例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

122 / 129
122 人生編 第4話 政治的闘争と闇の魔法

マナの科学事件と世の中に呼び習わされる魔力の存在肯定とその性質についての情報拡散以降、動画で講師役を務めた私達(私、聡美、ネギ)はマナ科学と呼ばれ始めている学問の第一人者という事になっている。科学と魔法というそれぞれの土台こそあれど、橋をかけたのは私と聡美でネギは天才的理解力によってそれを吸収しきった一番弟子であるから事実ではある。のだが、マナの発見自体は常に断言しているように私達自身の功績ではないのに一部で私達の功績にしようとする動き…一応マナ自体を長年存在が秘匿されていた特殊な力と定義して紹介している…もウザいし、遠慮なくフルパワーで研究できるようにとっとと魔法を解禁したいのであるが政治的な理由がそれを許さない…後の事をガン無視すれば魔力の存在が十分に浸透しきった時点でインターネットで超のやったのと同じ手を打てなくもないのだが、まあやめておく。

という事で、私は実質各国の秘密会議の場として活用されている3か月に一度の理事会の場で機構の理事国の代表と共に魔法公開に向けて政治闘争を繰り広げていた。

「長谷川博士の言い分はもっともだと我が国は考える。即時とは言わないが、習得法はともかく早期に魔法の存在自体は公表すべきではないだろうか」

と、日本代表。私や聡美という天才、雪広コンツェルン、那波重工と言うプロジェクト参画財閥、それに関西呪術協会や関東魔法協会と言う有力な魔法組織を抱える日本としては魔法の早期公開が国益に資すと考えており、国家の中では魔法公開派の最先鋒である。

「我が国としても、制限なしに魔法技術を科学的に研究する事は人類の発展に資すると考えている」

そう続いたのは英国代表…彼らもネギという天才やネギの出身国という事で多めに勧誘された企業群、それに英国連邦各地に点在する魔法校の存在から日本と同程度に積極的である。それにもう少し消極的な感じではあるがアメリカ、ドイツ、アリアドネーなどが続く。

「我々としては、そう言った利点は認めるものの、治安維持上の必要から一般公開前に軍事力・警察力などの対応力育成の為に時間を頂きたいと考えている」

これはロシア、これに中国や新興国や途上国の代表が賛成する…まあいい分としてはもっともであるし、コレも公開自体にはむしろ賛成…国によって異なるが10-30年程度の猶予期間を設けて公開という意見である。では私は誰相手に政治闘争をしているのかというと、残り2名である。

「我々としては火星緑化が安定的に実現される事自体は歓迎したいが、古い盟約やら今までの政治的経緯などを考えると魔法の一般存在公開は慎重にして頂きたい」

とは、メガロメセンブリアの代表…まーメガロメセンブリアは頭の中が鎖国的な思想であるし、本国の政治バランスがぐちゃぐちゃになっていることは聞いている…むしろメガロメセンブリア国内の公開派への援護射撃としてこの議題である。

「魔力の公開で火星緑化は十分に達成できると思われる。魔法の存在や我々の存在を一般に公開する事は不要ではないだろうか」

で、コレはヘラス帝国代表…まーほぼ唯一の完全反対派である…ネギ情報ではヒューマンと亜人の勢力比が完全に圧倒される形になるから公式に2つの世界を繋ぎたくない、というのが主な反対理由の様である。

「皆様の意見はわかりました。そこで提案…と言いますがまずは現状の追認なのですが、よろしいでしょうか」

そう発言したのは議長を務めているネギ。

「まずはマナ科学について、長谷川博士と葉加瀬博士がお送りした『科学的魔法解析概論』を基に各国や魔法協会、各財閥が非公開で研究開発を行う権利の確認をしたいと思いますが反対の方はおられますか?」

場内の皆が沈黙で答える。

「反対なしと認めます。では各国が魔法協会と共同して、あるいは独力で魔法使い並びに魔法学者の増強・育成を行う権利に関してはどうでしょうか?」

これには魔法協会を持たない国家から配慮を求める声が上がった。

「では、国家間でそう言った人材育成の支援…留学や教育支援を認めるという条件を付ければどうでしょうか、無論独自に魔法使いを顧問等として雇う事も認めます。当然秘密裏に、という事になりますが」

今度は反対の声が上がらない。

「反対なしと認めます。では、我々…国際太陽系開発機構に同様の権利…所属研究者を魔法学者として教育し、『科学的魔法解析概論』を基にして研究を行う事、機構所属者に魔法教育等を含めた教育を施し、警備部門を含めた機構全体を魔法対応型に再編成する事に反対の方は?無論、守秘義務は付与します」

こういうやり方をされれば、反対するのは難しく…まあ議場は沈黙で答えた。

「反対なしと認めます。これでよろしいでしょうか、長谷川博士」

そう、ネギが私に話を振る。

「…あと2点、いや3点提案があります。第一に魔法公開については各国に持ち帰って頂き、一般公開の可能性がある物として対応を行う事…つまり仮に一般公開が決定された際には猶予期間決定には本日から一定の準備・検討を行っていたものと認識して行って頂きたい」

「フム…長谷川博士の提案はもっともかと思われますが、各国事情があるかと思いますので次回以降の定例理事会で継続審議という事でよろしいでしょうか」

「お待ちいただきたい、帝国代表としては魔法の一般公開を前提とした議論には慎重になるべきと申し上げたい」

と、ヘラス帝国代表が反対意見を出す。

「慎重論はあれど魔法の一般公開自体は常に提案され続けている事です。長谷川博士の提案は各国にはそう言った議論がある事を念頭に行動して欲しいというものにすぎないと考えますが」

そう援護射撃を飛ばしてくれたのは日本代表である。

「…では、『各国は魔法公開に関する議論が存在する事を常に念頭に置いて行動するべきである』旨を理事会として勧告していただく事は可能でしょうか」

それに乗って若干妥協的な文面を提案する。

「どうでしょうか…特にご意見は…無いようですので決議に移ります…賛成多数と認めます」

決議結果はヘラス帝国が棄権した以外は賛成であった。

「ありがとうございます、では二点目ですが…学会のような物を創設できないでしょうか」

「学会…ですか?」

「ええ、機構の研究成果は参加国全てに公開される事にはなっていますが、逆に各財閥や各国の研究成果を機構や他国に発表する場がないので、現在、魔法協会間で行われている学会や学会誌の様にそう言った場を整えたいのです。無論、発表は任意で行う事とします」

「フム…同盟国間での技術協力や共同研究は当然皆様行っているかとは思いますが…どうでしょうか、私としては重複研究を避け、研究効率を上げる為にも好ましい事かと思いますが。御意見を募ります」

「提案自体は好ましいと考える、だが学会運営を行えるだけの人材が不足しているのではないだろうか」

そんな意見が出て、その後も同様の意見が相次いだ。

「ならば僕が理事長をやろう。ただし、長谷川博士にも理事としてご参加いただくことが条件だ」

顧問席からフェイトがそう発言した。

「…あくまで準備委員会の委員兼理事選挙候補者としてであれば参加に同意します、理事は会員の互選によるべきものと考えますので」

私は、背に腹は代えられないとまた一層と忙しくなる道を選んだ。

「では、そのように…議長、どうだろう」

「ええ、ではその方向で。以上の通り、事務局として学会立ち上げの準備委員会の人事案を作成し、次回理事会の議案としたく思いますが反対の方はおられますか…反対なしと認めます」

「では最後に…特許制度についてご検討をお願いしたい。特許の性質上、本来は広く公開されるモノではありますが公開先を魔法公開の範囲と連動させた特許制度を創設できないモノでしょうか」

「…長谷川博士、それは君の個人的利益追求の為の提案ではないのかね?魔力公開の際に基幹技術を広く抑えたのは聞いているよ」

と、某国代表が言う。

「いいえ、先の学会整備と合わせまして研究内容公開のインセンティブ確保の為です、私自身が個人的研究を出願しないとは申しませんが」

「…であれば、一定期間…数年程度、長谷川博士、葉加瀬博士、スプリングフィールド事務局長、アーウェルンクス顧問の4名の該当制度への出願を禁ずる方向で規制をかけることを提案したい」

「付帯決議としてその様にされたいのであれば、私に関しては同意します」

「僕もそれで構わないよ」

「フム…私は構いませんが…問題は葉加瀬博士ですね。では本件も重要事項という事で各国にお持ち帰りいただき、次回の議題としましょうか。その際、付帯決議に関する議論も行う事にしましょう。葉加瀬博士の意志に関してはそれまでに事務局で確認しておきます…よろしいですね?反対なしと認めます」

「ありがとうございます、私からの提案は以上になります」

「では、次に…」

まだまだ理事会は続く…が、私が積極的に発言するパートはお終いである。

 

 

 

「…遂にここまで来ましたねー」

「ついに来たなぁ…」

力の王笏の中、私達はそう言葉を交わす。ついに、シグヌム・エレベア・トリニタスが進化する時がやってきた…3,4年位前にも大規模改修をやったが今回は完全進化である。

咸卦法を完全に習得し、研鑽を積み続けた私は咸卦法とマギア・エレベアの合成に取り組み、補助呪紋の設計に成功、咸卦法とマギア・エレベアを足せるようになったのだ。

コレで私も不老不死かと言うと、そうとも言えるし、そうとも言えない。効果期間中は一時的な不老不死状態になれるが、初期の再生力は精々ディライトウォーカー…上位吸血鬼クラス、真祖クラスには届かない。完全に馴染んだらネギよりも高位の存在になれるが、素の状態で。そこから咸卦法とマギア・エレベアの強化が同時に乗ってくる。

「あとは実際に刻んで使って馴染ませていくだけですかー」

「そうだな…マギア・エレベア・トリニタスが完全に心身と魂魄になじんだら…めでたく本物の不老不死の化け物だな」

「…で、馴染むというのはネギ先生が『呑まれた』状態を指すわけですね」

「ああ、使えば使うほど馴染んでいくしネギの治療…と称したアレの様に暴走させて早める事もできるな」

「でー大体どれくらいかかるんです?馴染みきるまで」

「出力によるけれども、時々侵食具合に合わせて呪紋を調整しつつ累積使用時間で20-30年位かな…暴走とかしなかったら。もっと短くもできるけれど、これくらい時間をかけた方が確実だな」

尚、補助呪紋にはあらかじめこれだけ時間をかけて馴染ませる為の侵食遅延が組み込まれている。

「使い続けても早くて30代後半ですかー」

「うん、だから一日一時間はダイオラマ球に潜ってマギア・エレベア・トリニタス状態で過ごす」

「あーずるいですー私も研究時間欲しいのにー本契約で老いにくくなっていますしー私もご一緒しますー」

「毎日はさすがに止めておいた方が良いと思うぞ?聡美の方の不老不死化研究、まだ理論段階なんだし…さすがに本契約でも私の魔力程度では老化速度半減までは効果ないぞ」

正直、自身の不老不死化研究が実質終わりを告げた今となっては私がダイオラマ球に潜ってする事は主に修行と聡美の為の不老不死化研究であるので当人がいるのは悪い事ではないのだが…毎日は心配である。

「…でしたら週3時間分…現行プラス1時間で」

「…それくらいならまあ…」

「ではそのようにー早速明日刻み変えですね」

そうして翌日、私はマギア・エレベア・トリニタスの紋を体に刻み、不老不死の扉に手をかけた。

 




 本作では千雨さんというチート人材が魔法公開に向けてその政治力を全力ブッパしてきます。まあ、各国思惑があって表立っては反対しないモノの特に西側諸国は公開を遅らせたい…できるだけ体制側だけの技術としておきたいと思っているし、千雨さんの政治力はさほど大きくないのですが。それよりもネギ君が機構の研究へ関与する必要性が低くなり(しないとは言ってない)、政治力を十全に振るえることが利点。ヘラス帝国?テオ様が帝国内で暗躍中の為、それが進めば反対度合いがトーンダウンしてきます。
 なお、千雨さんの思惑としては、知識人階級に対して魔法知識を広めることで科学界・産業界に対して魔法の秘匿を有名無実化することが今回の狙いでその第一歩として機構の科学者に魔法バレをする正当性が欲しかった。そしてネギ君の発言もほぼ千雨さんと打ち合わせ済みでどーせお前らやっているだろうという体を取りつつ各国に研究開発競争と人材育成競争を煽る為のものでもある。
 闇の魔法の方は、現時点ですでにエヴァンジェリン越えの化け物爆誕ルート(なお、経験と才能の差で確実に勝てるとは言えない模様。委員長との約束?『寿命を削らなくなったからOK』という千雨さん理論。一日一時間ではなく、一日一時間『は』である事に留意。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。