16 ネギ着任編 第1話 ネギ・スプリングフィールド
年も冬休みも開け、ネギ少年から来月…2月某日に此方に着任するとの連絡をもらった頃、私は学園長からの呼び出しを食らう事となった。
立派な扉をノックし、名前を名乗る。
「失礼します、本校女子中等部2年A組 長谷川千雨です」
「ウム、入りなさい」
促されて入室すると、学園長先生と共に、担任の高畑先生、副担任の源先生がいた。
「忙しい所、呼び出して済まんの…早速なんじゃが、ネギ・スプリングフィールドと言う名に聞き覚えはあるかの」
学園長の問いに私は素直に答える。
「はい、メルディアナでの国際会議に出席した際に知り合ったしょ…いえ、元メルディアナ校の学生で、時々連絡を取っています。近々ここ、麻帆良に教員として赴任する予定と聞いていますが」
高畑先生が魔法関係者なのは知っているが、源先生は分からなかったので年齢を伏せるように言った
「ウム…そのネギ君何じゃが…ここが魔法使いの多く住む街である事を秘密にして欲しいのじゃ」
「…と言いますと?そもそも、私も外様ですのでどなたが魔法関係者かは詳しくは存じ上げませんし、正確な実情を把握しているわけではありませんが…」
公式に私が知っているのは、連絡役の高畑先生、予備連絡先の明石教授、他、2-Aの生徒たちに複数名のお仲間(外様の関係者数名とエヴァ)…である。おおよそ間違いないだろう、位の確信している相手は他にもいるが。
「文通で色々聞いておるとは思うが、ネギ君はこの街に修行に来る事になっておっての、ここが魔法使いの拠点と知ってしまっては自立心を養うのに不都合があるからの…
まあ、長谷川君とエヴァンジェリン…と、従者の茶々丸君、あと共同研究者の葉加瀬君に超君はネギ君が名前を知っておるし、それに高畑先生とワシが魔法関係者じゃと知っておるから、多少ならば問題ないがの…と言うのが一つ目じゃ、これは良いかの?」
「はい、分かりました。極力、麻帆良が魔法使いの拠点である事は話さないようにします。2-Aの他の生徒…龍宮真名や桜咲刹那に関しても話さないように、と言う事でよろしいでしょうか」
「うむ、本人たちから話さぬ限りは秘密にしておくれ」
「分かりました」
「次なんじゃが…当日まで秘密じゃぞ?」
「…はい?」
思わず首をかしげる
「実はの…ネギ君の赴任先、本校女子中等部の2年A組…長谷川君のクラスの担任として、なんじゃよ」
「えっ…」
思わず絶句する
「じゃから…その、フォローを頼みたいんじゃが、同時にあんまり甘やかしたり、暫くはおおっぴらに仲良くしたりせんで欲しいんじゃよ…」
「アッハイ…えっと…中身が9歳の青年のフォローをするんですか…?あっいえ、当然、高畑先生や源先生の補助とかそういう意味だとは思いますが…」
学術面での中身と魔法界での礼儀はともかく、ネギ君の一般社会の常識とか、私は知らんよ…?
「青年…?ああ、いや、特にエヴァンジェリンの使うような幻術は使わんから少年のままじゃよ。もちろん、高畑先生、源先生、他の関係者からもフォローはかげながら入れる。長谷川君は生徒の立場から無理のない範囲でフォローしてあげて欲しい」
「…アッハイ…一応、巻き添えオコジョは勘弁してくださいね…?」
いや、せめて年齢詐称位しようよ…と思うが下手にボロが出るよりは子供先生で押し通したほうがましなのか
「そんなに心配しなくても大丈夫じゃよ…たぶん。
と言うかオコジョ刑はよほどの大規模暴露か、故意ないし重過失や度重なる再犯でなければせんし…あ、コレもネギ君にはヒミツで頼む、魔法学校卒業生は割ときつめに脅されておるから緊張が緩むのもアレじゃし」
「分かりました…特に朝倉には気をつけますが、報道部関係は特に警戒をお願いします」
「うむ。ワシからの話は以上じゃ。高畑君、源先生は何かあるかの?」
「いえ、特には」
「僕からもありません」
「それでは、長谷川君からは何かあるかの?」
「あー実は…ネギ君…いえ、ネギ先生と暇ができれば共同研究なんかをする約束をしているんですが…そのあたりはどうしましょう」
「ふむ…まあ、年度が変わって暫く経つまでは忙しいじゃろうが…暫くは機密度の低いもの…超君たちとの研究を許している辺りまでにしてくれるかの、アレくらいの基礎分野であればネギ君に魔法部分を担当してもらっても良いが、あまり危険なのは避けておくれ」
「分かりました、そのようにします」
まー流石に半分外法なモノの開発に協力させるつもりはないし、問題ない。
「他にはないかの…では気をつけてな」
学園長にそういわれ、私は礼をして退室した。
「学園長、本当に良かったんですか、彼女、エヴァンジェリン一派ともいえるほどですよ」
千雨が退出し、距離をとったのを確認して隣室で様子をうかがっていた複数の魔法先生たちが学園長室に入室する。
「仕方ないじゃろう、単なる顔見知りならともかく、文通までして互いの所属を確認しておるんじゃから不干渉にさせるわけにもいかんし…きっちりと身分を得て関わっておる上にエヴァンジェリンのお気に入りでもあるから下手に手は出せんしの…事前に協議した通り、何かしらの策謀の駒にされる前に此方から楔を打っておくにとどめるのが一番じゃ」
「それに、彼女自身はああ見えて情に厚いタイプですからああ言っておけば、元々交流のあるネギ君を助けてくれるでしょうし」
担任であり、魔法先生としては彼女を一番良く知っている高畑がそうフォローを入れた。
「…まあ、譲れない条件に、友人である要注意生徒の超鈴音一派への内偵は決してしない、と言うくらいに友人を大事にしているのは分かりますが…同時にだからこそエヴァンジェリンへの情がネギ君への情を上回った場合…その、もしもがあれば危険ではないですか?」
「まあ、ネギ君に年齢詐称させないのはエヴァンジェリンへの備えもあるからの。あやつは女子供には甘いし…まあ共同研究なりで交流を持たせればむしろネギ君の安全にも繋がろうて…別に無策で放置するわけではないし…の」
千雨の知らない所で魔法先生たちの会議は続く…
そうして、時はさらに進み、2月某日…2年A組の教室はざわめきに包まれていた。
「あーついに今日か…」
ネギ少年…もとい先生の着任日がついに来てしまった。知り合いの誼で無理のない範囲でフォローするのはいいが…私はネギ先生の普段を知らないので非常に不安なのだ。
「ん?千雨ちゃん、なんかいい情報持っている感じ?」
「おい、朝倉、何で私がうなだれているとそういう事になるんだ」
「いやぁ…タイミング的に、アスナと木乃香が迎えに言ったって言う新任の先生についてかなーって」
「あー」
そう言って私は時計を見る…もういいか。少しだけなら
「実は、ちょっとわけあって先に知っちゃったんだが…二つある」
「ほほぅ?」
「が、まあ…1つは分かっていると思うが、新しい先生、って言うのは二人が迎えに言った新任の先生って話だな、ちなみにうちの担任扱いらしいぞ」
「ほうほう…まあ、新任の先生と玉突きで別の先生が来る可能性もゼロじゃないからネタ的には悪い話じゃないねぇ…それで、もう1つは?」
朝倉が興味津々と言った様子でペンとメモを手に迫ってくる。
ガラリ
と、扉が開いて、アスナと近衛が入ってくる
「まったくあのガキゃぁ」
「まあまあ」
こんな会話をしながら…うん、ネギ先生、あの場での紳士的な学者の顔はどこに行ったのかな?と言うか、一体何をしでかしたのかな?
「…うん、急ぐならあの二人に聞くのが確実だけれども…子供なんだわ、その先生」
「…飛び級したって事?」
「詳しくは(どういう設定になっているのか)知らないけれど…10歳くらいだな、その先生」
「マジで?まじもんの子供先生なの?」
コンコン
と、ノックが聞こえる
「マジだよ。ほら、すぐ分かる、席着け」
「あ、うん」
朝倉を席に戻し、着席したと同時に扉が開き、ネギ先生が入ってきて…黒板消しが頭に落ちて行った…が、魔法障壁らしきモノで受け止めてしまった
「(オイィィィィィィネギ少ねぇぇん)」
心の中で、私は思わず叫んでした…まあ、粉が炸裂していたので認識阻害結界が余裕でごまかしてくれる範囲ではあるが疑いを持っていたらアウトなレベルではある…魔法関係者、ほとんど唖然としているじゃないか…
「…まずくないですか」
隣の席のユエが呟いた。
「…何がだ…?」
ユエは関係者ではないはず…だけれども?
「鳴滝姉妹と春日さん、連続トラップしかけていましたよね?…その、子供先生相手に」
あっ
気づいて止めるよりも先にネギ先生は一歩を踏み出し…連続トラップに最後までかかって行った。
ひとしきり笑われた後、子供だと気付いて謝られ、源先生がネギ少年こそが新任の先生である事を宣言した…そして自己紹介の挨拶でまたやらかしやがった
此奴、英語じゃなくて魔法と言いかけた…魔法の修行と言いかけたのかどうかはともかく、わきが甘すぎるだろうに…いや、魔法使いコミュニティーで生きてきた少年ならばこんなもんなのか…?
そして…クラスの連中にもみくちゃにされてからアスナに胸ぐらをつかまれて黒板消しの件を問い詰められていた…
アウトだよ、おい、赴任初日にほぼ魔法バレてんじゃねーか。私、フォローも何もする暇なく、ネギ少年、魔法バレしてんじゃねーかよ…これ下手にフォローしようとした瞬間、道連れオコジョルートじゃねーか?
その後、委員長のフォロー…というかアスナとの喧嘩がはじまって…何とか授業が始まったと思ったらアスナのアホが消しゴムを弾にしてネギ先生にぶつけ初めて…委員長がネギ先生にある事の後にない事を吹き込み初めて筆箱を投げつけたらまた喧嘩になって…授業は無残な終わり方を迎えた
ネギ先生の歓迎会の相談をしつつ…高畑先生には報告しておいた方が良いと休み時間に高畑先生に状況を報告した。
「ネギ君…初日から…」
「あの…すいません、何もフォローできずに…何かお手伝いする事があればしますよ…アスナの呼び出しとか」
暗に、記憶処理や暗示強化なんかをするならば呼び出しは手伝うとは言っておく
「いや、まあアスナ君は最悪バレても大丈夫な相手だから今はまだいいよ…僕も気を付けてはおくけれども、長谷川君も無理のない範囲で良いからフォローや報告よろしくね」
「はい」
神妙な顔で私は頷き、教室に戻るのであった。
ネギ君が色々やらかした事を察して頭の痛い千雨さん会。ネギ君の方は、千雨さんがクラスを伝えずにロボ研としての所属室を訪ねて欲しいと伝えてある為と、眼鏡付きかつ学会時とは異なる髪型・制服でまだ気づいておりません。もう少し年上と勘違いしているのもありますが。