例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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13 進路選択編 第5話 分岐する世界

「二人とも、すこし話したい事があるのだが…今晩の都合はよいカナ?」

 

ロボ研の月1の全体ミーティングが終わった後、超が私と聡美にそう声をかけた。

 

「「ん?なんだ(ですか)?」」

 

「すこし、あの条件の事で…ネ。」

 

「…ああ、超さんから初めて来たメールのアレですね。」

 

「あ~あの胡散臭いって思ったあのメールの件か…」

 

「ウム…千雨さんは契約対象ではない・・・できれば、の範囲で協力要請をさせてもらうネ」

 

実は昨日、エヴァから脅しをかけられていて今はそれどころじゃない、

 

とは言えず、話を聞いてみる事にする。

 

「ん…わかった、場所はどこにする?どうせ聞かれたくない話なんだろう?」

 

「私達の部屋でも使います?今日もザジさんはサーカスに泊まりですから」

 

「ならばそうさせてもらってよいカナ。」

 

「ん…今は6時だから…結果の解析は明日続きやるとして…片付けと次の条件設定に…6時30分にロビーでいいか?」

 

「そうですね、私もそれぐらいだと助かります。それから夕食済ませて…部屋で話しましょうか」

 

「いや、先にお風呂も済ませておいた方がいいナ、場合によったら長引いてそういう時間になる可能性もあるヨ」

 

「わかった、それじゃあロビーで」

 

そういって私達はそれぞれのデスクに戻っていった。

 

帰寮途中、最近気に入っている駅前の丼物とウドンソバのチェーン店で夕食を済ませ、

 

入浴等も済ませた私達は私と聡美(とザジ)の部屋にいた。

 

「聡美はいつものやつ(DHA入りのスポーツドリンク)でいいよな、超は何飲む?」

 

「あーなにか冷たいお茶の類がもらえるとうれしいネ」

 

「なら麦茶でいいかな。私は…これにするか」

 

台所から先にコップを6つとペットボトルの水を居間の机に出し、続いて各人の希望の飲み物を冷蔵庫から出す。

 

ちなみに私はオレンジジュースにした。

 

私と聡美が並んで座り、その向かいに超が座る。

 

各自手酌で自分の飲み物を注ぎ、まずは一口飲む。

 

「さて…何から話そうか…そうネ、まずは私の正体から話そうか。

 

私の目的、手伝ってほしい事、どちらを話すに当たっても必要不可欠な内容だから…ネ。

 

いろいろと突っ込みたくなると思うけど、まずは抑えて聞いてほしい」

 

一瞬考えた後、私たちは静かに頷いた。

 

「ありがとう…前に話した事があると思うけど…私の故郷は火星、生まれも育ちも火星の生粋の火星人だ」

 

思わず飛び出そうになった突っ込みの言葉を飲み込み、続きを待つ。

 

「私にとっては昔々、この時代においては未来・・・2008年、つまり今から7年後に太陽系開拓計画が開始された。」

 

超は語る、彼女の『歴史』を

 

軌道エレベータの建造

 

月面基地の設営

 

無人船団による火星のテラフォーミング

 

拠点となる地下都市の建設

 

その都市を拠点とした大規模緑化

 

開放型都市の建設と開拓…

 

そうして火星は人類の新たなゆりかごとなり…

 

人は子を産み、育て…そして死んでいった。

 

「私はそんな火星で、火星人として生まれた。

 

まあ、私についてはこんな所かな。

 

…ああ、千雨さんとハカセがそれぞれどういう立場で何をやって、そして誰とどう結ばれて~といった話は割愛させてもらうよ。

 

話の本質には関係ないし、言ってしまう事でバタフライ効果がそれこそ泣きたくなるくらい発生することは必至だからね」

 

私は苦笑いしながら小さく頷く。

 

正直、一緒に茶々丸を創ってこんな話をしている時点でバタフライ効果とか鼻で笑うくらいの影響を受けていると思うんだけどな。

 

口調が変わっているのは…まあこっちが素なのか真面目モードなんだろう。

 

「まあ、お前の辿った歴史は大体わかった。

 

どうせその後に利権…火星側の独立か、国家間の主導権を巡って、なんかあったか、これからありそうだけどな。

 

で、結局お前は何がしたい?お前は私達に何を求める?

 

超 鈴音」

 

エヴァが認めるほどの信念で…

 

世界を捨て、命をかけ、何を望むのだろうとそんな言葉を紡いでいた。

 

超を知りたい、純粋に好奇心で、あるいは好意(友人として)で、あるいは打算(エヴァへの答え探し)で…

 

「フフ…人類の夢の一つであるテラフォーミングに対しての感想がソレ…さすがは千雨さんと言うべきね。

 

その通り、『太陽系開拓計画』を冒涜的と考える集団、その中で特に狂信的な連中のテロリズムもあった。

 

そして相も変わらず…いや、むしろ投資が宇宙に向く事で大きくなる先進諸国と途上諸国の格差と確執、

 

続く紛争や民族、宗教、国家間対立…まあ、そのあたりは当然として、

 

開発計画の主導権争い、移民の人数割り当て問題などなど…人類の夢とて綺麗なだけのものではなかった。

 

当然、地球の大気圏外で起きた有名な武力衝突はいくつも存在する…

 

地球上でやっていた事を宇宙空間で拡大再生産しているにすぎない、と言う人もかなりいる。

 

まあ、『仮に』宇宙開発をせずに宇宙開発に回した生産力をそのまま地上での経済活動に割り当てていたら環境汚染や資源問題が大変なことになっていた、

 

と言うのが歴史家の大勢を占めているから必要な事ではあったとは考えられているのだけどね…

 

が、宇宙に向いた投資が発展途上国に向いていれば先進国と途上国の生活レベルの格差は多少なりとも是正されていたという予測も…こほん

 

まあ、そこら辺の事は置いておこう。

 

私がこの時代に来た理由と二人に求める事…だったネ」

 

超は麦茶を一口飲んで続ける。

 

「歴史の中で多くの悲劇が生まれた。

 

それらの多くはボタンのかけ違いだったり、歴史上の『小さな不幸』が原因だったり…

 

それは太古の昔からあり、貴方たちにとっての現代、私にとっての今、そしてきっと未来にもあり続ける『小さな悲劇』…

 

 

たとえば千雨さんも今でこそ救われているが、麻帆良の外にも中にも馴染めず、それを自覚して『ヒトリキリ』という檻にとらわれていた…

 

だが、そんなありふれた悲劇だからと言っていざ当事者になった時、それを受け入れられるとは限らない…それはわかってくれると思う。

 

そう、あんな『歴史』を私はそのまま受け入れるだなんて私にはできない。

 

だから私は歴史に起きた無数の『小さな悲劇』を減らしたい。

 

ある『歴史上の事件』がきっかけで私達の世界、私達の時代は余りにも多くの悲劇が溢れていた。

 

その『過去』を書き換えた未来を作りたい、そして『未来』で続く争いに抗うために何かを掴みたい。

 

それはただの逃避や自己満足だとしても、悲劇はボタンをかけなおし、『小さな不幸』をつぶしたとしても起こるとしても…

 

足掻かずにはいられない、あんな滑稽な悲劇以外のエピローグが存在する事を証明してみせる」

 

そういって私達を見つめる超の瞳は今まで見たことのないほどの熱意と光、そしてわずかな闇に彩られていた…きれいだ

 

「私は未来から来た。例え、私の企みが成功したところで人々は言うだろう。

 

歴史をもてあそんだ女、史上最悪の犯罪者、最大の禁忌を犯したもの…時間に取り返しのつかない傷を負わせたもの…」

 

だからこそ、無性に腹が立つ。

 

「で?それがどうした。くだらねぇな」

 

イラつきを含んだ声でそういい、私は立ち上がった。

 

「なっ、千雨さん?」

 

聡美が驚いたような声で私の名を呼ぶ。

 

「…しかたないネ、それも想像していた事ヨ…」

 

こう、今にも泣きだしそうなのに気丈にふるまっている様がありありと読み取れる。

 

そんな超を私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むにー

 

私はおもいっきり頬を引っ張った。

 

「ひ、ひひゃへひゃん?(ち、千雨サン?)」

 

「お前が語った歴史はわかった。『お前の生まれた歴史』ではそうなった、それは変えようがない事実だろうさ。

 

けどさ、それがどうしたって言ってんだよ。

 

タイムパラドクス?歴史改変?

 

これから『私達が刻む歴史』はそんな未来から来たお前の事を織り込み済みだ。

 

お前のいた未来が消えちまうのか、まったく別の世界になるのか…結局、お前のいた未来につながるのか…

 

そんなことは私にはわからん。

 

だが、足掻いて何が悪い?理不尽の中でもがいて何がいけない?

 

お前は、今ここにいる。ならばここで、この時代でやりたいようにやればいいだろ。

 

それが誰かにとって邪魔なら妨害されるなり、排除されるかもしれねぇ。

 

もしかしたらその誰かは私かもしれない。

 

でもそれはお前が未来から来たことが理由じゃない、単に異なった意志を持つ者同士の争いだ。

 

世界中のすべてがお前を否定したとしても、私はお前の意思を肯定する」

 

そういって私は混乱している超をそっと抱きしめる。

 

「だから、お前はこの時代で『未来』を塗り替えていいんだ、私が、聡美が、他の誰かがそうするように」

 

超は、超 鈴音は確かに、私の仲間で『今、ここ』にいる存在だ。

 

超は『天才という言葉では表現しきれないほどに天才』だし、『未来の知識を持っている』が、ただそれだけだ。

 

超は今、この瞬間、私の胸の中で泣いている一人の少女にすぎない。

 

そして周辺環境や情報の格差、才能及び能力の強弱、そんなものは常に存在する。

 

他人が知りえない多くの知識を、死力を尽くして磨き上げられた天性の才を、『ズルイ』、そう評価する奴もいるかも知れないがそんなものはただの遠吠えだ。

 

もちろん、その数が多くて、あるいは力が強くて潰されたら負け犬は超の方になっちまうが。

 

気付けば聡美もにこやかに微笑みながらこちらによってくる。

 

「ふふ、千雨さんらしい言いぐさですね。

 

タイムパラドックス…実に興味深い議題ではありますが、今は置いておきましょう。

 

超さん、あなたの事はよくわかりました。次はあなたが私達に望むことを教えてください」

 

聡美はそういって超の頭をなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、落ち着いた…本当にありがとう…ふふ…とてもとても幼い頃を思い出したよ…

 

さて、二人にやって欲しい事…だったね。

 

何よりもお願いしたい事は、今やっている研究を続ける事、それを基にある物の開発を手伝って欲しい、あと…」

 

超は水を一口飲み、続ける。

 

「…資金調達を手伝って欲しい」

 

思わず脱力する

 

「その…ね?幾つか状況に応じたプランは考えてあるんだけれど、何分先立つものが…

 

だから麻帆良祭への出店や各種賞金で資金を稼ぎたい」

 

超の方も申し訳ないと思っているのが読み取れる。

 

だからこそ、協力してやりたいと思える。

 

「…どれくらい、いるんだ?」

 

三人で自重せずに大会荒らしをやれば300…いや400万位はなんとかなる筈だ。

 

「今年の麻帆良祭で最低でも600万、出来れば1000万は稼ぎたい。

 

それを運転資金にできる商売をいくつか考えてある。

 

プランの選択にも関わってくるから資金は潤沢な方が良い」

 

その商売自体もプランの一部なんだろうな、きっと

 

「なるほど…私達が自重せずに大会荒らしをすれば数百万は稼げるとは思いますが…

 

後の商売を考えれば出店が主軸になりますね」

 

「内容次第だけど、出店で稼ぐなら私らだけで規模は足りるのか?」

 

「それもあてはある。

 

お料理研究会に接触して内諾は得てあるし、

 

クラスからも何人か誘う予定」

 

「って事は飲食店か。変わり種の料理でも集めるのか?」

 

「そのような奇策ではなく、中華を考えている。

 

場所と人材を予定通り確保出来たなら飲茶にするつもり」

 

「ん…わかった、そこらへんはまた今度つめるか。

 

で、プラン全体のタイムスケジュールは?」

 

「今年は研究と資金調達をメインに、来年からは研究の進捗と資金状態次第で行動を変更する予定。

 

あと…プラン次第だけど一番早く終わるプランで2005年の麻帆良祭までかかる…んだけど…」

 

超が少し不安そうに言う。

 

「わかった、協力するよ。

 

まあ最後まで、とは断言出来ないが、いきなり背中を刺す様な真似はしない」

 

「超さんの歩む道が私の道に反しない限り、協力します。

 

まあ、暫くは現状維持と資金稼ぎですし」

 

「ありがとう、感謝する」 

 

こうしてその夜の内緒話は終わりを告げた。

 

 

 

 

そして時間は進み、エヴァとの約束の日を迎える…

 

 

 

運命の場所はエヴァの別荘の一室、彼女のお気に入りの展望室

 

そこで本日のディナーテーブルに私は魔王様と向かい合って座っていた。

 

「さて、答えを聞かせてもらおうか。」

 

エヴァの側にだけ食器を配されているディナーテーブルに座らせた意味は察しが付く。

 

『お前は私の歓待を受けるに足るか?さもなくばわが夕餉となれ。』

 

と、言ったところだろう。

 

「ああ、覚悟は決まった。取り繕う気も、気に入られようとする気もない。

 

だが、私の本心だ。気に入らなかったら私を食卓に乗せればいいさ」

 

一応、聡美に手紙も預けてきたし、今あるアイデアの青写真も描きだしておいた。

 

協力を約束した超には悪いが私が意地を張る為の準備は万端だ。

 

「よろしい、ならば聞かせてもらおう」

 

「私は…私は学問と強さ、どちらもあきらめたくなかった。

 

でも、双方を極める自信や覚悟はなかった…で、堂々巡りだな。

 

そこで、なぜ私が学と力を求めるかに立ち返ってみた。

 

まず私が学を求めるのは半ば本能だ。

 

人間がホモ・サピエンスたる所以…という意味だけじゃなく、私の存在理由として、だ。

 

呼吸のように、少しの間だけ我慢する事は出来てもやめる事は絶対にできない。

 

ならば強さに妥協を求めるしか無いように思える。

 

というより、本来私にとって力は護身のためだったはずだ。

 

目的と手段を取り違えるべきではなく、従って妥協して武をあきらめても問題はない…

 

と、言うのが『冷静かつ客観的に考えた場合に導き出されるベターな選択』だな」

 

「ふむ…それもよかろう。

 

戦いの道をあきらめ、学徒として生きる…それが答えだな?」

 

エヴァがつまらなそうな顔でそういう。

 

当然だ、今言ったのがエヴァの想定していた(であろう)回答だろうから。

 

だが私はここでとまらない、ここからが本番だ。

 

「いや、今のは『客観的に』考えた場合の答えだ、って言ったろ?

 

エヴァの問は私が『どうなりたい』か、だった。

 

さて、今言った回答を得たうえで問い自体に疑問を投げかけてみた。

 

本当に武と学は両立できないのか?

 

いや、むしろ互いに補い合えるものなんじゃないのか?

 

そしてその答えは今、私の目の前にいる」

 

私はエヴァンジェリンを見つめながら続ける。

 

「貴方は自ら編み出した術式を練り上げ、最強と呼ばれるまでになった。

 

私は貴方に、エヴァンジェリン、貴方に憧れを抱いている。

 

平和な時代を生きる小娘のたわごとだとあなたは言うかもしれない。

 

さらに今のあなたはそのような技術を用いる必要もない事は知っている。

 

それでも『どうなりたいか』と問われたならば、私はこう答えよう。

 

『私は私になりたい』

 

私が私であるために、強さも賢さも、あきらめはしない。

 

強欲な私はその探求の中できっと多くの挫折をするだろう。

 

だからこそ、少しでも望む結果をつかめるように、強さもあきらめない。

 

マスター、これが答えです。

 

お願いできるのであればこれからもご指導をお願いします」

 

そういって私は頭を下げる。

 

「…それが千雨、おまえの答えか」

 

「はい」

 

「何を言ってるのかわかっているのか?」

 

とても冷たいマスターの声がする。

 

「はい、『現状維持』といっているに等しいですね。

 

ですが、知を得るために砂漠で火に焼かれながら砂にまみれ、崩れる砂山を往きます。

 

我を通すために、泥水をすすり、最期の一瞬まで足掻き続けます。

 

必要ならば、ほかに道がないならば、人である事すら捨てましょう、私が私でいる為に」

 

しばしの沈黙…そして大きなため息。

 

「…まさかここまで予想通りだとあきれるものがあるな」

 

はい?

 

「欲張りで頑固者のお前の事だから、どっちも切れないというのは想定していたさ。

 

まあ、そう言い切ったからには覚悟を見せてもらおうか」

 

にこやかにマスターが言う。

 

「なぁに、ほんの手始めに『7時間』ほどしごいてやるだけだ」

 

ああ、つまり体感時間で一週間って事ですね、わかります。

 

 





超さんの告白(秘密的な意味で)と進路決定回です。

千雨さんの思考は私なりのトレースですが、まあ目の前で仲間が泣きそうな顔してればこれくらい言うでしょう、なんだかんだで優しい人ですし。

それでも、私はお前の味方だ、とは言わずに対等に今を生きる・・・あがく権利がある、というのがちうかな~と(ネギ君との違いは歴史改編込みで受け入れているあたり

葉加瀬も協力するけど盲従はしないって言わせてみました。

千雨さんに対立しても友である事はやめない、って言ったくらいですから逆にこんな感じかと。

ちなみに、最後の場面のエヴァへの回答で世界線が分岐する…って設定です。

学問選んでアリアドネールートに入ったり、武を選んで中ボスルートにいったり…

本筋しか書きませんが、降ってきたら外伝も書いてみるかも知れません。

最も、エヴァちゃんとの問答、刹那さんとか辺りにやってるのの焼き直しでもあるんですがね。

『7時間』もとい、7日間の別荘でのしごきが進路選択の本番でもあるんですがまあ、色々苛められてそれに耐えて見せた、位の事です。

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