若干査問的なものはあったが時はさらに流れ、高校卒業を間近に控えたある日、PC内部の幻想空間内で私とネギは二人きりでいた。
「アー嫌だ、研究局局長とかやりたくねー」
「千雨さん、今更そんなことおっしゃらずに…僕と千雨さんのスケジュール的に今日中に引継ぎ済ませないと余計にめんどうくさいですよ」
と、まあ、こーいうシュチュエーションである。
「ったく…一年以上前から決められていた事とはいえ、フェイトの奴め…私をこんな目に遭わせやがって」
「本来、千雨さんとハカセさんには実働部隊で研究に専念して頂きたかったんですが、魔法について熟知している科学系人材が不足しているので…スイマセン」
「わかっているよ、だが、この加速幻想空間とエヴァから借りているダイオラマ球が無かったらスト起こしている所だ」
加速空間のおかげで、事務仕事にかかる時間を圧縮して表向きの研究もできるし、またダイオラマ球のおかげで空いた時間で修行やマギア・エレベア関連の研究ができる…委員長との約束で乱用こそしていないがダイオラマ球で過ごす時間は私の癒しの時間である。
尚、城にあった私達のアトリエは別荘塔に移され、その別荘塔のダイオラマ球を私達はエヴァから借りている。
「しっかし…苦労はしているけれども割と順調と言っていいのかね、計画の方は」
「そうですね、火星の環境調査チームも順調ですし、前期計画の準備も万端…軌道エレベータ計画も順調と言っていいでしょう…問題は始まりの魔法使いの件ですが」
「それがあるなぁ…始まりの魔法使いの存在は討伐迄隠したい所だよなぁ…宇宙艦隊建造とかの理由付けは別途考えなきゃならんけれども」
「やはり千雨さんは始まりの魔法使いの本拠地を小惑星帯と読みますか?」
「ああ、対抗候補としてはな、本命は火星かその衛星だろうけれど…万一、宇宙艦隊が必要となった時にいきなり湧いてはこねぇから早めに用意しておきたいって言うのが正直な所だな」
「一応、連合と帝国双方で応急的な宇宙艦隊は数年内に編成完了予定ですが…本格的な宇宙艦隊建造まではもうしばらく時間が必要かと」
「わかっているよ…さ、現実逃避の世間話はこれくらいにして引き継ぎの続きやるぞ」
「はい、千雨さん」
こうして、私は嫌々ながらも局長職への引継ぎ作業を進めるのであった…普段の勤務地は機構の主要研究所である麻帆良研究所内であるのが救いではある。
「…こんなもんだな」
「了解ですー」
別の日、今度は所長職に関する引継ぎを聡美に行っていた。
「いよいよ私が所長ですかーまあ仕方がない事とはいえ自身の研究の時間が削られるのは困りますよねー」
「そうだな、まあ新型というかアップデートで幻想空間の加速限界上げといたからそれで勘弁してくれ」
「現状、千雨さんの特注品で最大3倍でしたよねー?」
「ああ、3.5倍に伸ばせたよ、まだまだ完全魔法技術の精神取り込み型スクロールの方が加速倍率は高いけれどもあっちは書類処理には向かないからな」
「記憶しか持ち込み・持ち出しできませんからねー思索や理論研究には便利なんですけれどもー」
とは言っても、毎晩のように魔法の理論研究用に使用しているが、精神取り込み型スクロール。
「それよりもー千雨さんは研究時間確保できそうなんですかー?」
「正直、自分で手を動かす時間は加速空間使ってできるシミュレーション・人工知能関係以外は難しいだろうな…特に会議が多い時期は。ダイオラマ球とスクロール使う時間は捻出できるにせよ、予定通りせっかく編成した自分の研究チームも独立させる事になるし…まあ、その代わりに機構の全研究を閲覧・助言できるから精々助言をできる所はどんどんしていくさ」
「でしたらー私のチームと共同で研究しますかぁー?」
「いや、あんまり特定のチームと親しくすると統治上問題があるし止めておくよ…聡美のチームは成果的に大分優遇する事になるだろうから余計にな…人工知能関係で確実に共同研究はするんだからそんな顔するなって」
少しむくれた顔をする聡美に思わずそう付け加えていた。
「うーせっかく同じ職場で働けるのにーあんまり一緒に研究できないなんて拷問ですよー」
「個人的な研究は一緒にするんだから、仕事は別々に成果を上げようぜ、な?」
「はーい…」
そう答える聡美は一応納得はしている様であるがやはり残念そうである。
「と、いう感じでお願いしますね、皆さん、それぞれの道があるでしょうし、飲食部門の実務の方はお料理研究会の方々にお任せしてありますので」
「おう、了解」
「任されましたー」
「了解アル」
と、今度はフランスと中国とトルコに1年ずつ留学する五月から私、聡美、クーへの引継ぎである。
「とはいってもー私達は主に定例幹部会と時々利用しての味確認くらいしかできませんがーみんなで学園祭に屋台を出していたころが懐かしいですー」
「そうだな…まあ、監査関係は任せとけ、後…まほら武道会の運営関係」
「私も精一杯頑張るアル」
飲食関係事業以外殆どの事業を独立させた超包子ではあるが、色々と検討した結果、まほら武道会運営事業は残す事にしたのである。
「結局、この面子で大学進学するのはクーさんだけという事になりましたねー」
「だな、無茶苦茶意外な結末ではあるが」
「そうですね、私は元々高校を卒業したら料理修行に留学する事は決めていましたが」
「でも、ハカセと千雨は実質飛び級?したようなものじゃないアル?」
「まーなー学位という意味では博士号取っているからな…就職先では酷い出世させられているけど」
「出世するのは良い事ではないアルか?」
「世の中、適度というものがありましてねー」
などと、引継ぎ完了後、五月の作ってくれた料理を堪能しつつ歓談するのであった。
「それでは、3-Aの解散パーティーの開会を宣言いたしますわ!」
各々の日程の都合で卒業旅行不参加の面子も割といる為に解散パーティーを実施する事になった。ネギ、茶々丸、美空も呼んで。
「ふふ…コレで6年間のA組ともお別れですね」
卒業旅行不参加の筆頭、アリアドネー留学を決めた夕映が賑やかな皆を眺めて言う。
「そうだね、ユエ…寂しくなるよ」
そう答えるのは意外な事に麻帆良大学工学部への進学を決めたノドカであった…将来は国際太陽系開発機構で技術開発をしたいらしい。その夢がかなった暁には間接的に私の部下になる事だろう。
「ええ、私も寂しいです…ですが魔法について深く学ぶ事も大切ですから」
「がんばろうね、ユエちゃん」
そう口を挟んだのは同じく魔法世界への留学を決めた亜子であった。
「ええ、亜子さん…アリアドネーでもよろしくです」
この二人は、ゲートの都合上、卒業式の日には麻帆良を発つ予定である。
「お招きいただき、ありがとうございます、委員長さん」
「いいえ、こちらこそお忙しい中、御出席いただいてありがとうございます、ネギ先生」
「ネギ先生の息抜きにもなると考えて日程調整させて頂きました」
「いやーほんとありがとうね、委員長、ウルスラの連中お堅いのなんの…本当息が詰まるよ」
という会話をしているネギ、あやか、茶々丸に美空である。
「いやーついにこの面々ともお別れかぁ…まあ本来は3年前に解散していたはずだからそう思えばいい時間だったね」
「せやなーホンマに楽しかったわーなー?せっちゃん」
「ええ、楽しい時間でしたね、このちゃん」
ハルナと木乃香と刹那…なお、木乃香は医学部に、刹那は看護学部にそれぞれ合格している。
将来はメガロメセンブリア発行資格の方であるが、マギステル・マギ資格を取得して活動予定との事である。
「色々とありましたが、このクラスで良かったですねー千雨さん」
「ああ…本当にそうだな」
本当に…本当にこのクラスで良かったと私は思っている。このクラスであったからこそ、今の私はいると言っても過言ではなかろう。
「アーいよいよ私、所長になっちゃうんですねー」
「…言うな、私も明日から局長だとか考えたくない」
がんばって時間を捻出した卒業旅行からも帰り、アトリエ2階に引っ越した私達は同棲生活を始めていた…まあ寮で6年間同室ではあり続けていたのだが。
「研究チームを率いての研究とはまた違ったお仕事ですし…正直不安です」
「そうだな、管理業務とか色々入ってくるからな…私もできる限りはサポートするよ」
「千雨さんだって局長職、大変そうですけど大丈夫なんですかー?」
「…正直、胃は痛いが、何とかして見せるさ」
そう言って、私は聡美を抱き寄せる。
「さ、もう寝よう」
「ハイ…おやすみなさい、千雨さん」
「おやすみ、聡美」
そうして、私達は明日からの更なる重責に不安を覚えながらも眠りにつくのであった。