放課後まで特に呼び出される事もなかった私は、先生を元気づける会をするからと誘われて水着着用で大浴場に集合となった…うん、嫌な予感しかしないが、今のネギ少年にはこれ位の方が効くだろう。私は壁の花やっていればいいんだし。
で、順当に始まった会は委員長の抜け駆けパートナー立候補からどう言う訳かネギ少年丸洗い大会へと変貌した。
「まったく…」
飽きれながら観察していると聡美もそばにやってきた。
「参加しないんですかー、千雨さん?」
「するわけないだろう…もうちょい大人しいのならともかくああいうのはちょっと…みているのは少し楽しいけどな」
「ですよねー私も見ているだけが楽しいですよ〜発明持ち込みOKなら飛び込んでいましたが」
「…まあ、そうだよな…」
きゃー
「…何かが集団に飛び込んだな、とばっちりをくらう前に離れよう」
「?はい」
白い何かが皆の肌を撫でるように飛び回り…まき絵に捕まった
それはどうも、白いネズミらしく、なぜか近くの連中の水着を脱がせ始めた
「…とりあえず、下がっていろ、こっちに来たら捕まえる」
「はい…お願いします」
と、身構えはしたが結局、白いそれはアスナに桶で打たれて…それでもボタンを引きちぎるまで脱がせていたが…退散していった
「なんだったんだ、アレ」
「さぁ…?」
その後、ネギ先生のペットのオコジョ…と言うかたぶん妖精の類いだろう…だという事が発覚した。
その翌々日…どうも、オコジョに何か吹き込まれたのか、私の方を頼りにも詰問しにも来なかったのでネギは放置している…の朝、階段から魔力光が迸り…さすがに認識阻害と簡易な人払いはしてあった…様子を見てみるとらそのオコジョとネギ、アスナの二人と一匹が放課後にエヴァと茶々丸を尾行しようという相談をしていた。…まあ、各個撃破は王道ではあるが…さすがに娘を不意打ちする気なら黙ってはいられんのだけれどもなぁ…?という事で私もネギたちを尾行する事とした。
放課後、茶道部の茶室近くで出待ちをしているネギたちを見つけると、近くの樹上から観察を始めた。
茶道部の活動を終えて出てきたエヴァは、茶々丸にそばを離れるなと命じたが、高畑先生がエヴァを一人だけ呼び出した。…仕込みか、仕込みだな、あの爺…。となると私も見られているだろうなぁ…これ…と思いつつ、エヴァと視線があって、茶々丸を頼むと目で言われた。そもそも最初から離脱という選択肢はないのだが。
その後、風船を取ってやったり、歩道橋を上る老婆や、川に流された子猫を助けたりしているのを観察しながら…実際に見るのは初めてだが、そりゃあ泥もつまるわ…最終的にネコに餌やりをしている場面に遭遇した。…が、これは駄目だ、人目がない。穏便に止めるならここで私が通りかかるべきだが、最悪ネギ先生が私を引き入れようとしてアスナに私の存在がばれるか…。
と思考をしていると、ネギたちは覚悟を決めた様子で茶々丸の前に立った。…いつでも飛び出せるようにはしておいて、少し様子を見てみようか。
戦闘が始まる。
まず、ネギによる契約執行…を受けたアスナが突撃…力任せの喧嘩殺法なアスナに負けるほど茶々丸は弱くはない…のだがそこにネギの魔弾の射手が入る…っておい、属性光か、しかも連弾で11…ったく、装甲には対魔導処理を施してあるとはいえ、ネギの膨大な魔力で放たれたそれは、魔力供給無しに受ければ当たり所がよくて中破、悪いと記憶・感情周りの機能まで吹っ飛ぶ可能性さえある。
容赦が無いな、と瞬動術を踏み切った瞬間、ネギの叫びが聞こえた
「やっぱりダメーッ 戻れ!!」
あっ…余計な事をしたっぽいと思った時にはもう遅かった。
私は、茶々丸を抱きかかえる格好で、ネギたちの前に姿を現してしまっていた。
「行け、茶々丸、後は任せろ」
魔法の連弾をネギが戻した事、そして私の登場に唖然としているネギたちを放置して、茶々丸を下した私はそう言った。
「千雨さん…はい」
そういってジェット飛行で去って行った茶々丸を見送ると、私はネギに歩み寄った。
『まったく…人の娘を壊しかけた挙句に、何やっているんだ、ネギ少年…』
「ち、近づくな」
「千雨ちゃん…?」
「安心しろ、私も関係者だよ。まずはネギの治療をしないとな」
白い小動物を無視してアスナにそういってから、私は治癒魔法を唱える。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ “治癒”」
すると、ネギの傷が少しだけマシになる
『千雨さん…ありがとうございます』
『礼を言うのはまだ早いぞ?了見次第では私があんたをボコらにゃならんからな』
『何っやっぱてめぇは敵なのか』
『黙れ、毛皮にするぞ、エロオコジョ』
ネギの頭をなでながらオコジョをにらむ。
『俺っちにはアルベール・カモミールって名前があるんでい』
「ちょ、ちょっと日本語で話してよ!」
「それもそうか…アスナにはわからんな」
「姐さん…」
「どうせ勉強苦手よ!って、そんな事より、千雨ちゃん、魔法使いだったの?」
「ああ、魔法研究が主だが、魔法自体も使えるぞ」
「あっ、ネギの言っていた学者の知り合いって千雨ちゃんの事!?」
「はい…千雨さんの事です」
「…兄貴が文通していたって言っていた学者さんですかい?」
どーやら私の存在だけ話して正体は秘密にしてくれていたらしい
「で、どうしてその学者の姉さんがエヴァジェリンの従者のロボをかばったんですかい?
それとも、兄貴は庇ってやしたが、やっぱりあんたもグルなんで?」
「そりゃあ簡単な事さ…あいつ…茶々丸は私達の娘だからな」
「「「娘…?」」」
訳が分からないという顔の二人と一匹である。
「まあ、わからんだろうな。簡単に言うと、茶々丸は私と聡美…ハカセと超の三人が中心になって開発した人型ロボットでね…私達にとっては娘みたいなものなんだよ…。
だから存在理由…エヴァ…ンジェリンの従者として戦いの中で潰えるならばともかく、魔力供給も貰っていない状態で日常の中で打ち壊そうというなら邪魔の一つや二つするさ…
まあ、不意打ちも戦の作法と言っちまえばそれまでだし、究極的には娘で友人なアイツを壊されたくないってだけだ…だから寸前まで見守っていただろ」
「ち、ちょっと待って千雨ちゃん達、頭いいのは知っていたけど、茶々丸さんの生みの親なの?」
「ああ、少なくとも人工頭脳の開発は私が主任をやっていたし、全体の開発主任は聡美だし、超がブレイクスルーをいくつもしなければ茶々丸があそこまで高性能にはならなかったよ。…加えて言うならあいつの動力である魔力炉の技術監修はエヴァンジェリンな」
そういって一度ため息をつく
「そして、こう、茶々丸は思っていたよりもずっと優しく育っちまったようだけれどもな…家事なんかも面倒見るようにはしてあるが、基本は戦闘用だぞ、あいつ。
なのに私達の中の誰よりも優しい奴になっちまって…人助けをしているのは知っていたけど、初めて見たよ」
少しだけ、戦闘用の従者人形に心(の種)を持たせたことを後悔し始めてさえいる。今更消す気はないが。
「待った、姉さん何処から見ていたんですかい」
「どこからって…茶室前で出待ちしている所からだぞ? いや、契約の魔力光を見て、相談しているのを見つけた所と言うべきかな…まったく、神聖な学び舎で教師と生徒がキスするとはな」
「み、みてたのっ!?ノーカン、ノーカンだしおでこだから!」
「…でこちゅーかよ…いや、あの魔力光、仮契約だろ?仮契約で一番簡便かつ安価な方法が魔法陣上でキスする事だってのは無茶苦茶有名な話だぞ?」
「あーなるほどな…」
「つまり、千雨さんの共同研究者の皆さんは茶々丸さんの縁で結ばれたんですね」
「そうともいうな、と言うか元々は魔力炉から生ずる電の解析が始まりだしな、あの面子での共同研究」
「なるほど」
「…兄貴?いったい何の話を?」
「千雨さんと知り合った切欠が、魔法理論の研究会での発表なんだけれど、それって共同研究だったんだよ、茶々丸さんのお母さんであるハカセさんと超さん、それにエヴァンジェリンさん…この前、昼間だけれど、エヴァンジェリンさんの家で研究の話をしてきたから同一人物で間違いないよ」
「…マジですかい…と言うか、エヴァンジェリンの野郎、顔見知りを…」
「あーそれは私が悪い。
ほっとくとネギが突撃してきそうな勢いだったから会ってやれって私が説得したんだ。
本当は嫌がっていたんだぞ、最初は。すぐに盛り上がっていたけどな…」
「魔法オタクってやつですかい…兄貴と一緒で」
「オタクかは知らんが、ただ使うだけじゃなくて理論の造詣とかもきっちりしているタイプだぞ、私もマスター…エヴァも」
しまった、口を滑らせた。
「「「マスター?」」」
「あーさっき言った理由で魔法にかかわり始めたんで、私の魔法の師匠はエヴァなんだわ。
…この件も、この前の戦闘を目撃するまでは何を企んでいるかは知らなかったけど、手伝わんでいいから邪魔はするなって言われている。
今日までは懇願されたら茶々丸の相手位してもいいかと思っていたけれども、アスナがいるみたいだし…」
「それは冷たいんじゃないですかい、学者の姉さん…」
ダメ元と言う感じで小動物…カモが言ってくる
「いやぁ…私、本気のマスターの足元にも及ばないし…茶々丸の事で気乗りもしないし…下手に私が参加すると茶々丸が対人リミッター外すからアスナが危険だし…メッセンジャーとかならやってもいいけど」
嘘ではない。単に本気の基準が別荘での吸血後なだけで。加えて言うなら、下手に茶々丸のリミッターを外させた方が色々危ないし
「ですが」
「カモ君。茶々丸さんを襲ったのは僕たちなんだから…」
「マスターはよっぽどの理由が無ければ女子供は極力殺さないから、事故か、よっぽどの理由が無ければ命まではとられないと思う。相談には乗るし、メッセンジャーもする。でも直接戦力として参加するのは勘弁してくれ…すまん」
ネタを知っていると茶番ではあるが、一応できるだけ真摯に謝っておく。
「はい、ありがとうございます、千雨さん」
ネギのその笑顔に、少し心が痛んだ。
え、この女、傷む心なんてあるのかって?ありますよ、そりゃ。
自分のそれ含めて蔑ろにしたり、自分の意思を突き通す為に利用したりする事がたまにあるだけで