5カ月間…100年の眠りにつく仲間と過ごす時間…私達が己に許したモラトリアムとしての5カ月はとても長いようでいてあっという間の事で…そして本当に色々な事があった…その一部を振り返りたい。
・クリスマス事件の裏側で
クリスマス事件…まあ要するに鳴滝姉妹が小動物に化けてお忍びで麻帆良を訪れていたヘラス帝国に属する自治国の王子様を拾い、それがネギ争奪戦と相まっていろいろと酷い事になったというお話なのだが…その裏側というか片隅で私たちはいつも通りの日常を過ごしていた…訳ではなく、イブはクラスのクリスマスパーティーに参加し…ネギラブ勢の争奪戦が主なイベントだったりする。いつものように…そしてクリスマス当日は昼間は二人でデートをして、夕刻からは麻帆良大学部共同主催の舞踏会に参加していた。
「いやーハカセに千雨さん、本当にお二人とも中学生だとは思えませんよ…綺麗ですね」
そう、ロボ研所属の大学院生が私達のドレス姿を褒めてくれた。
「ありがとう、でもあんまり褒めていると彼女さんに怒られますよ」
「アハハ、それもそうですね、ではお二人とも、良いパーティーを…応援していますよ」
そして、そう言葉をかけて去っていった…実は、クラスとロボ研のメンバーには私達の交際を正式に伝えている。そして、秘密にしているわけではないが、公言もしていないその事実をこの場で二人で踊る事で公式に示そうという事にしたのである…ちなみにこの麻帆良クリスマス舞踏会で1曲目を踊ったペアは自動的に報道部主催の翌年のベストカップル賞にエントリーされるというはた迷惑な習慣の為、1曲目はカップル限定というのが暗黙のルールである、2曲目からはフツーに友人同士でも踊ったりするのではあるが。
ノンアルコールのカクテルと料理を楽しみながら大学・大学院の学生や教職員の知人・友人達と談笑をしていると、ついに第一曲が始まる合図が出た。
「さあ、行きましょうかー千雨さん」
「うん、行こうか、聡美」
私達がダンスホールに進み出ると場が少しざわつく…まーカップルでも割とラブラブな連中と言うか、皆に交際の事実を知らしめたい連中なんかだけが踊るので会場の広さの割に人数が少なく、目立つのである。
「アレは麻帆良の三賢者の二人では…?」
「誰か、ルール教えてあげて!」
「いや、あの二人、一昨年から出席しているしルールは知っている筈…?」
「ああ、そーいう噂もあったし…遂にという奴では」
「…だとしても女同士の交際はともかくこの場で踊るというのはちょっと…」
などという声が上がる。概ね、戸惑いの声であるが一部、肯定と否定の声も上がっている様だ。
「大丈夫ですよ、千雨さん」
「あ…うん、震えていたか?」
「ええ…少しだけ…千雨さん(魔力や気による強化で)耳がいいですから余計な事が聞こえるかもしれませんが…今は私だけを見てください」
「ああ、悪かった…踊ろう、聡美」
「はい、千雨さん」
そうして曲は始まり、私たちはこの日に向けて、忙しい割には時間を割いて練習した成果を会場中に見せつけるのであった。
「いやー素晴らしいダンスでしたよ、葉加瀬さん、長谷川さん」
ダンスが終わり、主に好奇の視線に晒されていた私達にそうドレス姿の報道部員…時々研究関係の特集で取材を申し込んでくる大学部の知人…が声をかけてくる。
「「ありがとうございます」ー」
「お二人のクラスメイトの朝倉から今日のパーティーでちょっとしたネタがあると匂わされてはいましたが…ファーストダンスを踊られたという事は遂に…ですか?」
「ハイ…私達、正式にお付き合いする事となりました」
「それはおめでとうございます!ぜひ取材をさせて頂けませんか?」
「プライベートな事なので…簡単で良ければ」
「ええ、もちろんお話頂ける範囲でかまいませんとも、ではこちらに」
そう言って報道部が確保してある控室の一つに私たちは通され、取材を受ける事になった…なお、コレは朝倉経由で仕込んだ仕込みである。
そして翌日、比較的好意的な記事が校内新聞のゴシップ欄に掲載され…私達の交際が公の事実となると共に学園内の同性カップル達に勇気を与えたとか何とか。
・二月二日に
二月二日、それは私の誕生日である…実際はダイオラマ球の使用や魔法世界旅行などで体感歴は狂いまくりなのであるがまあ、一応法的には誕生日である。フツーにクラスの連中にも祝われたが、ダイオラマ球内で聡美と二人きりで過ごした追加の一日に焦点を当てる。
…とはいえ『いつもの私達』で、温泉施設や従者人形のエステなどを堪能し、聡美が茶々丸や従者人形達に頼んで手配してくれたいつもとは比べ物にならないディナーを食べたものの主に研究三昧な一日であった…夜を除けば。
「では、よろしくお願いしますー」
「うん…よろしく…聡美」
私達はそう言葉を交わして一糸まとわぬ姿…比喩表現である、実際は糸の呪紋で二人ともびっしりと糸を纏っている…で体を重ねた…物理的に。
ベッドの下と私達の身体には本契約用の魔法陣が描かれており、体の魔法陣同士を重ねたのである。
本契約にはいくつかの方法があるのではあるが、聡美と協議を行った結果、まあ古式ゆかしい方法で行う事になった…一応魔法契約なので純潔の定義的には大丈夫らしいので…
「あっ…千雨さん…」
「うん…聡美…」
時々ただのキスでは足りない時にする魔力供給付きのキスの何倍もの快楽が私達の間に訪れる…その快楽に溺れながら、私たちは夜明けまで過ごし…私たちは正式な魔法使いのパートナーとなった。なお、ごくフツーにネギと私の仮契約は継続中であるし、力の王笏も便利であるから(もっと簡単でエロくない方法で)いつか本契約するかもという話になって聡美の希望に基づいてやらかした案件である。
・バレンタインの一時
バレンタイン…まあそんなイベントにネギラブ勢がおとなしくしているわけもなく、非常に愉快な事になった…が焦点はそこではなく、私達の行動に当てる。
私達は毎年、クラスでの交換用にはチョコチップ入りカップケーキを、大学の研究室には関係する各研究室に共同で1ホールずつデコレーションなしのチョコレートケーキを作って差し入れている。そして今年はブルーマーズ計画の情報交換会にもチョコレートケーキを差し入れた…そのお茶会での事。
「いやー相変わらずモテモテやなぁ、ネギは」
「そうだね、まああのバカ騒ぎもネギ君の息抜きにもなっているようだし、まあいいよ、そちらにうつつを抜かさなければね」
「もー二人だって結構貰っていたじゃない、チョコレート」
情報交換が始まる前の冒頭、男性陣がそんな会話を交わしていた。
「皆さま、もうチョコは十分とおっしゃるかもしれませんが、本日の1杯目はホットチョコレート、私からのバレンタインです…ネギ先生には二つ目になりますが」
と、茶々丸が全員にホットチョコレートを差し出した。
「ありがとうございます、茶々丸さん」
「サンキューな、茶々丸姉ちゃん」
「ありがとう…貰っておくよ」
そして、談笑をしながらホットチョコレートを飲み終わった頃、茶々丸が二杯目を手配すると同時に私達が差し入れたケーキを持ってやってきた。
「私と聡美から共同でチョコレートケーキな、まあ割と甘いがこれから頭を使う事だしかまわんだろう」
「どうぞー研究室に配ったのと違ってデコレーションもしたんですよー」
「ありがとうございます、千雨さん、ハカセさん」
「サンキューな、千雨姉ちゃん、ハカセ姉ちゃん」
「ありがとう…長谷川千雨、葉加瀬聡美…二杯目は珈琲…だね?」
「はい、いつも通り紅茶と緑茶と珈琲をご用意しました」
そんな感じで私達のバレンタインは平和に過ぎていった…この後、聡美と二人で学食のバレンタインデービュッフェに行くのであるがそれはそれ…特に何もなかったとは言っておく。
・進化する闇呪紋
「…完成しちゃいましたね」
「うん…また心配かけてすまんな…」
「いえ、もう慣れました…これくらいであれば」
夏休み以降、ブルーマーズ計画や趣味の研究と合わせて行っていた闇の魔法系列の研究の結果…私達は遂にシグヌム・エレベアの大規模アップデートに成功した…とは言っても出力面での限界が飛躍的に上がったわけではなく、(現在の技能レベルと研究レベルでは)3重奏を上限とし、それでいて従来のシグヌム・エレベア9重奏と同程度の出力を出せるように改造したのである。
ぶっちゃけ、実戦では9重奏とかやってられん…という本音がある。なお、マギア・エレベアの習得を前提とした従来とは別物の魔法陣…マギア・エレベアの模倣からマギア・エレベアの制御補助にフェイズは移行しているが言ってはいけない、一応、特殊効果をほぼオミットする代わりに侵食強度を大幅に低減はしている。言い換えれば、千の雷クラスの魔法を3つ装填すれば単純出力ではネギの雷天大壮比300%、雷天双壮比150%である、普段使いでは属性の招来を使うのでそこまでではないし、雷速瞬動だとか魔法無制限行使だとかの類は使えないが。
今後は、この方向で技能レベル・研究レベルを進めて4重奏以降も行える方向に研究を進めると共に本来の咸卦法の習熟(一応、補助なしでも最低限の戦闘出力は出せるようになった、練度的には高畑先生にもアスナにも届かないが)と存在の昇位方面の用意面でも研究を進めていきたく思っている。
ちなみに、聡美の訓練も順調に進んでおり、無詠唱での戦いの歌行使はできるようになっていて、魔法陣の組換えも行っている…まあ、戦闘組と呼ぶのは無理ではあるが多少の自衛と逃避はこなせるくらいまでは育っており、多少は安心できる…が、私は心配性であるので…まあ相変わらずである。
・ハカセ
「ひとまずはお疲れ様…本当にコレでよかったのかい?今ならまだ取り下げられるよ?」
麻帆良大学工学部…麻帆良大学院工学研究科の教員連中を相手に行った発表の後、茶湯教授が私達に問うた。
「いえ、既にお話したとおり、どうしても必要なモノですから」
「そうです、この年で麻帆良外の他分野の研究者達と仕事をするには必要なけじめですよ」
「難儀だねぇ…君達も…ある程度事情は教えてもらったけれどもその年で火星開拓の為の機関の創設メンバーになる必要があるとは…ね」
そう言って茶湯教授は遠い目をして、続けた。
「工学研究科教授会の資格認定さえ通れば君達がこの6年間で出した成果は十二分に博士号に値する…それは僕が保証しよう、論文博士とはいえ、中学生に博士号を出すなんてこの麻帆良においてさえ前代未聞だし…君達にはゆっくり学生生活を楽しんでほしかったけど」
「…高校には進学しますよ?」
「詳しくは聞いていないけれど、学生生活をのんびり楽しむなんて生活をする気はないんだろう?そうでなければ…それこそ裏方仕事ならば学位なんてなくても十分参画できる筈だ…違うかい?」
「それは…」
「でも、いつかそうすると決めていた事です。それが少しだけ早まっただけの事ですから」
言いよどんだ私に聡美がきっぱりと答えてくれた。
「決意は固いみたいだね…じゃあ、ココからは一応書類上は指導教官役をしてきたことになっている僕からの反対という札は切らないでおくとしよう…教授会に行ってくるね」
そう言って教授は私達に微笑みかけ、その場を去っていった。
そうして…私たちは中学生にして博士号を取得…モラトリアムの終わりに備えるのであった。
…アスナとの思い出はさほど多くない。アスナがそれを…特別な日々ではなくいつも通りの日々を望んだからである。また、私に限ってはアスナは修行も別荘を使うほど厳しいものはしないようになっていた為もある…そんなまま、一部の事情を知るもの以外には別れも告げぬまま、別れの時はやってきた。
「もう…よいかな?アスナ」
私達を含めた他の皆との別れの挨拶を済ませ、最後に魔法陣の上で刹那と木乃香と抱き合っていたアスナにテオドラが問う。そんな様子を私と聡美はエヴァや茶々丸と並んで眺めていた。
「いい…?」
「…はい」
「うん…」
「でも…また、また会えるんやろ?」
「まあ…無理だろうな、何しろ目覚めるのは100年後だ」
「じ、じゃあエヴァちゃんはおるんやよね、それに100年後なら…みんなギリギリ会えるかもしれへんよね」
そう、木乃香がすがるように口にする…もう何度も話した、わかり切った結論を。
「忘れるな、この神楽坂明日菜は黄昏の姫御子の代理人格だ、目覚めたら別人だ」
厳密には、アスナの人格が時の摩耗に耐えられなければ、ではあるが耐えられる可能性はとても低い…
「…そういうことだ、まあ…貴様が100年生きられれば同じ顔の誰かには会えるだろうがな」
「姐さん…」
「さあ、時間じゃ」
「…大丈夫だよ、このか。また会える、きっとね」
アスナはいつもの笑顔で無根拠な自信たっぷりにそう言った。
「アスナ…」
「ほ…本当…ですのアスナさん、アスナさん!」
「へへっ」
「アスナさん!」
「アスナ…」
去っていくアスナを思わず刹那と木乃香が追ってしまう。
「ネギ!待っているわよ!マギステル・マギになったアンタが訪ねて来るのを!うん、あんたとみんなならきっと大丈夫!バイバイ、またね!」
「アスナ…アスナぁ…ッ」
そうして、アスナは光の中に消えていった。