季節は移ろい時は過ぎ…と言うにはあまり時間は経過していない、高校二年の夏休み。私達は数多の研究業績を打ち立て、その成果をもっていよいよ軌道エレベータ開発計画は実施段階に入り、火星開拓準備機構は新たに立ち上げられる国際太陽系開発機構の一部として発展的解消する事になった。国際太陽系開発機構の事務局長にはネギが就任し、フェイトは顧問となり、コタローは警備部門の部門長、私は麻帆良に設けられた機構の研究所の一つを預かる所長兼主幹研究員などという立場を貰った。最初は機構全体の研究部門の統括をさせられそうになったのであるが、実働がいいと高校生という立場を盾に断った…のに、結局は管理職である。
なお、聡美は私の下で主席研究員という立場をしている…正直羨ましいが、高校卒業後の人事予定を考えるとそうでもない。高校生じゃなくなったらいいんだね、というフェイトの言により、高校を卒業したら私が機構の研究局局長、聡美が麻帆良研究所所長へと繰り上がる予定(公表済み)だからである…この人事に支障がない様にと現在はネギが研究局局長代理を併任していてかなり忙しそうである。
「以上、短いですが私の挨拶とさせてもらいます。若輩者ではありますが皆様の期待に応えられるように全力を尽くすと共に、研究部門の皆さまの機構と科学への貢献に期待します」
そーいう立場上機構の立ち上げ式典の場で演説をする羽目になり、ネギに続いて短く演説を行い、私はそういう言葉で演説を締めた。そして、こーいう立場にティーンエイジャーがいることにも慣れ始めた面々からの拍手を受ける。まあ、実態としてはネギよりかはましなのだが、ネギはこちら側の世界では大人モードで通しているので青年という感じである為、私よりはマシとみられている。
「長谷川博士、ありがとうございました。それでは次に…」
と式典は続いていく…
「あー疲れた」
「お疲れ様です、千雨さん」
式典、それに続く理事国の首脳を交えての晩餐会などを済ませて帰って来たホテルの部屋で聡美に迎えられる。聡美は式典には主要構成員として会場側に列席はしていたが参加しているだけのモブ役だったし、晩餐会は構成員向けの立食パーティーの方だったのであまり疲れは見えない。
「しかし…遂に始まりましたねー火星開拓準備機構改め国際太陽系開発機構」
「そうだなぁ…あの夏休み前はこんな地位に就くハメになるなんて考えもしていなかったよ」
「そうですねー本来、経歴的には足りていませんがー諸々の事情を考えると仕方ないですよねー」
諸々の事情…ブルーマーズ計画の実質発案者枠という奴である。
「ま、ネギが事務局長はやってくれているから本当の意味での矢面には立たなくて済むけどな…まったく…超のせいだぞ」
「フフ…そうですねー超さんの未来情報が鍵でしたねー案外、超さん千雨さんを巻き込むために未来から来たのではー?」
「発案者じゃなくてもネギからスカウトはされていただろうし、ネギがいつかは思いついていたはずさ、超の事がなくたってな」
「でもーそういう経緯でしたら一研究員以上…受けたとしても主任研究員か主席研究員クラスまででしょう?」
「…そうだな、多分そうなっていたと思う…はぁ…超にはめられたのか?私は」
「そうだと面白いですねー」
とは言え、そこまで細かい情報が残っているとも思えないし、魔法世界が解決策を持っておらずに困っていた事を知らずにラカンのおっさん相手に地雷ふみ抜いたのは私の責任である。
「さて、千雨さんは明日も記者会見場にいないといけないんですから早く休みましょう」
「…そーだな」
そうして、私達は正装を脱ぎ、身支度を整えて就寝するのであった。
疲れた、本当に疲れる記者会見だった…真面目な技術的質問であればいくらでも答えるのであるが、
「長谷川博士の年齢が若すぎるという意見も」
「高校生という立場での要職就任に対して疑問も」
「スプリングフィールド事務局長や雪広あやか嬢とのコネ人事であるという見方が」
…などという類の質問が混じってきたせいである。無論、想定はしていたし、内心一部同意するし、この短期間で上げた業績を盾に乗り切りはしたが、そーいう質問をしつこくされると私としては非常にイライラする…それを隠す術くらいは事前に訓練してありはするが。
「その、千雨さん…マスコミの変な質問はお気になさらず」
「…わかっている…わかっているんだけれども…」
記者会見を終えて緊張を解いた私の様子にネギが気付いてそう声をかけてきた程度には腹を立てていたようである。
「で、あるからして…」
夏休みも明け、高等部の授業中…私は半覚醒状態で力の王笏にダイブし、所長業としての書類決済を行っていた…よろしくはないが、まあ内職という奴である。
「…長谷川君、この文を訳しなさい」
「はい」
そう答えて私は黒板に書かれた英文を日本語に訳して読み上げた。
「よろしい、では…」
この先生、唐突にあててくるので気が抜けない…まあ、意識の半分で授業もきちんと聞いているので急にあてられても問題はないのではあるが…主観としては2画面PCの片方で授業を聞きつつノートを取りながらもう片方の画面で書類仕事をしている感じである。
「千雨ちゃーん、ハカセーこの前の取材の記事なんだけれどこんな感じで仕上がったよ」
昼休み、聡美と昼食をとっていると朝倉が記事の下刷りを持ってやってきた。
「どれどれ…世界に羽ばたく若き麻帆良の賢者達…まあムズ痒いタイトルだな」
「超りんがいた頃は三賢者が定番の呼び名だったんだしこれくらいは、ね?」
「ん…まあいいさ」
と、記事を読み進めていく…そこには夏休みの終わり頃、所長業も何となく慣れてきた頃に私、聡美、ネギの三人で受けたインタビュー記事が書かれていた。
「うん、問題ないと思うぞ」
「そーですねー特に問題ないかとー」
「ん、了解、じゃあ茶々丸に送ってネギ君に確認取って貰ったら掲載できるね」
そう言って朝倉はノートPCを取り出してカタカタとメールを打ち始めた。
「そーいや千雨ちゃん、最近サブノートを弄ってないけれども、どうしたの?」
「いちおー所長業で機密度高い情報も扱うようになったから力の王笏使っているんだよ」
「へー…もしかして今も?」
「おう、メール対応と重要度の低い書類の決裁だけれども今もやっているぞ、電子精霊たちを秘書にして…表向きというか電話対応とか用に茶々丸ダッシュ型を一人秘書に置いているけれどもな…ってそれは知っていたか」
「私もその手…半覚醒状態でのダイブが使えれば仕事効率はいいんですけれどもねー」
「まあ、聡美が所長就任するまでには所長室にも時間加速機能付幻想空間ダイブ型PC用意しとくからそれで我慢してくれ」
現在も自室には力の王笏なしでも加速空間で事務仕事や論文読みができるようにそー言うPCを据え付けているが、私と聡美の分、それぞれを。
「うわぁ…ワーカーホリック…に見えるけれども、自分の研究時間の確保の為だよね?ソレ」
「「もちろん」です」
当然である。なお、機構の科学者に魔法バレした後に同様の動機から加速空間へのダイブ機能付きのPCが流行り、勤務時間の評定に私達幹部や総務部門の人々が頭を抱える羽目になるのは後の話…あ?私?いいんだよ、役員クラスの管理職だから。
魔力の存在の公表…少なくとも、科学界・産業界に対してこれを行う事は決定事項となっていた。なぜならば、私達が作った構造材、魔法的処理または科学的に再現した代替処理…どー考えても魔法使いの数が足りないと言う事になったので頑張った…なしには作れないからである…魔力の存在を前提としなければ無駄にしか思えないというか意図不明の工程を強制して世界中で構造材を量産しなければならない。
しかしそれは魔法その物の公開を意味しないし、現状では意見が一致していないので魔法自体の早期公開は難しいというべきだろう…それはまだいい、私達の科学・魔法統合の基礎研究は魔力の存在さえ認めてしまえば頒布出来るように既に抜粋・編集済みであるからである、車輪の再発明に近しい無駄な研究がなされる可能性があるにせよ。
だが、私の描いた非公開のタイムスケジュールはもっとディープな研究…科学と魔法の融合が10年内に広く実施され始める事を前提としてひかれている。まあ別に魔力の存在を広く認めるだけでも火星緑化は間に合うっちゃあ間に合うのであるがイージーモードにする手があるのにわざわざハードモード…とは言わないがノーマルモードでやる意味が感じられないし、アスナの覚醒時期にもかかわってくる。加えて、軌道エレベータ・宇宙開発に関する研究を主として進めざるを得ない私達が研究しきれない民生分野の研究を推し進める事の利益は莫大である…と言うのが私と聡美の意見であり、ネギは私達の意見に概ね賛同、フェイトはそう言った利益は認めるが各種混乱を危惧して中立、コタローは難しい事はよーわからんが世の中便利になるなら嬉しいわーと一応賛成である。
魔法世界としてはマギステル・マギ勢は大っぴらに魔法を使えるようになればできることが広がるという意見が大勢、一部治安の不安定化を危惧する意見がある程度である。各国魔法協会はというと国ごとの事情もあってバラバラである…が、日本を含めた先進国の魔法協会はおおむね魔法公開に好意的な国が多い。が、本国、メガロメセンブリアでは意見が真っ二つ…両国ともに魔法公開派と秘匿派が1/3ずつに中立派が1/3くらいらしい。その内訳はまあ各派多様性にあふれていて、ぐっちゃぐちゃで酷い事になっている…とネギから聞いた。また、ヘラス帝国は反対派、アリアドネーは賛成派である。
一方、現実世界側の各国政府や財閥は諸々の思惑から魔力の存在肯定だけ行い、十分に期間を置いてから魔法を公開してはという意見が過半を占めており…一般公開はもう少し秘密裏に研究を進めて体制側の優位を確保してからの方が良い、というのが本音ではないかと思われる。
こういった意見を総合し、出た結論は魔法公開については引き続き慎重に検討を進めつつ、魔力の存在を肯定し、広く研究を進めると言った具合になった。
ので、言質だけ取った後、さっそく私達は各国魔法協会、各国首脳部、協力関係にある財閥に原本である科学的魔法解析概論を一方的に配布しチウの部屋のマホネット側で公開、マナの科学と題した抜粋版とそれを基にした計45コマ分の講義・実験動画…ネギと共謀してダイオラマ球を乱用して事前に準備しておいた…を半ば独断専行気味に一般公開した。秘匿技術の公開と称してなされたソレは当然ひどく物議をかもしたし、一部ではジョーク動画だと思われもしたが次第に科学界・産業界には浸透していった。しれっと魔力貯蔵(魔力缶の技術)と構造材製造方法を含めた幾つかの国際特許を出願してあるのは、まあ単なる魔法の解析ではなく、独自技術だし許してほしい、借金を返さにゃならん事だし。
しっかりと基幹技術を抑えている千雨さんとハカセ。真っ当な利益とるだけで借金返済どころか億万長者…で済むのかな?ってレベルです、軌道エレベータ建造分はパテント代とる気はないので技術転用分だけですのでそこまでですが、それでも大儲け確実です。利益は独自研究の研究費と投資(国際太陽系開発機構への参画企業群の株と超包子)に当てられます。
尚、位打ち気味にお偉方になる事になった千雨さん達ですが、割とすんなり順応したりします。
そして、『魔法自体は秘匿しつつも、各種魔法解析由来の技術を実施するために必要な措置をとってよい』と言質を取った千雨さん達は派手な手段に出ました。各国はもっと穏当に時間をかけて広めていくと思っていたらしい。