「そうそう、千雨、ついでだ、お前にも稽古をつけてやろう…せっかくギャラリーもそろっている事だしな」
従者人形に持って来させた着替えを着たマスターはそう口を開いた。
「おっ、チサメ嬢ちゃんもやるのか?これはいい肴ができるぜ」
そうおっさんが楽しそうに茶々を入れる…いつの間にかその手に持った杯に従者人形に酒を注がれながら。
「いや、まあそれは嬉しいけれども、大丈夫か?マスター。負傷はともかく魔力は割と消耗しているんじゃ…」
「フン、あの程度の消耗、貴様の相手をできなくなるほどではない!さあ、準備をしろ!」
…と言う事で私とマスターは身支度を整えてネギの時と同じように湖面上で正対した。
「それではーお二人とも準備はよろしいですかー」
聡美がメガホンを使ってこちらに呼びかけてくる。
「私は良いぞー」
アデアットした力の王笏を構えた私はそう答えた。
「私もだ…いいのか?事前装填しておかなくて…と言うか力の王笏って貴様、ふざけているのか?術式兵装を使うかはともかく、私はソコソコ本気でやる。木乃香もおらんし、死んでも知らんぞ?」
ジト目でマスターがそう言った。
「アーうん、ふざけてはいないです、一応実戦形式のほうが良いかなと思って。でもそういうならばお言葉に甘えます…一応、ふざけていない事の証明に…ロード・セプテット アベアット」
私はそう答えると電子精霊達を装填した後に力の王笏を仕舞い、マスターに勧められた通りに上位精霊を招来して電子精霊1、雷2、闇2、風2で事前装填をした。
「…旅行前よりまがまがしくなりおって…ぼーやの単装填よりは単純出力有るだろう、ソレ」
「ええ、一応ラカンのおっさんとやり合える程度にはドーピングできていますよ、結局は負けましたが」
そしてまだ設計図を引けていないが、マギア・エレベアの研究成果をシグヌム・エレベアにフィードバックすればもっとすごくなる…予定だ。
「ウム…そうだったな、ではみせてもらおうか、お前の魔法世界旅行の成果を!」
「ではーお二人とも準備はよろしいようですのでー行きますよーはじめっ」
聡美の合図の直後、マスターの爪が私の首を襲い、それを鉄扇で受けて勢いのまま吹き飛ぶ。
「初手で首狙い…しかも咸卦の呪法までの強化だと首とびかねなかったですよ!?」
「フフ…これでこそ、貴様の大好きな命がけの試練…だろう!」
「ハハ…違い…ないっ!」
そんなやり取りをしながら、次々と繰り出される致命の攻撃をさばき、舞う。
そうこうしていると体が温まって来て糸で仕掛けを施し始める余裕も出てくる。
「ほう…糸の魔法陣…実用化したのか」
「ええ…割と…便利ですよッ!」
糸術の師たるマスターにはさすがにばれる様ではあるが、特に干渉してくる様子もないので続行である。
次第にやり取りに中級以下の魔法が混じるようになり、魔法の射手が飛び交い、マスターの氷瀑と私の白き雷が互いを狙い、断罪の剣同士で鍔迫り合う。
…ちなみに、上級以上の魔法を使わないのは弾幕状にしないと無駄弾になるのがわかりきっているからである。まあ、マスターに術式兵装・氷の女王を使われれば私も迎撃に上級魔法を使わざるを得なくなるのだが、呪血紋の補助を使ってでも。
「これは中々見物ですね」
「おう、中々だろう?チサメ嬢ちゃんは。逃げに徹されれば俺達でも捕捉しきれるかどうか、って所だぜ」
「さすがですね、千雨さんは…僕の雷天双壮でも雷速瞬動の特殊効果が無ければ負けてしまうかもですね…僕も頑張らないと」
「術式兵装だっけ?アレ無しとはいえほぼ本気のエヴァちゃんとタメ張れちゃうんだ…」
「ええ…半年前はまだ私の方が強いくらいだったのに闇の呪法を身に着けて一気に強くなって…私も精進せねば」
「いやー長谷川君にも抜かれちゃっているねーアレは…」
「…咸卦法と闇の魔法の混合物らしいですね、アレ…よくもまあ、あの若さで」
「ムフーすごいでしょう、千雨さんはー今研究中の成果が出ればもっと強くなりますよーちょっと負荷が心配ですが」
観客席ではそんな会話が繰り広げられていたとか。
「あははははは、楽しいぞ、千雨!その年でよくぞここまで練り上げた!貴様は既に中ボスどころか物語一つのラスボスにふさわしい!」
「それは、何より、ですよ!マスター!さしずめ、貴女は裏ボス…ですかっ」
「フフ、千雨、貴様も楽しいか、笑みが浮かんでいるぞ?」
魔法を打ち合い、断罪の剣をぶつけ合い、軽口をたたき合う…ああ楽しい、楽しくてしかたがない…一応は本気のマスター相手に…エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル相手に踊れているっ!
そんなやり取りを重ねつつ踊っていると糸術の魔法陣が仕上がった。
「なかなかの記述スピードだな、千雨…私もギアを上げねばワンキルくらい喰らいそうだ」
そう言って跳び回るスピードを上げたマスターを追い込む様に魔法の射手の雨に加え、白き雷、さらに雷の投擲を混ぜて連打、エヴァの進路をふさいで…次第に追い込んでいく…とはいえ、まだエヴァは余裕がある様子である…ので、強引な手で弾幕を突破される前に切り札をさらす事にする。
「いけっ」
私の号令と同時に魔法陣の真下に雷属性の魔力塊が出現し、ネギ達の試合を含めてこの場に散々まき散らされた魔力の残滓を吸収して膨れ上がり、無数の雷の槍が召喚され、弾幕で進路を制限されているエヴァに殺到した。
更に止めと断罪の剣で追撃に入る…が断罪の剣での追撃はエヴァの断罪の剣で受け止められ、エヴァは吹き飛んでいく。
「雷属性の詠唱補助と消費魔力低減以外にもこんなものを仕込んであったか…なかなかやるではないか…想像以上だ、称賛に値する!貴様にもコレを使ってやろう!」
…エヴァはそう叫ぶと腹に刺さっていた雷の槍を引っこ抜き、千年氷河を解放して取り込み、氷の女王モードと化した。その隙に、私も一応は悪あがきだと電子精霊の取り込みを解除して千の雷を取り込んだ…勝ちを狙うだけなら雷の投擲でめった刺しを狙うべきなのだが、まあ私だって楽しみたいのである。
「えーエヴァさん、今の傷って結構深くなかったですかー?まだやるんです?」
…聡美からそんなツッコミが入る…というか、さらっと回復したが今の傷はエヴァが高位の吸血鬼でなければ訓練という意味では終わりの傷である。
「…まあいいじゃないか、ハカセ、ほら千雨もやる気だしな?な!」
そして、エヴァの言い訳はこう…拙いものであった。
「そうだな、中々いいのが入っていたな。あのタイミングで追撃喰らってたら割とヤバかったんじゃね?」
そう言って、おっさんが笑いながら盃を煽る…が折角、興も乗ってきたので中止というのもつまらない。
「私からも頼むよ、聡美。さっきネギだってキレイに吹っ飛ばされてから正式に試合開始だったしな?」
「むぅ…千雨さんの大怪我フラグのよーな気がするんですがぁーまあ千雨さんがそうおっしゃるならばー試合続行という事でー千雨さんはまだ不死者ではない事に双方留意してくださいねー?」
「おう!」
「うむ!」
という事で試合続行である。魔法陣の補助を受けた私と氷圏支配の効果を得たエヴァの弾幕を張り合いながらの機動戦…今度は上級魔法も交えて色々と酷い光景である。
ただ、スペック差で誤魔化していた技術と経験の差を、エヴァも闇の魔法を使用することでむしろひっくり返されると防戦一方ではあるが、まあこーいう戦いというか試練にはなれている…というか、夏休み前のいつものエヴァの指導である。違うのは、エヴァが私を殺す気はないとはいえ、ほぼ本気であるという事である。
雨の如く降り注ぐ魔法の射手や氷槍、空間制圧の氷瀑、直撃したら一発で大怪我間違いなしの闇の吹雪の複数行使…まあ、勝機は見えないにせよ、そんな弾幕を掻い潜りながら、こちらもお返しと魔法の射手と白き雷の連打に時折、雷の暴風も織り交ぜエヴァに決定打を打たれないように牽制をし、時折軌道が交錯して断罪の剣をぶつけ合う。
「…闇の呪紋の強化無しとはいえ、あの時、よく一蹴できましたね…私」
「千雨さんの本領は生存性と機動力なので…僕を助けようと無理に攻勢に回ったのもあると思いますよ?」
「いやーやっぱチサメ嬢ちゃん、つええわ。やっぱ防戦というか逃亡に回られたら俺達でも厳しいぜ、アレは」
「そうですねぇ…学園祭の時と比べて本当に強くなっていますねぇ…分身ではもう勝てませんよ、アレは」
「まあ、その分、耐久力は紙装甲とは言いませんが、あのレベルにしては特に優れているわけではないのでーあの弾幕にからめとられたら追加障壁かー緊急障壁を張らなければ大怪我確定なのでー見ていて非常に心配ですー」
「えっ、千雨ちゃんそんな危ない橋を渡っているの?」
「はいー闇の吹雪一発程度でしたら障壁と合わせてよゆーで耐えられるとは思いますがーあの状況で足を止めたらエヴァさんが複数発の闇の吹雪を指向させるのは間違いないかとー」
「…エヴァンジェリンさんならやりかねない…というか絶対しますね」
まあ、そんな感想が出る様な綱渡りである、実際の所。
「フフ、いいぞ、千雨。さらに上手く避けるようになった…が、それでは勝てんぞ。結末が決まっている試合をこのままお前がミスをするまで続けてもよいが…まあ私はいじめっ子なのでな、こうしよう」
エヴァはそういうと私が維持している魔法陣に対して弾幕の一部を飛ばし、また糸で干渉を始めた。
「…まあそうできるし、そうするよなぁ…マスターなら」
結果、魔法陣がほぼ意味をなさないモノへとなり果てる…まあ、再構築の妨害に弾幕の一部が飛んで行っている分、無意味ではないのではあるが…こちらの反撃が弱まることを計算に入れればマイナスである。
「うむ、で、どうする、千雨?まだまだ足掻いて見せろよ?」
こうなると闇呪紋のオーバードライブしか手は思いつかないのだけれども…
「ダメですよー千雨さん」
と、その思考を読み切った聡美から待ったが入る。
「む、まだ手があるなら出し尽くせ、千雨」
「イヤ…さすがにシグヌム・エレベアのオーバードライブは試合でやる事ではないでしょう?」
制御しきれている間は、エヴァに優勢を保てる可能性があるにせよ、基本、時限爆弾化である。
「はぁ!?そんなもん仕込んでいるのか、お前…それはさすがに許してやろうか…ではじわじわと追いつめてやるとしよう、精々長持ちしてくれよ?」
…そうしてじわじわと追いつめられていった私は呪血紋も交えて抵抗こそして見せるものの…
「そろそろ詰みだな?千雨?」
「その…よう…ですねっ!」
決定打になりかけた集中砲火を、回避ルートをふさぐ魔法の射手の弾幕を切り裂き、障壁も使って何とか最小限の被害でやり過ごす、が。
「捉えたっ!」
そのわずかに機動が単調にならざるを得なかった隙に今度は闇の吹雪の集中砲火である…いよいよダメだな、これは。
「千の雷!」
かなり悪手ではあるが、他に手もないので取り込んでいた千の雷を放出して闇の吹雪を相殺し終わりになるのだけは防いだ…とはいえ。
「これで終わりだ!」
とのエヴァの掛け声とともに発射される氷槍の雨…ダメだこれは。
「くっ!」
足を止め、追加展開した魔法障壁で攻撃を軽減する…が、障壁を突破してきた槍が私を襲う。
「緊急障壁!」
身体に仕込んだ緊急障壁迄展開、腹の魔法陣が体内の魔力を吸い上げ、強靭な障壁を張り、辛うじて氷の槍を防ぎ切った…が。
「…参りました」
「うむ」
その間にエヴァは回り込み、私の首筋に断罪の剣を突き付けていた。
「アーやっぱりエヴァには敵わないか」
「フン、当たり前だ。まだまだ負けてはやらん」
ネギとアスナの時の顛末とは異なり、威厳たっぷりにエヴァがそう宣言した。
「千雨さーん、ご無事で何よりですー」
そう言ってタオルを差し出してくれる聡美からタオルを受け取りながら私は答える。
「うん、まあ最後のは緊急障壁迄使う羽目になったけれども何とか無傷で終わらせられたよ」
「いやーぼーず達のと合わせて中々いいもん見せてもらったぜ」
そしていつの間にかリザーブされた軽食を摘まみながら軽く宴会を始めているおっさん達に迎えられた。
「いつの間に…完全に見世物じゃねーか」
「マッチング時には、ジャック・ラカンVSチウ並みの大勝負ですからねーいやあ、実に見ものでしたとも」
「ええ、キティも精進しなければ弟子たちに追い抜かれてしまいかねませんね」
「フンっ…まだまだ抜かれんよ! ぼーやにも、千雨にも、な!」
クーネルの言葉にエヴァはそう答えて従者人形から受け取った杯をあおった。
そして、ダイオラマ球の性質からくる当然の帰結としてこの面々は泊っていく事になるわけで…まあちょっとした宴が開かれる事になった。最初は若干不満そうではあったエヴァではあるが、総督の高級酒や西の長のケーキなどの手土産のおかげか、最終的にはまあ良いかという顔に変わっていた。