さて、時間は飛ぶが一度止まって2013年4月、夕映は予定通り、多大な努力の結果ではあるが輝かしい軍歴…戦乙女騎士団小隊長経験者…と修士号相当学位を引っ提げて麻帆良に帰還した…本人の才能とネギとのコネを惜しんだアリアドネー上層部の思惑から軍籍を残したままで。そして夕映は麻帆良大学大学院工学研究科博士課程に入学した。先端マナ科学研究室と銘打った魔法バレずみのメンバーで構成されている研究室に魔法研究の専門家として所属、先に所属していたノドカと協同もしつつ研究に励んでいる。
そんな夕映をメンバーに加えての情報交換会で私は長年…アスナが封印された9年前から温めてきたある提案をする事にした…場合によれば私は誰かと道を違えるかもしれないと思いつつも。
「さて…今日は始まりの魔法使い関係で提案があるんだが…ネギ、お前は世界の為に思い出をどこまで踏みにじられる?」
基本的な情報交換を終えた所で私はそんな不穏な事を言い出した。
「千雨…さん?」
ネギが困惑した様子で聞き返してくる所に私は二つの計画書の束を卓上に放った。
「黄昏の姫御子クローン計画に…次代黄昏の御子計画…かい?」
フェイトが計画書のタイトルを読み上げる。
「ああ、まあどっちの計画書の序論にも書いてあるんたが…黄昏の姫御子…アスナが私達の手から失われている現在、その組織的活動の妨害程度はできているが、始まりの魔法使い本体…ヨルダを発見しても完全な討伐は不可能…再封印か誰かが取り込まれる前提での一時討伐しかできない…そうだな?」
「ええ…その通りです。ですから宇宙艦隊の建造と共に封印艦の量産をメガロ・メセンブリアと帝国にお願いしている状況になります」
「だが、私はどうにもこうにも嫌な予感がして仕方がないんだ…共鳴りにせよ、マギア・エレベア実験にせよ…時間をかければ魔力を増大させたり、莫大な魔力をため込んだりする事は容易だ」
「あー言われてみれば」
「といいますと?」
場の反応が二つに分かれた。後者の為に私は説明を行う…コレも計画書に書いてあるのだが。
「マギア・エレベアの本質は私達の研究成果から内的世界に開いた門経由で太陽系の惑星の魔力を吸い上げて運用するスキルだってわかっている。また、共鳴りは全人類との強制共鳴能力でもある…個々人のソレは弱くとも莫大な人数との感情の共鳴は簡単に…魔法世界を創造したほどの天才ならば簡単に…魔力増幅装置としての転用を行えるだろう」
「成程です…確かにそうですね、莫大な魔力供給源があれば魔力貯蔵を考えるだろうというのも自然な発想です…そうなれば封印の難易度も指数関数的に増大する」
そう、夕映が私の言いたかった事をまとめてくれた。
「そこで…念のためこちらも新たに黄昏の姫御子を用意しておきたい…その為のプランだ…人工生殖技術も大分発達してきたしな」
「…タイトルから大分不穏な感じがするのですが、具体的には?」
「具体的には、計画書読んでもらうのが一番なんだが…まあどちらも魔法無効化能力…火星の白を持つ子を誕生させるプランだな…クローン計画はアスナのクローンを作成することで、再誕計画はネギの子の量産…エンテオフュシア王家の血から次代の黄昏の御子の誕生を願って」
「それは…許されるのでしょうか…いえ、それ以前に可能なのでしょうか」
そう、ノドカが言った。少なくともこの時点で誰一人激昂しないのは何よりである…委員長を含めて。
「最新の人工生殖技術は万能細胞技術の応用で非生殖細胞からの精子・卵子作成まで可能にしているし、クローンの方も理論上は人でも可能だ…まあ実施例は動物実験だけれどもな。
倫理面に関しては…正直微妙だ、特にクローン計画は…だから一応言い訳の立つ再誕計画なんてもんを用意した…再誕計画は万一漏洩した場合、外的にはネギがひそかに囲っていたハーレムに子供を産ませたことになる」
「ちょっと、千雨さん!?」
ネギが叫ぶように抗議してくる。
「一応、アスナの血液サンプルと遺伝情報、魔素マッピングは本人の同意を得て取ってある…合間を取ってアスナとネギの子を作るって言うのも理論上可能ではある、実施難易度の問題で時期がずれ込む事にはなるだろうが」
「その…計画についてアスナさんは何と?」
そう、委員長が問う。
「どうしようもなくなったらそういう事するのも仕方がないけれど、ちゃんと一人の人間として愛してあげてね、だそうだ」
「それは…アスナさんらしいですわね」
「で、どうする?あくまでも封印できなかった場合の保険として黄昏の御子を用意する場合や完全討伐を目指す場合のプランだから無理に実施する必要はないが…技術的・環境的に用意はしておきたい」
「実施については…スイマセン、暫く考えさせてください。仮に実施する場合は…雪広コンツェルンにお願いできる話ではないですし、かといって僕達のアトリエで出来る話でもないですし…何かしらの用意は必要ですね」
「ならば、僕の方で会社を興そうか。墓所の主…アマテル殿から必要なら協力すると言われているし、彼女の出資で会社を興して…計画実施の際は実行を担当する」
「了解、フェイト。必要なら私達も出資するから言ってくれ」
そうして、この話は一度お終い…必要に応じてだれか…主にネギが発議する事になった。
さて、それはさておき、年々規模を増していたまほら武道会だが、ついにウルティマホラと統合される事になった…クーが大学を卒業してウルティマホラの出場資格を喪い、クーが出場するまほら武道会の方が麻帆良最強決めるにふさわしい、という風潮が出てきて一時期の春の麻帆良武道会、秋のウルティマホラという二枚看板が現状に合わなくなってきたからである。まあ、秋の学内格闘大会は格闘大会で継続するが、ウルティマホラという看板は降ろすという訳である。その代わり、まほら武道会自体が年2回開催となり、参加制限一切なしの麻帆良祭大会とウルティマホラの看板を掲げた麻帆良市在住(学生含む)を参加資格とする秋大会になったのだが。
そして、その両大会をクーが蹂躙する…ネギと私は出場しないので特に…という構図が繰り広げられるわけだ。が、その状況に危機感を抱いた私達運営委員会は遂に無詠唱魔法の使用を解禁し、かつダブルス部門を創設することを決定した…まあ色々あって魔法バレは例年の記録防止措置と引き換えにOKとなっている。で、春の大会だけでは物足りなくなった魔法世界の猛者や格闘家達が秋大会の出場権を目当てに麻帆良に移住してくるという結果迄招いているし、バトルマニアの間の噂で観客もさらに増えて行っている。
…と言った経緯を受け、麻帆良スタジアムを使用しての大会が毎年二回開かれ、興行収入も中々のモノとなっており…クーのダブルス部門への出場が期待されてきた…クーはふさわしいパートナーが見つからないとシングル部門に出場してきていたからだ。そうして2015年秋大会…遂に夕映をパートナーにクーはダブルス部門への出場を果たし…優勝した。
「優勝おめでとう、クー、夕映。実にいい戦いだった…久しぶりに本気でお前とやりたくなったよ」
「イヤーそれは何よりネ…よければこのあとエキシビションと洒落込むアルカ?」
「くーふぇさん…いくら何でも運営委員長の千雨さんにそれは…」
「かまわないぞ、大会の進行も大分まいていたし…何よりここ数年公式の場でやってないからな、たまにはいいだろう…二対一でやるか?」
「えー一対一でやりたいアル」
「あー私は遠慮しておきます」
「ならクーと私でやろうか」
という訳で、私は急遽表彰台等が片付けられたスタジアムで私はクーと向かい合った。
「さーて、突如始まりましたエキシビション戦、クーフェイ選手と長谷川千雨運営委員長の戦いです。ご存知の方もおられるかとは思いますが、長谷川委員長は中学生時代ウルティマホラで何度も準優勝を果たしており、また現在も公式戦こそ未出場ですが激務の合間を縫って鍛錬を積んでいるという噂です」
そんな司会の台詞を聞き流しながらクーと向かい合う。
「さて、どこまで使うかね…咸卦まで?それとも術式装填までいっとくか?」
「ハッハッハ…本気で、と言ったはずネ…全力装填してかかってくるアル」
「了解した。後悔すんなよ?まあ、今は何も用意してないから詠唱禁止のルール上、属性の招来になるのは勘弁してくれ」
そう答えて私は咸卦の気を身に纏い、雷の招来と風の将来、そして闇の招来を無詠唱行使、魔力球を取り込んだ。
「では…」
「いくアル」
私のバカげたパワーとクーのよく練られた気がぶつかり合い、スタジアムに衝撃波が走る。
「あいやー相変わらず、とんでもないパワーネ、千雨…押し負けてしまったヨ」
「やかましい、コレに気だけで追随してくるお前も頭おかしいからな?ラカンのおっさんか、お前は」
「武人として、ジャック・ラカンは一つの目標ネ。そう例えられるのは嬉しい…よッ」
鉄扇を抜いて再び激突…今度は純粋なスペック勝負にはならず、技量重視の攻防となり、クーに押される場面も出る…まあスペック差で無理に盛り返せる範疇ではあるのだが。
「フフ…ネギ坊主と戦っている様で実に楽しいアル」
「フンッ…スペック上のアイツの優位は雷速瞬動くらい…単純スペックでは今の私の方が強いさ」
尤も、ネギは既にマギア・エレベア完全体と化している事も踏まえた魔力量勝負も含め、再生力等々諸々を勘案すると勝ちきれる、とまでは断言しかねるが。というか多分お互いの再生力を上回るダメージを与えられずに千日手となるが。
「…アレ、本当に厄介アルよねぇ…」
「毎年、正月の対戦では対応しているじゃねえか」
「対応できるのと厄介じゃないのは別問題アル」
何ておしゃべりを交わしながらも戦いは続いている…悔しいが相変わらずクーの純粋格闘技量は私やネギを圧倒する…そろそろエヴァに届いているんじゃないかなとも思うのである…まあそれくらいでないといくらよく練られた気を持つとはいえ、私たちスペックお化けの化け物相手に戦えないわけではあるが。
「さーて…そろそろ体もあったまってきたし、機動打撃戦に移らせてもらう、がんばって着いてこいよ」
そう言うと私は間合いを取り、宙に舞った。
「あーやっぱそうなるアルね」
そうぼやくクーに向けて私はヒットアンドアウェイ戦法で戦いを挑むのであった。
とは言え、時々魔法も投げつけてはいるがクーを倒すには至らない…まあ、ネギの雷速瞬動を生かした乱打戦にもついてこられるのであるから当然である。
「くっ…捉えられんアル」
「それ目的の機動打撃戦だからな」
主目的はクーの反撃を封じる事…ネギの雷天大壮と違ってカウンターに弱いという特性は存在しない、スペック差からそれに賭けるしかないという点は変わっていないにせよ…であるから別に構わないのである。
「別に千日手になる事自体は構わんが、いい加減に捉えんと千雨の糸術魔法陣が完成してしまうアル」
「そうだな、現在進行度9割って所だ」
「あー拙いアルネ。所で今日は何アル?魔法補助?槍の弾雨?雷撃の嵐?それとも自動追尾連弾アル?」
「んー完成してのお楽しみだな…ちなみにお披露目してないだけで他のバリエーションもあるぞ」
「増えているアルか!?まあ良い、耐えて見せるアル!」
といった具合で時間は進み…私の糸魔法陣が完成した。スタジアム解放部付近に展開した魔法陣の直下に雷の魔力球が出現し、そこから一本の雷槍が出現する。
「自動照準砲台の雷槍アルか…千雨本人からの射撃と違って偏差射撃してこないだけまだマシアルね」
「そうだな、あんまり空間魔力濃度が無かったもんでな…まあこれで勘弁してくれや…そらっ、いけっ」
雷槍がクーのいた位置に突き刺さる。このタイプの発射タイミングは私がコントロールしている。
「くっ…足を止めればやられる…しかし運動戦に付き合うのも不利アル…気弾で魔法陣を破壊…する隙を千雨がくれる訳なかったアルネ」
「そうだな。まあ、がんばって足掻いてくれ。その方が興行的にも盛り上がる」
クーとの運動戦…スペックと技量の対戦となるが足を止めれば狙撃されるというプレッシャーがクーのメンタルを削り取っていく。
「あっ」
長い攻防の果て…それは一瞬の事であった。私が放った無詠唱白き雷…開始から意図的に使用してこなかった私からの魔法攻撃はクーに対して精神的奇襲となって直撃し、足を止めた所に雷槍が突き刺さる…だけで止めとなるとは最近のクーの気の練度的にあり得ないのでさらにクーをぶん投げ、断罪の剣を喉元に突き付ける。
「チェックメイト」
「あー負けたアル…と言うか、千雨の常套手段とは言え、この奇襲はズルくないアル?」
「ずるくはないな、今大会のルールで認められた範囲の魔法行使だし…対応されたら以降、魔法マシマシで組み立てていくだけだ」
私はクーのボヤキにそう答えながら手を差し伸べ、クーを起こすのであった。
その後、この優勝者とのエキシビションマッチが恒例と化していくのは後の話である。