例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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110 決戦編 第7話 決着

「わりぃ、今戻った」

万象貫く黒杭の円環に今まさに襲われそうになっていた皆を学園長と西の長と共に救い、私はそう言った。

「お…お父様!!おじいちゃん!!千雨ちゃん!!」

「遅れてすまない、このか…皆、無事で何より!」

「いやはや…まさかこんな大事に巻き込まれとるとは…じゃが…がんばったようじゃな!」

「貴様らは…いや何でもいい!ニィ、少し持たせろ、私は祭壇に結界を施す」

「させるかッ」

「させないッ」

私が初代フェイトに切りかかるのをニィと呼ばれた少女が止める。

さらに学園長と西の長との加勢が入り、割と難なくニィとやらを倒す事には成功したのだが、その間に初代フェイトは目的を達し…始まりの魔法使い達に合流してしまった。

「むう…やられたの…わしらは連中の主力と決戦に行く、儀式の阻止を頼めるかの?長谷川君」

「はい、何とかして見せます、学園長先生」

「うむ、では行くぞ、婿殿」

「はい」

そうして私は二人を見送り、儀式の処理に取り掛かろうとした…のだが。

「おーずいぶん懐かしい奴らがそろったな」

「あ…あ…あんた…なん…で」

そこにはラカンのおっさんがいた。

「さっきのフェイトとネギの戦いにもあんたを見たような気がした!アレも…!?」

「アレは多分坊主の中の理想像さ、俺様とは違う」

「で、でもあんたは確かにフェイトにやられて消えて…」

完全なる世界に消えた…はず

「気合で戻った」

「マジで!?自力で死者蘇生並みの奇跡だぞ!?」

「ま、半分はな、残り半分は姫さんの力…お前達が死ぬ気で時間稼ぎしてくれたおかげだぜ。

呼びかけてくれ、姫さんをこっちに連れ戻せるのはお前達でしかあり得ねぇんだ」

「呼びかけるって…確かにその手も考えたがそれは!」

割と運頼みなのでやめておこうとしたプランなのであるが…

「フフ…まあ俺様…いや、姫さんを信じろ!とぉうっ」

「あっ!ちょ…しゃあない!やるぞ!」

と呼び止める間もなく行ってしまったのでおっさん…いやアスナを信じる事にしてそのプランを主軸に据えて手を練り直していく。

「栞、こっちへ!グッドマン先輩は余波から皆を守ってくれ!」

そう叫ぶと私は栞とやり取りをしつつ状況と術式を把握していく…

「くっ…あの初代フェイトの仕業か…アスナの解放は外側からはどーにもならん…術式の方も調とやらが健在なら何とか間に合ったろうが…完全掌握には時間がかかるな…何とか遅延はできん事もないけれども…間に合わん、掌握・反転前に時間切れだ…結局おっさんの言う通りアスナを呼び戻すしかねぇ」

そして、その為にこの場で打てる手は二つ…一つは皆でアスナに呼び掛ける事、もう一つは私がアスナを直接叩き起こす事…どちらにせよ、私のアーティファクト、力の王笏と『最後の鍵』を接続し、そこから皆の意志をアスナに伝えるかこの場に満ちる魔力に物を言わせて無理矢理電子精霊のようなものになり果てた私が直接アスナにダイブして叩き起こすか…である。

「千雨ちゃん!時間が!」

「わかってる!…確かにネックは時間だな…よし」

私は意を決して、前者の皆でやる方を作戦案として採用した…電子精霊のような存在から元に戻れない、と言うのもあるが、何より儀式の遅延と自己の変貌の術式編みを同時に行う必要があり、少しでも手間取ればそこでアウト、と言う事もある。であるならば絆の力を信じてみた方がまだアリかと思えたのだ…面子的にちと弱いが。

「聞いてくれ、みんな!!アスナを助け出すのが変わらずゴールだ!けどその為には皆の力が必要だ!!今からみんなで『神楽坂明日菜』に呼び掛ける!いいな?私達の声がアイツに届けば…あのバカならきっと答えてくれるハズだ!!」

「黄昏の姫御子は今、完全に儀式に埋没、同調しています。唯一の望みは姫御子の表層人格である明日菜さん…フェイト様の言うとおり、姫御子の100年の記憶に比べれば明日菜さんの数年の人生など仮初めにすぎないのでしょうが…」

「ひゃく…って」

少し引いた様子の美空を見て皆を鼓舞する意味も込め、短くぶち上げる。

「100年とか知るか!!それが事実だろうが何だろうが私達にとっちゃあいつは3-Aのクラスメイト神楽坂明日菜だ!!だろ!?

ちょいアホでガサツでいっつも委員長と喧嘩してウザいしハタ迷惑だが自分を曲げねぇとこと底抜けに前向きなとこは割と評価できる…大切なクラスメイトだ!

アイツをきっちり現実に呼び戻して私達も麻帆良に帰る!もちろんネギも連れて皆全員完全無事にだ!いいな?皆の力を貸してくれ!!」

「「「「「うんっ」」」」」

「「「「「はいっ」」」」」

演説の後、皆で手をつなぎ、力の王笏と最後の鍵を経由してアスナの表層意識に接続する。

「私のアーティファクトを『最後の鍵』に接続してある、みんな手を繋いで…あいつに呼びかけてくれ!」

「へへまさか千雨の姐さんがこの手の作戦の音頭を取るたぁな」

「はっ…私だってできる事ならあっちで戦ってた方が気が楽さね!だがやるしかねぇならやる、それだけだ!じゃあみんな頼む!」

と、言って並行して続けていた儀式遅延の為の妨害を止めて意識を集中する…このプランの難点は私経由で皆の意志を届ける為にアスナに呼びかける以外、私が何もできなくなる事である。

皆の思いが流れ込み、私を通り抜けて力の王笏、最後の鍵、アスナへと流れていく。

「どうだ?」

「ダメだ、反応薄い!表層人格覚醒率35%!足りねぇ!」

「それだけどさーぶっちゃけこの面子、弱くない?アスナの友達的に!そこんとこどう?」

考えたくなかったところを美空が突いてくる。

「うぐっ…そっそれは…」

「確かにこの中でアスナの姐さんとがっつり仲いいのはこのか姉さんくらいではあるが…あと強いて言えば、姉弟子で修行で扱き倒してた千雨の姐さんくらい…」

アスナはさっきの戦いで二人を守り、ネギにも力を貸していたように思えた…神楽坂明日菜はあそこにいる筈なのだ、ダメか?ダメなのか?アスナ…私達だけじゃダメなのか…!?

「千雨ちゃん安心しぃ、大丈夫や。アスナは必ず戻ってくるて、ウチにはわかるんや」

「けっけど…」

私の肩で弱音を吐くカモ…私も同じ気持ちになりかける。

「遅れてゴメン、千雨ちゃん!アスナを連れ戻すんだね!任せて」

「微力ながらお手伝いを」

そこには楓、ユエ、朝倉、まき絵がいた。

「お前ら!」

「無事だったか!!」

「皆がんばったようだな」

「お…マ…真名!刹那!」

と、刹那と真名までやってくる…刹那の参戦は大きいな。

「せっちゃん!!!」

「おおおおお刹那姉さん、アスナの姐さんの大・親・友のあんたがいれば百人力だぜっ!」

「だッ?だだだ…ししし親友なんてそんな」

「これであの委員長でもいてくれりゃ完璧なんだけどな」

「そりゃさすがに虫が良すぎるってもんじゃねぇか?」

そう、カモと軽口を飛ばす余裕さえ出てきた。

「いえ」

「へ?」

そこに思いがけない気配が現れる…ポヨ…いや、ザジである。

「どうも…」

「ザジか…?」

「お連れしました」

というと空中に魔法陣が現れ、そこから委員長たちが降ってくる。

「ここは…?」

「あたー」

「ほえぇ?」

「って何コレーっ!?」

「かいじゅー!?」

…うるさいのと一緒に。

「これは…」

「ちょ…ザジお前ッ…?こんなトコにあいつらまで連れてくるとかマズイだろっ」

「私が守ります、皆の力が必要でしょう?」

「ぬぐっ」

そう言われるとどうもこうもない。

「ネギ先生!?ちちち千雨さんっ!ネギ先生はどこにどうしてネギ先生ッ、ネギ先生はネギ先生ッ」

「落ち着けいいんちょーっ、落ち着け、いいんちょ、先生は無事…まあ無事とは言い難いかもしれん…が」

「いいがたい!?」

「まあ…多分大丈夫だ、アレでくたばる程やわな鍛え方はしていない」

「た…ぶ…ん…」

「そんな事よりアスナだ、いいんちょ!」

「アスナさんが!?アスナさんがどうしたっていうんですの」

「ぐ…あー…っ説明メンドくせーっ」

と、思わずぼやく。

「大丈夫、ザックリ解説しといたからアスナを助けなきゃいけないのは皆承知してるよん」

「ハルナ!」

「…アスナさんに呼びかけるんですね?」

「さつき!」

「私達も戻りましたよー」

「聡美!茶々丸!」

…正直二人には万一に備えて麻帆良にいて欲しかったのだが言っても仕方あるまい。二人も白き翼の面子と言う意味ではアスナとの縁もある。

「オイオイ、クラスの奴ら全員集まっちまうんじゃねぇか」

「…ああ」

まー刹那と委員長の参戦だけでも勝算は十分なのでとっとと試したいのだが。

「よし…行くぞっ」

再び手を繋ぎ、想いをアスナに送る…皆の…強い想いが私を駆け抜けてアスナへと送られてゆくそして…

「来たっ180%!!!行けるぞ!みんな続けて呼びかけてくれ!」

あっちの決戦もエヴァの呪文で終わり、これでアスナが目覚めればハッピーエンドである…という所で始まりの魔法使いが現れる。

「見事な呪文だ、我が娘よ」

そこへ殺到する学園長たち…しかしそれは一蹴されてネギが捕まった。

「ぼーや!!」

エヴァの叫び…

「ネギッ!!」

それに呼応するように目覚めたアスナが目覚めて始まりの魔法使いの腕をぶった切る。

「ア…アスナさんッ」

「うんっ」

「アスナ!」

「アスナッ」

「アスナさん」

「アスナ~」

「アスナさん…」

「姐さん…!」

と、皆が口々にアスナの名を呼ぶ。

「…へっ」

「良かったですねー」

「アスナさん!」

「ネギ!」

やっている下でアスナとネギも感動の再会である。

で、ネギを抱きしめてそれからわちゃわちゃやり始めた。

「神楽坂明日菜、イチャイチャもいいが後ろヤバイからな」

と、エヴァの言葉にネギとアスナが振り返るとそこには始まりの魔法使いがやば気な魔法陣を展開していた。案の定、そこからは暗黒ビーム的な攻撃が繰り出され、それをアスナが受け止め、かき消す。

「おほほ、アレを止めたぜ」

「ふん、当然だ」

「ネギッ終わらせるわよ」

「…はい!!!」

と、ネギとアスナは初めての共同作業…ケーキ入刀かと言わんばかりの体勢で始まりの魔法使いをぶった切った。

そして…一瞬だが始まりの魔法使いの顔…ナギ・スプリングフィールドの顔が見える。

「…ネギ、俺を殺しに来い、それですべてが終わる…待ってるぜ」

「父…」

ネギの呼びかけむなしく、始まりの魔法使いは花弁となって消えていった。

余韻に浸る間もなくネギは己の顔をパンパンと叩くと口を開く。

「アスナさん、それよりも今はやることが!!」

「大丈夫、止めてあるから。あとはもとに戻すだけ」

そう、アスナが答えた。

「え…」

「まずは今回のコトで消されちゃった人を向こうから取り戻さないとね。えーと、計12万8607人…うん、大丈夫。

えぐられちゃった地表や建造物は戻せないけど…それは仕方ないよね」

「アスナさん、ぜ、全部把握しているんですか?」

「うん、まー何て言っても…私は正真正銘、魔法の国の伝説のお姫様なんだからね」

それから…アスナの頑張りで失われた人々と動植物達が復活し…各地で感動の再会が行われ…一度オスティアへと戻った私たちは夜通し戦勝記念のドンチャン騒ぎを繰り広げるのであった。

 

 

 

 

 


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