪瑙のようにも見えてくる。嗅ぎ慣れたコーヒーの独特な香りに混じり、仄かに漂うラムの香りは酒を飲んだことのない自分にとっても魅力的なものに写った。

 

「遊斗、俺は下に行って今日の分の仕込みを取ってくる。上は一旦任せるわ、客が来たら適当にあしらっとけ」

 

 そう言い残し、宍戸は店の奥に消えっていった。

 

「あの、マーサさん、でしたか?宍戸さんってどんな人か聞かせてもらっても良いですか?」

 

 知らない人と二人きりという状況に堪え兼ね、気づいたらシスターの女性に話しかけていた。

 

「妙なことを聞く子だねぇ。あんた、宍戸ちゃんの仲間だからここで働いてるんじゃないのかい?何か訳ありか知らないけど、誰かのことを知りたいと思うんなら、直接その人と向き合うことだよ」

 

 流石は聖職者だ、なにやら諭されてしまった。

 

「確かに......その通りですね。失礼しました。まだ今日がはじめてなものですから」

 

「まぁ、若いうちは色々とあるだろうさ。頑張るんだよ!」

 

 体良くはぐらかされたような気もする。しかし、彼女の言葉にはえもいえぬ説得力があり、これ以上の質問はし難かった。

 だが、一つだけ手に入った情報がある。マーサの言い振りからして、宍戸は見ず知らずの者は雇ったりせず、仲間として認めた者しか側に置かない人間のようだ。半ば無理やりとはいえ、ここで働くことになったということは……

 

「まぁ、気に入られたってことで良いのかな……」

 

 合点はいかないが、取り敢えずは宍戸という男を信じてみることにしようか。

 

「ところであんた、見ない顔だけど、シティから来たのかい?」

 

「えぇ、まぁ、一応」

 

 この返答は歯切れが悪い。最近まではもっと田舎のほうに住んでいたのだから。

 

「そういえば僕は、行方不明になった人を探してるんですが……」

 

 僕がそうマーサと呼ばれる人に声をかけようとした時だった。

 

「お、なんだ? デッキ持ってるこたぁ、お前も決闘者か?ちょっとデッキ見せてみろよ」

 

「あ、あのちょっと」

 

 そう言うが早い。あっという間にカウンター横に置いてあったデッキケースが酔っぱらいの一人の手元へと吸い込まれてしまう。 

 

「ほうほうこいつぁ……ドラグニティか」

 

「普通そうな顔に似合わず良いカードを持ってるねぇ!」

 

 手慣れた、しかし丁寧な手つきで酔っぱらいはカードを一枚一枚確認していく。普通そうな顔は余計だ。

 

「あ、あのー……そろそろ返していただけると」

 

 自分のデッキを見ず知らずの他人に見られることに馴れてないからか恥ずかしさが込み上げてきた。

 これ以上はとてもでは無いが耐えられない。そう思いデッキを取り替えそうと手を伸ばそうとしたその時、酔っぱらいの手が止まった。

 

「ん?」

 

 突然動きが止まったのでこちらも急に不安になる。

 

「ど……どうかしました?」

 

「兄ちゃん、まだこんなん使ってんのか?」

 

 そう言いながら酔っぱらいがデッキの中から引き抜いたのはスピードワールド。

 

「な、何かおかしいですかね?」

 

 僕がそう聞き返すと、酔っぱらい達は「チッ、チッ、チッ……」と人差し指を立て、揃ったように顔の前で左右に降る。

 

「兄ちゃん。こんなのは俺達の中ではもう過去のものよ。」

 

「そうそうサテライトのデュエルは常に新しくなってんだ。」

 

「俺たちがサテライト流の、新ルールを教えてやるぜ!」

 

 そのまま僕は、何故か新ルールについて教授される事になった。酔っ払い達は僕の手をとって、絡み酒のように話しだす。迷惑ではあるが、サテライトの流儀も知るためだし郷に従っておく事にした。

 

「まずな、ライフ8000。先行ドローなし。EXモンスターゾーンってのがあるのは知ってるな?」

 

「はい、授業で習ったので」

 

「そこにスピードカウンターを取り除いて、メインモンスターゾーンをEXモンスターゾーンにできるんだ」

 

「へぇ……」

 

 前回宍戸さんとデュエルした時は、どっちも使わなかったルールだから僕は忘れかけていた。これは、多分大事なルールだと思うから覚えておこうと頭に入れた。酒場の飲んだくれたちはさらに絡んでくる。もう、どうにでもなれ。

 

「さらにな、サテライトの追加ルールだ。魔法カードを使っても2000ライフのペナルティはない。かわりにスピードカウンターをひとつ消費するんだ」

 

「そうなんですか!?」

 

「おうよ。これでライディングデュエルも、深みが増すんだぜ?」

 

 そこまで教えた飲んだくれは、なぜか酒を飲ませようとしてくることから、遊斗は丁重にお断りした。それにしてもこの飲んだくれたちは、やけに絡み酒が強い傾向にある。サテライト流って、ほとんどこんな感じなのか? と思うくらいだ。

 

「あんた達、そこら辺にしてやりなよ」

 

「なんだよマーサぁ。いい所なんだぜー?」

 

「絡み酒が過ぎるんだよ。ったくこいつらは」

 

 マーサさんはやれやれ。なんて言いながら僕の隣に座る。ブラックローズを片手に苦笑いする彼女は、シスターというよりやんちゃしてた人を纏める姉御肌みたいな気がした。

 

「にしても聞いてくれよ」

 

「は、はい、なんですか?」

 

 そんなマーサさんが、僕に向き直って僕に困ったような顔をしている。相当悩んでいる事なのか、僕に愚痴を言って答えを聞きたいのかもしれない。なにか情報かと、頭に入れることにした。

 

「なんの噂か知らないけれど、最近うちの子供たちが黒いカードやら下半分が魔法の色をしたカードが欲しいって騒ぐのさ。そんなものは無いって言ってるんだけどねぇ」

 

「それって……」

 

 思い出した。いるかも調べていた例のものだ。僕も宍戸さんに対して、その話をしていたから覚えている。ここでもその話を聞くとは思わなかった。

 

「それにしても嬉しいねぇ。ここ最近はあんたみたいにサテライトに若い新顔が入ってきてくれてさ。今まではサテライトからシティに移り住む子はいても、その逆はほとんどなかったからねぇ」

 

 中身が半分になったグラスを揺らしながら、マーサは上機嫌そうに言った。残念ながら、僕は別に定住するつもりなわけじゃないんだけれど......。ん?まてよ?

 

「若い新顔が入って来てるって、最近僕と同い年くらいの女の子見ませんでしたか?!黒い長髪で、前髪に少し青いメッシュが入ってるような……」

 

マーサは首を傾げる。

 

「あんたの女の子の好みは随分と細かいんだねぇ。そんなにヘアスタイルに拘ってないで、もっと中身を見るんだよ!性格を!」

 

 違う、そうじゃない!

 

「僕の幼馴染なんです。身長は僕より少し低くて、メガネを掛けてて......」

 

「青いDホイールに乗っていて、一人称が『ボク』の、少し変わった子でしょうか?」

 

 いつの間にかマーサの隣に座っていた男が、話に割り込んできた。……ちょっと待て、いまなんて言った?

 

「っ!? 知ってるんですか? いるかのことを!!?」

 

 思わずカウンターから身を乗り出して男に問いかける。

 

「いるかという名前、たしかそんな風に名乗っていたような気もしますねぇ...... 知りたいですか?」

 

 黒いフードの奥で、不気味なほど爽やかな笑顔を見せながら、男は答える。

 

「何処で見たんですか? 教えてください!」

 

「教えておやりよ、シキ。なんだか大切な子みたいじゃないか」

 

 マーサは彼の知り合いらしく、赤ら顔で隣の男ーシキに促す。

 シキはフードを脱いでゆっくりと肘をカウンターにつけて手を組むと、おもむろに口を開いた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「……の付近で見かけましたよ、ですが今は夜ですし、いろいろと危険です。行くなら明日の朝にした方がいいですよ」

 

「そんなこと言ってられません。僕、探してきます!」

 

「あ、ちょっと!君!」

 

 制止も聞かずに店を飛び出した遊斗を眺めながらシキは呟く。

 

「……なんだか余計な事言っちゃいましたかねぇ?」

 

 そう気まずそうに黒いフードをかぶり直し、頬を人差し指で軽く掻くシキにマーサは落ち着いた様子で答える。

 

「お節介なあんたの悪い癖かも知れないねぇ、後先考えずに情報を教えてあげるところは」

 

 そう言われると心当たりがあるのか「うぐっ」と詰まったような反応がシキから返ってくる。

 

「い、いやぁ……あの少年、結構追い込んでたみたいだったので安心できるかと思いまして……つい」

 

「……まぁ、そこがあんたの良いところなんだろうけどね」

 

「恐縮です……さて、宍戸さんにどう報告しましょうか。どう転んでも私がぶっ飛ばされそうな未来しか見えませんよ」

 

「……その時は私が少しくらいは擁護してあげるさ」

 

 マーサの言葉を聞き、「少しだけですか」と苦笑いをしながらカウンターに備え付けのメニューを眺めつつ、これから自分に襲ってくるであろう理不尽を想像しながらシキは大きくため息をついた。

 

 

 

■■■

 

 

 

 Dホイールに内蔵されたナビゲーションシステムを起動させ、バーを後にしたのが20分ほど前のことだ。オートパイロットで最高速で駆け抜けているのだが、目的地まではまだ着かない。

 

「サテライトって、意外と広いんだな......」

 

 BAD地区は、この街のほんの一部でしかなかったことが分かる。再開発された道路は明るい高層ビルに挟まれ、シティと同じように絶えず脈動を続けている。

 

『さっきの男が言っていた、M地区に入ったようね』

 

 静かにDホイールに併走していたドゥクスが口を開いた。

 

「あぁ。僕は近くを注視してるから、ドゥクスは高度を上げて探してみてくれ」

 

『了解。みんな行くわよ』

 

 司令官の一喝に、デッキからドラグニティの精霊達が飛びだしてくる。

 

『円形に陣をとっているかを探してちょうだい。見つけたら合図を!』

 

 ドラゴンに乗った鳥人達が、Dホイールの左右前後に飛び立つ。ビルやネオンの隙間を縫うように、鎧をきらめかせて翔ぶ彼らの姿は、とても美しく見える。ソリッドヴィジョンではない、本物の姿を見られるのは、僕が『力』を持っていて良かったと思える数少ないことの一つだ。

 ドゥクスも相棒のドラゴンを連れ、サテライトの風に乗って舞い上がった。俺の頭上、他のドラグニティと比べても空に近い場所。ビルよりも上へ、しかしオゾンよりは下で。

 ドラグニティたちの姿に見とれた、その一瞬。一瞬の油断が、僕の反応を遅らせた。

瞬きの刹那に、視界が青紫色の光に染め上げられる。

 

『《スピード・ニューワールド》が強制発動されました。デュエルモードセット』

 

「なんだって、馬鹿な!!」

 

 強制発動……セキュリティか?スピード違反とか、そんな目をつけられることはしてない……。いや、それより一体何処からフィールドを発動させたんだ?

後方を確認しても、それらしいDホイールは見当たらない。

 

『Lane Selection……使用可能な最適レーンをサーチ…… デュエルレーン、セントラルに申請……Error!! 申請できません……ルート上の他車両に注意してデュエルして下さい』

 

 やっぱりおかしい。レーンセレクトが申請できないなんて……。

 

「セキュリティじゃないのは確かだ…… とすると、誰かが僕のDホイールシステムにクラッキングした線が濃い…… まさか、いるかの失踪に関係ある奴の仕業か?!」

 

 

 

■■■

 

 

 

「セキュリティに見つかると少々やりにくくなりますからねぇ。セントラルへの通信は遮断させて貰いましたよ。まぁ、私がしたのではありませんが……。私はただ、『彼』に『お願い』しただけ。Dホイールのシステムを破壊(クラック)してくれと。そして…………

 

 宍戸の目の前であの少年を葬ってくれ、と。

 

「ククク、まぁ運が悪かったと思って諦めて下さい。宍戸の信頼を得るに足る存在だったご自分の運命を。人生なんて訳もわからず生まれて訳もわからず死んでいくものなんですよ。貴方もその例に漏れず、分からないまま混乱の中で眠って下さい。この世界にはない『黒いカード』を何も理解出来ないままね……。

 

 

 

■■■

 

 

 

 オートパイロットを支配された愛機の上で、僕は何も出来ないまま運ばれるしかなかった。

 メインストリートを曲がり華々しい街の裏側に出てしばらく行くと、そこはやはりサテライトの未開発な面を思わせる悪路だった。

 反吐の出るような悪臭のするドブ川に沿った道をただ進む。

 

「……いや、川じゃあないのか」

 

 堀をよく覗き込むと、そこに張り巡らされているのは剥き出しの錆びた太いパイプだった。

 なるほど。サテライトは昔、ゴミ処理施設の工場で溢れていたと言う。当時のサテライト住民は、シティから地下通路を通って運ばれてくるジャンクの山に囲まれ、それの処理を毎日毎日繰り返す生活だった。これはその時の工場内で、排水やら化学物質の通り路なんかの為に使われた物だったのだろう。この辺りは、そういった負の遺産を埋めた上に建てられているらしい。

 ……と、パイプの隙間から何か光るものが見えた。反響する音がドップラー効果を伴い近づいてくる。

 この駆動音は……Dホイールに内蔵されたエネルギー機構『フォーチュン』のものだ!ということは……!!

 

「っ!!そうか、下だ!!さっきの繁華街も、地下には廃工場の設備が通っていたんだ!今は使われていない地下のルートから、僕を捕縛したのか!!」

 

「ご名答」

 

 地下深くから斜めに伸びるパイプを登り、いつの間にかその男は僕の視界にはっきり映る場所まで来ていた。

サイドカーを装備したDホイール。ゴーグルをつけているので顔はよく見えないが、30代くらいの男だ。

 そして…………見える。奴の背後にいる機械の兵隊が。奴の従えるモンスターの精霊が!!!

 

「誰なんだ!一体!いるかのことを知ってる奴なのか?!」

 

「…………お前は何も知らなくて良い……お前はただ、役割を果たしてくれれば、それで良い…………」

 

 男はそう言い、淡々とDホイールのパネルを操作した。

 

「っ!!」

 

途端に僕のDホイールが傾く。鉄管の川に向けて、車体が落ちていく。

 

「ダメだ!制御できない!」

 

 パイプに接着する瞬間の衝撃に備えてハンドルにしがみつく。ガウィインという鈍い音と、飛び散る火花。着地は何とかなったようだが、敵の目的は僕をクラッシュさせることではなさそうだ。こうして僕を同じステージに立たせること……

 時速100kmを超える風の中、逃げることは出来ない…………やるしかない。

 

__決闘疾走!!!

 

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