例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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10 進路選択編 第2話 少女は至るべき場所を知る

 

「私は武を極めるために日本に来たアル」

 

「へーヨーロッパとか、アメリカとかいろんな国がある中で日本を選んだ理由ってあったりする?」

 

「武の道を進む者としての…ヒラメキ…いや、直感が日本の麻帆良に来るべき、と言ってたアル」

 

食事も終わり、デザートを食べながらの雑談タイムに食事中の雑談で拾った情報から

 

古菲にターゲットを絞った朝倉が予想通りに取材をしていた。

 

「そういえば、超リンも千雨ちゃんも武道やってる…というか強かったよね。

 

たしか、千雨ちゃんが去年の大運動会では大格闘大会初等部の部優勝、

 

千雨ちゃん曰く、超リンはそれに匹敵するだけの技量…だったよね?」

 

そう言って朝倉は私と超を交互に見る。

 

…私か超とバトらせて記事にしたいんだけどなぁ~

 

って目をしている。

 

正直、気の使用無しの範囲ならば私の実力なんて雪広や神楽坂と同格程度なんだがなぁ…

 

去年優勝できたのは1つ上の格闘系部活の強力な面子が中等部以上の総合の部に上がった事、

 

神楽坂が陸上、雪広が馬術に参加していた事、それに加えクジ運がよかった事もある。

 

「ヤハリ、チャオも長谷川サンも武の道を歩む者か。

二人の…仕草を見ていると只者では無い事が明らかアル。

そして、二人とも尊敬するアル。私、武の道だけで手一杯で文の道は不十分。

二人は文の道が本筋だと言うが武の道も間違いなく一定以上の予測たつアル」

 

「あー(気を除いた素手格闘の)技量は超の方が上だぜ?」

 

これは純然たる事実だし、素手で気なしなら超の方が強い。

気による身体強化や武器(鉄扇と糸)使用ありの試合形式ならおそらく勝てる…と思う。

ま、超も隠し玉を持っているだろうからお互い本気でぶつかりあうとどうなるかは未知数だ。

 

私の方はエヴァの個人指導を受け続けた結果もあり、

気の出力を全開でやればエヴァンジェリンから魔力供給を受けたガチモードの茶々丸とタメをはれる程度には…戦える。

ああ、『一般人の限界』位はもう踏み越えたよ。

…ビックリ人間にならない縛りなんざ、瞬動を使える様になった時に捨てた。

 

もう、開き直ったって感じかな…聡美が研究一辺倒な分、魔法関連の実技も含め、私は実力をつけなければならない…

 

超は…アイツの隠し玉がいくつあるのか知らないが、心配はしていない。

 

と、言うか気付けばそもそも戦わずに済むように状況を整えているようなタイプだな。

 

「どちらにしても二人とも一戦願いたいアルね。

 

もし良かったら今からでも表の広場でどうアルか?」

 

「ウム、ぜひご教授願うヨ」

 

超はそう言って嬉しそうにうなずく。

 

「お、バトっちゃう?是非取材させて欲しいな」

 

朝倉が自分であおったくせに楽しそうに乗ってくる。

 

怪我…しないでくださいね

 

四葉は心配そうにそう言っていた。

 

「やるなら周りに迷惑かけるなよ。私は…」

 

「やらないんですか?」

 

やらない、そう言いかけた所で聡美が残念そうに言った。

 

「…やるよ」

 

…気が付いたらそう言っていた。

 

こういう顔されると弱い

 

 

 

 

 

 

 

「さて、私が先で良いかな」

 

早速広場に出た私達は場所をあけて貰って向かい合う。

 

周りでは喧嘩だとか決闘だとか何時ものように楽しそうに騒いでいる。

 

「うむ。こちらはいつでも良いアル」

 

そう言ってクーが構えた瞬間、気配が変わる。

 

僅かだが明らかに気を纏っている。

 

しかしそこから読み取れる錬度から察するに自然に身に付けたタイプだろう。

 

ならば一般人相手という事で…いやまあどっちにしろこんだけ人がいる前で本気は出せないが…

気の出力をクーと同程度の密度と出力に調整し、構えをとる。

 

「こっちもいいぜ。超、合図頼む」

 

場が一瞬静まり返る。

 

「では…はじめ!」

 

タン

 

そんな音が鳴りクーが距離を積めて来た。

 

一撃目をかわし、すれ違い様に手刀をおみまいするが簡単に防がれる。

 

さらに一撃が入るが外側に受け流す。

 

私がそうであるように、クーにも余力が見てとれる。

 

が、技量も素の身体能力もクーの方が上、まあ気による補正を含めた身体能力の本気は私の方が勝っているだろうな。

 

…つまり、この試合の条件だと私が圧倒的に不利って事だ。

 

「想像以上で嬉しいアル。もっと行くアルね!」

 

瞬間、クーが踏み込んできて猛攻を食らう。

 

なんとか受け流し続けるが、まともに反撃できない。

 

結局十数発目をその場で受け流しきれず、勢いを殺すために後ろに跳ぶはめになった。

 

「流石だな、あんだけ打ち込んできてるのにつけ入る隙がない」

 

「今ので有効打なしとは、長谷川さんはやはり強いアルね」

 

再び構えを取って向き合う。

 

「あいやー千雨サンあまり難易度上げないで欲しいヨ」

 

超が苦笑いしながらぼやくが当然無視だ。

 

タン

 

今度はこちらから距離を詰める。

 

ある時は防御させ、またある時はわざと反撃させて勢いを上手く流して詰め将棋の様に少しずつ体勢を崩していく。

 

「くっ」

 

狙いに気付いた様で、クーが声を漏らすがもう遅い。

 

顔面に放った掌打を避けきれず、クーが地面に転がる…筈だったんだが、

 

気付けば腕を捕まれてそこを支点に上手く潜り込まれそうになっていた。

 

急に動きがよくなった…まだ手加減されてたか

 

距離を取る…今の気の出力では距離がたりない。

 

つかまれた腕を跳ね上げ…はなされた。

 

回避…は間に合いそうにない

 

左手で迎撃…ここでフェイントだと!

 

腹部への一撃…防げない…

 

かはっ

 

自分の口からそんな音が漏れる…とっさに腹部に力を入れていなければ昼食を無駄にする所だった。

 

「そこまで!」

 

超の声が響く。

 

「大丈夫ですか千雨さん!」

 

聡美が心配そうに駆け寄ってくるのを制して少しよろめくふりをしながら姿勢を正す。

 

「流石だな、完敗だ。」

 

「イヤ…気付くのが一瞬遅ければ私の負けだったアル。ぜひまた相手をして欲しいアル」

 

「はっ、その寸前まで手加減しといてよくいうぜ…まあ、また機会があれば相手を頼む。私も精進を重ねておくよ」

 

 そういって差しだされた手を握り、握手する。

 

 冗談抜きで精進するべきだろうと思う。

 

研究や初等魔法の練習に時間とられて春休みでも普段と同程度しか組み手をしていなかったし。

 

ん?魔法を習ってどうするんだって?魔法も使えずに魔法の研究を出来るわけないだろう。

 

実証を全てエヴァに任せるのは(私達の血液的な意味で)避けるべきだ…アレ、案外癖になるからな。

 

とはいっても、戦闘に使えるレベルでの魔法習得は今の所、優先度は低い。

 

気で強化した肉体で接近戦を戦いつつ、茶々丸用の武装を流用した銃火器or類似の魔法具を用いて射撃戦にも対応、

 

といったスタイルを現状では思い描いている。護身術ならそれで十分だろう。

 

 もののついでと糸術やドール操作術も習っているが…まだまだといったところかな。

 

『求めなさい』

 

そんな思考に割り込むように懐かしい声が浮かぶ。

 

『力を求めなさい、私の娘よ』

 

何の為に…

 

『死なない為に』

 

魔法があったとしてもこんな平和な世界に生きている私が…死なない為に力を付ける必要なんて…

 

『運命は私達に優しくないから』

 

なんだと…そんな言葉、私は知らない…はず…?

 

 

 

不意に世界が光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは今でも時折いざなわれる闇の世界…とは真逆の世界。

 

 ここは光で満ちあふれていた。

 

ここでは私は何かに密着するようにくるまれていた。

 

 ここは濃密なソレで満たされていた。

 

 これは私の体に取り込まれてはめぐり、再び世界へと還っていった。

 

 私にとって始まりとも呼ぶべき声が歌のように響く。

 

 

 

学びなさい

 

理を学びなさい、私の娘よ

 

生き抜く為に

 

それこそは魂に刻まれし定め

 

 

 

 学ぶ事が魂に刻まれた定め…確かにそうかもしれない。

 

 

 

求めなさい

 

力を求めなさい、私の娘よ

 

死なない為に

 

運命は私達に優しくないから

 

 

 

確かに運命は私を一度絶望へ叩き落とした。でも、私はすごく幸せだ。

 

 超と研究ができて、未知の知識…魔法に触れて、エヴァに手ほどきを受け…何より聡美がそばにいてくれて。

 

 

 

楽しみなさい

 

全てを楽しみなさい、私の娘よ

 

成し遂げる為に

 

必要ならば殺戮さえも

 

 

 

 楽しくなければ続かない、とは言うが…殺戮…?

 

 

 

おいでなさい

 

ここにおいでなさい、私の娘よ

 

運命の輪に乗っていつの日か

 

貴方の骸を苗床としたこの樹の元へ

 

 

 

 むくろを苗床…呼びかけられている『私』の骸は『樹』の苗床となった…。

 

つまり…『私』は死んでいる…そう理解した時、急に背筋がゾクっとした。

 

意識が光と同化して行く様な感覚に襲われる。

 

そして刹那か那由多かの区別かつかない時間の後、光が消えてゆく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さ・、千・さん、千雨さん!」

 

気付けば私はもといた世界に帰還してた。

 

「もう、どうしたんですか?世界樹を見つめてかたまっちゃって…」

 

「先ほどの手合せでは頭部にはさほど衝撃はなかったと思うが…大丈夫アルか?」

 

「大丈夫だ、問題ない。ちょっとボーっとしてただけだ。次は超の番でいいんだよな?」

 

大丈夫だとアピールし、超とクーに声をかける。

 

しかし…今の白昼夢(?)は何だったのだろう…あの懐かしい言葉によく似た歌は

 

学ぶ事が『定め』

 

『運命』に抗う力を得よ

 

進むためにあらゆる事を『楽しめ』

 

そしていつか『この樹』へ至れ

 

それが歌の意味…まさか、あの『私』は世界樹の苗床になった、とでも言うのだろうか?

 

…ならば私は世界樹を訪れる事であの声の主に出会える?

 

「(次は私の番…なのだが、技量はともかく身体能力では千雨さんにはかなわないのでそのつもりで手加減を頼むよ。

 

それこそ、さきほどの最後の一撃を受けたら先ほど食べたチンジャオロースを全部吐いてしまうからね)」

 

「(はは、善処するよ。私が望むのはただ強者との戦いのみ…貴方達と闘える事がとても楽しい)」

 

そんな事を考えていると、次は私だと超は上着を脱いでクーに中国語で話しかけ、クーもそれに答える。

 

中国語は完全ではないが大体言っていることは理解できる。

 

今は思考を端に追いやって審判役を務める事にしよう。

 

「じゃあ、次は私が審判を務めようか。」

 

そういって私は二人の間に立つ。

 

「「いつでもいい(アル)ヨ」」

 

二人が構えを取ったのを確認する。

 

「では…始め!」

 

私の時と同じ様にクーが距離を詰め、一撃をはなつ。

 

しかし、超は絶妙なタイミングで軽く打撃を放ち、クーの一撃をそらす。

 

私がやったような反射神経と瞬発力を生かしたカウンターではなく、技量による対応。

 

「(やはり、反撃する余裕はなかった。初見だったなら防げたかどうかも怪しいな。)」

 

「(よく言う、あれだけ正確かつ最低限の打撃で防いでおいて。行くよ!)」

 

クーが連撃を仕掛け、超がそれを防ぐ。しかし、少し超が不利に見える。

 

そして都合30手目…クーの拳が超の腹部に、一瞬遅れて超の裏拳がクーの頭部に入る。

 

「そこまで!」

 

私は試合終了を宣言する。

 

超は腹部をおさえてその場に膝をつく…しかしクーはそのまま、動かない。

 

「…やはり効くネ、私の負けヨ」

 

「いや、違う」

 

え?という空気の中で私はふっと倒れたクーを支える。

 

「(うーん…フラフラする)」

 

クーは明らかに気絶まで行かないが戦闘不能になっている。

 

「と、言う事で、二人とも戦闘不能で引き分けだな。すまん、聡美、店から氷を少し貰ってきてくれ」

 

私がそう宣言すると観客達は一斉に歓声を上げた。

 

 

 




現在の純粋な素手の技量では、クー > 超 > 千雨、武器ありの技量は クー > 千雨 > 超 です。(ただし超は千雨に見せている範囲で)
これは千雨の接近戦闘のスタイルが合気鉄扇術と糸術を組み合わせた物であることにも起因します。
ここに超が千雨とクーの試合を観察していた事による情報補正が入るため、今回のような結果になったとお考えください。
まあ、知力補正や身体能力補正、武器戦闘の場合は相性や射程なんかもかかわってくるので、
野外の遭遇戦形式でガチ戦闘をさせた場合の結果は上記の通りではないです。

たとえば、今回千雨が纏っていた気の出力は本気から比べると微々たるもので、
気の練度は『現在』のクーの本気でも千雨の本気の半分以下です。
なので、有効打を入れた方が勝ちではなくてどっちかが倒れるまで、というルールならば、
気をフルに纏えば一撃で入るダメージの差や強化された身体能力の差でほぼ確実にクーに勝てます。
クーが気を理解し、数日修行すればその差はあっという間に詰められちゃいますがそれはそれです。


歌に関してはこのお話の一番初めに乗せた歌の正しいバージョンです。
この歌はある意味千雨さんの深層心理に刻まれた歌なので行動原理がより先鋭化していきます。

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