例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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茶々丸開発編
03 茶々丸開発編 第1話 不思議な出会いと研究生活


聡美に醜態をさらしてからおおよそ3か月が過ぎ、4月となった。

さすがに制御される方の勉強もしなきゃまずい、という事でいろいろ詰め込まれた3か月だった。

 

私達が4年生となる春休み、聡美は提出した論文によって特例認可に十分な能力を持つと認められて4月1日から麻帆良大学のロボット工学研究会にも所属する事となった。

 

私は論文での認定は無理だったが、昨日一昨日と試験を受けた。結果は始業式までお預けだがおそらく…いけただろう、そう信じるようにしている。

 

そんな4月頭の晴れた日、私は桜ケ丘をうろついていて、ふと見つけた脇道に入って川に架かった橋を見つけた。

 

少し休みたいと思った私は橋の脇の土手に寝転がった。

空を眺めながら今の状況を振り返ってみると…よくもまあ…こんな事になったと思う。

 

自分を異端だと認識し、世界から取り残されたような錯覚に襲われながらも、自分はおかしくないと信じ、それを証明するためにこの都市のおかしさをかぎまわっていた私がこの都市のおかしさに飲み込まれている…

 

1年半程前の私に聞かせたらどんな顔するだろう…ありえねぇ…って顔して、本当だと繰り返したらふざけるな、って言うとおもう。

もしも、私の好奇心が小さければ…もっと子供っぽかったら…あるいは聡美と出会っていなければ…私はきっと周りから取り残されて…

日常と常識をこよなく愛し、非常識を嫌う少女になっていただろう…いまでも日常と常識は好きだし、この都市の非常識は苦手なんだが…大分慣れてきた。

 

もっとも、どんな道に進んでいてもいつかコンピュータに出会い、プログラムの魅力に出会っていたような感覚はするんだが。

 

しかし…初等部の4年生以上で十分な能力さえあれば大学で最先端の研究に携われる…こんな特例を最下限で適用された生徒って聡美…うまくいけば私たち…以外にいるのだろうか?

そもそも私は特例を受けるに足るだけの十分な実力を示せただろうか…そして…研究室に所属できたとして、本当にやっていけるのだろうか…思考は次第にそういうふうに傾いて行った…

 

ゾクッ

 

突然、そんな擬音では不十分だがそれ以外にたとえようのない感覚が背筋に走った。

跳ね起きてあたりを見渡すと…真っ黒い何かが橋の上にいた…それは滑るように動きだし、川の反対側に向かっていった。

それは黒いフード付きのマントを纏った人型のナニカで、植物の蔓のようなもので鈍色の石をつりさげたネックレスがなぜか目を引いた。

 

ただ、ゆっくりと歩いているだけだというのに私は目が離せなかった。

 

まるで世界を従えているような印象を持つをソレを瞬きという行為を忘れて見つめていた…

 

突然それは歩みを止め…そしてゆっくりとこちらを向いた。

 

よくは見えなかったが…多分若い女性だった…全く見覚えがないはずなのにどこか懐かしい感覚におちいった時、私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

気がつくと、私は土手に寝ころんでいて、夕日が地平線に沈みはじめていた。

 

夢だった…?それにしては妙にはっきりとしていたが…

 

どうにも引っかかるがどうしようもない、証拠のさがしようがないのだから。

一応確認してみたが足跡はうっすらとしたものが無数にあるだけで参考にはならなかったし。

急がないと暗くなるから、と私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

始業式の日、学園長室に呼び出された私は学園長から特例が認可された事を告げられ、ロボット工学研究会への所属を許可された。

とはいっても、麻帆良祭までは研修を受けながら研究室の各設備の使い方などを教えてもらったりとか、研究会の研究に追いついたりだとか、そういう事を主にしていた。

聡美は麻帆良祭出展作品の調整などでさっそく活躍していたが…

 

 

 

今年も麻帆良祭の時期となった。

聡美とはロボット工学研究会とそれぞれのクラスの出し物の兼ね合いで二日目の数時間しか一緒に回れない予定となってしまったが仕方ない。

いくつか大学近くの出し物を回った後、遊覧飛行船に乗った。

 

「そういえば、こうやって遊ぶのって何ヶ月かぶりだっけ」

 

「そうですね~千雨さんはともかく私は殆ど研究室にこもりっきりですし」

 

「聡美も心配していたよりはずっと普通のままで私はうれしいけどな、研究以外にも付き合ってくれるし」

 

「もう~私を何だと思っているんですか…効率的な作業のためには適度な休憩やリフレッシュ、栄養補給は必要なんですよ?

まあ、個人個人に合った作業方法っていうのもありますから、千雨さんみたいなやる時は一気にっていうのも否定はしませんけど…

一時期やっていたような徹夜はちょっとおすすめできませんよー」

 

「いや…まあ…アイデアが浮かんだら形にしてみたくなってだな…」

 

「別にそれで良いと思いますよ、体調管理さえしっかりするならですけど。」

 

「うっ…気をつけます」

 

二人でジュースを飲みながらそんな話をして本当にのんびりとした時間を過ごした。

 

 

三日目は昼から、学祭前に目を付けておいた特別デザートメニューを食べに回った。

 

本当はその合間に周りや移動途中のイベントを楽しむ予定だったんだが、昼食をかねて最初に入った世界樹前広場のレストラン、次の龍宮神社南門近くの特設茶店、3件目のフィアテル・アム・ゼー広場近くの屋上喫茶店と、どこも居心地が良くてかなりの時間をそこですごしてしまった…

最初の目当ての学祭特別メニューではないものに目移りした、というのもあるんだろが…

 

 

次の日、私は熱を出して一日寝込んだ…何か壮大な夢を見た気になったが…どんな超展開の夢だったかは思い出せない。

あと、相当疲れが溜まっていたらしく、熱がひいた後は妙に体が軽かった。体調管理に気をつけなきゃいけないな…と思った。

 

 

もっとも、そんな考えは麻帆良祭の振替休日明け、私は教授からとんでもないものを見せられた事により消し飛ぶ事となったが。

見せられたものはMITの開発した人工知能システムの設計図…現在公開されている物など、ただのお遊びに過ぎない…そう言われても認めるしかないと思ってしまうほどに素晴らしい設計思想だった。

私が探した限りこんな人工頭脳は発表されていなかった…詳細を知りたい…ソースコードを読んでみたい…そう教授に懇願すると、とんでもない事を知らされた…このシステムの詳細はアメリカの機密指定を受けている…と

しかも、この理論を基にそのプロジェクトチームに属する天才日本人兄妹がこれを発展させて感情を有する人工頭脳の開発に成功したという噂まであるらしい。

そして教授は私に何か作ってごらん、そういってきた。アドバイスをもらってもいいし、協力を求めてもいい、だが自分で自分の作品を…自分の子供を生み出してごらん…そういったのだ、私に期待している、とも。

 

私はその日から日常を全てそれに奉げた…授業には出席して話も聞いているが頭の大部分は常に人工頭脳の事だけを考えていたし、探検の目的は閃きを求めてのものに変っていた。

 

私は人工知能システムの再設計に取り掛かった。再設計にあたり、私は自己進化機能と拡張性を重視して設計をした。

開発方法は、まず様々なプログラムを学習により改良してゆく事ができる機能を持ち、各プログラムの管制を行う基幹AIを作製、起動させる。

次に基幹AIに基本動作プログラムの改良を行わせ、基幹AI自体の性能を向上させ、その時点で自己進化機能を基幹AIに追加する。

こうしてできた骨組みに外装となるさまざまなオプションプログラムを接続し、オプションプログラムの改良と基幹AIの進化を同時に行う事とした。

設計と開発計画を教授に報告したら、凄くいい笑顔でやってごらん、って言われた。

ちなみに、教授は笑顔が素敵で優しいお爺さんだ、だからどうしたといわれても、何にもないが。

 

 

夏休み初めごろには学部生の先輩が何人か、私に協力してくれる事となった。

 

どーも人工知能で手いっぱいでコンピュータの開発にはほとんど手を出せていないんだが…私は聡美みたいな天才じゃないと割り切る事とした。

って事で私は人工知能関係と実際に搭載する所の設計までに止めてコンピュータ自体の性能向上にはかかわっていない。

聡美は駆動系、フレーム、コンピュータ、動力開発と、ロボット工学研究会のさまざまなチームに所属し、かつ活躍している。さらにジェット推進機構の小型化にまで参加しているし…

なんか、彼女を中心にいけるところまで行ってみる、を合言葉にしたヒューマノイドの開発計画が新たに動きだそうとしているし…っていうかまだ所属して一年もたってない小学生によくそんな大役任せるよな、うちの教授

 

…やっぱり聡美は天才だね…

 

…と、言った話を協力してくれている先輩にしたら、『貴方も十分天才です』って言われた。私は精々秀才だと思うんだけど…ちょっと嬉しかった。

 

あ、ちなみに聡美の開発計画を実行に移す段となったら人工知能を主に担当させてもらう事にはなっている…聡美がぶっ飛びすぎているだけで私も十分ぶっ飛んでいると、それを思い出したら自覚できた。

 

プロジェクトの…いや聡美の性格からいって将来的に戦闘技術やその他もろもろを組み込む事になるので、基礎くらいは知っていた方がよかろう、と柔術や戦術論の勉強も始めてみた。

片手間でやっても上達するものではないだろうが…継続は力なり、という言葉もあるし…

 

夏休み中に何とか基幹AIを起動可能な段階まで完成させる事ができ、聡美の組み上げた試作ボディに搭載して歩行の学習実験を行っている。

うまく働いているようで、わざと最適ではない数値を与えられた歩行プログラムの最適化は大抵はうまくいった。

余りに変な値から最適化させると立て膝や四つん這いでの移動を覚えてしまった事もあったし…まだまだ改良する必要があるだろうな…

 

 

 

秋ごろまでは、すでに完成した制御プログラムを利用した学習実験に費やした。

 

まあまあ満足できる段階まで達したので仕上がりの確認をかねて三次元認識システムによる視覚情報入力の一般化システム…

要は二つの眼球カメラからの情報で対象の三次元形状を測定し、その情報から対象が何なのかを認識するシステム…の調整をさせてみた所、一定の成功を収めた。

いや、まあ…似た形状、サイズのものと結構勘違いしてくれるんだが…色覚情報や他のセンサーと同時処理できるようにすればそこは大幅に改善できるだろう。

これを以て基幹AIは試作完成という事にして、調節や改良を続けながら片手間で始めていた新オプションの開発を本格的に始める事となった。

 

最初に取り掛かったのは人間言語による意思疎通を行えるオプション、つまり人間言語の機械語への翻訳機能をおこなえるようにする機能を目指す。

ゆくゆくは聴覚や視覚からの言語情報を処理する機能を開発し、会話をしたり、文章を読めるようにしたりしていく計画になっていたのだが…

英語(既存のプログラム言語との関係から英語から始めた。)の文法書を読みながらプログラムをいじっているときに気付いた。

 

そっか、せっかく学習機能持っているんだから自分で教科書読ませて自力で学習させればいいんだ。

 

それを皆に話したら

『ああ、その手がありましたね』

『いや、さすがにそれは…できるんですか?』

って言われた。前者は聡美とごく一部の先輩方、後者は他の多くの先輩方だ。

英語だけで終わらせるなら人海戦術でする方が楽なんだろうが…私はいやだぞ?言語パッチごとにそんな手を使うのは。

結局このオプションは基礎となる部分だけ作って視覚認識機能と連結した後、自力で学習させる事にした。

そして、英語の絵本位のものを読み聞かせのような事をしては正しく学習できるかをチェックして、うまくいってなければそれを修正して…の繰り返しだった。

 

そこから半年を費やした結果、たまにエラーや誤理解があるものの、言語オプションにつきっきりでいるほどではなくなったので次のオプションに取り掛かる事とした。

 

次は家事類に関するオプション、手始めに料理から入る事とした。

味付けに関しては味覚センサー未搭載のため、レシピ通りに作業をさせるという事に重点を置いた。将来的には自力で味見させて味の調節とかさせてみたいもんだが難しいだろうな。

初めこそ包丁がまな板に刺さったり、おにぎりが餅みたいになっていたり、中華鍋を持たせたら内容物が天井に届いたり…

その他はたから見ている分には楽しい事をやってくれたがすぐにそれなりに…少なくとも私よりは…上手くなってくれた。

 

その年の第74回麻帆良祭でチャーハンを作らせたら結構人気が出てくれて、なかなかの売り上げだった。

私は緊急対応ができるように休憩時間も工学部キャンパス内で過ごす羽目になったし、総点検とパーツの組み換えとパーツの特性把握実験を毎晩行ったのはしんどかったが…

交代でできればいいんだが、ロボ研から出展しているのはこれだけじゃなかったし…

 

あ、言い忘れていたが言語オプションの方は本さえめくれればもう自力学習に問題がないので英語圏の教科書を常時読ませたり聞かせたりしている。

…なんか見周りの警備員さんがそれを見て腰抜かしたらしいが…ま、機械むき出しの首が目玉動かしながら本読んでれば腰抜かすか。そこ以外電気切って帰ったし。

 

 

 

その後、約一年をかけて格闘戦オプションだとか、戦術オプション、火器管制オプションだとかそんな物騒なオプションを含む各種オプションを開発していた。

あ~実はロボット3原則のような安全装置を人工知能に搭載し忘れて…対人格闘実験前に気付いてよかったよ。

そうでなければ私がへたすりゃ死んでいたかもしれない、対戦相手って私の予定だったし

…自分のミスでなけりゃあ烈火のごとくぶち切れるんだが、自分のミスだし…

何より周りが笑って済ませているしなぁ…はぁ…久々に自分が異端だって事を思い出したよ。

…あ、そもそもここでこんな研究している小学生って時点で異常だったな…すっかり染まってるよなぁ…私

 

 

 

 

 

 




後書きという名の言い訳等など
どうも、こんにちは、シズクです。
今回はおもに茶々丸のベースとなるガイノイドの研究を推し進めているお話です。
あと専門知識や開発期間は正直言って適当ですのである程度はご勘弁のほどを。

次回チャオさんの登場予定です。




・特例について
考えとしては飛び級もどきです。
春夏冬の各長期休暇に審査が行われ、論文、大学院入試レベルの筆記試験と面接、その他の方法で自分の実力を示すと大学などで専門的な研究をさせてもらえるようになります。
ただし、多少は見逃してもらえますが本来の過程もちゃんとこなさないと…つまり本来の学校サボって研究室に入り浸りとかやると…許可を取り消されてしまいます。
だから、描写は殆どされていませんが二人はちゃんと初等部に通っています。
ちなみに初等部四年以上にしたのは…まったくもって意味がないです。
あんまり幼いうちから認めると他の方面での発達が云々という理由があるんでしょう、きっと(笑)




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