30 ねぎ弟子入り編 第1話 虚空瞬動術
修学旅行から帰った私は、その翌日の日曜日、一人(厳密には人形たちがいるが)、マスターの別荘内にいた。
シュッ
魔法の射手 光の3矢
シュッ タッ
「うん…単発ならもう実戦で使えるし、連続使用も機動に専念すれば問題ないな」
目的は実戦の中でコツを掴んだ虚空瞬動をしっかりと自分の物にする為というのがまず1つ。
これで、糸術による足場を用いた瞬動による超高速・中距離跳躍と虚空瞬動による高速短距離跳躍を組み合わせて三次元機動の幅が広がるはずである。
「へぶっ」
次に、実験…元々虚空瞬動術をある程度収めたら、と考えていた事ではあるが、足以外での虚空瞬動的なもの…。
地面に転がされた時に色々な立ち上がり方があったり、転がったりして回避できるとかそういう事を虚空瞬動の応用で空中機動にも取り入れられないかと考えていたのだが…。
「これは流石に大分練習しないと使い物にはならないか」
何回かやってみた所、宙を肘で撃つように回転する事自体は割と何とかなりそうではあるが、
軽い体勢調節以上を望むならば回転モーメントの加減とかが難しく、思い描く通りの機動をするのには大分練習が必要そうだ。
「さて…」
一通りの基礎練習・反復練習・実験・読書等を終えた私は風呂を借りていつも宿泊に使っている部屋にやってきた。
そして、三つ目…咸卦の呪法の元ネタ…咸卦法の理解を深める修練である。
座禅を組み、精神を集中した私は両手にそれぞれ少しずつ気と魔力とを練り…合成した。
あっさりとやってのけられる気と魔力の合一ではあるが、之は初歩も初歩…気と魔力をどちらも相応に扱えるものがまじめに取り組めば多少の才能で到達できる…問題はここからである。
合成した咸卦の気を両の手に纏い、その感覚を確かめていく…。
ばしゅっ
途端、精神の集中が途切れ、気と魔力の合一が解けて散る…コレである。
瞑想状態やそれに類する状態では一定程度の熟練度さえあればさほど難しくないコレも、全身に纏って動きながら…どころか戦闘をしながら維持し続けるとなると非常に難しいのである。
しかも、気と魔力の合一は出力を増すにつれ指数関数的に難度が上昇していく為、単体の気や魔力を最大出力で纏った時を上回らねば意味が無いというオチまでつく。
しかし、十分な錬度に達すれば強大な身体能力強化や防御力、諸々のおまけまで付き、一部では一時的な存在の昇位とまで呼ばれる究極技法…それが咸卦法である。
何度もこれを繰り返し、少しずつ咸卦法への理解を深めていく…ネギの父親の別荘から借りた本の1つも、この為である…。
「…何やっているんだ?」
睡眠と食事、そして朝の鍛錬相当を終えた私が別荘の外に出ると、なにやら騒がしく、マスターの寝所でもあるロフトで取っ組み合いをするエヴァとアスナがいた。
「千雨さん!?どうして此方に」
「どうしてって…弟子の私がマスターの家に修練に来て可笑しいか?というか先生達こそどうして…」
「ええっと…エヴァンジェリンさんに弟子入りに来たんですが…なんかこうなってしまって…」
「えっ…本気で…?マスター、無茶苦茶スパルタだぞ?」
「はい、覚悟の上です」
ネギは、力強く、そう言った。
「仕方ない、今度の土曜日もう一度ここに来い、弟子にとるかどうかテストしてやる。それでいいだろう?」
少しして、アスナとの喧嘩を終えたマスターがネギにそう言った。
「え…あ、ありがとうございます!」
「…で、どうするんだ?マスター」
先生たちが帰った後、囲炉裏を囲みながら私は聞いた。
「まあ、私の扱きに耐えるだけの根性と覚悟があるかと最低限の才能があるかのテストでも何か考えるさ…
何も思いつかなければ貴様と戦わせても良いしな」
「…先生の戦っている所、桜通りの一件でしか知らんけど、聞いた限り、負ける気はしないぞ?」
流石に、エヴァに暫く師事した後は兎も角、今の時点で一対一でネギ先生に負けるほど私は弱くない。
「アホか、貴様のような奴を相手にどういった戦いをするかが主眼であって勝てと言うほど鬼畜ではないわ、一定時間耐えろとかならともかくな!」
あーまあそれなら妥当か。
「なら、ネギ先生を弟子にする気が無いわけじゃないんだな…面倒くさいというかと思ったんだが」
「面倒くさくはある、だがアレの京都での戦いを見る限り、戦いの方面でも中々の原石に見えた…ソレを磨いてみたくないといえば嘘になる。
…それに、詠春から本人が望むなら木乃香に色々教えてやって欲しいとも頼まれているしな…面倒を見るのが二人に増えようが三人に増えようが大差ない…
【弟子】でなく、戦いを教えて欲しい、ならば気が向いたら面倒見てやると即答するつもりだった位だ」
「あーなるほど」
たしかに、マスターはその辺りを区別するタイプだったな。
「それはそうと、京都の戦い、どうだった?死線というにはちょっと温いが中々苦戦していたようじゃないか、え?」
「…流石にあのクラスと1対2はキツイって、マスター…乱戦なら兎も角」
「まあ、慎重なお前にしては珍しく傷を負う覚悟で向かって行ったのは褒めてやろう、だが、もっと上手くやれた筈だ、お前ならば。
ああ言う賭けは手の内がはっきりとせん同格以上と戦う時は欠かせん物だ、いつも言っているようにな」
「はい、実感しました」
「うむ、さてそれではもう少しゆっくりして行け…自主練の成果、見せてもらうぞ、千雨」
「はい、マスター」
そうして、私は本日二回目の別荘と相成った。
「ほう、中々やるではないか」
マスターは私を制圧しながらそう言った。一応、1対3の耐久最長記録を大幅更新したのでその賞賛なんだろうが。
「いやはや、ついにこの域に達したか。もはやお前を討伐しようとすれば一流と呼ばれる連中を複数駆り出す必要があるぞ。まあ超一流と呼ばれる本物相手は微妙であるし、一流連中に勝てるかは別だが…
これで、先ほどの機動をしながら上位古代語呪文を放てるようになれば…できればあの勿体無い術式に頼らずに…最低限、中ボスを名乗っても恥ずかしくはないんがだなぁ…そっちはどうなんだ?千雨」
私から離れて服を叩きながらマスターが言った
「ええっと…何も補助無しなら駆け足しながら、通常の呪紋の補助だけなら瞬動無し程度の速度の回避運動を取りながら…血呪紋なら平面機動は何とか」
「ウム、もう少しだな、ならば少し練習しようか、手加減はしてやる、撃って来い!茶々丸、呪文の間隙を射撃で補助しろ」
そう言って、マスターは浮き上がった。
「はい、マスター」
茶々丸もアサルトライフルを構える
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 闇の精霊17柱 集い来りて敵を射て」
マスターの始動キーを聞いて私は空に舞う
「魔法の射手 連弾 闇の17矢!」
そして、マスターの魔法の矢と茶々丸の対空射撃を避けながら呪文詠唱をする練習を始めるのであった。
翌月曜日、ネギが授業後、告白名所である世界樹広場前の大階段にクーを呼び出した。
当然、クラスは大騒ぎであるが、私にはそれよりも大切なものがあった。
「大阪観光の成果、新作です、試してみてください」
「オオッ、待っていたネ」
「ふふ、五月の新作、オーナー特権で先に試したが良い出来だったヨ」
「わぁ〜超さんずるいです〜」
「うん…旨い」
「よろしければアスナさん達もどうぞ」
「わぁ〜良いの?さんきゅ!」
それは、五月の新作の肉まんである。
そして、放課後、超包子の商品としての観点から見た五月の新作というテーマで討議をしていた私達…超、五月、私、聡美…はクラスメールで流れたボーリングのお誘いにまとめて乗り、ワイワイとボーリングを楽しんでいた…私達は。
なんか、よくわからんが、委員長とまき絵がクーに勝負を挑み、ついでにのどかが巻き込まれて、クーがパーフェクトを決めて圧勝していた…その前のラウンドでもパーフェクト決めていたので、24連続ストライクだな。
「で、結局、いったい何なんだ?」
「さぁ…?委員長さんの暴走具合から察するに、ネギ先生関連ですかね?」
「あー面子的にネギ先生ラブ勢だなぁ…クー以外…呼び出しの場で何かあったのか」
「そうですねぇ…」
と話していると、ネギ先生がさも告白かのような雰囲気でクーに中国拳法を教えて欲しいと請うた。
「…ネギ先生、エヴァンジェリンさんに師事したいって申し入れているって千雨さん、言っていませんでしたっけ?」
「アーうん…これ、マスターが知ったらへそ曲げる奴だってすぐわかりそうな…って、あぁそうか、ネギ先生、マスターが合気鉄扇術の達人だって知らない」
私の戦いの師匠だと言った覚えはあるが、合気鉄扇術もマスター直伝だとは言ってない気がする…と言うか、先生に合気鉄扇術自体も直接見せた事がない…と、なると魔法使いとしての総合戦闘技術をマスターから、格闘術をクーから学ぶ気だとしてもおかしくはないか。
「えぇ…それまずくないですか?」
「割とまずいなぁ…とりあえず弟子入りのテスト終わるまでは秘密で」
昨日話した時点では割と機嫌がよかったので無様な真似を見せなければ弟子入りが通ると思っていたが、これがバレると五分五分って所かなぁ…
と、思っていたのだが、木曜日放課後、別荘を使いに(修学旅行での一戦の反省点を潰せるまで、水曜と週末1回ずつの週二回から火曜日と木曜日と週末との週三回に増やしてもらっている)マスターの小屋を訪れると、やけに機嫌が悪いマスターに絡まれた。
「まったくぼーやとあの女ときたらぁっ」
話をよく聞いてみると、今朝、仕事帰りに世界樹前広場で中国拳法の自主練をしているネギ先生に遭遇し、ちょうど居合わせたまき絵の言動に激高し、弟子入りの条件を茶々丸に一撃入れる事、と言い渡したらしい。
「ちょっと待った、マスター、茶々丸の格闘プログラムは今でもアップデートしているんだ、そんなのネギが初見で一撃を与える確率とか1%もないぞ」
むしろ、成功されたら私と超の恥である。
「あの無礼なぼーや相手だ、まだ可能性があるだけ甘いと思うぞ、千雨」
マスターがむすっとした声で言う
「あーうん…とりあえず、一つだけ誤解を解いておくと、ネギ先生、マスターが合気鉄扇術の達人だって多分知らない。少なくとも、私はそうだって教えてない」
「はぁ?…あ、それもそうか…ぼーやの相手をする時は封印していたし、京都では使う余地が無かったからな」
マスターはそれから少し考えてからこう続けた。
「よし、ならば千雨、お前を仮想敵として派遣してやろう、それなら多少はましになるだろうさ」
「わかった、じゃあ今日のが終わったら行ってくる」
「ン…?ああ、そうだった、それで来たんだったな、ではいくか」
そんなやり取りをして、私とマスター、茶々丸とチャチャゼロ(最近茶々丸の頭によく乗っている茶々丸たち姉妹の長女…らしい)は別荘に降りて行った。
実質千雨さんの修行回。虚空瞬動を一応習得しました。そしてまたアホな事を考えて、マスターを呆れさせる準備をしているのと、咸卦法の独自解釈…と言うか自分を無にしながら戦えって無茶言うな、と言う感想を私が抱いてから咸卦法は魔力と気の合一もハードルが高い(本来相反する気と魔力の双方を相応に使いこなせる+ある程度の才能と修練が必要)がその先はさらに長い、という事にしてあります。
そして、カンフーの練習を目撃した時のエヴァの態度も、後々明かされる合気鉄扇術の達人という設定を加味すれば、格闘含めて面倒見る気だったのにカンフー学び始めやがって…と言う理解になりまして…うん、割と激おこです、そして本作の茶々丸さんは格闘プログラムが原作より高性能なもの積んでますんで誤解がとけて慈悲が入りました(コンマ数パーセントの勝率が原作と同等の数パーセントに上がる程度とはいえ)
感想でございました理想郷への投稿ですが、投稿する事自体は問題ないのですが、誤字などのバージョン管理が大変なので、完結ないし麻帆良祭編終了後に考えさせて頂くという事で、ご了承ください。(後、宣言すれば済む話ですがあちらで投稿していた頃は百合無しで行くと言っていたのもありまして