例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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幕間
15 幕間 あるいは二度と戻れぬ幸せな二年間


・掛け替えのない時間

「うー千雨さぁん」

 

親友の珍しく…私が魔法側に行くと言った時よりはマシにせよ…辛そうな声

 

机に突っ伏した聡美がそんな声で私に呼びかけたのは麻帆良祭が終わり…超の計画を上回り、あくまで超包子の自由にできる事業資金を含めてではあるが、超は1000万を超える資金を手に入れた…少し経った頃の事だった。

 

「どうした、聡美」

 

とは言ったものの、大体の事情は察していた

 

「千雨さんに研究の相談ができないのがこんなに辛いとは思ってもいませんでしたぁ…」

 

最近、超と聡美は私に隠れて何か…おそらくは計画の中枢の実行に際して必要な技術開発…を始めているようなのだ。まあ、私にはいえないだろうな、そりゃあ。

 

「あーまあ確かに、詰まった時は私が聞き役で問題の整理とかするのが当たり前になっていたからなぁ…」

「と、言うわけで今晩は私達の研究に関してのお悩みに付き合っていただきます」

「…いいのか?私にそんな話をして」

 

あんまり暴露されるとお互いの安全のために散々、聡美と超を泣かせて袂を分かった…というと少し大げさだが、魔法使い側に接近するにあたって超の計画の主要部分に不参加として距離をとる事にした意味が無い。

 

「良いんですよ、超さんも私のコンディションが良くなるなら計画中枢に関わる研究の具体的な内容を暴露しなければ千雨さんになら話しても良いって言っていましたから…がんばってぼかします」

「なら、付き合おうかな、私も少し話したいアイデアがあったし」

 

ロボ研や本流はともかく…私が強さを求めてやっている研究については決して話せないけれどもな

 

そう言った本心を隠し、私と聡美は抽象的な方法で闊達な議論を楽しむのであった。

 

 

 

・一騎当千

「だぁーうざい!私に群がるな!クーと違って私は嬉しくないと何度言わせる!」

そう叫ぶ羽目になったのは、麻帆良大運動会、総合格闘の部で3位をとって数日後の話であった。一応、外様とはいえ魔法使いにジョブチェンジした事であるし、表の大会からは引退しようと考えていたのだが、気の出力調整と格闘技術のみの使用を条件に学園側からは出場を許可され…マスター、エヴァンジェリンからはむしろ出場を求められてしまったのである。

準決勝で負けてしまったが、それでも優勝者とまともにやりあえた二人の中学生…私とクーとその優勝者を倒して名を上げようと野良武道家たちがそれぞれに群がってきていたのである。

優勝者は強すぎて手も足も出ず、クーはどちらかと言うと剛、私は柔よりなのでその違いもあって私にまで群がってくる始末である…去年は流石に初等部優勝者に群がるほどアホは…少なかった…そう、いなかったわけではない。で、今年は見事に群がってきたわけである。嫌がっていれば大体、広域指導員の先生方に制圧されて数日でおわるのであるが…メンドイ事に違いはない。

 少し本気出すか…と、私は鉄扇を取り出し、比較的優しく投げ飛ばしたにもかかわらずまた向かってきた連中に痛い目を見せてやるのであった。

 

 

 

・研究発表

「説明をお願いできますか」

 

そう、声をかけられたのはイギリスのウェールズ、メルディアナ魔法学校での事だった。

私は今、今年の基礎魔法研究会の国際会議に参加するためにこの魔法学校を訪れており、先日速報誌に掲載した内容、『科学的データを併用した占い魔法の可能性:理論的考察と気象予測における応用例』でポスターセッションへの参加をしているのであった。

この学校は非魔法社会的には初等学校に相当し、英国魔法界の慣習では、卒業後に師の元で表向きの社会的地位を確立すると共に更なる研鑽を積む…というのが一般的なエリートコースらしい。

なお、この研究自体は聡美、超、エヴァとの4人での研究…とはいえ魔法的な部分は機密的な意味で私とエヴァの担当…なのだが、私以外は参加ができない為に、単独参加である。

 

「はい、それでは説明させていただきます」

 

私は解説を求めてきたのが10歳位の鼻眼鏡をかけた赤毛の少年と連れの少女、おそらくはここの生徒であろう幼い魔法使いにできるだけ噛み砕いた説明を始めた…それはすぐに間違いだと気づくのであるが。

 

 

 

「ご説明ありがとうございました。いくつか詳しく伺いたい点があるのですが…」

 

そう言って、少年はこの研究の本質…科学的データによる演算的予測の精度・確度の向上の為に確率論的部分、あるいはカオスと呼ばれる部分に占い魔法を用いる…を理解している事を示し、分かりやすさを優先して省略した部分の説明を求めてきた。

 

「失礼しました。よろしければ、改めて専門的な話を交えて再度説明させていただきます」

「お願いします」

 

説明を終えた後の彼…ネギ・スプリングフィールド君との議論は極めて有意義であり、お互いの連絡先を交換する事になった、とは言っておこう。

 

 

 

・生存の為の努力、あるいは狂気

「…正気か?貴様」

 

そう、マスター、エヴァに言われたのはある種のオリジナル…と言うと少しおこがましいが…技法を開発し、その試作が施された背中を見せた時の事であった。

 

「駄目…ですかね?」

「いや、駄目とかそうでは無くてだな…正気かと聞いたんだ、私は」

「あーちょっと自信は無いですが、たぶん正気です」

 

個人的には操糸術のちょっとした応用のつもりである、正気であるかは断言しかねるが。

 

「無茶苦茶痛くなかったか?」

「あーまあ一応、施術時には塗り薬の麻酔調達してやったので我慢できないほどでは…」

「全く…魔導糸での陣構築までは考えるやつは偶にいるが…何をどう考えたら皮下に埋め込むという発想になるんだ…それも実用化するとは」

 

そう、私は今、背中に魔力伝導に優れた糸を用いて皮下に魔法陣を入れ墨のように仕込んであり、これを用いて今の私がギリギリ実用に足る程度に使いこなせる攻撃魔法、白き雷を呪文名のみの短縮詠唱で行使して見せた。当然、これは普段の私ではできない事である。

 

「入れ墨だと社会性生活上、色々問題ありますし、糸なら除去と再施術もそう難しい事ではないので…多少痛いですが、麻酔を使えば言うほどではないですし」

 

痛くなかったといえば嘘になるが、手元が狂うほどは痛くなかった。まあ、発動時は結構熱いが。

 

「符術や触媒で良いだろうが」

「いや、符や触媒を持ち歩くのは荷物が増えますし…なんかつまらないし…何より高価なので…後は将来的には色々考えている事もあるので」

「はぁ…全く…まあ、発想は悪くないし、アリと言う事で良いんじゃないか?私の切り札みたいに魂に悪影響があるほどのものでもないしな…あいつ等には見せるなよ、コレ」

 

そう言って、マスターは私の背中をぺしっと叩いた。

 

 

 

・世界樹のヒカリ

「なー超〜」

「んーどうした、千雨サン」

 

こんな気の抜けた声で会話をしていたのは、二年の秋の大運動会…今年の武道大会はクーが準決勝で去年の優勝者を、決勝で私をそれぞれ破り、優勝した…が終わって暫くした頃、ロボ研で茶々丸のメンテナンスをしていた時であった。

 

「2つ報告…というか報告1つと助言が1つあるんだけどさ〜どっちから聞く?」

「…なんかいやな予感ガするけれど…報告から頼むヨ」

「おう…前に話した気象予測の研究あるじゃん、アレで知り合ったって言っていた少年覚えてるか?」

「あーなんか修行で日本にくる事になったとか言ってタ、ネギ少年カ」

「うん、そいつだけど、来るの麻帆良にだってさ」

「ほぅ…ならば千雨さんと共同研究ができるじゃないカ、私達とも仲良くできると嬉しいネ」

「いや…なんか少年、教師をする事になったらしくて時間は取れないかもしれないってさ」

「ほほう…相変わらず魔法使いたちは無茶をする…ローティーンの教師とは」

「…いや、確か、今、数えで9歳って言っていたからローティーンですらない…流石に年齢偽装位するだろうけどさ」

「はっはっは…もはやギャグね…それで助言とは?」

 

超が超包子の点心をつまみながらたずねる。

 

「あーうん、まだ確実じゃない…と言うかこれからの観測次第だが…世界樹の大発光…魔力放出現象、一年早まって来年になる可能性がある」

 

ブフォッ

 

あ、超が茶を噴出した。

 

「ち、千雨サン、それ、どういう事か!」

「いやな?ちぃとわけあって…というか出鱈目な仮定を打ち込んだ場合の未来予測の研究をかねて世界樹の発光周期について占ったんだけれどな…正しいデータで占った場合でも、来年の麻帆良祭で大発光する確率が30%位ある。だから、万一の場合はプランを繰り上げられる様にするか、代替プランを走らせられるようにしておくか、しておいたほうが良いぞ。たぶんお前が跳んで来た時になんかあったんだろうけどな」

 

正式には聞いていないが、大発光時に何かしでかす計画なのは予想がついているからな。

 

「…ウム…一応、もっと低い確率で起きうるとは考慮はしていた可能性の1つではあったが…そこまで高確率になっているか…いや、早めに情報を得られて助かる…二人のおかげで順調だから何とかなるネ…たぶん。良かったのカ?私にそんな事を話して」

「できる限りは協力するって言っただろ?それに、コレは私の研究を話せる範囲で話しただけさ、だろ?」

 

超の質問に私は飄々とした雰囲気でこう答えた

 

 

 

 

 

・うわさの真相

「で、最近の吸血鬼のうわさはマスターって事で良いんだよな?」

「何だ、藪から棒に…」

マスターとの手合わせの合間に、私はそう聞いた。

「んーたぶんマスターだとは思うけれども、一応、マスター以外の何かだったら幾つか呪紋を刻んでおかないといけないかなーと思っただけ」

「…私ならいらんのか?いい度胸だな」

「マスターが私の血を欲するなら態々襲う必要ねーだろ…」

「なるほど…まあ、私以外に吸血鬼はこの麻帆良におらんはずだ、とは言っておこうか」

「りょーかい。退治されない程度にな…多少授業料増やすくらいなら協力するからさ」

「ふんっ…まあ気持ちだけもらっておこう」

 

 

 

 




・あとがき
原作までの2年弱をかっ飛ばす為の短編集でした。原作編が進んでネタが増えれば加筆するかもです。
 思いついたからって皮下に糸を仕込んで魔法行使の補助にするかって?やっちゃうからこそのうちのチウちゃんですね。ふつーはしません、符術とか触媒とかで十分なので。ただし、千雨さんは発展的にやりたい事があったので試作して、実用化しました。
で、これはプロトタイプで原作開始頃にはもう少しえぐい事になっています、麻帆良祭編のラストの超さんほどじゃないですが

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