例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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プロローグ
01 プロローグ 前編 少女は異端となる


学びなさい

理を学びなさい

私の娘よ

生き抜く為に

 

求めなさい

力を求めなさい

私の娘よ

死なない為に

 

楽しみなさい

全てを楽しみなさい

私の娘よ

成し遂げる為に

 

おいでなさい

ここにおいでなさい

私の娘よ

運命の輪に乗っていつの日か

 

 

 

これは確か…

そう、あれは確か私が持つ一番古い記憶だ。

 

私は暗い場所にいた。

そして声を聞いた。

 

子宮の中の記憶なのかもしれない

夢なのかもしれない

テレビや読んでもらった本のセリフなのかもしれない

 

だが確かにそれは私に向かって言われた言葉だった。

少なくとも、私はその言葉が私に向けられていた、と感じていた。

 

 

私こと長谷川 千雨は両親共働きの家庭に生まれた。

 

好奇心の強い活発な子供だった私は、遊び回り、いろんな本をよんだ。

 

別に鍛えたとかそんな大層な事ではなくて、ただ遊びまわっていた。

別に勉強とかではなく物語や雑学、絵本に学習漫画、背伸びをしてむずかしめの本などもよんだ。

外で遊ぶのも本を読むのも好きな少し背伸びした子供だったというのは間違いない。

 

 

 

私立の麻帆良学園女子初等部へ入学した私は、友達100人とまではいかないがそれなりに周囲と交流を持った。

なぜ、友達になった、ではなく交流を持った、かというと『友好的な付き合いをする知人』という意味では友達と言えるけれども、

数か月前まで住んでいた所でよくつるんでいた『友達』と比べるとどこか…何かが違うような気がするのだ。

とにかく、クラスのほぼ全員とそれなりに関係を持っていたし、かといってとりたてて仲のいい人もいなかった。

 

 

そういった知人と探検の過程で学園のあちこちで見つけた事について話していたある日、不思議なことに気付いた。

街中でみた広域指導員の先生が武術系サークルの大学生のけんかを止める、といった「まるでアクション映画みたいな」場面や、暴走したロボットについての話はよくあるし、見たっていう子も何人もいる。

だが…私がたまに目撃する、映画やアニメみたいに『空を飛ぶように走ったり、空を飛ぶ』先生や先輩についてとか、『たまに夜に周辺部で見える光』とかについては誰もみた事がいないという。

それだけならともかく、「さすがにそれは見間違いじゃない?」とか「映画の撮影だったりするんじゃない?」とかいわれた。

広域指導員の先生とかを見ているとそれくらいできそうだよね、みたいな流れになるのがうちのクラスの連中のノリのはずなのに…

本当だと強弁してはみたものの、うそつき呼ばわりされかけただけだった。

なんとか夏休みの話に誘導して、あっさり流してくれたのは幸いだったが。

その時は私は少し悔しい、それ以上の感情を抱いてはいなかった。

 

 

夏休み、いつも以上に活動範囲を広げて私は学園都市を冒険した。

前から気になっていた図書館島に興味がわいたが、肝心の地下迷宮部分への入場は学園からの特別な許可が必要な上に、中学生以上が入れる図書館探検部の部員以外がその許可を得ることは難しいとのことだ。

とは言え、地上部分だけでも非常に多くの蔵書があり、きたかいは十分にあった。

 

 

ある日、私は探検の合間に学習図鑑を読んでいて、あるページに差し掛かった。

「植物のいろんな世界一」

そのページを読むうちにある事に気付いた。「世界一高い樹」としてのっている木が樹高『たった』115mほどの木で、「世界一であった樹」にしても、132m程度でしかない。

樹高270mを誇る世界樹の半分以下…なぜ…なぜだ…こんな巨木を学園外に隠せるわけがないし、かくす必要もない。

警備上の理由だとしても…よくドラマや漫画であるように学園が圧力をかけた?そんなわけがない。

それどころか一位と二位に倍以上の差って…あり得るのか?いや、それどころか世界樹の品種は何なんだ…

世界樹の傍の案内板を読んでみてもうまくはぐらかされて…ちがう、書き方の問題じゃない。

麻帆良学園にここに来てこの案内板を読んだ事があるはずだ。

そして普段の私なら当然気になるはずの事をそのまま受け入れていた。

 

何か変だ…

 

そんな疑問を持ったまま探索すればするほど、違和感が大きくなって行った。

この「都市」は麻帆良市にある麻帆良学園という一つの学校組織だから、大学エリアやその近くでロボットの駆動実験をやっていても、不思議ではない。

学生同士の喧嘩やもめごとを教師…広域指導員と言うらしい…が仲裁するのも当たり前だし、無茶苦茶デカイ図書館があっても規模から考えればありだろう。

そう自分を納得させていたが、何かが引っ掛かる…考えているうちに気付いた、気付いてしまった。

 

ロボットの駆動実験が行われているのはいい。技術レベルが「外部の」テレビで見ていたような技術レベルとは違うのだが、まあ置いておこう。

しかし…暴走事故がたびたび起こっていて、「奇跡的に」死人どころか重傷者すら出た事がないとは言え、対策が取られている様子がまったくと言っていいほどないのはなぜだ?

 

広域指導員という名の教員が学生のいざこざを収めるのはいい。大抵のいざこざはうまく仲裁している優秀な先生達だ。

だが…私達が見てきたなかでかなりの件数で「制圧」というかたちでの収拾が図られた事がある。

暴力による鎮圧…それを必要とあらば簡単に選択する事がまず異常だし、さらにプロ顔負けの連中もいるような大学サークルの連中を一人で制圧できる事の方がもっと異常だ。

 

…プロ顔負けだと?

 

そうだ、全体的に能力もおかしい。

下手な本職を上回る技術力を有したサークルとかもある、それも一つや二つではなく相当数、だ。

私が知らないだけかもしれないし、費用の問題なのかもしれないが、私が外で見聞きしていた技術レベルと比べてこの都市の技術レベルは異常に高いように思える。

 

 

やはりこの街はおかしい…何かが隠ぺいされている。内部に対しても、外部に対しても…しかもまるで魔法か集団催眠みたいな方法で…

…そんなマンガじゃあるまいし…と本来なら一笑の後に破棄すべき解答が得られてしまった。

 

だからどうした

 

確かにかくされた秘密とやらは気になる、だがそれを知ってどうなる?

そんな摩訶不思議な隠され方をしている秘密を知って…消されるかもしれない

命をかけてまで知る必要がある?いや、覚えておくだけでいいだろう。

むしろ忘れてしまった方がいいのかもしれない…

 

私はそう思って思考を打ち切る事にした。

 

 

 

 

それからが地獄だった。

 

気づいてしまってから、何もかもが歪んで見えるようになってしまった。皆が見えている世界がわからなくなった。

 

私の見えている物のうち、どこまでが気づいて良い事で、どこからが気づいちゃいけない事なのか?

 

わからない…とりあえずなにも考えずに歩いていると「入っちゃいけない」場所に入ってしまう事もありそうだ。

 

一度、気がつくと異様に人がいない状況に遭遇し、広域指導員の先生に迷子扱いされて連れ出された事があった。

 

…たぶん、あれは皆の常識を狂わせている力で人払いをしていたのだろう。

 

放課後の世界樹前広場が無人になって、解放されて戻ってみるといつも通りの賑わいを見せている、というのがありえる事なら別だが。

 

…同じ場所にいても、見ている景色が違うのだから常識や価値観がずれ始める。

 

皆といると常識の、見ている景色のすり合わせに疲れを感じるようにまでなってしまった。

 

ながされてしまえば…気づいた事を忘れてしまえば楽なんだろう…でもそれはできなかったのだ…

あるいは、気づいた事を周りに話してしまえば楽になるはず…私をうそつき扱いされて向こうが離れていくはずだ…

でも、私はうそつきになれず、異端のまま生き続け、周りとの関係を疎遠にするようになってしまった。

 

いつしか異端である事を忘れないように、私は度の入っていないメガネをかけるようになった。

私が見えているものは他の皆と違うのだ、という事を忘れないように世界と私を隔てるシンボルとして…

 

こうして…私がこの都市の異端として生きることを始めて…1年の月日がたった。

 

 

 


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