例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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11 進路選択編 第3話 還るべき場所で

「…何にも起きねぇなぁ…やっぱ、ただの白昼夢だったのか?」

 

あの試合の直後、私はあの歌を真に受けて、一人で世界樹の根元へと来ていた。

 

見上げるとやはりでかい。

 

「登ってみるか。」

 

特に登ってはいけないとかいう規則は無いので私は勘の命じるままに世界樹に登り始めた。

 

ゴツゴツした幹に手をかけてスイスイ登ってゆき、あっという間に枝葉の生い茂る高さにたどり着く。

 

葉の間から麻帆良の街が見える。

 

「相変わらず絶景だよなぁ……ん?」

 

気配がする…もっと上の方に誰かいる。

 

ふと見上げると人影が見えた…暗くてよく見えないが何者だろうか。

 

途中に難所があるので、一般人が普通に幹を伝ってあの高さまで上がるのは至難の業な筈だが…

 

と、考えていると…向こうもこちらに気付いたようだ。

 

トン、トンと枝から枝に飛び移って降りてくる…

 

「いやあ、すごい樹でござるな、ついつい、天辺まで登ってしまったでござるよ。」

 

私の目の前に降り立ちのんきな声でそういったのは、私が進学した本校女子中等学校の制服を着た少女だった。

 

さっきの動きからすると魔法生徒…だと思ったんだが何か変だ。

 

「そうですね。」

 

適当に相槌をうって様子を見てみる。

 

「いやあ拙者、田舎育ちでござるが地元の山にはこのような巨大な樹はなかったでござるよ。」

 

「そうなんですか?私は小学校から麻帆良なのでもう見慣れてしまいましたよ。」

 

…さっきの動きでわかっちゃいたが、立ち振る舞いに隙がない。

 

実力は…さきほど戦ったクー…の本気くらいには達している、それは確実だ…

 

その先どこまで行っているか、うまく読めない。

 

クーのような武芸者ではなく、マスターや高畑先生のように戦闘者として鍛えてきたのだと思う。

 

先ほどクーとやったような『公衆の面前での試合形式』なら十回やれば1回位は勝てるかもしれないが…

 

『実戦形式』なら勝ち目はなさそうだな。

 

「そういうものでござるか。そういえば自己紹介がまだでござったな。

 

拙者は長瀬 楓と申す。この春から麻帆良学園本校女子中等部に通う事になったでござるよ」

 

長瀬 楓…うん、クラス分け表の同じクラスに名前があった。

 

「私は長谷川 千雨です。私も今年から麻帆良学園本校女子中等部です。

 

それと…長瀬さん、A組ですよね。私もA組なのでよろしくお願いします」

 

クーとザジで想像は付いたけど、外からのびっくり人間もA組に集められてる可能性が高そうだな。

 

「おお、それは奇遇でござるな。これからよろしくお願いするでござる、長谷川殿」

 

そういって私達は握手を交わした。

 

「しかし、長瀬さんはなぜ麻帆良に?」

 

「山奥を出て世の中を知る為でござるよ、何分拙者田舎者ゆえに」

 

「麻帆良も結構閉じた非常識空間なんですけどね」

 

そういって私は自嘲気味に笑う…私もその非常識だ。

 

「そうでござるな。でも、良くも悪くも活気のある楽しい学園だと感じたでござるよ。

 

長谷川殿の立会も見せてもらったでござるよ。いや、三人とも達人レベルでびっくりしたでござる」

 

「見られてましたか。でも、長瀬さんも身のこなしから見て相当の腕前のようですね」

 

にっこりと笑っていう。

 

「いやはや…買いかぶりすぎでござる。拙者あのような無手格闘はそこまで得意ではないでござるゆえに。」

 

先ほどまでと変わらず、のんきそうな表情と声、しかし長瀬さんの言葉からは、

 

『無手格闘では負ける可能性があるがそうでなければ負けない』というニュアンスを読み取れる。

 

「…」

 

「…」

 

しばらく無言で見詰め合う。

 

緊張に耐えきれず、本能的に気を練り気持ちを張り詰めていく…と、同時に長瀬さんの顔から穏やかさが消えてゆく。

 

「…」

 

「…」

 

ひたり…汗が流れるのが分かった。

 

「…」

 

「…」

 

逃げ出したい、でも背中を見せたら確実に殺られる…後ろに跳びつつ初手をかわすか受け流して糸で妨害、瞬動で逃げ切りを狙う…がベターかな

 

そう覚悟を決めた直後、唐突に長瀬さんが笑い出す。

 

「いや、長谷川殿が臨戦態勢を取るものでつい…な?」

 

長瀬さんの雰囲気が元に戻った。

 

「すいません、師匠と対峙している時のような雰囲気だったので…その…つい本能的に」

 

「ふふ、敬語でなくて結構、お互い要修行でござるしな、拙者も長谷川殿に尾行がばれるとは想定外でござった」

 

そういってまた握手を交わした。

 

「私も呼び捨てでいい…千雨でもいいよ、尾行ってまさか長瀬は世界樹前広場からずっと尾行していたのか?」

 

「うむ、ちょうど昼食を食べていた時にあの立会があって、千雨殿に興味を持ったので追ってきてみたのでござる。」

 

「興味?」

 

「うむ、千雨殿は手加減していたでござろ?普通の武芸者であれだけ手加減するくらいなら最初から手合わせを断るでござろう。

 

ならば、千雨殿は『武芸者』として鍛錬を積んだわけではない…と」

 

「あ~手加減したのばれてたか。でも気の練り具合と量はクーに合わせて手加減したけど技量面では手加減しなかったぜ?

 

まあ、気による強化分の差で、本気ならとれた選択肢がとれなくなった場面があったのは事実だけどさ」

 

「しかし、なぜ手加減したのでござる?」

 

「それは…」

 

言葉に詰まる。この反応はおそらく魔法の事を知らない、という事なのであろう。

 

「悪い、長瀬はこの都市の事、どれだけ知ってるか聞いていいか?」

 

「ん~よくは知らぬでござるが…おばば様の旧友が学園の理事をやっている学園都市で…

 

『よそ様』の土地だから勝手をしてはいかん、ときつめに言われている事くらいでござるな」

 

「その『よそ様』については?」

 

「詳しくは聞いておらぬがこの都市の管理人のようなものだとか」

 

明らかに裏の人間とはいえ、魔法を知らないならば、答えはこうなる。

 

「…ならこうとしか言えない。人前で本気でやりすぎるとその『よそ様』に怒られるからだ。

 

ああ、私はその『よそ様』じゃない、そのうちの一部と知り合いではあるけどな」

 

「…ならば仕方ないでござるな。拙者も似たようなものでござる…

 

確かに千雨殿の本気なら…あんな天下の往来で堂々と見せていいレベルではござるまい」

 

うんうん、と納得してもらえたようだ。

 

ブーブー

 

携帯が鳴る

 

「失礼。」

 

長瀬に断りを入れて確認すると聡美からのメールだ。

 

内容は…夕食をかねてA組結成パーティーをする、呼びかけもしないといけないから帰ってきて手伝ってほしい、か。

 

「あ~友達から寮でA組の結成パーティーをするから手伝いに戻って来るように連絡が来ました。

 

長瀬さんもよければ参加しませんか?」

 

「うむ、了解した。寮に戻って同室の双子にも伝えるでござる。手伝いも何かあれば言ってほしいでござる。」

 

「じゃあ、寮に戻るか。…一応聞いとくけど修行のために屋根伝いで走っていくとか言わないよな?」

 

「さすがにしないでござるよ、そんな目立つことしたらいろいろと問題でござる」

 

そういって笑いあい、世界樹から降りる。

 

…私はロープというか束ねた糸を使って降りたぞ、長瀬みたいに枝から枝へ飛び降りるくらいできるけど。

 

しかし…私は何に呼ばれてここに来たんだろうな…世界樹には何もなかったし…いや待てよ?

 

確か麻帆良の地下は過去の遺跡とかで迷宮構造になっているはず…もしかしたらここの下に何かあるのか…

 

「どうしたでござるか?」

 

先に地上についていた長瀬がいった。

 

「いや、大したことじゃない、ただここの地下に何かあるのかもな、と思っただけだ。」

 

「ふむ?」

 

「確か、図書館島を始め、この街の地下には遺跡が埋まっているらしい。

 

だから、ここの地下にも何かあるかもな~って思っただけだよ、こんなにでかい樹の下だしな。

 

ま、管理人なら何か知ってるかもしれないが、そういう情報にアクセスする権限はないんで詳細は不明だし下手に調べられない」

 

「なるほど…まあ、とりあえずは帰るでござるか」

 

私達は寮に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その晩、パーティーで集まった30人の面子を見て頭を抱えたのは言うまでもない。

 

事前に知っていた分を除いても麻帆良でも濃い方の人材が多い事多い事…それを口に出したら朝倉から

 

「千雨ちゃんも相当だけどね~」

 

って言われた。自覚はあるんだからほっといてほしい。

 

 

 

 

 

 




今回は楓さんとの会話回です。

ぶっちゃけ前話と合わせちゃってもいい内容でしたが一応別話という事で。

ちなみに、現状で千雨が楓と戦闘になったら90%千雨の負けです。

残り10%は千雨が逃げ切って引き分け、千雨さん一人では本気の楓には勝てないです。

分身とかで増えた瞬間詰みます。まあ瞬殺されるほど差があるわけではないのですが。

一般人の枠は超えていて、裏でどれくらい通用するかと言うと『学者の護身術なら十分』程度です。

当然これから成長したり、変な術式や戦法や道具を開発したりする・・・はずなのでお楽しみに。

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